十脳《セレブロス》
「--改めて挨拶するわね!私達はモンスターにして人間、過去--脳無しを喰らった存在--十脳よ!どうぞ、お見知り置きを・・・!」
突然告げられた言葉に、俺たちは息を飲む。
脳無しを食べた・・・?しかもあそこにいる奴ら全員か?それに・・・十脳という名前・・・十脳じゃなかったのか?
「全員は揃ってない状態だけれど、一応自己紹介しておこうかしらね!ではみんな順番にお願いできるかしら?」
まず目線を向けられたのは細身で長い黒髪の男。首元に黒い鳥の毛のようなものが束になりついている。その顔は、どことなく無機質に見えた。
「二ノ脳--セグンディ・セレブロス、無烏。モンスター時代はカルヴォス(カラスのようなモンスター)。好きなものは無し。嫌いなものは無し。最近面白かったことは無し。最近腹が立ったことは無し。最近悲しかったことは--」
「--はいありがとう!もういいわよ」
カツユが手を叩き静止する。その瞬間喋るのをやめた。まるでロボットのプログラムのようだ。
そして次も同じく黒髪で、片目が髪の毛で完全に隠れている男。何故かその場でしゃがみ込みながら震えていた。
「どうしたの?次はあなたよ?」
「--いやだ・・・こんな大勢の前で自己紹介とか絶対吐く。・・・そもそも論人間に挨拶しなきゃいけない理由が分からないし挨拶したところで何があるって訳じゃないしだってボクら敵だよ?なのにこんなところで仲良く自己紹介をするとか頭おかしいんじゃないか?そもそも失敗したらどうする?噛んだらどうする?一生いじられるぞ!そんなことも考えずとりあえず自己紹介を始めさせる先導者ってどうかと思うよデリカシーに欠ける」
・・・・・・めちゃめちゃ話すの早い、あと長い。息継ぎどこでしてんだよってレベルで永遠と喋ってた。なんかあいつ見てるとクラスメイト思い出して泣きそうになってきた。
「だめよ放棄したら。やらないなら私--あなたがどれだけ死にかけでも笑って見過ごしますからね・・・!」
耳元で囁いていた為、こちらからは何を言っているのか全く分からなかったが、確実に言えることとすれば、男の顔が一瞬で青ざめたということだ。そしてその後、辿々しくだが話し始めた。
「・・・三ノ脳--トリブス・セレブロス・・・鷹卑。・・・以上です」
「よろしい!よくできました!--では次は私ね。四ノ脳--クワトム・セレブロス、蠍癒よ。前はスコルピオネムでした!(蠍のようなモンスター)嫌いなものは蛇姫よ。だってうるさいもの」
その言葉で、心なしか蛇姫の顔が悲しく歪んだ気がした。
「さて、テンポよくいきましょうか。次お願いね」
次は筋肉質な男性、髪は緑でロープのようなものを羽織っており、大きく笑みを浮かべている。
「よぉ、脳無しとその一行!俺たちゃー五ノ脳--クインシェ・セレブロスの猿化ってんだ!宜しくな!」
「・・・俺たち・・・?」
思わず声が漏れ、その声が拾われる。
「おうよ!俺ぁ6つの人格を持っててな、その総称が猿化って訳だ!因みに俺ぁホムラだぜ!機会がありゃいずれ見せてやんよ」
そして次は金の髪を上げ、上半身裸で腕組みをする男。口元には何やら鱗のような傷がついている。
「--よぉ経験値ども!オレは六ノ脳--セクタス・セレブロスの竜頑!テメェら・・・特にSランクの2人ぶっ殺しゃ、オレは何レベまで到達できるのかねぇ?--なぁ蠍癒、こいつら今殺しちゃいけねぇのか?」
「だめよ、せっかく呼んだのに、殺しちゃったらもったいないわ」
「・・・それもそうだな!収穫はもっと後の方が経験値がよく入る」
もったいない、そんな理由で殺すことを停止させたカツユ。何気ない会話のようだったが、それがまた一段と恐怖を募らせる。
「--次は俺か」
そう言って出てきた男は、黒髪で黒いローブに身を包み、右目に眼帯、手には包帯をし、顔に手を当てその隙間から目を覗かせる。その指には赤く輝く指輪をしていた。
