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野営をしよう


 その後も僕らは快調に歩を進めた。

 役に立ちそうな錬金素材があれば、その都度立ち止まりドリスさんが解説をする。

 それは薬草だったり、鉱石の類だったり、木の実だったり、果実だったり……。

 あるいは、得体のしれないキノコだったりもした。


「これは……珍しいですね。『仙人帽子』です」


「仙人帽子?」


「見ての通り、仙人の帽子のような形をしているでしょう」


「僕は仙人を見た事がないので分かりません」


「レンったら。私だって見た事ないけど、あくまで想像よ想像」


「でも、この世界なら仙人がいてもおかしくないよねぇ~」


 雑木林の中に、妙な形のキノコがちょこんと生えていた。

 帽子というよりは傘の下にドレスをまとっているような感じで、地面をよく見るとあちらこちらに顔を出している。


「仙人帽子は、幼菌として地面に顔を出してからわずか数時間でこの姿に育つのです。その成長エネルギーを必要とする薬剤に欠かせない素材ですね」


「へぇ……例えばどんな薬剤に使えるんでしょうか」


「毛根が死んでない人向けの育毛剤にはうってつけですよ」


「か、髪……それはとても需要がありそうで」


「歩見くんはまだ全然大丈夫だよ」


「レンには早すぎるわね。いらない心配してる方が余計に薄くなるんじゃない?」


「別に僕の心配はしてないよっ」


「それに、とても栄養価の高いキノコでもあります。いくつか採って夕食に加えましょう」


「ねぇねぇフローラ、これ美味しいの?」


「美味しいわよ~。焼いても炒めても、スープに入れても抜群ね」


「うっぷ、このキノコくっさ……!」


 時にはこうして美味しい(らしい)夕食の材料をゲットしたり。

 何度かの小休止を挟みながら、僕らはソーン・ドン洞窟を目指した。


 ドリスさんの作った魔除けの香が効いているのかモンスターの気配はまるでない。

 もちろんそんなものに遭遇しないのが一番良く、旅の行程は極めて平和だった。


 そして今日という日の太陽が傾きかけた頃──。

 僕らは、無事に目的地へとたどり着いたのだった。


「──さぁ、ようやく着きましたよ。ここが目的の洞窟です」


「ここが……洞窟?」


 ソーン・ドン洞窟は、僕が持っていた洞窟というものに対するイメージとはずいぶんかけ離れていた。 


 人は洞窟と聞くと切り立った崖にぽっかり開いた穴ぐらを想像するんじゃないかと思う。

 その中には光を嫌う気味の悪い虫や吸血コウモリや蛇がいて、入っていく人間をこれでもかと悩ませる。


 だけどこの洞窟はまるで違っていた。

 まず入り口自体がすごく大きい。

 五階建ての建物がすっぽりと入るくらい天井の高さがあって、苔むした乳白色の岩肌がとても美しい。


 ところどころ天井が崩れているせいで、洞窟内部にもオレンジ色の夕日が差し込んでいた。


 そうして光が差し込む環境だからか洞窟の内部にも緑の木々が茂っている。

 その木々の間を縫うようにして、とても澄んだ小川が流れている。


 僕らは別に観光をしに来た訳じゃないが、自然が作り出したその光景にしばし圧倒されてしまった。


「うわぁ~……ここってすごく美しい洞窟なのね」


「うん……」


「今ナガセは猛烈に感激してます。めっちゃ綺麗~!」


「洞窟の奥には滝もあります。耳を澄ますと水の音が聞こえてくるでしょう」


「……本当だ」


「光が差し込む地底の湖や滝は、なかなか神秘的な眺めですよ。きっと苦労してきた甲斐があったと感じるはずです」


「見たい見たい! さっそく行こうよー!」


「そうね。すっごく興味が湧いてきちゃったわ」


「待ちなさい、洞窟の中はひとつの町のように広いのです。今日はここで野営をし、探索は明日にしましょう」


「え~、明日までダメ?」


「綺麗に見えてもソーン・ドン洞窟は危険なところです。十分に体力を回復させるのが先ですね」


「そう言えば、ここって少なからずモンスターもいるんですよね……」


「はい。ここまでは幸運にも遭遇せずに済みましたが、この先はそうもいかないでしょう」


「でも、私たちにはドリスの作った魔除けの香があるじゃない」


「洞窟に住まうモンスターにとって、ここは我が家です。侵入者が嫌な匂いを発しているからと言って、怯えて逃げはしないでしょう。逆に襲い掛かってくる可能性が高いです」


「襲い掛かってきたらどうするんですか?」


