異世界の洞窟で仲の良くないクラスメートと会うとこうなるという見本
「マツバラさんたち、何してるのかな……」
「さぁ……何にも聞いてないから分かんない」
彼女は確か、ギルドで貴族からの依頼を受けて張り切っていたと記憶していた。
だけど今、どうしてか分からないけどソーン・ドン洞窟の前にいる。
野営をして火を囲んでいるのは全部で男女五人。
たき火の上では大きな肉が焙られていて、すごく良い匂いがする。
あそこにいるのは全員クラスメートで構成されている旅の仲間のようだ。
察するに、彼らは彼らで何か仕事を引き受けてこの洞窟に訪れたと思われる。
ここまで僕らがモンスターに遭遇せずに来れたのは、もしかしたら彼らの活躍によるものだったのかもしれない。
「いいなぁ~、あのお肉、ユッコたちの晩御飯かな?」
「多分……」
「シカかな? イノシシかな? 食べ応えがありそ~」
「……何だか分からないけどマツバラさんいるし、ナガセさん行ってきたら? 僕らの事は気にしなくていいからさ」
「ん~……遠慮しとく」
「行かなくていいの?」
「こないだの仕事で迷惑かけた人たちばっかだし。多分ナガセはノケモノなんです」
「そうなの?」
「そうなんです。そんな私が行くとすごくビミョーな空気になると思われます」
遠くから見た感じ、何だか楽しそうなトークで盛り上がっていた。
ちょっぴり混ざりたそうなナガセさんだったけど、思うところがあるらしい。
冒険者ギルドで盗み聞きしてしまった話と総合すると……。
ナガセさんはその弱さゆえに、前回の依頼をもってあのパーティーから外れてしまった。
『強さ』が何より求められる冒険者ギルドの価値観では仕方ないのかもしれない。
しかし、それならば今後のナガセさんの努力次第で元通りになる可能性だってあるはずだ。
僕らはそのためにこの洞窟を訪れたのだから、是非そうなってほしいと思う。
「あのパワーストーン……魔女のペンデュラムさえ手に入れれば、きっとナガセさんだってもっと強くなれるよ」
「ありがと。そうだといいな」
「二人とも、何をしてるんですか? まだたきぎは集まりませんか?」
「あ、ドリスさん」
「ごめんなさい。たきぎは拾ったんですけど、ちょっと……」
「いえ、急かしている訳じゃありません。無事ならそれで良いのですよ」
僕らが油を売っていると、心配したドリスさんが様子を見に来てくれた。
そうなると当然、彼女もマツバラさんたちの存在に気付く。
キャンプ気分で盛り上がる一団を見て、あからさまに怪訝な顔をした。
「……あの人たちは?」
「あれは冒険者ギルドの人たちです。ナガセさんの仲間です」
「私のって言うか、歩見くんの仲間でもあるよね」
「あぁ、話に聞いていたレンの同郷の学友ですね。冒険者ギルドに雇われているという」
「ですです」
「フローラが言うには、レンとはあまりウマが合わないようだとか。レンが気にしてるのをいつぞや心配してました」
「ウマが合わないというか……単に昔、僕が周りと深く接する努力をしなかっただけですよ。だからそんなに仲良くないんです」
「それは向こうにも言える事でしょう。双方が手を取り合わないと友情は芽生えません。あまり気にしすぎない事です」
「まぁ、今はもうそんなに気にしてません」
「それが良いでしょう。それに、ミオとはこうして友達になったではありませんか」
「ナガセさんを友達と言っていいか僕には分かりませんけど……」
「え~っ! 友達だよ友達。あんまり話したことはなかったけど、異世界に来る前から歩見くんは同じクラスの友達っ!」
「イセカイ?」
「ご、ごめんそうだね。同じクラスメートで友達だった」
「うんうん。私たちは友達」
ナガセさんは本気でそう思ってくれているみたいだ。
そんなに話したことがなくても友達。
友達の根拠はクラスメートだから。
とてもシンプルでナガセさんらしい。
何でもいちいち考えすぎる僕にはそのシンプルさがかえって心地よく、嬉しかった。
「質問です。レンたちの口から常々『イセカイ』という単語が出てきますが、それは何ですか?」
「えーっと、それはですね……」
「あのね、私たちは課外学習のバスに乗ってたの。そしたら事故に遭って崖から転落してこの世界にワープして」
「『ばす』? 『ばす』とは何ですか? 『わーぷ』とは?」
「その話はすっごく長くなるから、また今度に……」
「誰っっ!? 気をつけてみんな。またモンスターかもしれないわよっ!」
「げっ……!」
……そんな立ち話を、妙な場所で長々としていたものだから、野営していたマツバラさんたちに気付かれてしまった。
さすが冒険者として経験を積んだ彼らの動きは早く、あっという間に臨戦態勢を整えてしまう。
「スエナガ、あんたシーフだから『索敵』できるでしょ? 敵の距離と数を探って!」
「おう、任せろ」
