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仲直り

「……私は魔法の事をほぼ書物でしか知りません。限られた知識の中での解釈に過ぎませんが……」


「それでも気になるわ。分かる事があるなら教えてよ」


「ナガセも気になります! さっきのって一体何だっただろう……」


「いてて! レン、その薬は染みるなぁ……」


「ごめんごめん」


 時間停止が解けた僕らは、何とか無事に洞窟の出口まで戻る事ができた。

 怪我人の治療を行いながら話題になったのは、やっぱり先ほどの不思議な現象についてだった。


 ちなみに例の冒険者はナガセさんの一撃で気絶し、そのまま彼の持っていた縄でグルグル巻きにして高所から吊るした。

 後は向こうの仲間が何とかするだろう。


「魔法というものが体系化されてから久しいですが、魔法とはその特徴によっていくつかに分類されるようです。精霊の力を借り、火焔や雷を放ち攻撃する魔法。または支援や肉体強化を行う魔法。物体に力を与える付与魔法、そして回復魔法……概ねこんなところですね」


「それは知ってる。ユッコは攻撃魔法が得意なんだよ~」


「最初にギルドで習ったのよね。懐かしい」


「習ったのはそれだけですか?」


「他には、魔力がなくなると魔法が当分使えないとか?」


「魔法って結構、連戦には向いてないのよね」


「ふーん。そうなんだ……」


「スキルだって大体そうだよ。俺のスキルの索敵だって、何度も使うと本当にグッタリしてくるんだ」


「ごめん。僕、そうと知らなくて何度も頼んじゃった」


「いいんだよ。俺だってやる時はやらないと……いてて」


 使えたら便利な魔法やスキルも、その源泉となる力がなければ発動できない。

 そしてその回復にはすごく時間がかかるみたいだ。

 おかげで回復魔法が使える人もいるはずなのに、僕が救急セットの包帯を巻く羽目になっている。


「一口に魔法使いと言っても、それぞれに得意不得意があると言います。これは錬金術師でも同じですが、それは自ら経験を積んで学んでいくほかありません」


「それは分かるけど、じゃあミオは? ミオの魔法は何だったの?」


「ナガセさんは何かを破壊する魔法もマッチ棒くらいの力しかなかったし……回復も支援も付与魔法も何もかもダメだったんだよね?」


「歩見くんは今ナガセの心を破壊する呪文を唱えました」


「歩見くん、見損なったわよ。言い方ってものがあるでしょ?」


「そ、そんなつもりじゃなかったんだけど……」


 マツバラさんとナガセさんはいつの間にかすっかり仲直りしていた。

 正直、誰のせいでこんな大変な目にあったのかと言いたかったけど、誰のせいかと言ったら一番はあの粗暴な三人の冒険者のせいだ。


 それに、マツバラさんたちがいなかったら僕らにはもっと違った未来が待っていた。

 その中には今よりもっと良い未来もあったかもしれないけど、もっと悲惨な未来が待っていた可能性もあった。


 だから、全員が無事だったこの結果は悪くない。


「私は魔法が体系化されて久しいと言いましたが、数が少なすぎて未だそれに至っていない魔法の分野もあるそうです。先ほど挙げた四つのいずれにも属さない、特殊な魔法があるんだとか……」


