68 単刀直入な問いかけ
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俺は黙って、名前も知らない女子生徒の言葉を待った。
「誰が悪いと思っている?」
問いかけは単刀直入に、ど真ん中に投げ込まれた。
誰が、悪いか。
「俺です」
もっと言葉を尽くしても良かった気がするけれど、言葉を足せば足すほど嘘になる気がした。
俺が感じている実際の感情は、言葉が多ければ伝わるというものでもないだろう。
そんな思いは伝わったのか、伝わらなかったのか、女子生徒の顔つきからはほとんど内心が読み取れなかった。
その口から平板な声が流れるように出てくる。
「管理者候補生や探求者候補生は関係ないって言いたいの? 管理者候補生はともかく、探求者候補生はその場で即退学で逮捕されたってもっぱらの噂だけど。それは噂で、実際は違う?」
「違いません」
本当に少し、かすかに目元に変化があることで、女子生徒が俺に具体的な言葉で補足するように促していると察することができた。
「探求者候補生は、確かに退学になって逮捕されたと聞いています。それは噂ではなく、紛れもない事実です」
「正直ね。魔法技専の生徒が退学になるって、どういうことかわかっている?」
「重大な犯罪だと認識しています」
「それでも悪いのは自分だと言いたいの? 自分は巻き込まれただけだとか、不可抗力の事故だっとか、そういう主張はしない?」
この上級生の言葉は不快に感じる要素がある。言葉に容赦がないし、言いたいことをそのまま言葉にしている。
だが、不快感以上にその発言は正当な発言に思えた。
全ての生徒が、俺や満月に向けたいが向けられない言葉を、目の前の女子生徒は言葉にしているのだとも思った。
俺は本音で答えることを心がけた。
「巻き込まれたのは、そうかもしれません。不可抗力といえば不可抗力です。俺は何も知らなかったし、事故が起こるなんて予想していなかった」
俺の言葉に、女子生徒が口を開いたが、彼女が声を発するより先に俺が言葉を重ねた。
「それでも、魔法を行使したのは俺です。俺だけが魔法を制御できたのは間違いありません」
「それは」
女子生徒がわずかに目を細め、その瞳が光を放ったように見えた。
「あなたの制御力が甘くて事故が起きたと言いたいわけ? 事故は避けられたと言いたい?」
難しい問いかけだった。
答えはイエスでありノーだろう。
どうやって説明できるだろう。
「俺の魔法制御は未熟でした。自分の体や魔法杖の能力を全て把握しきれていたとも言えません。ですから、あなたが言う通り、俺の制御力の至らなさが事故の一因です」
ですが、と俺は話を続ける。
「知るべきことを隠されていたことも事実です。全ての情報、魔力回路の性能や性質を知っていれば、もっと別の可能性や展開があったはずです。教えてもらえていれば、と思わないかといえば、嘘になります」
「結局、探求者候補生や管理者候補生の責任、とあなたは言っているように聞こえるけど?」
「俺がもう少し思慮深ければ、探求者候補生や管理者候補生に疑問を持ったり、意見を聞いたり、第三者の考えを聞こうと思えたかもしれない、と考えています。未練といえば未練です。言い訳と言えば言い訳かもしれません。すでに事故は起き、被害を受けた人がいて、逮捕された人がいて、俺の考えや意見は意味を持たないようです」
女子生徒は、すぐには答えなかった。
食堂が変に静まり返っているように感じていたのが、不意に周囲から音が蘇ってきた。女子生徒との会話に集中しすぎていて、周りの音が耳に入らなかったようだ。
なかなか相手が話そうとしないので、俺は「食事を続けてもいいですか?」と確認してみた。沈黙に耐えきれなかったこともある。
女子生徒は無言のまま、どうぞというように身振りで示した。俺はスプーンを取り直し、トンカツを口へ運んだ。どうも味がしないな。
しばらく食事を進めて、おおよそを食べ終わったところで、こちらからも確認してみた。
「スパゲティ、冷めてますよ?」
