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2つの魔法

元仲間からの絶望的な言葉。--せめて役に立ってから死ね。


この言葉がキリキリと蛇姫(だっき)の心にヒビを入れていく。顔からは血の気が引き、目からは生気が失われる。


「--のぉカツユ、教えてくれんか?何故偽の組織を作ってまで妾を陥れた?そうすることで何かあるわけでもなかろう・・・十脳(じゃうのう)・・・いや、十脳(セレブロス)蛇ったか?それが脳無しを喰ったものしか入れんのなら、・・・それなら受け入れた。ここまでされる謂れはないはず・・・そう蛇ろう?」


蛇姫は、今にも消えそうな瞳に蠍癒(カツユ)を映し、弱弱しく言葉を投げかける。


「・・・そうね、会える時間も少ないわけだし、答えてあげるわ。十脳(じゅうのう)っていうのは、簡単に言えば新たな十脳(セレブロス)足り得る存在を見つけるためにあるの。まぁ強い獣人(ティアー)なんてそうそう見つからないし、新規で入れるのは多くて3人くらいだけれどね。今回は2人。まずは蛇姫(だっき)、あなたよ。そしてもう1人は--()()。」


--この時、俺の脳裏に何故か違和感が走る。--ミカ。この名前を俺はどこかで聞いているはずなのだ。しかし思い出せない。まるでその部分だけが眠っているようだ。


「ミカ・・・あやつも何も知らんのか?」


「いいえ、全て知っているわよ。あの子はもともと自分と私たちに何か大きな乖離があると気付いていたようでね。今は来ていないけれど十ノ脳の側付きをやっているわ。あなたと違って賢い子よ!」


笑顔でそう言われると蛇姫。元仲間に言われているという事実と、ピエロは自分だけだったという事実に、さらに胸が割れる。


「え〜っと、あと何だったかしら?」


「なんで私が今こうなってるの--ですよ」


華佗(カダ)に耳元で告げられ、思い出したような表情をする蠍癒(カツユ)。話を続けた。


「そうそう、そうだったわ!・・・そうね、私があなたを嫌いって言うのは勿論あるけれど、そんなことじゃここにいるみんなが動いてくれるはずがない。じゃあ何か--それはね、私たちのリーダーであり、始まりの男、一ノ脳--プリミス・セレブロス、召蜴(ショウエキ)の決断が大きいわね」


始まりの男、召蜴(ショウエキ)・・・まさかこいつがモンスターを人間にしているのか?そんな魔法を使える奴がいるなんて・・・


「決断・・・蛇と?」


「そう。()()()()()()()()()()()()()から、弱い子には食べさせたくない--とのことよ。もっと強い子を探し出して食べさせることにするんですって。この間のあなたが出なかった会合で決まったの。丁度華蛇くんもいなかったしね!」


「・・・・・・華蛇、何かしとったのか・・・?」


少し身を乗り出す蛇姫。対する華蛇は一度目を閉じ、再び目を開けると、静かに答えを告げた。


「--いえ?やってませんよ。何も・・・何もね」


いつもの飄々とした顔つきではなく、真面目で、何か諦めたような顔だ。そのやりとりを見て、蠍癒は苦笑に近い笑い声を漏らす。


「ふふっ、いつもは適当なことばっかり言うのに・・・相変わらず可愛いのね。でもね、もう何をしようともこの判断は翻らないわよ」


言葉の末尾、蠍癒は華蛇にしか聞こえないような声で呟く。それに対し、少し間を置いた華蛇は、いつもの表情に戻った。


「--ははっ!分かってますよぉ!過ぎた過去は戻らない、そんなこと生きてれば誰だって知ってます。だからこそ--ワタシは今ここにいる」


いつものように笑みを浮かべる華蛇。しかしその瞳は少し儚げに映った。


「ーーあの、どうでもいいんですが先生はもう怪我治ったんですよね?」


水を刺すように言葉を発したのは、アリアさんの兄であるルドラ・マクベス。--というか先生ってなんだ?あんたが今喋っている方向にいるのは敵だぞ?それに先生なんて--


突如先生と呼ばれ、動揺したのはあちらも同じらしく、ガヤガヤとしていた。それはそうだろう。あちらからしても、突然敵から先生呼ばわりされている者がいると知らされたのだ。