「特殊な魔法……?」


「その中には物体に生命を宿す魔法だとか……他にも、時を司る魔法などがあるそうです」


「もしかして、それがミオの使った魔法?」


「ミオ、お前すげーな!」


「時間を司るとか最強じゃなーい!」


「え、え? それってやっぱりすごい?」


「う、うん。僕は分からないけど、多分かなりすごいと思う……」


 仲間たちはこぞってやんやと喝采を浴びせた。

 ナガセさんは、つまりは『時を統べる魔法使い』。


 それは攻撃力とか防御力とか、そういう次元を超越している。

 時間を止められたら何をしても絶対に敵わないし、他にも色んな類の時間を操る魔法があるのかもしれない。


「そう考えればミオが他の魔法をろくに使えないのも納得です。ミオは今まで不得手な分野で見当違いの努力をしていたようですね」


「うーん、そうだったんだ」


「ナガセさんの腹時計が正確なのも関係してるのかな?」


「それはどうでしょう。ミオが時間に対して鋭い感覚があるのは否めませんが……」


「私たち、冒険者ギルドの講習でそんなの教わらなかったわ! どうしてそんな大事な事をちゃんと教えてくれないのよ」


「書物によれば、そういう魔法使いは数十年、あるいは百年に一人の割合だそうですよ。そんないるかいないか分からない存在の者をいちいち論じたりしなかっただけでしょう」


「そんなに少ないんだ。私ってちょっと珍しい?」


「ちょっとじゃないと思うわよ。ねぇドリス?」


「そうですね、間違いなくミオは神に選ばれた天才です。もっとも、それを自在に使えるまでには時間がかかると思われます」


「えー、何で何でっ?」


「ミオは今、さっきの魔法を使えますか?」


「そう言われると……私どうやって使ったんだろう。よく分かんないや」


「分かんないの?」


「これは私の想像ですが……このソーン・ドン洞窟の魔力的な磁場とミオの火事場の馬鹿力が合わさって、ああした未熟な形で発動したのでしょう」


「未熟な形?」


「言われてみれば、僕らの意識があった訳だし……きっとあれでも完璧な魔法じゃなかったんじゃないかな」


 完全に時を止める事ができたら、気付けば全てが終わっている気がする。

 今回は偶発的な要素が重なり、あんな珍妙な形で時魔法が具現化した。

 でも、そのおかげでみんなナガセさんの真の素質を知る事ができた。


「ミオは町に戻ってから、ゆっくり魔法を使った時の感覚を思い出すと良いでしょう。才能があれば、きっと開花するはずです」


「はーい」


「ミオにはすごい素質があったのね。時間を司るってすごいわ」


「でもナガセ、これからは物がなくなったりしたら真っ先に疑われるのではないかと不安です」


「余計な心配しすぎじゃないかな……?」


 才能の割に、心配内容がすごくみみっちかった。


「もぉ、みんなミッコはそんな事しないって分かってるって」


「しかし、当面の間は隠しておいた方が良いかもしれません。悪用しようとする輩がミオを狙う可能性があります」


「そーね。私たちでミッコを守らないと。みんな、絶対に喋っちゃダメだからね」


 クラスメート皆が一様に頷いた。

 ナガセさんがすごい力の持ち主だと分かったから手のひらを返した……という訳じゃないと思う。

 

