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ザヴィールウッドの魔女  作者: 三上湖乃
背負うべきもの

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襲撃・5

少し暴力的または残酷な表現があります。ご注意ください。

ルドガーとちょうど入れ替わるように、人間の姿のザジがセドリックを連れて私のもとへ現れた。



「母さま!」


「セディ!」



走って飛びついてきた息子を、私は両腕を広げて抱きとめた。

泣きべそをかいているセドリックの頭をなでてやっていると、ザジがあたりを見渡して



「うぜえな、この霧」



とつぶやいた。

面倒くさそうに、愛用の(ロッド)を天に向けてかかげ、その先を左から右へすべらせる。



一掃(スイープ)



ザジが唱えたとたん、霧が晴れて上空の分厚い雲も急速に流れ去っていき、青空と明るい日差しが戻ってきた。



「ま、こんなもんだろ」



何でもないような顔で棒を背におさめるザジに、私たち母子が



「わあ、すごいやザジ!」


「本当、雲があっという間に消えたわ!」



と手を叩いて称賛すると、ザジはニヤリと笑ってみせた。

雲が晴れて遠くまで見渡せるようになると、ルドガーが力なく地面に倒れている人面鳥の顔の脇へ膝をついているのが見えた。

騎士団長は無機質な声で、パレードの襲撃犯である妖鳥を尋問している。



「お前はなぜこのパレードへ侵入することができた? 

誰の差し金だ?」


「……」



人面鳥は答えず、黙秘していた。

ルドガーはそれを冷たく一瞥してすいと立ち上がり、沿道に控えて整列している騎士団員に命令を下した。



「この鳥を捕縛して、騎士団本部へ連れていけ」


「はっ、フレイザー団長!」



騎士団員たちは迅速に人面鳥の身体に縄をかけ始めた。

鳥はいくらか抵抗したがすぐに力尽きてされるがままになった。

それでも口は動くので悪態をつく。



有翼族(ウイングス)のアタシに、下等な地這い族(グラウンダー)のやつらがよくも…! 

覚えているがいい!」



人面鳥の台詞を耳にしたセドリックが、ザジに尋ねた。



「ザジ、ウイングスって何? グラウンダーって?」



それはまさに私も知りたかったことだった。

私たち母子にそろってじっと見つめられ、ザジはやや引き気味になりつつも答えてくれた。



「あ~、まあ精霊の使う言葉だ。

空を飛べる翼や羽の生えてるやつらは有翼族(ウイングス)って呼ばれてる」


「へ~。じゃあ翼や羽がない精霊をグラウンダーって呼ぶの?」



セドリックの素朴な疑問に、ザジは渋い顔をした。



「まあ、そうなんだけどな。

有翼族(ウイングス)のやつらにそう呼ばれると、なんか腹立つんだよな~。

あいつら翼があるからって、プライド高いっていうかさ。

翼のないやつのこと、どっかバカにしてるところがあるんだよな」


「え~、そうなの。ザジは猫だから、地這い族(グラウンダー)なんだね」


「おう」


「僕や母さまみたいな人間も、地這い族(グラウンダー)なの?」


「ああ、そうだな」



ザジの返答を聞いて、私はもう一つ不思議に思ったことを質問した。



「ザジ、竜は有翼族(ウイングス)なの? 竜の子も?」



人面鳥がセドリックを連れ去ろうとした時、あの子を竜の子だと言っていた。

ノナ・ニムもあの子のことを、ザヴィールの竜と言っていたっけ。

そう思い出して私がザジにそんな質問をぶつけると、ザジは首を振った。



「竜は別格だ。

まあしいて言えば有翼族(ウイングス)と言えないこともねえが、有翼族(ウイングス)にも地這い族(グラウンダー)にも入らない、どっちより上位の種族というのが正確なところだろうよ。

言っとくけど竜以外の有翼族(ウイングス)は、竜人族(ドラゴニア)を含めてみんな地這い族(グラウンダー)と同等だぜ。

俺たちはやつらに劣っているわけじゃない」



不満げに言いつのるザジの言い分に、私はうなずいて同意した。



「そう…そうよね。

だってザジ、あなたは地這い族(グラウンダー)だけど、有翼族(ウイングス)である竜人族(ドラゴニア)の長を制して、黒の森の若長に選ばれたんですものね」


「ま、そういうこった」



私の言葉にザジは、少し照れくさそうな顔をして指で鼻の頭を掻いた。

そんな話をしている間に、人面鳥は何重にも縛り上げられていた。

巨大な鳥の運搬の手段について、騎士団員たちは頭を悩ませているようだった。

そこから少し離れて、ルドガーはヨシュアやその他の幹部らしき騎士団員たちと何やら話している。

ぼんやりそれを見つめていると、私の横にいたザジが突然赤毛を逆立てて、ルドガーの方をすごい勢いで振り向き、大声で警告を発した。



「気をつけろ、ルド!」



その言葉が終わらぬうちに、



「ギャアアアーーーッ!」



縛り上げられていた人面鳥が悲鳴を上げて白目をむいた。

そのままシュウッと音を立ててみるみる妖鳥の身体は干からびていき、あっというまに白骨になった。

たちまち周囲は騒然となり、緊張感が一気に高まる。

私は傍らにいたセドリックをしっかり抱き寄せた。

すると人面鳥を縛っていた騎士団員たちの中から



「蛇だ!」



という叫び声が次々に上がった。

人面鳥の横たわっている地面を見ると、あの緑色をした小さい蛇が、人面鳥の白骨死体の下からするすると這いずり出して逃げていくところだった。



「待て!」



血だらけで救護を受けていたティムが、苦痛に顔をゆがめながら白ねずみを出してそのあとを追おうとする。

だがそれをあざ笑うかのように、あの金属質の耳ざわりな声が響いた。



「ムダだよ、未熟な音使い! 

お前のチンケなねずみなど、あの笛さえなければ丸呑みにしてやったものを! 

高貴な竜の子は、高貴な我が主のもとへ来るべきなんだ! 

次は必ずあの方のもとへ連れて行くから覚悟しておいで!」



背筋が凍るような宣言を残して、仲間である人面鳥を始末した邪悪な蛇は、それきり行方をくらました。









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