「あっ、あれワタシのことですね!なんか昔のワタシに勝手に憧れてるみたいなんですよぉ!」


飄々と背後の仲間に謎に体を動かしながら説明する。


「どうです?ワタシ!先生!・・・羨ましいですかぁ?」


「ふん。その程度のことで喜べるとは・・・貴様はまだ若いな。下賤な者の先導者となったところで何がある?」


「そんなことを言ってはいけませんよぉぉ!!同じく寿命があり終わりへと近づいていくという意味では!我々も人間も同種!平等なのです!!なので下賤などといく言葉で片付けるのは如何かと思うのですよはい!」


「そうよ狼厨(ロウズ)くん。人間だって頑張ってるじゃない!」


「・・・・・・こういう奴が一番バカにしてるんだよなぁ」


内輪で盛り上がるモンスター達。それに苛立ちを見せるルドラ。


「私は万全の先生を殺しに来たんですけど・・・早く先生を出してくれません?」


言葉に怒気を孕ませるルドラ。その言葉に、サイコロを持った等鳶(トウエン)が前に出た。


「なるほどなるほど・・・あなたは華蛇さんと戦いたいわけですね。--であればこうしましょう!!サイコロを振り出た目の合計が12以上の場合は--」


「やるわけないでしょそんなの」


「・・・・・・ワタシあの方嫌いです」


最後まで言い切ることなく即否定された等鳶(トウエン)は、落ち込みと苛立ちを両方重ね合わせたため息を出す。それに猿化(エンカ)がフォローを入れる。


「落ち込むなよ!向こうだってお前ぇのこと嫌いだよ」


「嫌い・・・ワタシの事が嫌い・・・ワタシもあの人が嫌い・・・おやっ!平等ではありませんか!!であれば問題ありません!申し訳ない勘違いをしてしまいました!」


勢いよく土下座をする等鳶(トウエン)。仲間内の何人かも引いた目をしている。特に隠キャっぽいやつは相当引いている。


「その気持ちの悪い方は置いといてさ、そろそろ先生を出してくれないですかね?じゃないと--殺しますよ」


ルドラは手に竜巻を発生させ、それをモンスター達に向かって放った。


「おやおや・・・手荒な弟子ですねぇ。弟子の不始末はこの先生が--」


華蛇が攻撃を止めようと前に乗り出す。しかし、狼厨(ロウズ)がそれを無言で制した。


「そよ風か・・・なるほどこれは心地よいな。どうだ?貴様も味わんか?」


微笑を浮かべながら指をルドラに向ける狼厨。その問いに--


「いらないよ--死ね」


そよ風と言われたことを気にしてか、さらに威力を高めるルドラ。もう技に直撃しようかというところで、狼厨の足元から何やら黒いものが蠢き、風魔法を完全に防ぐ。どころか、なんと吸収してしまった。


「ほぅ・・・多少は強くなるじゃないか!だが・・・俺には効かん」


「--ッ?!魔法が・・・消えた?」


「古来より、当たらなければ意味がないというが・・・安心しろ--直撃だ」


その直後--何故かルドラの背後から自身が放ったはずの魔法が飛来し直接攻撃を受ける。


「なっ?!!(なんだこれは?どこから飛んできた?そもそもこの方向は--下か?!)」


そう、吸収された魔法は、自身の足元から排出されていた。--いや、正確には違う。足元、ではなく自身の影から出ているのだ。


ルドラは別方向に風を放ち、滞留する風のなかから抜け出す。


「・・・影魔法・・・と言ったところかい?」


「ああ。今のは単純な話、影から影へと魔法を移動させたにすぎん。誰でもできる初級技だよ。ふっ、目立ちたくはないのだがな・・・仕方がない、俺に心地よい風を送ってくれた礼だ。貴様には特別に、右手の封印を解いてやろう!」


「いいですよ解かなくて--血風吹く戦場での舞い(ブラウィンドダンス)!先生との勝負を邪魔するあの畜生を--殺しなさい」


風により作られた人形達が、標的めがけ一斉に飛び出す。対する狼厨は、余裕綽綽な笑みを浮かべながら、右手に巻いている包帯をゆっくりと解く。その右手には、真っ赤で幾何学的な痣が浮かんでいる。


