魔法少女のミオ・ナガセ
「歩見くんっ、元気だった?」
「あ」
僕の目の前には、魔法使いらしき装束に身を包む女の子がいた。
言うまでもなくクラスメートの一人だ。
学校ではあまり話したことはなかったが、よく笑う明るい人だったのは覚えてる。
「……もしかして、私の事忘れちゃった?」
「まさか。久しぶりだね……ナガセさん」
「そーですナガセです。この異世界ではミオ・ナガセでーす!」
彼女の明るさはこの異世界でも健在だった。
僕のようにそんなに親しくない人間に対しても、こうして分け隔てなく笑顔をくれる。
確か彼女は僕の前に星見の儀を行って、お友達のマツバラユカリさんと共に魔法使いになったはず。
そのいでたちを見る限り、今も冒険者ギルドでうまくやっているようだ。
「歩見くん、こんなところで何してるの? あ、ってゆーかあれからどうしてた? 錬金術師になったのは知ってるけどまだ頑張ってるの? 錬金術って楽しい?」
「そ、そんなにいっぺんに聞かれても……!」
「あ、ゴメンなさい。でもちょっと気になってたから」
「そうなの?」
「だって歩見くんだけいなくなって、別のトコいっちゃったし。時々みんなでうわさしてるよ」
「……そうなんだ」
居なくなった事で、ようやく僕はクラスで存在感を発揮できるようになったらしい。
交通事故か何かで死んでしまった生徒みたいで、何とも悲しい目立ち方だった。
それでも全然思い出してもらえないよりマシだと思う事にする。
気を取り直し、僕は自分の状況をかいつまんで説明した。
幸運にも錬金工房を借りる事ができ、錬金術師として生計を立てている事。
最近は作れるアイテムが少し増えた事。
錬金術は、実際にやってみると難しく、それでも楽しいと思っている事。
そういう話を、ナガセさんは熱心に聞いてくれた。
「ふぅ~ん、なるほどね。要するに歩見くんは歩見くんで、ここで楽しく暮らしてるんだ」
「うんまぁ、何とか。ナガセさんは?」
「んー……ナガセは、実は今あんまり楽しくないのかな……」
「そうなの?」
「うん……私ね、下手したら冒険者ギルドをクビになっちゃうかもしれないんだ」
「えっ!?」
それはただ事ではない。知り合いに会って──知り合いと言っても僕だけど──上がったテンションがみるみる下がり、ナガセさんの表情が曇った。
「ギルドをクビにって、何かあった?」
「別に何もないよ。何もないってゆーか、私が何もできないってゆーか」
「んん……つまり?」
「あのね。魔法使いになったのはいいけど、私って全然強くないみたい。魔法を覚えるのも遅いし、覚えられる魔法も大した事ないし」
「でも、あの星見の儀で魔法使いに向いてるって分かったはずなのに?」
「向いてても、そこから伸びるかどうかは別なんだって」
「ふぅん……そういうものなんだ」
考えてみたらそれは当たり前か。
例えばサッカー選手にしても、同じプロでもトップ選手と並の選手では大きな実力の差がある。
だからって、並のプロ選手にサッカーが向いてないとは誰も言わない。
「私、あんまりギルドの役に立ててないみたい。どうしてか分からないけど、みんなみたいに成長できないんだよね」
「でも僕たち、まだこっちに来たばかりだよ。そんなに焦らなくていいんじゃないかな」
「だって同じ魔法使いのユッコはどんどん強くなって、冒険者ギルドの難しい依頼もこなせるようになってるよ」
「うーん、成長に格差があるのかな……」
誰もが一律に強くなるわけでもないようだ。
成長の速度に差があったり、成長に限界があったりするのはゲームでも現実でも良くある話だ。
しかし前者ならともかく、今すでに成長限界が訪れたとなるとかなり厳しい気がする。
