茫然自失
「カツユ!!貴様どの面を下げて出てこれた!!」
蛇姫は、カツユなる人物に憤りを露わにする。もはや飛び出すのでは?と思うほど青筋も立てて。
「ごめんなさいね蛇姫。ちょっと配合を間違えてしまっただけなの。悪意なんて、これっぽっちしかなかったわ!」
「--ッ!!殺す!!血死の銃弾!」
蛇姫は限り近い力で血を指先に集め、それを銃弾のように放つ。銃弾はカツユの腕を直撃し、そのから血が吹き出した。
「あら、酷いことするわね。痛いじゃない」
「はははっ!血を流したのぉ!流血の--」
「--遡行治癒」
カツユの流した血が刃へと変わり突き刺そうとした瞬間、流血していないもう一方の手でビンを割り、その傷を回復した。しかもそれだけではなく、流血した血すら消滅したのだ。まるで怪我自体がなかったかのように。
「な・・・なん蛇と・・・?」
「ごめんなさいね蛇姫。あなたの・・・少なくとも今のあなたでは、私1人傷つけることすら叶わないと思うわ」
カツユは胸元で手を合わせ、微笑みながら謝罪のポーズをする。
「クソ雌が・・・!真意でもないその笑みをやめんか・・・!!虫唾が走るん蛇!」
「そう?奇抜な化粧に、弱いくせにじゃあじゃあじゃあじゃあ喧しいだけのあなたに比べれば、何億倍もマシだと思うのだけれど!」
「--ッ!貴様・・・・・・!!」
--と、ここでカツユはあることに気がつく。
「・・・あら?華蛇くんすごい怪我ね。左腕ないじゃ無い!」
「そうなんですよぉ!ギルドマスター達と戦ってたらなくなっちゃって!」
「あらあら・・・大丈夫?マスターはあの子達の標的よ。殺してない?」
顔に手を当て、心配そうな素振りと声を出す。しかしその対象は腕がなくなった華蛇にでは無い。何故かマスターに向いていた。
俺はこの時、やはりこの人--いや、こいつも人間じゃないんだと改めて実感する。だが、では何故こいつは俺たちのことを助けた?俺を喰いたいのなら助けるメリットなどないはずなのに。
「大丈夫、殺してませんよ!というよりワタシじゃ殺せませんでした!」
「ふふっ!どうせ本気を出していないでしょうに・・・いいわ、治してあげる!」
懐よりガラス瓶を取り出し、その先端を華蛇に向け砕いた。華蛇は光に包まれ、その光が晴れた時、傷はなく腕も再生していた。
「・・・うん!完璧です!いつも早いですねぇカツユさんは」
「別にいいわよ!こんな薬、2秒で作れるのだし」
あまりにも親しい様子に、俺は違和感を感じる。蛇姫は確か十脳とかいう組織の幹部だったはず。そいつと対等に話していることから、このカツユも幹部であると推測できる。そして華蛇は蛇姫の側近、位としては下のはずだ。とすれば、カツユと華蛇のこの距離感はおかしい。それにいつもという言葉、側近が、しかも別の幹部の側近がここまで寵愛を受けるのだろうか?