「--跪け!下賤なる者共よ!俺は全てを飲み込む漆黒。闇すらも黒く塗りつぶす黒の王である!」
・・・・・・やばい、そんな場面でないことは分かっているが、どうしても言いたい--盛りすぎだよお前!!ローブ・眼帯・包帯・指輪!やるにしても指輪ともう一点くらいにしておかないと渋滞すんだろうが!現になんかわちゃわちゃしてるし・・・
「なんだ、跪かんのか?・・・なるほど、俺の気に当てられしゃがむことすら叶わんか。--であれば仕方がない。俺は寛大なのでな!下賤な者共には慈悲をくれてやる、それが王たる余裕というやつだ!」
「・・・早くしてくれないかしら?恥ず--カッコいい謳い文句だけれど、残りの者に目を配ってやるのも王たる素養というものではなくて?」
「ふっ、そう焦るな。そろそろ名乗ろうとしていたところだ。待たせたな、俺は七ノ脳--セプテム・セレブロス。真名を--狼厨と言う!」
「--ッ!!」
俺はロウズという名前に聞き覚えがあった。ディアス以外はこの名前を聞いたことがあり、俺同様に皆は何かしら驚きの反応を示していた。
その中で、レヴィが俺の方を向き、そのことについて聞いてきた。
「ねぇ・・・蓮。ロウズって確か・・・」
「・・・ああ、俺と同じ4文字魔法の持ち主だ。これだけなら偶然もあるが、聞いただろ?奴の--真名って言葉。それは俺たちの知ってるローズさんも言っていたらしい。シンメイハヤマト・・・多分これは真名は大和ってことだと思う」
「・・・てことは、人間が人間の敵に回ったってこと?そんなの・・・」
俺もその可能性は考えた。しかしそれでは一つ疑問が生じる。それは、見た目が若すぎることだ。俺たちの知っているローズさんは、資料によれば少なくとも40年以上前の人物だ。しかし、今目の前にいる狼厨は10代後半・・・俺と変わらないように見える。流石に50くらいでその見た目はないだろう。
ここで、アリアさんがあることに気づき、その疑問を狼厨にぶつける。
「おい貴様、ローズ・・・シンメイハヤマトと言う人物を知っているだろう?」
その問いに、奴は驚いたような表情を見せる。
「ヤマト・・・ほぅ、前任者を知っているのか?」
「前任者・・・?」
いまだ答えに辿りついていない俺は、余計に頭に疑問が生じる。しかし、アリアさんはこれで余計に確信に近づいたらしい。
「その反応・・・やはりな。貴様ら十脳・・・だったか?貴様らは脳無しを喰ったと言ったな。ずばり、貴様が喰った脳無しは・・・その前任者とやらではないのか?」
--その回答で、ようやく理解した。ローズさんは真名という言葉を使っていたことからも、おそらく厨二病だったことが分かる。そしてこいつは、喰う前に影響を受け今のスタイルになっているのだろう。
アリアさんの回答に、奴は少し間を置き、不適に笑う。
「・・・ふっ、なるほど・・・下賤なものの中にも、多少は頭の切れるものがいたのだな。評価を改めよう。--ぐっ!!・・・右目が!!静まれ・・・・・・ふぅ。なんとか邪気眼を抑えることが出来た・・・!」
「お前がやると洒落にならんからやめろバカ」
急に右目の眼帯を押さえ出した狼厨に、竜頑が呆れながら嗜める。
「――ふう。この痛みと苦しみは、闇の力を持たぬ者には分からないだろう・・・。
邪気眼を持つ者にしか理解出来ないものなんだよ。邪気眼を持つ者にしかな・・・。 」
「蓮・・・あれ何・・・?もしかして魔力の暴走・・・とか?」
純粋に恐れているレヴィに、俺はどんな反応をするべきなのだろうか。大人がよく「みちゃいけません!」と言うことに対し、なんで説明してくれないんだ!といつも思っていたが、なるほど、説明しづらいから避けてたのだな。と、わざわざ異世界に来てまで学ばされる。
「さ・・・さぁ・・・?」
とりあえず濁した。
「狼厨、後が詰まっているの、その辺でお願いできないかしら?」