 ここまでナガセさんが皆を助けようと必死だった気持ちが伝わったからだ。


 仲間の元へと洞窟内を走り回っては転び、その度に立ち上がり、ナガセさんにはいくつもアザや擦り傷ができている。


 そんな傷を作っているのは彼女だけだった。


「さてと……それではもう少し休んだら帰りましょうか。この洞窟に用はありません」


「ヒカリゴケの間に戻らなくていいの?」


「またあの連中に会うのも厄介ですからね。それに、必要な分は採集しています」


「いつの間に!?」


「それは当然、逃げる時に。ミオの分と、私が必要とした分だけですが……」


「ドリスったら、あんな状況でもしっかりしてるのね」


 あの切羽詰まった状況で、ドリスさんは採集を終えてたようだ。

 そのたくましさは僕も見習っておかなくてはならない。


「ねぇねぇ、ユッコたちの分はないの?」


「申し訳ないですが、そこまでは……」


「なら、私のはいい。元々、魔力が強くなればユッコと仲直りできると思って欲しかっただけだし……」


「どういう事? ヒカリゴケで私と仲直りって」


「その話は長くなりそうですし、戻ってからにしませんか?」


「ねぇドリス、あの人たちは放っておいていいの?」


「放っておくしかないでしょう。顔を合わせるとまた揉め事になりそうです」


「でも、大切なヒカリゴケがなくなっちゃうかもしれないじゃない」


「それもきっと心配いりません。大丈夫ですよ」


「何で? 今は良くても、回復したら……」


「レンはあそこで物忌みの香水をまいたのでしょう? ヒカリゴケの間は今や一秒と居られなくなるほど異臭を放つ悪夢の場になっているはずです」


「そんなの息を止めればいいじゃない」


「目にも痛いほど染みますから目も開けられません。そしてあの香水は完全に乾いてからが本来の臭気を発しますからね」


「あ、あれでもまだ本来の匂いじゃないって事? 信じられない……」


「牛乳を拭いた雑巾みたいなものです、それならたやすく想像できるでしょう」


「やめてよ、気持ち悪くなってきちゃったじゃないの」


「コケが臭さで枯れたりしないでしょうか?」


「それはさすがに大丈夫でしょう」


「あそこで倒れた人、死んでない? 二人くらい残ってると思うけど」


「臭くてすぐに脱出したはずです」


「出口にすっごく滑って転ぶ滑落油をまいてきちゃったけど……ちゃんと出られたでしょうか?」


「出られてなくても因果応報です。そこまでは面倒見切れません」


 僕はその気もなくヒカリゴケの間をバイオハザードの間にしてしまったようだ。


 何だか彼らにはものすごく気の毒な事をしてしまった。

 しかし確かにそこまで面倒見る気も起きないし、多分行っても臭すぎて行動不能だろう。


 彼らの運命は、後は神のみぞ知る。


「ユッコはいい? 依頼、失敗しちゃうけど……」


「もうヒカリゴケはこりごりよ。ミッコたちが帰るなら、私たちも帰る」


「俺もいいや。金よりも命の方がよっぽど大事だしさ」


「それに帰り道の護衛が必要でしょ? お礼になるか分からないけど、帰りは私たちがレン君たちを守ってあげる!」


「あ、でも僕らには魔除けの香があるから……」


「レン、静かに」


「え?」


「それでは、護衛をマツバラたちに頼みましょうか。実は私たちも道中のモンスターに困っていて、来る時も危うくモンスターの餌食になるところでしたからね」


「そうよね。じゃ、ミッコ行こう?」


「うん!」


「スエナガ、短剣を一本貸してくれ。俺の剣は折れちまった」


「レン、見てろよ。今度は俺がお前をキッチリ守ってやるからな!」


「え……あ、うん!」


「魔力も回復してきたから、支援は任せてね」


「早く帰ってお風呂入りたーい」


 ドリスさんはきわめて高度なモンスター除けを持っているのに、何故かマツバラさんたちに帰り道の護衛を頼んだ。


 あれを使えば無駄な戦闘をせずにすむのに、わざわざ護衛してもらうのは無駄な労力の浪費にしか思えない。


 僕がよく分からない顔をしているのにフローラが気付き、こっそり耳打ちをしてきた。


「レンったら気が利かないのね。分からない?」


「え……どういう事?」


「ドリスはあの人たちに活躍の場を作って、気持ちのやり場を与えてあげたいのよ」


「……そっか。やっと分かった」


 そういう事で、ドリスさんは貸し借りなしにしたいのかなと思った。


 後は……マツバラさんたちとナガセさんが仲間に戻る時間を作ってあげたかったのかもしれない。


 その時間が訪れるのは早ければ早いほど良く、この帰り道はうってつけだ。


 こうして僕ら二組のパーティーは一つとなって町へと戻った。


 途中、やっぱりモンスターには襲われた。

 その討伐に心配がいらなかったのは言うまでもない。


 街に着く頃にはナガセさんとマツバラさんはもう笑って話していた。


 それは昔、教室で見た時と全く変わらない、仲の良い二人の笑顔だった。


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