「ミオの魔法で何とかならない?」


「う~ん、よわよわの私の魔法で倒せるのかなぁ……」


「一応、その時に備えて私は爆薬を持ってきました。ニトログリセリンを原料にした強烈なものです」


「それはもしや『ダイナマイト』と言うのでは……!?」


「さすがはレンですね。中級錬金術書のアイテムなのに、よく予習をしているようです」


「いや予習って言うか……」


 ドリスさんは色々と用意していたけど、その中には極めて危険なアイテムがあるようだ。

 そんなものを洞窟内部で使ったら、モンスターはやっつける事ができても崩落の危険がありそうで怖い。


「ふーん、よく分からないけどそれがあればモンスターは心配いらないのね」


「心配いりません。命中すれば木っ端みじんになってモンスターの血肉や脳髄や臓物がその辺りに飛び散るでしょう」


「そんなの嫌すぎるわ! なるべく使わないようにしてよ!」


「そういう訳にはいきません。私は今回、みんなの命を預かっているのですから」


「ま、まぁまぁフローラ。それはいざって時の緊急の話だよ」


「そもそも、そんな爆薬なんか使ったら私たちまで爆発に巻き込まれるんじゃないの?」


「近距離の敵にはこの『タネガシマ』という武器を使います。これも火薬を利用し、鉛弾を音速でお見舞いするものです」


「……た、種子島!? 銃ですか?」


「素晴らしいですね。特別高等錬金術書のアイテムなのに、レンはすでに知っているのですか」


「知ってると言うより、名前の由来が少し気になりました」


「タネ・ガシマという錬金術師の発明品だからです。それが何か?」


「はぁ、タネ・ガシマさん……」


 それは僕らの世界でのずいぶん古い銃の呼び名だった気がする。


 不思議な類似点はともかくとして、ドリスさんのアイテムはものすごく殺傷能力の高いものばかりだった。


 もしかしたら彼女の方がそこらの冒険者よりはるかに強いんじゃないだろうか?


「設計上、連射できないのが難点ですね。弾倉を改良し、ガス圧を利用すれば自動装填も可能になるのかもしれませんが……」


「ごめんドリス、私には何言ってるのか全然分からないわ……」


「この世界の錬金術師って、銃まで作れちゃうんだねぇ。すごいね、歩見くん」


「大量生産の技術が出来たら、きっとこの異世界が変わるなぁ……」


「二人とも何を言ってるんですか?」


「何でもいいけど、使うなら私たちが安全な方をお願いね」


「もちろんですよ。さ、それでは野営の準備をしましょうか」


「私、水を汲んでくるわ」


「ナガセは火をおこしまーす! モンスターは倒せないけど、魔法で枯れ木に火をつける事ならできまーす!」


「その前に枯れ木がないから、僕がたきぎを拾ってくるよ」


「あ、なら私も行くー!」


「私は夕食の準備をしておきましょう。フローラも水汲みが終わったら手伝ってください」


 何はともあれ、洞窟探索は明日。今日は一日歩き通しで疲れているし、一晩寝て英気を養うのが正解だろう。


 僕はナガセさんと共にたきぎ拾いに出かける事にした。

 幸いにも枯れ枝がそこら中に落ちているから、探すのに苦労はない。


「何だか楽しいよね、みんなでこうしてキャンプするのって」


「うん、そうだね」


「歩見くんも好き? 実はアウトドア派?」


「僕はどうだろう……でも、今は楽しいと思ってるよ」


 僕がそういう経験が少ないせいもあって、アウトドアを敬遠していた傾向がある。


 でもこうしてやってみると案外楽しかった。

 ここへは話の流れで、素材採集やヒカリゴケを探しに来た訳だけど……それだけじゃなく、良い旅の思い出ができそうだと思った。


「あ、ねぇ歩見くん。あそこ見て」


「え、どこ?」


「他にも私たちみたいな人がいるのかなぁ。キャンプしている人たちがいる」


「……本当だ」


 宵闇の忍び寄る洞窟付近で、僕らのように野営をしている人たちがいた。

 もしかしたら素材を探しに来た同業者だろうか。

 あるいは単なる観光でキャンプとか。そうじゃなければ、冒険者?


 それとも──。


「あ……」


「どうしたの?」


「あそこにいるの、ユッコだ」


「えっ!?」


 そこには、僕らがこの洞窟に来る羽目になった張本人。

 ナガセさんの友人にして、今はすげなく冷たい魔法使い。

 マツバラユカリさんとその仲間たちがいた。



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