壁を打ち壊す
兄であるルドラを殴りつけたアリア。その様子を無言で見つめる華蛇。
「--いや〜済まなかったアリア!もう大切な弟子達をあんな風には言わないよ。・・・で、それはそれとして、どうするの?逃げないんでしょ?」
ルドラは殴られた頬をさすりながらアリアに近づく。
「当たり前だ。私は、目の前の敵を倒してあの子達に加勢する」
「と言ってもねぇ、私は今の先生と戦う気はないし、アリア1人で勝てる相手でもないでしょ?」
「勝てるさ!現に何発か攻撃は通っている」
確かに、先程のアリアと華蛇の戦いにおいては優位はアリアだっただろう。それを鑑みて勝てる可能性があると考えるのは妥当だ。
「まぁ、それが先生の全力ならね・・・。本気でやってました?先生?」
その問いに、華蛇はにこやかに答える。
「ええ、勿論!全力120%で頑張ってましたよ!出来ることならもう戦いたくないですねぇ」
「クソ、また飄々と・・・!」
そうやってふざけた回答をする華蛇。今彼の中では、別のことを考えていた。
「(姉上はアレを使ってから何分だったんでしょうか?まぁまだ10分も経ってないでしょうけど)」
アリアは体勢を低く取り、攻撃を仕掛けようと準備する。
「貴様は手伝わんでいい!とにかく、私1人でも奴を倒す!!」
「おやおや、また戦うんですか?ワタシもう疲れましたよぉ!」
「だったらそのまま、立ち尽くして死んでくれ!!--雷明王・罪牙!!」
全身に雷を纏い、まるで狼のように象る。そしてその牙で相手を噛み砕くように、相手めがけ突撃し--
その時、華蛇が張った銀の壁にヒビがが入り、アリア達と蓮達の境界がなったかと思えば、そこには蛇姫を雷を纏った右手で攻撃する蓮の姿があった。
「れ、蓮?!!」
「えっ?姉上?!」
「ははっ!すごいなぁ(あれが脳無し・・・アリアの弟子か)」
華蛇は吹き飛ばされた蛇姫の元へ向かい、安否を確認する。
「姉上〜?生きてますか〜?」
蛇姫は全身傷を負っており、特に最後の一撃が効いているようだ。
「--グフゥア!!・・・この・・・妾・・・ぐぁ・・・!!」
蛇姫は肩で息をし、口から血を流しながらそう呟く。
「おやおや・・・使わなかったんですか?あの薬」
「使ったに・・・決まっとる蛇ろう・・・が!・・・あのクソ雌・・・粗悪品を・・・渡しよった・・・!」
「あらら・・・まさかここまでとは・・・(ここまで嫌われるのも逆に才能ですねぇ)」
アリアは技を中断し、蓮の下へと走った。
「蓮!・・・よかった、生きてるな!・・・他のみんなは?」
「大丈夫、みんな怪我はしてますけど、命に別状はないですよ」
そう語る蓮は、全身ボロボロで血を流してはいるが、普通に喋れていることからも、酷く問題があると言うほどでもなさそうだ。
その言葉の後、壁の向こう側を覗くアリア。蓮の言葉の通り、みな怪我こそしているものの、意識もあった。
「ふぅ、取り敢えず良かった!--で蓮!何があった?」
「あっ!それワタシも聞かせてくださ〜い!!」
飄々と遠くで手を振る華蛇。姉がやられたと言うのに、まるで敵意が感じられない。
「・・・敵意は一応感じないけど・・・えっと、あれは--」
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時は遡ること数分前。
蓮達と戦っていた蛇姫は、いきなりその場で血を吹き出し、倒れ込んだ。本当に突然のことに、蓮達も動けずにいた。
「なん蛇・・・これは・・・?!まだ10分たっておらん蛇ろうが・・・!!あのクソ雌・・・粗悪品を渡しよったのか・・・?!!」
