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魔法少女の実力

「何よ、まだ何かあんの?」


「あります。ヒカリゴケを採れるだけ採るとは、一体どういう事ですか?」


「言ったでしょ、そういう依頼だって」


「いいえ。そんな事を許すわけにはいきません」


「はぁ?」


 ドリスさんは彼らの依頼内容を知り、怒りを隠さなかった。

 彼女がこれほど感情を露わにするのは珍しかった。

 さすがのマツバラさんも困惑して僕を見る。


「ちょっと歩見くん、この人何言ってんの?」


「マツバラさん。実は、僕らもヒカリゴケを採取しに来たんだ」


「あ、そうだったの?」


「だから、僕らの採集する分も少しだけ残してもらえれば……」


「レン、そしてマツバラとやらもそういう問題ではありません。ヒカリゴケがどれほど貴重なものか知っているでしょう」


 向こうが独占してしまうのが問題じゃないみたいだ。

 僕もまだヒカリゴケについては貴重なこと以外、詳しくは知らない。


「貴重なのは知ってるわよ。だから高額で売れるんじゃない」


「ならば、なぜ貴重なのかは知っていますか?」


「暗闇で光って綺麗だからでしょ?」


「それだけではありません。ヒカリゴケの成長は非常に遅く、豆粒ほどの大きさに育つまで数年を費やします」


「あっそ。コケなんてそんなもんじゃない?」


「それを採れるだけ採ってしまえば、再び元の姿に戻るまでに数十年、あるいはもっと多くの時間を必要とするでしょう。そんな事を認める訳には行きません」


「そんなにかかるんですか……」


「このソーン・ドン洞窟でさえ、ヒカリゴケは多く残っていません。本来ならば保護されてしかるべき植物なのです」


 それを採りつくしてしまうのは確かに問題を感じる。

 確か、ティンカーさんが必要としたのはほんの手のひら分だけだ。


 「必要とする分だけ採ってこい」とは言ったけど、ヒカリゴケの事を何も知らない僕らに対しても「採れるだけ採ってこい」とは決して言わなかった。


 その時は意地悪な人だなぁとしか思わなかったけど、彼はきちんと分別も矜持もある錬金術師だと分かった。


 そういう分別に支えられて、ヒカリゴケはこの洞窟にひっそりと生息しているみたいだけれど……。 

 今、そうじゃない人が欲しがっている。


「ユッコ、私たちはほんの手のひらぶんだけ採りに来たの。全部採ったりはしないんだよ」


「じゃあ、あんたたちの分としてそれだけ残しといてあげる。それでいいでしょ?」


「俺たちだってさ、別にコケなんて採りたくて採る訳じゃないんだよなー。金のために仕方なくそうするんだよ」


「文句があるならたくさん採ってこいって依頼した貴族に言ってよね。私たち別に悪くないもん」


「そっちだって採集に来たくせに偉そうに言わないでよね。じゃ話はこれで終了~」


「待ちなさい! まだ話は終わってません」


「ったくぅ、面倒くさい人ねぇ。歩見くん何とかしてよ」


「依頼である以上、採るなとはいいません。ただ、採りつくすような真似は許しませんと言っているのです」


「僕からもお願いするよ。何とか、控えめな採集にできないかな……」


「何でお前にそんな事命令されなきゃいけねーんだよ。こっちゃ仕事なんだよ」


「命令なんてしてないよ。お願いしてるんだ」


「採り損ねた分の金はレンやミオが負担してくれんのか? 違うだろ?」


「私、そんなお金持ってないよ。でも貴重な植物だってドリスさんがここまで言ってるし……」


「この洞窟にはなくなったとしても、他の洞窟にはあるんじゃねーのか? お前らはそっちで探して来いよ」


「歩見くんだってその貴重なものを採りに来たんでしょ? 量の多い少ないが問題なの?」


「ちょっとならセーフっておかしくね? 殺人は一人でも殺人じゃね?」


「だよねー。そーいうの偽善って言うんじゃないの? 私たちと同じじゃん」


「……困りましたね」


 ついにはドリスさんもため息をついてしまった。

 話がまるでかみ合わず、互いの主張がぶつかりあう。


 向こうは貴族からの依頼を受けてここへ来ている。

 僕らもティンカーさんの依頼でここへ来た。


 やる事は『ヒカリゴケの採集』で同じだし、お互いに必要なだけ持っていく。

 なら、僕らも彼らと同じなんだろうか……?


 この洞窟からなくなるまで採りつくす気の彼らと、ドリスさんやナガセさんが同じ?

