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斬魔の剣士  作者: 織部改
第四章 百鬼夜行
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EP07 眠れる医務室の少女

 医務室でカルテをまとめていた成実は、突然、入り口のドアが開いた音に気付いて作業を中断した。


「ちょっと……ノックぐらいしなさいよ」


 ノックもせずにドアを開けられ、不快に思った成実がそちらを見ると、思い詰めた表情の隼人が入ってくるところだった。


「って、あれ? 隼人君じゃない。どうしたの? 忘れ物?」


「いえ、そういうわけじゃないんですが……」


 医務室の中を見回した隼人は、カーテンで遮られているベッドがあることに気付き、そちらに足を向けた。


「あ、待って。男の子は今、立ち入り禁止だから」


 隼人がベッドの方に向かおうとしていることに気付いた成実は、慌てて椅子から立ち上がり、彼の進路を遮るように手を広げて立ちはだかった。


「すみません。ちょっと確かめたいことがあるんです」


 目の前に立った成実の肩に手を置いた隼人は、軽々と彼女を脇によけた。


「こら! 駄目だって……!」


 声を上げた成実を無視して、隼人はカーテンを開けた。するとそこには、点滴に繋がれた黒髪の少女がベッドに横たわっていた。


「……やっぱりこいつか」


「え? 隼人君、この子を知ってるの?」


 腑に落ちた様子の隼人の呟き声を耳にした成実は、驚いた顔をしながら彼に尋ねた。


「はい。桑野先生は、伏魔士をご存知ですか」


 成実の人柄なら大丈夫だろう、と判断した隼人は、そう端的に切り出した。


「まぁ、噂話程度だけど」


「彼女がそうなんです」


「へぇ……本物は初めて見たわ」


 隼人から話を聞いた成実は、ベッドで眠る少女の顔をしげしげと見つめた。


「でも、なんで彼女が伏魔士だってこと知ってるの?」


「自分たちでそう名乗ってましたから」


「自分たちって……他にもいるの?」


「四人いたみたいです。俺はこいつを含めて三人しか見てませんが……」


 頑丈な半透明の壁を作り出す守壁の念信を操る僧侶姿の誠太。弓矢を使い、姿を消す隠蔽の念信を操るスーツを着た男。そして相手の心を読む読心の念信を操る目の前の少女。さらにあと一人、魔獣を操る者がいたようだが、隼人はその魔獣使い本人とは会っていなかった。


「で、この子の名前は?」


「シノミチ、と呼ばれていました。下の名前は……分かりません」


 誠太に彼女がそう呼ばれていたことを、隼人は思い出した。


「なんでこいつだけなんだ? 他の奴らは……」


「それは……分からないわ。機甲部隊が救助したのは、この子だけみたいだけど」


「……」


 隼人は眠っている少女を見つめたまま、思考を巡らせた。


 シーツからはみ出た腕や首に包帯が巻かれ、体中を負傷している伏魔士の少女。この傷は廃工場での戦闘によるものではない。その後に負ったものだ。


 他の伏魔士たちはどうなったのか。何があったのか。それは分からない。その答えは彼女に聞くしかないだろう。


「先生……?」


 ふと、隣に立った成実からじっと見つめられた隼人は、不思議に思いながら彼女の顔を見つめ返した。


「隼人君、あなたいつまで女の子の寝顔を見てるのかしら?」


「え、あっ……そういうつもりじゃ……」


 冷めた目の成実に指摘された隼人は、慌てて一歩足を引いた。


「はいはい、言い訳は聞きません。彼女がどうあれ、ここに運ばれた以上、今は患者なの。ほら、出てった出てった」


 隼人が動揺した隙に、成実は彼の背中を両手で押して、入り口の方に押し出そうとする。


「先生、せめて護衛をつけてください」


 持ち前の敏捷性で成実の手から逃れた隼人は、彼女から離れて向き合った。


「なんで?」


「彼女は……葬魔士を恨んでいます」


 どう伝えたらいいか悩んだ隼人は、歯切れの悪い口調でそう言った。


「私、葬魔士じゃないけど」


「葬魔機関にいる以上、先生だって襲われるかもしれないんです。必要なら俺が……」


 あっけらかんと返した成実に、隼人は必死に訴えた。


「あら、心配してくれてるの? ふぅん……」


 身を寄せながら妖しげな目つきで見上げてくる成実に、隼人はたじろいでしまった。からかわれているのは分かっていたが、それでも頬の熱で自分の顔が赤くなっていると理解した。


「じ、冗談じゃなくて――!」


 女性に慣れていない隼人の反応を見た成実は、苦笑しつつ距離を取った。


「忠告ありがとう。でも、いらないわ。彼女が目を覚ましたとき、かえって警戒させてしまうでしょ」


「先生……」


「大丈夫よ。こう見えても私、暴れる患者さんの対応だって慣れてるんだから」


 そう言うと、成実は誇るように腰に手を当て、胸を張ってみせた。


「そういう問題じゃ……」


「話せるようになったら教えるわ。もちろん治療が済んでからね」


「あ、ちょっ……! ったく……」


 隙を見せた途端、強引に廊下に追い出されてしまった隼人は、しぶしぶ医務室を後にした。

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