「頼んだわよ。ニイヤマはタンク役よろしくね。ノゾミは下がって回復に専念して。リナ、支援魔法でみんなに防御結界を」
「レンの友人にしてはきびきびと戦闘の指示を出しますね」
「ユッコはすごいんだよ~。いつもああして率先して指揮を執ってるの」
「若いのに感心です」
「いやいや、感心してる場合じゃなくて……!」
「見つけたぞ、数は三、方角は北北西、距離およそ三十!」
「あの崖の陰ね。私の攻撃魔法で先制する!」
「うわわわわっ!!」
先制されてはたまらない。
たいして仲良くなかったとはいえ、クラスメートに攻撃される謂れはない。
「そんなに焦らなくても、顔見知りなら話せば済むでしょう。誤解を解けばよい話です」
「そ、そうですね……それが何より大事っ!」
「待って待って~~!ユッコ、私だよ!」
「え……あ、ミッコ?」
先制攻撃を受ける前に、ナガセさんがマツバラさんの前に躍り出る。
予想だにしない珍客にさすがに全員が呆然とした。
「ミッコ、あんたこんなとこで何してんのよ」
「言ったじゃない。歩見くんと洞窟に行くって」
「あぁ、あの話ってこの洞窟の事だったんだ。じゃ、歩見くんも一緒なの?」
「ど、どうも。お久しぶりです……」
つられて僕もノコノコと崖の陰から顔を出し、ついでにドリスさんも悠々とその後からついてくる。
モンスターじゃなく顔見知りの人間だった事で、ひとまず戦闘態勢は解けた。
「歩見くん、久しぶり。ミッコが世話になってるみたいで、何かゴメンね」
「いえいえ」
「おいおい、何でレンがこんなところにいるんだぁ?」
「ミオと一緒に何してんの~? そのオバサン誰~?」
「オバッ……!?」
「ここ、この綺麗な『お姉さん』は僕の錬金術の先輩なんだ! まだ若いのに、とっても優秀でっっっ!」
ドリスさんの顔が一瞬で引きつった。
しかし僕のフォローで多少は持ち直し、爆発には至らなかった。
実際に爆破できるアイテムを持っていると思うと空恐ろしいが、彼らにそれを一から説明するのも面倒だ。
「ユッコたちもソーン・ドン洞窟のお仕事だったんだ。それならもっと説明して、一緒に来れば良かったね」
「えぇー……それはどうかなぁ。生産者ギルドの人たちと?」
「何で?」
「んー、生産者ギルドからの依頼なら一緒に来たかもねって、そういう話」
「ミオはお人好しすぎじゃね? タダでレンの護衛してやったのかよー」
「え……別に、そういう事じゃないよ。ここには私が頼んで連れてきてもらったんだ」
「だよねぇ。ミオに護衛なんか務まる訳ないし」
「う、うん。いつかできたらカッコいいなぁ……」
仲間たちにはナガセさんの事情は伝わっていないようだ。
ナガセさんもこの人たちの予定や行き先を教えてもらってなかったみたいだし、それも当然か……。
うっすらと事情を知っているマツバラさんが、それを端的に説明する。
「ミッコはここで欲しいアイテムがあるとか何とか言ってたのよね。無事に来れて良かったじゃん」
「うん。ユッコたちも」
「……言っとくけど、今回は危ないと思ってミッコを連れてこなかっただけだからね? こないだみたいなへまされたらたまったもんじゃないから」
「それは分かってるよ」
「ミオを依頼から外したのは意地悪じゃないもん。ね~?」
「大丈夫、分かってるから……」
「そう思うなら、はじめからミオにそう話しておくべきでしょう。今になって言い訳がましく話すのは、後ろめたい気持ちがあるからじゃありませんか?」
「はぁ? 何言ってんの?」
「いえ、何でもありませんよ。ただの独り言です」
「……嫌味なヤツ」
「さ、さあさあっ! それじゃあ僕らはこれでもう行くから、どうぞ楽しい夜をっ!」
どうして僕がこんな道化てみせなくちゃいけないのか分からない。
しかし、僕らがここに居てもどんどん空気が悪くなるのはよく分かった。
ドリスさんの言う事は正論でも、正論は耳に痛く、人を不快にさせる事もある。
今後のナガセさんの冒険者ギルドでの立場を思えば、生産者ギルドの僕らがしゃしゃり出るのは良くない。
ナガセさんもドリスさんもそれ以上何も言わず、話は済んだかに見えた。
しかし──。
「あ、待って。歩見くんって錬金術師だからアイテムには詳しいんでしょ?」
「ん……いや全然だよ。まだまだ勉強中の身だから」
「この洞窟にあるヒカリゴケってアイテムは知ってる? 私たち、それを探しに来たのよ」
「え……ヒカリゴケ?」
「俺たち、王都の貴族に頼まれてるんだよなー。この洞窟で採れるだけ採ってこいってさぁ」
「暗闇で光って綺麗だから、観賞用に人気なんだって。歩見くん、どこら辺にあるか分からない?」
「待ちなさい。ヒカリゴケを、『採れるだけ採る』ですって……!?」
何という事だ。
これ以上揉めるのはごめんだというのに、ドリスさんの目が一瞬で怒りに染まる。
それはオバサン呼ばわりされた時の比ではなかった。




