表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/119

もう辞めてやる

 ティルザさんの家からギルドに帰ってきた俺たち。扉を開け足を踏み入れると、唐突な罵倒とビールジョッキなどが飛来し俺の顔面に直撃する。それで怒りが湧いてくるかと言われるとそうではなく、まずなんだこれ?という疑問が頭の中を詰め尽くした。


 目の前には大勢の冒険者達。1人2人ではない、ざっと見積もって100人くらいいそうだ。もしかしたらギルドの冒険者全員いるのかも知れない。


「えっと・・・俺のせいって、なにが?」


 辿々しく質問をする。あまり刺激をするべきだはないと判断した結果だ。


「なにがだと?お前・・・自分の罪を理解してねぇのかよ!!」


 唐突に言われのない罪を突きつけられ、さらに困惑する。さらに後ろの群衆達もそれに乗っかるためものすごくうるさい。


 そんな烏合の衆を黙らせたのはこの人--我らが師匠アリアさんだ。壁を殴りつけ大きくヒビを入れる。その衝撃で、先ほどまで騒ぎ立てていた者たちは声帯を奪われたのではというくらい静かになった。


「おいお前たち、なにかを訴えるにしてもせめて冷静になれ。騒ぎ立て一方的に自分たちの考えをぶつけて何になる?ストレス発散をしたいだけなら他所でやれ」


 冒険者達はアリアさんが放つ殺気とも言える迫力によりたじろぎ身を後退させる。まぁ怖いのはわかる。何故って、あからさまに怒ってんだもん。もしかしたら急に俺にジョッキなどをぶつけたことにキレているのかも知れない。


「どうした?何か訴えたいことがあるんだろ?だったら言いいなよ、ほら、早く!」


「アリアさん、同じ、同じになってるよ」


 傍目から見れば今のアリアさんは一方的に怒りをぶつけている人になっている。これでは向こうだってびびって何もいえないだろう。


 俺は荒ぶる師匠を宥め落ち着かせる。とにかく話を聞いてみたいという俺の思いをぶつけ、ようやく落ち着いてくれた。


「すまない蓮、平静を失った」


「ははっ、・・・で、いったい俺が何したんですか?というか、何に怒ってるんです?」


 すると、わらわらと並び立つ群衆をかき分け、1人の男性が前に出た。年はおよそ20代くらいで、髪と目は金に輝いており、すらっとした細身の落ち着いた雰囲気の男性。男性は群衆の前に立ち立ち止まると、俺のほうに目を向けた。


「君が・・・脳無しの子?」


 高くも低くもない、いかにも青年と言った声の男性は俺に確認をとっているようだ。


「は、はい。それが何か・・・?」


「単刀直入に言おう。僕たちは君に--ギルドをやめてほしいんだ」


 ストレートに放たれたその言葉に重はず俺は身をたじろがせる。ここまで真っ直ぐに拒絶されるなんてそうそうないだろう。


「えっと・・・それはなんで・・・ですか?」


「マスターに聞いたよ、魔導祭を襲ってきあのモンスター、いや、あのモンスター達は君を狙っているんだろ?はっきり言って君1人のために僕らに被害が被るのが嫌なんだよ。君1人がギルドをやめ、そしてどこか違う国でのたれ死んでくれ。それが・・・僕らの願いだ」


「--ッ!(この人達の言い分を突っぱねるのは簡単だ。だが、それでいいのか?確かに言い分は乱暴だ、だが行動理由はそれほどおかしくもない。むしろ当たり前と言ってもいいかも知れない。自分たちが被害に巻き込まれたくないから排除する。正しいことだとは全く思わないが理解はできる。であれば俺はどうすれば・・・)」


 男性の意見に後ろの群衆達の声は再燃する。「そうだそうだ!」「そんな奴追いだしちまえ!」「さっさと出ていけー!!」など、ちゃんと前に出て主張もしないくせにすごく声がでかい。


「随分と下品な連中を引き連れているものだなアマル。Sランク冒険者もここまで落ちたか」


「えっ?Sランク?!この人?!」


 この先導者らしき、アマルと呼ばれた男性はなんとSランク冒険者だった。もしかするとアリアさんレベルなのだろうか?


「逆に僕はあなたに言いたいですよ。危険材料を取り除くのは当然です。あのモンスターは街に魔法を放ち、甚大な被害をもたらそうとしていました。それを助長しているのが彼です。それを排除することもせず、挙げ句の果てにこれを庇い僕たちを黙らせようなど、それこそSランク冒険者として恥知らずだと思いますがね」


 先ほどまではどこか穏やかで優しい雰囲気のあったアマルさんだが、今の発言からは少し苛立ちが感じられた。


「Sランクもたくさんいる、集団でかかれば勝てない相手というわけでもないだろう?それとも、やはりお前らはその程度の実力なのか?」


 これに負けじとアリアさんも煽り返す。このままいくと泥沼になっていく気配がする。この事態を収める一番簡単な方法、それは俺がギルドを止めることだ。そしてどこかで死ぬこと。そうすればあいつらは襲ってくることもなくなるだろう。だが、止めるのはともかく死ぬのを容認出来るほどできた人間じゃない。というかそんなやつはできてると言わない。


「もし勝てなかったら?それと街を人質にされたらどうするんですか?全員無傷で助けられる自信がおありで?そんなこと無理だとは思いますがね」


 その後も俺の処遇を決める話し合いは続いた。ついにはお互いの人格否定にまで発展していき、もはや話し合いというより言い争いになってきた。どうやらアマルさんはアリアさんのことが嫌いだったようだ。簡単にまとめると自分より若いくせにでかい顔をしすぎ、ということだ。