その疑問は、より近くにいた蛇姫が一番感じたらしく、大声を上げその真偽を問うていた。
「華蛇!!其方・・・いつの間にカツユと・・・そこまで距離を詰めた?!・・・幹部と側近など、大した関わりはない蛇ろうが!!」
「仲間だもの、治すのは当然じゃない?」
「そんなものは答えになっと--ぐっ!・・・なっとらんわ!!」
--と、ここでレヴィ達3人が俺たちの近くにやってきて、カツユに質問をした。
「ねぇカツユさん・・・いえ、カツユ!なんで私たちを助けたの?脳無しである蓮が目当てならあの場で捕えればよかったでしょ?違う?」
「ぐっ!やはりこやつらの傷を治したのは貴様蛇ったかカツユ!」
そんなレヴィの問いに、カツユは笑みを浮かべながら答える。
「--だって、私はもう要らないもの」
「--えっ?・・・それって・・・」
放たれたその答えは、俺にとっても衝撃的なものだった。--もう。ということは、こいつはすでに脳無しを過去に喰ったことがあるということか?そんな・・・
「あなた達を回復させた理由は2つ。まずは、怪我人だったから・・・かしらね!私、怪我をしている人を見るとつい治したくなる性分なの。そして2つ目、これは単純ね!蛇姫に--幹部になって欲しくなかったから--」
「・・・・・・え・・・・・・?」
間の抜けた、まるで今語られた言葉が聞こえていなかったがように、茫然自失という表情がピッタリと合う表情で声を漏らす蛇姫。それもそうだろう。自身は幹部、そう思っているものが、たった今目の前で違うと言われたのだ。こんな声も出よう。
「カツ・・・・・・ユ・・・?どういう・・・こと蛇・・・??妾が・・・幹部では・・・ない・・・・・・????」
頭を抱え、髪を乱し、全身を震わす蛇姫。その姿は敵ながらとても哀れに映った。
「華蛇・・・華蛇は・・・?其方は・・・知っておった・・・のか・・・?」
縋るように自身の弟を見つめる蛇姫。震える手をゆっくりと弟に伸ばす。
「姉上・・・」
慰めるような目で見つめ返す華蛇。その瞳に安堵し、思わず泣き言を漏らす。
「あ・・・あぁ・・・!華蛇・・・華蛇ぁ!」
華蛇は伸ばされた手を取り、自身の胸に抱き寄せる。そして、耳元で囁いた--
「--知ってましたよ。だってワタシ--幹部ですし」
「・・・・・・・・・・・・ぁえ?」
ゆっくりと蛇姫を突き放し、ニコリと微笑む華蛇。その笑みは、今まで見せたものの中で、最も穏やかで--残酷だった。
「--なっ・・・あぅ・・・ぅえっ?・・・妾は・・・幹部で・・・十脳の・・・幹部で・・・!??」
蛇姫の頭と心は、現実が理解できず崩壊する。顔を毟り、血が流れる。
この、なんと言い表せば良いかわからない光景に、俺たちは黙っていることしかできなかった。
ここで、カツユが蛇姫の言葉に、胸の前で再び手を合わせ、訂正を加える。
「--あっ、勘違いしないでね蛇姫!あなたは確かに、十脳の幹部ではあったわよ!」
励まそうとしているのかなんなのか、カツユは必死そうにそう言った。この言葉に、さらに頭が崩壊する蛇姫。
「は?・・・一体どういう・・・・・・??」
「華蛇くん!こっちいらっしゃい!」
カツユは手招きをし、華蛇を呼び出す。歩き出す華蛇の裾を引っ張り、静止させる蛇姫。
「ま・・・待つん蛇!・・・待ってくれ・・・華蛇・・・!!」
呼び止められ、背後を振り合える華蛇。その笑みはなおも変わらず、残酷な結末を放つ。
「ごめんなさい姉上!ワタシあっちなんで!」
「--あっ」
恐らく今のは思わず出たのだろう。全てを理解し、諦めたようなその声は--
華蛇はカツユのいる岩場まで飛び、着地する。それを合図と言わんばかりに、カツユが背後のただの壁に指を鳴らす。
すると突如、岩のみで何もなかったはずの場所から、6つの空間が現れ、中から見知らぬ6人が現れる。しかし、蛇姫はその顔を知っているようだ。
「・・・・・・其方ら・・・其方らも・・・なのか・・・?」
艶やかに微笑むカツユ。そして明るく、この場にいる全ての生物に届けるかの如き声で告げる。
「全員は揃っていないけれども、まぁいいわ。--改めて挨拶するわね!私達はモンスターにして人間、過去--脳無しを喰らった存在--十脳よ!どうぞ、お見知り置きを・・・!」