女子生徒の前には、彼女が持ってきたお盆があり、クリームパスタが皿に盛られている。話し始めた段階から全く手をつけていない。
最初に彼女が席について話し出した時に気になったのだが、確認できるタイミングはなかった。
「最後に聞いておきたい」
やっと相手が口を開いたけれど、俺の言葉が無視か。
温かい方が美味しいと思うけどな、クリームパスタ。
「なんでも聞いてください」
促すと、女子生徒は小さく頷いた。
「二度と事故を起こさないためには、何が必要だと思う?」
二度と事故を起こさないために。
それもまた俺がここのところ、考えていることの一つでもある。
俺に出来たこと、出来ることを考えて過ごしている。
「俺に出来ることは、ひとつしかありません」
じっと女子生徒は俺の目を見ている。射抜くような視線を俺は逃げずに受け止め、視線を返した。
「俺に出来ることは、行使者候補生として腕を磨くしかありません。とにかく俺は、無知ですから」
沈黙がやってくる。
俺は息を詰めていたが、女子生徒は細く息を吐いた。
「もう行っていい」
言葉の意味を理解して、緊張が解けるような気がした。
俺の言葉は、目の前の女子生徒を満足させただろうか、納得させただろうか。
誰かを満足させる言葉や納得させる言葉に、さほど意味はないのだけど。
必要なのは最後の問いかけへの答えだろう。
それは当たり前すぎて言葉にしなかった思い。
二度と事故は起こさない、という意志と行動こそが、俺に必要なものであり、決して忘れてはいけないことだ。
俺はハヤシライスの最後のひとすくいを口に入れ、トンカツのひとかけらも口に運んだ。皿を空にして、女子生徒の方を確認した。
まだ自分の料理に手をつけていない彼女は、何も言わずに身振りで俺に去るように促した。
「じゃ、お先に。あの、最後に名前を聞いてもいいですか?」
返事はなく、無言で首を横に振られた。
そうか、教えてもらえないのか。仕方がない。
失礼します、と俺は頭を下げ、今度こそ席を立ってその場を離れた。
食器を返却して食堂を出て寮の方へ少し歩いたところで、誰かがこちらへ走ってくるのが見えた。よく見ると今度こそ知っている相手だった。
「満月?」
「ハチ?」
息を切らした満月が足を止め、こちらにやってくる。
「こんなところで何しているの?」
「食事だけど。そっちこそ、そんなに急いでどこへ?」
「中央食堂。人と会う予定が出来て」
食堂で人と会うのか。
第十六グループの一員と中央食堂で話をするのはかなり珍しい事態のように思えるし、満月も俺と同様に食堂には居づらいのではないか。
誰が呼び出したのかは知らないが、俺たちの実際を知らないはずもないから、嫌がらせなのではないのか。
「一緒に行こうか? 俺は特にこれからの予定もないし」
親切で提案した俺に、それがね、と満月は少し困ったような顔になった。
「一人で来い、っていうのよ。本当は他言無用でもあるし」
「俺にも秘密なのか?」
「そう。だからごめん、今は何も聞かないで。あと、こっそり覗くのもなしにして。あなたも私も有名人だから」
有名人というのは自虐なんだろうが、かなり厳しい自虐だ。
わかったよ、と俺は降参を示すために万歳して見せた。
「俺は帰ってレポート書きでもするよ。まだ何本か、仕上げないといけない。じゃあ、またな」
「ごめん。うまくいったら、何か話せると思う」
じゃあねと手を振って満月は食堂の方に駆け出していって姿は見えなくなった。
俺は街灯に照らされている通りを歩きながら、短い満月の言葉を検討していた。
うまくいったら話せる内容というのは、もしかしたら勧誘なのではないか。
探求者候補生が見つかったのだろうか。
こんなに早くに?
俺からすると、想像しづらいな。
ま、良いだろう。何が起こっているにせよ、満月に任せるとしよう。
腹がいっぱいになったのと食堂でのやや張り詰めた会話から解放されたこともあってか、変に眠い気もした。
ここのところ、遅くまで試験対策とレポート書きに時間を取られているが、その生活はもうしばらく終わりそうにない。
今日くらいは、早く寝るか。
(続く)




