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叫びすら許されぬ

「ごめんなさいね蛇姫(だっき)。私たちと一緒に帰って、あの子に殺されて!」


 にこりと笑い両手を重ねる蠍癒(カツユ)。艶やかと思ったその笑顔は、今は不気味にしか映らない。目玉を奪われても平然としている奴だ。怖くないわけがない。


 それは蛇姫も同様--いや、今まさに殺されるために連れて行かれそうになっているのだ、怖いなんてものじゃないだろう。ここで逃げると言う選択肢を取るべきなのだろうが、仲間からの様々な裏切りの連続により、蛇姫は既に動けなくなっていた。


「(このまま逃げて・・・どうなるん蛇?モンスターとしても生きられん、勿論人間としても・・・蛇ったらもう諦めたほうが楽なのではないのか?)」


 俺はその姿を見て、心が軋む。


「・・・くそ・・・なんだよこれ--華蛇っ(カダ)!!お前このまま見殺しにしていいのかよ!大事な姉上このままじゃ殺されるんだぞ!お前それでいいのかよ!!」


 一瞬見せた悲しげな諦めたような表情。俺はあれに賭け、華蛇に言葉を投げかける。しかし、その言葉に笑顔で答える華蛇。


「ん〜、そんなこと言われましてもこれじゃあねぇ。仮に助けたくても助けれないですよぉ。この人数、この戦力・・・ねっ!」


 くそっ!こいつに少しでも希望を見出した俺がバカだった!


「--グァァァァァァ!!!!!」


 そんな空虚な時間が過ぎた時、張り裂けるような悲鳴が聞こえた。蛇姫だ。


「--熱い(あづい)!!!--痛い(いだい)!!!・・・あゔぁ・・・グァァァァァァ!!!!!!」


 蛇姫は目玉がこぼれ落ちるのではないかと言うほど見開き、口元からは血涎を垂らしながらのたうちまわっている。


 何が起こったのか理解できず蛇姫をよくみてみるが、目立った外傷はない。にも関わらずこの苦しみ様・・・精神侵食系の魔法持ちがいるのか?目線を奴らの方に向けると、そこではあの根暗そうな奴が蛇姫に向かい手をかざしていた。


「・・・あいつの魔法か・・・!」


 目が合う。


「--ん?・・・ひっ!目があった!!何あの人すごい睨んでくんじゃん!怖いよ〜!--ボクの魔法最弱なのにこんな時だけこき使うとか・・・(早く死んでくれないかなぁこの仮面女)」


「とても不名誉なことを考えられている様な気がするのだけれど・・・まぁいいわ。仕事はきちんとしてくれているわけだし。オウくん、ちょっとうるさいから切り替えてくれるかしら?」


「・・・了解です。耳障りだ(ノン・ボーセム)


「グァァァァァァ・・・ッ・・・ッ・・・?!--」


 根暗な奴が何か言葉を発したかと思えば、その瞬間ダンジョン内に響き渡っていた断末魔が途端に静寂に包まれた。


 蛇姫から先ほどまでの悲鳴は聞こえない。だが、それでもなお変わらずのたうちまわっている。さらに言うなら声を出さないというより、出せない様に見えた。


「なんだ・・・これ・・・?--ッ!おいお前!!今何をした!!」


 怒気を孕んだ俺の声に、奴は大袈裟なほどびくつく。


「--ヒィィィ!やっぱ怖いよあの人!そもそもやってるのはボクだけど命令してるのはコイ--蠍癒さんじゃないか。こっちの事情も知らずむかつきをぶつけてくるとか本当に怖い、輩だよ輩」


「ふふっ、敵なのだしあの目も許してあげたら?・・・にしてもすごい顔ね。大丈夫?イライラしすぎてストレスで死んだりしないかしら?」


 --くそ、いちいちむかつかせる言い回しをする奴だな。


「今度こそ人生寿命いっぱい生きるって決めてんだよ!ストレスなんかで死なねえし・・・お前らにも喰われたりしない・・・!--それより蛇姫のあれはなんだ?あんな苦しんでんのに声が出せないとかおかしいだろ!幻覚系魔法か何か知らないが、元でも仲間だろ?仲間のあんな姿見てなんとも--」


「幻覚系じゃないわよ」


「はぁ?」


 蠍癒のその言葉に、俺は思考を巡らせる。奴の言葉が真実だとして、外傷がなく苦しめる魔法・・・


「解説役であるこの最弱女、コイツが説明してあげるわ!」


「(うっ!・・・聞こえてたんだ。・・・ってか!)えっ?なんで教えるの?」


「あら、その魔法教える代わりにコイツ呼ばわりを許してあげようと思ったのだけど・・・いらなかったのね。まぁそれはそれでいいわ」


「ごめんなさいどうぞお話しください」


「あらそう?本人に言われてしまったら仕方ないわね。分かったわ、してあげる。--彼の魔法は状態異常(アブノーマル)。ものすごく簡単に言えば火傷させたり出来る魔法ね。そして今は体内を火傷させて、煩かったから声帯を麻痺してもらってるの!どう?私は結構いい魔法だと思ってるのだけど・・・オウくんは嫌いみたいなのよね」


「そりゃそうでしょ。火傷だから火力はないし、毒だって毒に特化した魔法には勝てないし、麻痺も同じ。弱体化はまぁ使えるとしても眠りとかだって・・・もういるし。結局どれをとっても中途半端な魔法。あ〜あ、なんでボクこんな魔法の脳無し食べちゃんたんだろ?一回食べたらもう食べても意味なくなっちゃうのに」


