無くして拾って引き摺って③
過去を見終わった俺たちに、しばらく沈黙が訪れた。周りはどう接すればいいのかわからない。俺はなんでこんな重大なエピソードを忘れてたんだろう。この2つの感想がこの空間を支配する。
この状況を打開するにはまず俺が口火を切る必要があるだろう。そう思いとりあえず正直な感想を漏らした。
「いや〜、俺意外と壮絶でしたね。まさか記憶なくなってるとは・・・しかもその記憶すらないという。つか今まで俺に纏わりついてた声が実母とか・・・あんなのに10年以上苦しんでたとか思い出したくねぇな」
・・・どうだ?これでみんな話しやすく--
「--ほえっ?」
変な声が出た。何故か・・・ずっと俺の後ろにいてくれたレヴィが泣きながら抱きついてきた。
「レ、レヴィ?!離れた方がいいと思うよ!多分これ落ち着いたら黒い歴史に様変わりするだろうし!」
無理やりではなく言葉で退いてもらおうと頑張るが、聞く耳を持ってくれない。それどころか頭を擦り付け聞き取りづらい励ましの言葉を送られる。
「れ"ん"・・・がんばっだね"!!あ"んなごどあっだら"そりゃあん"なふゔに考えぢゃうよね!がいじょうでビンタしでごべん"なさい!!」
「レヴィさん、そろそろ離れてくれないと俺の中で何かが開く気がするからやめて!」
ちょっと無理やりレヴィを引き離し距離を取る。引き剥がされたレヴィは顔を地に伏しながら俺に手を伸ばしなお泣き続ける。「やばい可愛い」じゃなくて・・・何言ってんだ俺?
見てていたたまれないので頭を撫で落ち着かせる。しばらくしてようやく落ち着き、涙も引いた時、今度は別の意味で声を震わし部屋の隅で体育座りを始めた。
「・・・だから言ったのに」
呆れ3割とはいえ心配してくれて嬉しい6割可愛い1割。などと自分の感情を割合グラフにしていた時、カミラとディアスが俺のところに寄りすごい優し目と口調で話しかけてきた。
「蓮くん、肩とか凝ってない?よかったら揉むよ」
「蓮、何か欲しいものなどはあるか?貴族時代に比べれば全然だがそれなりにお金は余っているぞ!ある程度のものなら買ってやれる。遠慮するな」
「何、いきなり・・・?特にディアスお前そんなキャラじゃねぇだろ?」
「その・・・なんだ、人に優しくなろうと思えてきてな」
「セラピー効果でもあんのか!!・・・で、カミラは?」
「いや〜ね、ここ行け行け言ったのあたしじゃん?それに言っちゃなんだけど結構な過去だったし、レヴィちゃんと同じくあれじゃあ君を責めるのはちょっと違ったしね。だからさせめてあたしから何かできないかと」
なるほど、このカミラは何かしら責任を感じてくれているようだ。だが無用な責任だと思う。
「あのさ、別に気にしなくていいよ。それどころかカミラには感謝したいんだ」
「へっ?感謝?」
まさか感謝されるとは露ほども思っていなかったのか、素っ頓狂な声を漏らす。
「ああ。俺さ、過去を見れてよかったって思ってるんだ。確かにずっと育ててもらった両親が実親じゃなかったってのはびっくりしたよ。声の主が実親ってのにも度肝抜かれた。正直嫌な気持ちもないわけじゃないんだ、というより悲しいって感じかな?だけどさ、そのかわり嬉しいことも分かったから!」
「いいこと?」
「そういいこと。まずそもそも過去を知れた。このおかげで俺はこれからあの人の声に振り回される事はないよ。あとは何より、俺を育ててくれた両親は本当に俺を愛してくれてたってのが分かったから!まぁそのかわり結構ホームシックになってはいるけどどね。あっ、そういえばパンイチのおっさんの正体も分かったし」
「確かにあの2人すごい優しそうだった・・・ん?最後なんて?」
おや珍しい、カミラが聞き逃すなんて。まぁでも人間聞き逃すことくらいあろう。俺もよくあるし、ここはもう一度丁寧に--
「託何っていう俺の父親いただろ?あの人だったよパンイチのおっさん。俺がすごい幼い時に消えたらしいから顔忘れてた。というか今こうして振り返ると忘れてた俺最低だな」