「おかげで最近は足を引っ張ってイライラさせちゃうから、ユッコとは別行動なんだ。今日も他のみんなとギルドの仕事に行っちゃった」
「……そっか」
「こんなんじゃ、そのうちギルドから仕事が貰えなくなっちゃいそう」
ユッコと言うのはマツバラユカリさんの事だろう。
仲のいいクラスメートだったはずなのに、この異世界では別行動。
あつれきとまでは言わなくても、それに近いものが生じているのかもしれない。
決して皆が冒険者ギルドで順風満帆という訳ではないみたいだ。
「私、クビになったら歩見くんみたいに錬金術師になろうかな。多分無理だけど」
「無理かどうかは分からないけど……もしかして、それでこの店に弟子入りに来たとか?」
「うぅん、違うよ。ここには欲しいものがあってきたの」
「欲しいもの……?」
「ここに飾ってあるパワーストーン。これがあれば、私でももう少し強くなってまたユッコと一緒に冒険できるかな~って思ってるんだ」
「これかぁ……これって高そうだよね」
「ここのオジサンが言うには、これには魔力を増幅させてくれる力があるんだって。だから、今狙ってるんだ」
「狙ってるって、今は買わないの?」
「だって歩見くんの想像通り、高いもん」
「いくらか分からないけど、冒険者ギルドの仕事なら稼げるらしいし……すぐ買えるんじゃないかな」
「でも私たちの世界で言うと、百万円くらいするよ」
「ひゃくっ!?」
それは僕の稼ぎの何年分だろう。
僕も欲しいと思ってたのに、とてもあの風邪薬の報酬で買えるものじゃなかった。
「百万かぁ~……それじゃあなかなか手が出せないね」
「それに冒険者ギルドの依頼は参加した人数で分けっこするし。歩見くんみたいに全部一人占めって訳にはいかないもん」
「いや、僕の場合はそもそもの単価が安いんで……」
僕の少ない報酬を分けっこされたら死んでしまう。
「そういう訳で、落ちこぼれ魔法使いの私は毎日ここに来て、いつかはパワーストーンを買うぞ~って心に誓っている訳です。分かってくれた?」
「よ、よく分かった。きっといつか買えるよ」
「でさ、この錬金術店もしかして歩見くんの知り合いの店?」
「うーん、知り合いと言えば知り合いだけど」
「ホント!? じゃ、歩見くんから頼めばちょっとだけ安くなったりしない?」
「いやぁ、この人はどうだろう……」
ティンカー・ウッド錬金術店だから、きっとさっきのティンカーさんで間違いない。
知り合いと言ってもさっき会ったばかりだし、僕に好意的な人でもない。
売ってくれなくなるか、むしろ高くなる可能性の方が高かった。
当然そんな事情をナガセさんが知るはずもなく。
「ね、お願い。半額とまではいわないから、もうちょっとだけ! 歩見くんの顔で交渉してくれない?」
「僕の顔って何!?」
「だって知り合いなんでしょ?」
「知り合いと言っても年も離れてるし……知ってるでしょ? ここのオジサン」
「ちょっと気難しい感じだよねぇ~。正直ナガセは苦手です」
「実は僕もなんだ。申し訳ないけど」
「じゃあじゃあ、歩見くんが錬金術でパワーストーンを作れたりしない? あ、それってすっごくいいアイディアじゃない!?」
「それは……何年か待ってもらえれば。それでもいい?」
「それはだーめー! 私はすぐに強くならなくちゃいけないのっ!」
「……ガキども、さっきから人の店の前でうるさいぞ! 何を騒いでる!」
「げっ!?」
「あ、オジサンだ」
「何だ、お前また来たのか……んん?」
「ど、どうもこんにちわ」
「レン・アルケミじゃないか。私の店の前で一体、何をしてる」
大騒ぎしたせいで、店の中からティンカーさんが飛び出してきた。
やはりここは残念ながら彼の店だった。