「ふふっ、あなたらしい魔法だと思うわ。私としては、今役に立ってくれてるから文句も何もないのだけれどね。あの子のあの姿最高じゃない!あれが見れただけでもうすでに最高の魔法よ」


 --コイツらに少しでも仲間に対する気持ちとかを考えただけ無駄だった。そんなもはや苛立ちすら抱けないほどの感情が渦巻くと同時に、少し前に脳裏に過ったイカルガ。目の前の奴らと比較した時、絶対コイツらの仲間じゃないと思えた。少なくともイカルガは元でも仲間をあんな風に蔑んだりしない。それだけは確信が持てる。


「でもまぁ、そろそろ見飽きたわね。オウくん、蛇姫に全身麻痺にしてくれる?もう帰らないと無烏(ムクロ)くんに殺されちゃうから」


「(ほんとに殺されちまえよ)・・・はいはい。近づく(オール)--」


 根暗が魔法を使用する。このままだと蛇姫は完全に動けなくなり、無抵抗にされて連れ去られるだろう。そうなれば相手側に何かしらの益が生まれてしまうのだろう。--多分後々こういう考えになるんだと思う。だが、今はそんなこと考える余裕がなかった。


「えっ?なんで・・・」


「--へぇ、あなた・・・ほんとに変な子ね」


「ははっ!--これなら大丈夫そうかな?」


 --俺は、気づいた時には蛇姫を庇う様に立っていた。モンスターを人間が--いや、それ以前に自分を殺そうとした相手を庇う様子がおかしいのだろう。十脳(セレブロス)達はそれぞれ動揺を隠せずにいた。


「・・・ッ!・・・ッ?・・・」


 蛇姫はこの事実に理解が追いつかぬ様で、痛みと困惑が混じり合った様な表情を浮かべている。


「火傷ってこれで治んないよな?まぁいいや、取り敢えず--異類無礙(アクセプト)


 俺は前方に警戒をしたまま、手を後ろに伸ばし蛇姫にかかっている魔法を解除する。


「--ッハッ!!ガフッ!・・・ガハッ!・・・其方・・・妾を助けた・・・のか?・・・何故・・・?」


「・・・よぉ。火傷治ってなくても文句言うなよ。俺は医者じゃないんだ」


「そんなことは言っておらん蛇ろ!!--ぐっ!・・・ゥ・・・何故助けたと、言っておるん蛇。妾は・・・其方を、喰おうと・・・」


 弱々しく話す蛇姫。俺は目線そのままでその問いに答える。


「別に・・・それについて許すつもりとかはないからな。ただ・・・あんな諦めた様な表情見たら・・・勝手に体が動いたんだよ!しょうがないだろ勝手に動いたんだから!」


 正直なんで自分がここに立っているのか自分でも不思議だ。間違えなくコイツは俺を喰おうとしていた。コイツのせいでみんな傷ついた。だからコイツを許すつもりはない。だが、仲間だと思っていた者、特に家族からも裏切られたと言うことにより浮かべた諦めの顔。そんな奴にかさ増せるように放たれる絶望的な言葉達。そして何より今連れて行かれたら確実に殺させる、その事実に思わず体が動いてしまった。


 そんな俺の行動に、俺の仲間達は口々に言葉を漏らす。


「蓮・・・やっぱり、弟子なんだな・・・!」


「もう・・・また無茶して・・・でもしょうがない・・・かな?」


「まぁ今のは強迫観念で動いたってよりなんとかしなきゃ!って感じだから前とは違うと思うよ。まぁ無茶だけどね」


「はぁ・・・何故いつもああなんだ?だかまぁ、あれが蓮だな」


 そう漏らすみんなは、俺の後ろに立ち、レヴィは蛇姫を抱え上げた。


「ほら、あなた立って!」


「んなっ!触るな人間が!!」


「うっ!あなたねぇ!」


 暴れる蛇姫。と言っても体内部はボロボロなので、ほとんど動けてはいない。


「人間に助けられるくらいなら妾は--グヴィ!!」


 突如蛇姫は項垂れ気絶した。今一瞬手刀が見えた気が・・・アリアさんだった。


「よし。大人しくなった」


「・・・絶対強くやりすぎだと思いますけど・・・」


 だって泡吹いてるもん。仲間や弟子ですら引いてます。


「--で?その大荷物を持ってどうするつもり?私たちと戦うにしては人数も強さもまだまだ足りないと思うのだけれど」


「ああ分かってんよ!だから1発強いのかましてやるよ!雷神の(トール)--」


 この瞬間、敵の視線は俺の手元に集中する。それを見計らい、俺は目を瞑りながら背後に振り返る。


「--レヴィ!!」


「?・・・ッ!分かった!不視無光(デスルン・ブランテ)!」


 レヴィは手元で光を発光させ、相手の目をつぶす。


「うわっ!眩し!」


 --ッ!これは・・・」


「なるほど・・・同じ手ですか」


 レヴィは完全に俺の意図を理解してくれた。流石はレヴィ、阿吽の呼吸で理解してくれるとは、やっぱり嬉しいものだ。


「どうする?だってよ。んなもん決まってる!--みんな!逃げるぞ!!」
























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