 それはやっぱり、全然違う気がする。


「もういーよ。こんだけ話してもまとまらないんだから、もう決裂でしょ」


「決裂ですか? ならばどうすると?」


「ヒカリゴケのある場所を教えてもらおうと思ったけど、いーや。こっちはこっちで好きなようにやるから、そっちはそっちでお好きにどうぞ」


「それは許さないと言ったはずです」


「へぇ、許さないならどうするの? まさか、力づくで何とかしようって言うの?」


「……そこまでは言いませんが」


「だよね。生産者ギルドのあんたたちに私たちをどうこうできるはずないし」


「いや、彼女にはタネガシマが……」


「タネガシマ?」


「……何でもない」


「つーかレン、これ以上うるさい事言うならちょっと痛い目を見るかもしんねーぞぉ?」


「う……!」


「やめなよ。弱い者いじめしたってしょーがないじゃん」


「分かってるって。ちょっと脅しただけだよ」


「力を誇示して脅すとは呆れました。あなたたちは本当にレンの学友なのですか?」


「歩見くんとはただ同じクラスだってだけだけど?」


「レンが遠ざけていたのも納得です。……二人とも行きましょう、これ以上話してもムダです」


「は、はい」


「……ユッコ、またね」


「やっと終わり?」


「ホントに痛い目にあうかもってビビったんじゃない?」


 背後からは嘲笑する声が聞こえた。

 僕らに好意的な人が一人でもいればこうはならなかったかもしれない。

 そもそも皆、あそこまでかたくななクラスメートじゃなかった。


 異世界で戦闘職として開花し、冒険者ギルドの生活を経て少し変わってしまった気がする。

 それはここで生きるために良い面もあると思う。

 ただし今回は、すごく悪い方に動いてしまった……。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……何よそれ~。それでスゴスゴ引き下がってきちゃったの?」


「うん……」


「レンではなく私が悪いのです。もう少し言葉を選ぶべきでした」


 野営地に戻って遅くなった事情を話すと、フローラは声を荒げた。


「レンの友達も考えものね。何も全部採ろうとしなくてもいいじゃない」


「もし全部採られちゃったら、ティンカーさんに渡すぶんがなくなっちゃうね……」


「ミオの仲良しの子もいたんでしょ? ミオからお願いしてもダメだったの?」


「う~ん、ナガセが迷惑かけまくったせいであんまり仲良くしてもらえないし……今は無理ゲーかも」


「無理ゲーって何?」


「ほ、方言かな。僕らの住む国の方言で、無理って事」


「ゲーっていらなくない?」


 首をかしげるフローラだった。

 的確な指摘だが、しかし今はそんな事はどうでもいい。


「そもそも私、ミオが弱いから仲間外れにするって感覚が気に入らないわ」


「今ここで言っても仕方ありません。とにかく明日は早めに出発し、彼らが見つける前に私たちがヒカリゴケを見つけるしかないでしょう」


「それしかなさそうね……できれば、その人たちにヒカリゴケが見つけられなければいいけど」


「くまなく探されればそうもいかないでしょうが……そう祈るばかりです」


 ドリスさんの知識と経験があれば、先に辿り着く事はできるかもしれない。

 でも彼らは高額の報酬がかかっている訳だし、血眼になって探すだろう。

 あまり僕らにとって都合の良いストーリーを期待しない方が良さそうだった。


「とりあえず、夕飯を食べちゃいましょ? もうお腹ペコペコよ」


「後は煮るだけですか。さすがフローラは手際が良いですね」


「みんなが帰ってこないからよ。ミオ、火を起こしてくれる?」


「あ、はーい。ついにミオ・ナガセ、魔法使いの本領発揮ですっ!」


「そんな、火起こしくらいで大げさな……」


「むしろ火起こししかできないんだ。私まだ、この炎の魔法しか使えないから」


「えっ」


「えっ」


「えっ」


「見ててね。えーいっ!」


 ナガセさんが衝撃の告白ののち、魔法の杖を振りかざす。

 するとマッチを擦ったくらいの火が中空にポッと生まれた。

 それがふよふよと頼りなく浮遊し、辛うじて火種に到着。


 集めたたきぎに火が付いて、暗くなり始めた洞窟前を煌々と照らした。


「ふぅ~、成功成功」


「あの、ナガセさん」


「見ててくれた? 念じても時々出ない事があるんだよね~」


「ミオは今の炎の魔法の他は使えないのですか?」


「そうだけど」


「魔法の事は全然分からないけど……たきぎ用に小さく調整したのよね?」


「うぅん、今ので私の全力」


「……」


「みんなどうしたの?」


「ドリス、絶対にミオにはヒカリゴケが必要だわ」


「そうですね……何としても彼らより早くヒカリゴケを採集し、魔女のペンデュラムを手に入れないと」


「ナガセさん、明日は頑張ろう」


「うんっ!」


 初めて知ったナガセさんの実力は、もはや強い弱いで論じられるものじゃなかった。

 すごく言いにくいが──マツバラさんたちがナガセさんをパーティから外した気持ちが少し分かってしまった。

 僕らは先ほどのいさかいは関係なしに、絶対にヒカリゴケを手に入れなければならないと誓い合ったのだった。


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