カミラはすごい混乱した表情を浮かべている。いやカミラだけじゃない。よく見たらディアスも、さっきまで壁に顔を向けていたレヴィまで怪訝な表情を浮かべていた。
「あの優しいお父さんが・・・パンイチ?信じられない、もしそうだとしてもなんでその光景を思い出した?もっといい記憶あったでしょうに」
カミラは混乱しすぎて若干口調が変わっている。だが内容はもっともだ。何故あの光景が出てきたのか、そしてそもそも何故あの時・・・父さん、が夢に出てきたのか分からない。特に理由はないだろうけど。
その後も色々と突っ込まれた。特に俺が異世界人であることについて。正直どうやってこの世界に来たのかは俺も知りたいところではあるので答えられなかったが、その他いろいろなことを聞かれる。
まず魔法がないのにどうやってあんな巨大な建造物を作れるのか?などだ。確かに家屋などもレンガが木造、そうでなければ魔法で建築するこの世界において、レンガでも木でなく、ましてや魔法がない世界でビルくらいの建造物をどうやって作るのか些か疑問のようだ。しかし正直ビルの立て方なんて俺は知らない。そう答えると露骨にガッカリされた。・・・そんな反応されましてもても。
こんな話をしている時、あることに気づく。そう--アリアさんが全く会話に入ってこないことだ。それどころか映像を見ていた位置から全く変わっていない。ずっと体育座りで顔を足に埋めている。
「・・・アリア・・・さん?どうかしました?」
何か気に触ることでもあったか?そう思い恐る恐る質問を投げかける俺。そんな疑問にアリアさんはさらに顔を埋めて小さく答える。
「・・・あんな素敵なご両親がいるのに・・・私はそれを指し押し置いて母親面するなんて・・・なんだかあの2人に申し訳なくなってきて」
なるほどね、そんなことか。
正直俺からすれば馬鹿らしい悩みだ。そのことについては俺の中で答えが出ているから。
「アリアさん、あの人達も本当の両親じゃない。だけど俺はあの人たちが大好きだし尊敬してる。過去を見てこう思ったよ、大事なのは血の繋がりじゃない。その人のことを愛していること、家族ってのに大事なのはこれなんだなってさ。だから俺はアリアさんのことを家族だって勝手に思ってたし、アリアさんが拒絶しない限りこれからもそう思い続けるつもりだよ!」
「蓮・・・!」
「初めてこの世界に来た時殺されかけて、それを助けてもらって住ませてもらって、育ててもらって・・・完全に向こうの家族と同じですよ。俺はその恩を絶対に忘れないし、忘れる気もない。両方大事で両方好きです!だから・・・差し置いて申し訳ないとか、思わないでください・・・」
俺はアリアさんに恩義を感じている。救ってもらって育ててもらっているのだから当然だ。しかしそれだけじゃない、向こうの家族と同じように距離が近くなんでも話しやすい。端的にアリアさんを表現するなら--大好きだ!超好きだ!そんな人に家族と名乗るべきじゃなかったと言われれば当然こう伝えるだろう。
「私は・・・お前の母親代わりになれている自信はない。だけど、蓮の言った定義なら私は母親だと、胸を張って言えるよ・・・!吐き出したいものがあれば私に言ってくれ。辛いことがあれば私の相談してくれ。嫌なことがあったら私と一緒に解決しよう。いや・・・違うな。私じゃない、私たちだった・・・!」
視界に映るみんなの姿。真正面には笑顔で微笑むアリアさん。
俺はこの世界に来てよかったとは思えない。大好きな母さんとたもとを分かたれたのだ。そうでなくてもいろいろなモンスターに襲われる。命がいくつあっても足りないとよく思う。改めてでも言える。こんな世界に来たくはなかった。
だが、これだって間違いなく言える。俺は--この人たちに出会えて良かった。元の世界とか異世界とか関係ない。今ここにこの人達がいることが--俺はとても幸せなのだ。
この幸せを守る。そのために俺は--絶対に強くなって生きるんだ。俺の大切を守るために。俺のもう一つの家族を守るために。




