また落ちる
「--よし!今のうちに逃げるぞ!」
レヴィの魔法により敵の目を眩ませることに成功した俺たちは、来た道を戻る--のではなく、反対の出口に向かって走っていた。
「カミラ!ほんとにこっちの方が近いんだよな?」
「うん!来た道戻るくらいならこっちの方が早く出られるよ!」
アリアさんにより気絶した蛇姫を抱えながら俺たちは一目散に走る。その間もレヴィは走りながら目眩しを継続してくれている。
「あらあら、すごい眩しいわね。このままだと逃げられてしまうわ」
目を瞑りながら頬に手も当てる蠍癒。その背後から2人の男が現れる。
「蠍癒、あと2分だ。その間に捕らえられなければもう捨て置け。そこまでの価値は無だ」
「なぁ蠍癒ゥ!今からオレが足止めのためにぶっ放すが、そのせいで何人か死んじまっても仕方ねぇよなぁ?」
ポキポキと指を鳴らす竜頑。そしてその顔は虫を殺して遊ぶ無邪気で残酷な笑顔だ。
「まぁ仕方ないわね。脳無しくんと蛇姫以外なら何人でも殺していいわよ」
「ひひっ!そうこなくちゃなぁ!!」
先程まで指を鳴らしていた腕を後方へ引く。
「おい脳無し共っ!テメェらはもう少し・・・気配の消し方を学んだ方がいいゼェ!--まっ、ここで死ぬんだから関係ぇねぇけどなぁ!!一ノ舞!--」
一ノ舞・・・どこかで聞いたことがある--どころか、ほんと今日に食らったばかりだ。奴が引いた拳は大きく開かれており、今にも放たれようとしている。
俺は視線をカミラに移す。そのカミラは目を見開き思わず立ち止まり小さく呟いた。
「・・・あれって・・・あの技って--」
「一ノ舞--刻桜印!!」
いっぱいに開かれた拳は振り抜かれ、大きな鐘でも鳴らしたのかと言わんばかりの轟音が鳴り響く。直後、巨大な掌が俺たち向かい放たれる。この時俺はグニラの技を思い出したが、その比ではない。食らっていないのに確信できる。これに当たったら--死ぬ。
俺は咄嗟に全員を掴み、声を上げる。
「--カミラ!!!透過!!!」
「えっ?あっ!はいっ!!!」
カミラが返事をするとほぼ同時に放たれる掌が底につき、地を砕く。砕かれた地面が音を立て転がり土煙が立ち込める。
「へっ!どうだオレの技は!さ〜て、オレのレベルは・・・」
竜頑は不思議な液晶を中に展開し、そこに表示された数値を確認する。
「え〜っと、攻撃、速度、体力、防御・・・ん?一たりとも上がってねぇ?まさか・・・誰も殺せてねぇのか?」
攻撃をしたことで既に光は消えている。竜頑はすごい剣幕で攻撃をした場所まで降りていく。
「ちっ!なんも見えやしねぇ。こうなったら、三ノ舞--旋蘭!!」
勢いよく体ごと拳を旋回させ、土煙を散開させる。そしてそこに現出したのはバラバラに崩落した地面に無傷で立つ標的達の姿だった。
「はっ?オレァそこまで落ちたつもりはねぇぞ。誰のどんな魔法だこりゃ?」
「--あたしだよ」
「あっ?」
何故か名乗り出るカミラ。いや、理由は察せれるんだが、とにかく危ない。
「おいカミラ!」
「ごめんみんな。これだけは聞かないと帰れない。ねぇあなた・・・さっきの2つの技・・・闘華流・・・だよね?」
恐る恐る質問をするカミラ。手を握っているから分かるが、透過は解いていないようだ。
「あぁ?なんでテメェみたいなガキがその名前を知ってんだおい!」
「それはね・・・」
真下に落ちている石を拾うカミラ。そしてそれを真上に放り、裏拳でそれを放つ。
「三ノ舞・飛蓮--旋蘭・飛び胞子!!」
当然軽々と避ける竜頑。しかし、その顔には驚きの表情が浮かび、そしてニヤリと笑う。
「あぁ・・・なるほどなぁ。テメェツトムのガキ・・・いや、孫か。懐かしいなぁ、50年前、オレがあいつを殺して喰ったんだぁ!あいつは良かったゼェ、最高に楽しくて、最高に死にかけて、最高に--美味かったぜ」
「--ッ!!」
カミラは怒りの表情を浮かべ、一歩前に出る。このままだとカミラは奴に向かっていく。そう確信した俺は魔法を発動する。
「異類無礙!--カミラ!気持ちは分かるが冷静になれ!今は逃げることを優先して--」
「--気持ちが分かるわけないじゃん!!!」
怒気を孕ませた声に、目を見開き涙を浮かべる目元。俺はかける言葉を間違えたのだと実感する。
「50年前だしさ・・・会ったことなんてないよ。だけどさ、それでも、唯一のおじいちゃんなんだよ。それを・・・殺されて・・・挙句美味しかった?そんなの許せるわけない!!気持ちなんて・・・分からないでしょ?」
「カミラ・・・」
俺はかける言葉が見つからず、下を向く。確かに軽率な言葉だった。気持ちなんて分からない。だが、カミラをここで行かせるわけにもいかない。
「ツトムの孫よぉ。脳無しのガキにその言葉はちと可愛そんなんじゃねぇかぁ?まっ、俺はどうせそいつ殺せねぇしどうなろうと知ったこっちゃねぇけどなぁ」
「・・・?どういう・・・?」
振り返り疑問の目を俺にぶつけるカミラ。しかし俺も理解していない。俺も喰われていないし、肉親だってなんともない筈だ。知り合いの誰も殺されていない。であればこいつはなんのことを言っている?