「その魔法・・・どこぞの誰かを思い出すな。--まぁいい、それにしても風か・・・ふっ、貴様ら全員、俺が利用してやろう!」


手の甲を向けた状態で顔の前で構えた狼厨。すると、もともと赤かった痣がさらにその深みをまし、光を放ち始めた。


「存分に味わえ!これが・・・炎竜王の一撃である!--炎竜王の地獄爪フランマ・インフェルノ!!」


獣が如く爪を相手に向けるように指を折り、その手を人形向かい突き出す。その手からは離れていてもその熱が伝わってくるほどの熱気を放った炎が、まるで竜の鉤爪を象ったかのように放たれる。すでにこの時点で規格外にでかいのだが、最悪なことにその炎は風の人形を全て巻き込み、さらに規模を拡大する。


「(これは・・・避けられない・・・!)」


「一瞬で死ねる。安心して逝け--」


立ち尽くすルドラ。自身のスピードではすでに避けることすら叶わない。そう確信しその場で立ち尽くす。


「(先生・・・結局あなたを殺すという私の悲願は達成できませんでした・・・無念です。そしてアリア、君とも結局--)--ッ!」


ルドラの体は突然何かに抱えられる。


それとほぼ同時に、炎は空気を焼き、地を溶かした。これを平然と放つのだ。そこが見えないなんてものじゃない。


「ふっ、済まないな華蛇。貴様の弟子は消滅してしまった」


「構いませんよぉ!そもそも弟子ではないですし!それに・・・ねっ!」


「ん?一体何を・・・ほぅ・・・!!あれから!」


華蛇、そして狼厨の視線の先にいたのは、先ほどの攻撃を避けることができたルドラ。そして--


「・・・私は・・・何故生きて・・・?--ッ!?・・・何故・・・お前が私を助けてくれるのですか?--アリア」


そこには体の所々に火傷を負ったアリアさんの姿があった。酷く息を切らしている。


「アリアさん・・・!」


「アリア・・・何故?私が嫌いなのでは?」


「ああ嫌いだよ!!大嫌いだ!!正直早く死んでくれって思ってるくらいには大嫌いだよ!!・・・だけど・・・体が動いたんだからしょうがないだろ・・・!」


アリアさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。余程いやなのだろう。しかし、それほどいやにも関わらずつい助けてしまう・・・これが、俺の尊敬するアリア・マクベスという人間だ。


「ア・・・アリア・・・済まない」


「・・・うるさい、喋るな」


「--うっ!・・・」


この光景に、華蛇は拍手をする。


「いや〜!素晴らしい兄妹関係だ!我々も見習わなければいけませんねぇ!・・・って、ワタシ姉上を裏切ったんでしたっけ!」


ニコニコと自身の矛盾をついていく華蛇。その華蛇に、蛇姫は一つ質問をした。


「・・・華蛇、狼厨のあの魔法はなん蛇?奴の魔法は影魔法蛇ろう?今のは明らかに炎属性蛇った。どう解釈してもそんなもの出せるわけがない!」


その質問に、華蛇は顎に手を当て頭を捻らせる。


「そうですねぇ、ワタシから説明するのもいいですがぁ〜・・・では、毎度お馴染みの解説役様にお願いしましょうか!それでは、お願いします!」


「よくいる戦闘力のない解説役にされるのは少し嫌なのだけれど・・・まぁいいわ。蛇姫、あなた・・・脳無しを喰らうことで何があるか、知っているかしら?」


「それは・・・同族を喰らうのと同じく強くなるのでは--」


「ごめんなさいね!それ・・・間違いよ」


「--なっ!・・・これも・・・違うのか・・・」


「ええ!今度はしっかりした答えを教えてあげるわ!部外者の皆さんもよかったら聞いていってね。私達獣人(ティアー)は人間化した時魔法を使えるようになる。そしてね、ここからが本題よ!私達は、脳無しを喰らうことで--その脳無しが使っていた魔法を使うことが出来るの!」






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