「ぐっ・・・あ、あぁ。構わんよ」
「ありがとう。じゃあ次お願いね!」
そうして目線を向けられた男は、黒がかった茶髪で、何やらサイコロのようなものを複数手に持っている男。何やらずっとぶつぶつと呟いている。
「--今出る最高の目は6・6・6・6の24・・・であれば半分の12以上とするべきかぁ・・・いやしかし!!ここは敢えて全ての目が3以上とするという平等もありますねぇ・・・・・・カツユさんはどうお考えで?!」
急に意味のわからない投げかけをされたカツユは、慣れているのか適当な回答であしらう。
「そうね、前者の方が平等っぽくて好きだわ」
「そーーー!!!っうですか!!であれば早速振りましょう!!ダイス!!ディスティニー!!!」
真上に放り投げられたサイコロが、ボロボロと足元に散らばる。それをゆっくりとみたその男は、満面の笑みを浮かべる。
「--6・1・4・3・・・・・・14・・・ですか--決定です!!ワタシはあなた方にご挨拶することとしましょう!」
そう言って俺たちに指を指す男。俺たちは不気味さと意味のわからなさで呆然とし、背後の仲間達は長々とされたこの時間に、欠伸をしているものもいた。
「では改めて!ワタシは第八ノ脳--トリブス・セレブロス!名は等鳶と申します。そんなワタシの愛する言葉はそう!--平等です。全てがっ!等しくっ!まっさらでっ!平坦でっ!・・・そんな美しき平等が大好きなのです!--先ほどのサイコロもその一つでしてねぇ。自分で決めた平等なルールの結果に応じ、どう行動するか決めているのです!因みに・・・今あなた方にこうして話しているのも、サイコロで半分以上の数字である12以上が出たからです。11以下であれば無言を貫く予定でしたよ。あなた方--運がいいですねぇ!」
薄ら気味悪い笑顔を見せる等鳶という男。そんな奴の言動に、つい本音を漏らすカミラ。
「あいつ・・・気持ち悪い・・・!」
その意見には同感だ。おそらくこの場にいる人間全員がそうなのだろう。
「相変わらず等鳶さんは面白い決め方をしますねぇ!--あっ、ワタシ九ノ脳--ヌメルス・セレブロスの華蛇って言います!名前と顔覚えていってくださいねぇ!」
ニコニコと微笑み手を振る華蛇。俺たちだけでなく、見捨てた姉に対しても同様に手を振っていた。
「・・・華蛇・・・いつから蛇?いつから妾を裏切った?」
もはや初めて会ったときのような威圧するような声はなく、弱弱しく今にも消えそうな声で弟に尋ねる蛇姫。
「裏切ったつもりはないんですけどね?そうだな・・・強いて言うなら、20年前ですかね?その時に当時の脳無しさんを喰べたので」
「20年・・・妾が十脳に入ったと思っとった期間・・・はっ・・・はははっ!・・・其方は・・・いや、其方らは・・・その間ずっと妾を笑っとったん蛇のぉ!--もうよいわ・・・もう疲れた・・・。人間に家族を殺され・・・ようやく復讐の力を手に入れ・・・強くなり幹部まで上り詰めたと思えばそれはまやかし・・・弟や同じ境遇の者たちにも裏切られる・・・もうよい・・・もう--終わり蛇--」
蛇姫は腕に血を纏い、なんの躊躇もなく--その腕を心臓に突き刺した。そして一瞬で絶命--
「--させないわよ、残念だけど」
誰もが死んだ。そう確信できる致命傷が、艶やかな声とともにかき消える。
「・・・カツ・・・ユ・・・?」
「ーーごめんなさいね。私も大人しく殺してあげたいのだけど、あなたのその魔法にはまだ価値があるの。死ぬならに殺されてからにしてくれないかしら?」
絶望の最中にありながら、自死することすら許されない。傷ひとつない体がそれを物語っている。
「蛇姫、私からあなたへの最初で最後のお願い。私たちの・・・役に立って死んでちょうだい!」
血は戻っている。死ぬ前より健康体だ。しかし、その顔からは血の気が引き、彼女の心は砕け散る。