 正直もうこれ以上見ていられない。俺のためにアリアさんに苦労をかけるわけにはいかない。それに、実際ギルドに迷惑をかけてしまっているのは事実だ。


「あの、アリアさん。・・・俺やっぱり出て--」


「--なんじゃあ?この騒ぎは?」


 扉が開く音と老人の声が、外の光とともに入り込んできた。ヒートアップしていたギルドは鎮まり返り、全員がその声の主に視線を向けた。その姿は逆光ではっきりとは見えないがおそらくあの人だろう。


「--おじいちゃん!どこ行ってたの?」


 レヴィのその言葉であやふやな答えは確信へと変貌する。そう、あの老人はレヴィの祖父にしてこのギルドのマスター、ガリレア・ドルシアだ。そういえばいないの気付かなかった。


 そしてその背後には受付のマルロさんに俺の義兄弟のバルク兄貴達兄弟3人、そして魔導祭で俺と戦ったグニラもいた。彼らはギルドに足を踏み入れ俺たちと対立組との中央で足を止めた。


「おおレヴィちゃん!帰っておったのか!儂らは魔導祭会場の医務室から身柄をここに運んでおったんじゃよ」


「身柄?いったい誰の・・・あ」


 逆光で見えなかったが、マスターは背中に何か背負っていた。それを覗き込んでみると、なんとそれは俺達が戦い、それどころか俺のことを喰い殺そうとしていたモンスター、蛇姫(だっき)だった。蛇姫はバルク兄貴の砂で身柄を拘束されており、意外にも大人しくしている。マスターに担がれているということで逃げられないと諦めているのか、それとも逃げようという気力すらないのかは分からない。


「なんで蛇姫をこんなところに連れてきたんですか?一応危ないでしょ」


 そんな俺の問いにバルク兄貴が蛇姫を指差しながら答える。


「こいつが蓮に話があるんだとよ。どんな話だ?って聞いても頑なに答えねぇがな。もうそろそろ帰ってくると踏んで連れ帰ってきたんだが、・・・帰って早々なんだこの状況?マジョリティ対マイノリティか?初歩どっちから踏み出す?とかそんなんか?誰も幸せになんねぇからやめろそんなん」


 辺りを見渡すバルク兄貴。一見すれば5体100、弱いものいじめとかに見えるかも知れない。


「別にそんなのではありませんよ、バルクくん。まぁSランク最弱のあなたに何を言われようと響きませんが」


 ・・・ん?S?ES(エス)じゃなくて?バルク兄貴いつの間に?


 驚愕しながらそちらに目を向けると、あれ?言ってなかったっけ?といった表情を向けられた。


「ほら、初めて銀野郎と戦ったときに魔法が進化したんだよ。それで俺もSランク入りしたってわけだ。悪ぃな、バタバタしてて言ってなかったわ」


 あっけらかんと言われこれ以上突っ込む気は失せた。


「んで、Sランク1性格が悪いと噂のアマルさんが烏合の衆を引き連れてどうしたんですか?お山の大将気分でも味わいたかったので?」


「ーーッ!君はもう少し年輩に対する気遣いを覚えなさい。でないといずれ痛い目を見ますよ・・・!!」


 アマルさんはバルク兄貴の言葉に青筋を浮かべ怒りをあらわにする。そしてその後アマルさんの口から後から来た人に、というよりマスターに経緯を説明していた。


「ーーという訳です。お分かりいただけましたかマスター?少年1人追い出すだけです、早々に、そして適切な判断をお願いします」


 暫しの沈黙、マスターは俺を一瞥する。


「蓮くん、君はどう思っとる?君はどうしたい?」


「ちょおい爺さん!その質問はーー」


 バルク兄貴はマスターに反対しようとしたとき、マスターにより無理やり口を開けられ、何故か喋れなくなっていた。


「安心せい、この問答が終わったらすぐに解く。ーーで、君はどうしたい?」


 真っ直ぐと見つめられる瞳に、嘘はつけないと思った。俺は自分の気持ちを正直に語った。


「俺は・・・ギルドを辞めます」


「ッ!蓮!お前がそんなことする必要はーー」


 駆け寄るアリアさんを俺は無言で静止する。歯痒い顔をしながらも一応は納得し、離れてくれた。


「俺は別に辞めたくはありません。ここは大切なみんなと俺を繋げてくれた大切な場所です。だけど・・・そこが俺のせいで危険な目に遭うなんて、それは嫌です。そこにいる皆さんにも、そして国民の皆さんにも迷惑がかかるのも事実、俺はそれも嫌です。この決断は自己犠牲とかじゃありませんよ!俺が嫌だから、・・・辞めます」


「・・・・・・そうかい。じゃあ、しょうがないのぉ」


 マスターはバルク兄貴の口に手を触れる。すると急に喋り出した。


「ーーぷはぁ!・・・おい蓮、言わされてるとかじゃ・・・ねぇのか?」


「・・・うん、大丈夫。俺の意思だ」


 俺はバルク兄貴に向かい出来るだけ笑顔を向ける。心配をかけないように。


 その時、アリアさんがマスターの元に歩いて行った。いや、アリアさんだけじゃない。レヴィやカミラ、ディアスも一緒にマスターに向かい立っている。


「・・・なんじゃ?・・・と言っても大体わかるがの」


「マスター、私はーー私たちは、ギルドを抜けさせてもらう」


 そう言い放ったアリアさんの目は、いつも俺を庇ってくれる時の優しい厳しさを内包したものではなく、ただ1点ーー怒りのみが集約されていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