「竜頑く〜ん!もう時間ないわよ〜。あと--多分今は攻撃通ると思うわ!」
「--ッ!(不味いバレてる!)」
「へぇ〜。んならまずは・・・ツトムの孫!テメェからだぁ!八ノ舞--」
竜頑は瞬きほどのスピードでカミラの懐に入りこむ。手を手刀のように揃えカミラの腹部めがけ突き上げた。
「凌霄花ァ!!」
一瞬で近づかれたことで足元がおぼつき、体制を崩すカミラ。その時、脳内で急速に言葉が浮かぶ。
「(やばい、この距離じゃもう魔法も使えない。避けることも出来ない。最初に放たれた攻撃はあの威力だった、じゃあこの攻撃は?これを受けたらあたしは--死ぬ。まだおじいちゃんの仇討ててないのに、それに・・・あたしのせいでみんな逃げれなくなっちゃう。復讐に囚われてあたし・・・みんなを。--ごめんなさい、あたし・・・バカだ--)」
「--諦めんなよカミラ!!!」
今まさに貫かれようとするカミラの目に映ったのは、彼の右手。
「(なんで?そんなんじゃ防ぎ切れないってわかってる筈なのに・・・なんで?さっき酷いこと言ったのに・・・なんで?そんなに必死に助けてくれるの・・・)」
差し出された右手に、放たれる突きが直撃する。参入したその手からはビキビキと音が鳴り、その手はカミラごと後方に吹き飛ばす。
「なんだ今の・・・貫通・・・出来なかった?」
驚きを隠せない竜頑。立ち上がったカミラとその青年は吹き飛ばされた衝撃で傷付いている。特に青年は右手首がおかしな方向に曲がってしまっている。
「おいおい・・・オレは後ろの壁まで吹き飛ばす強さでやったんだぜぇ?それがなんだぁ?手首だけってよぉ?」
--完全に骨が砕けた。ちょっと手を揺らしたら手の甲が腕につく。今は全然痛くないが、アドレナリンが切れたら痛みで死ぬかも知れん。にしても--
「お前の魔法が身体強化系で良かったよ。お陰でこんだけで済んだ」
「--ッ!蠍癒!!今回の脳無しの魔法はなんだぁ?」
「ちゃんと見ておけって言ってたのに。--魔法の吸収、そして排出よ。つまりさっきのリュウくんの攻撃は、レベル1に落とされたってことね」
「吸収と排出・・・クソっ!!あいつもめんどくせぇ魔法設定しやがって!!つうことは何ダァ?こいつには魔法攻撃は効かねえってことかよ?」
「ええ。彼の魔法の前では、どんな魔法も空虚に変わる。そして進化をしたら--」
「進化なんざどぉーでもいんだよ!!こんななよっとした奴にオレの攻撃が防がれたって事実が!一番気にイラねぇ!!」
振りかぶられる拳。折られるなら・・・右手で!!
右手で拳を防ごうとする俺。すると俺の目の前に、1人の男が現れ、指を一本拳に向ける。
「帰るぞ竜頑。時間だ」
「無烏ォ。コイツぁオレが殺す!次のやつには--その死骸でも食わせとけやぁ!!!」
振り下ろされる拳。だが、その拳が俺に届くことはなかった。
「--まったく・・・無駄なことをさせないでくれ」
「--ッ!!」
その拳は、なんと先程向けられた、たった一本の指によって完全に止められていた。力むことにより震えている拳に対し、まったく揺れ動くことのない指。たった一撃でどちらが格上か理解できた。
「竜頑、これ以上無駄な時間を使わせるな。蛇姫の魔法は別に捨て置いて構わない程度だ。脳無しも、どうせ後継がまだ決まっていない。であれば優先されるべきはあの方との決め事であろう?無駄なことはせず大人しく--」
「大人しく帰れってかぁ?この--能面野郎がぁ!!」
振りあげられるもう片方の腕。しかしその腕は振り下ろされることはない。
「--窃盗」
眩い光の後、無烏の手に現れたのは、一本の腕。その腕はまさに先程振り上げられたものであった。
「グァァァ!!!--ッ!左腕ぇ・・・」
痛みを抑え地に伏す竜頑に、そっと触れる無烏。すると、まるで全身の力が抜けたかのようにその場に倒れ込む竜頑。何故か体をブルブルと震えさせている。
震える竜頑の首根っこを掴み、元の位置に飛び上がる無烏。そしてその無表情な顔をこちらに向ける。
「またいつか拐いにくるよ。さようなら、哀れな因果に苛まれし青年」
そう言い残し、無烏はじめ十脳の面々は再び現れたのは不思議な空間から帰っていった。
残るは華蛇のみ。
「姉上のこと・・・よろしくお願いしますねぇ!」
「そんな気をかけるんだったら最後まで面倒みろよクズ弟」
「ははっ!酷いなぁ。まぁ、クズは正解なんですけどね。それじゃ、よろしくお願いしますねぇ!!」
そう言い残し、華蛇も空間の中に消えていった。
よく分からないまま始まりよく分からないまま終わった戦い。とにかく今回はその約束とやらに助けられた。
「--蓮くん・・・その腕・・・ごめんなさい、あたしのせいで・・・」
カミラが涙目になりながら頭を下げ謝ってきた。
「ん?ああ大丈夫大丈夫!ほらこの通り!ブラブラ振っても全然痛くな--ぐぃっ?!!」
--アドレナリンタイム終了。手首を振っている最悪なタイミングである種魔法が解けた。俺は一度肩を折られている。そこにいる蛇姫によって。折れる痛みは慣れるのかと思っていたのだが、そんなはずもなく--泡を吹いて気絶した。