なんだこれは?突然の出来事に唖然とする蓮。10分、粗悪品、これらの言葉を聞き、何故視線が蛇姫の足元に散らばっていたガラス片に向いた。
「・・・なぁみんな・・・その女性がくれた回復薬ってさ、どれくらいの大きさだった?」
「ん?今そんなことを言っている場合では--」
「じゃぁあれ見るだけでいい!そのガラス一個であんな量あったか?」
蓮はガラス片に指を指し、その残骸の多さを指摘する。
「・・・いや、あんなに多くなかったはず・・・だよね?」
「・・・うん。あたしもそう思う」
「確かにそうだが・・・それが一体なんだ?それが分かってどうなる?」
蓮は、自分の中に芽生えた仮説を3人に伝える。
「これは俺の仮説で、違う可能性だって全然ある。その上で聞いてくれ。・・・多分蛇姫は、回復薬と一緒に自身を強化できる薬を使ってたんじゃないか?さっきの10分と粗悪品って発言、回復効果が10分間のみな訳ないしな。これで全部説明がつく」
「強化薬・・・そんな薬聞いたことが--」
「20秒で治る薬だって聞いたことなかったんだろ?」
「--ッ!・・・確かにそう・・・だな」
「でもあの人はあたし達を--」
直後、蛇姫のもとで地面が砕ける音がした。地震から溢れた血を集め、蓮達の元へ構える。
「喧しいわ人間共が!!これでも、まだ貴様らを消し去るくらいの力は残ってるぞ!」
集めた血を糸状にし、それを自身の腕に巻きつける。
「まずは脳無し!貴様から潰す!当たれば死!魔法を使っても殴りは入る!お気に入りの場所で食したかったがもういい!今ここで殺して喰ろうでやるわ!!」
鮮血に彩られた両腕が、その切れ味を増していく。そんな中、蓮は3人に小声で相談をしていた。
「みんな、頼みがある。聞いてくれるか?」
「・・・早く言え」
「可能な限りなんでもやるわ!」
「そうそう!ばっちこい!」
「みんな・・・ありがとう!」
蓮はみなに作戦を伝え、全員それに頷いた。そして、レヴィが手前、その後ろにカミラが配置される。そしてその真横にディアスと蓮が配置する陣形になった。
「何をする気か知らんがのぉ、全ては無に帰すの蛇!!--握り、潰し、抉れ!!血糸傑拳!!」
全速力で突撃する蛇姫。対するレヴィは魔法を発動する。
「いくよ!!不視無光!」
前方に目を潰さんほどの光を放ち、相手の視界を塞ぐレヴィ。しかし蛇姫の勢いは止まらない。
「(恐らく前方から避難する気蛇ろう?だが無駄蛇!光の小娘が前に出た時点でそんなことを気づいておるわ!)」
不気味に笑う蛇姫は、腕に巻かれた血の糸を解き、勢いそのまま別の技に切り替える。
「(この光蛇、奴らからも妾の姿は見えていまい!広範囲に糸を放ち、全員殺してやるの蛇!!)乱れ狂う鮮血の刃--殲滅の箱庭!!!」
幾重にも重なった赤き糸が、蓮達のいた場所に放たれる。直撃すれば微塵切りだろう。
そしてその直後、蛇姫の耳に人間の悲鳴が聞こえる。断末魔だ。肉を貫通し背後の壁までも切り刻まれる音がした。そして、光は消滅する。砂塵は巻き上げられ、その肉塊は未だその姿を映さない。
「ふ・・・ふふふ・・・ふははははは!!!殺した!殺したぞえ!!下賤な人間ども・・・そして脳無しは妾--ぐぁっ!」
体の限界が近い蛇姫。血反吐を吐きその場で倒れ込む。
「早く・・・早く脳無しを喰らわんと・・・!」
砂塵が晴れ、とうとう肉塊が姿を現す。しかし、その姿は蛇姫が想定していたものとは画していた。目の前には今の攻撃では一切傷を負っていないのであろう少女が2人。そして残りの2人は見当たらない。
「な・・・何蛇と?・・・では・・・先ほどの悲鳴は・・・?断末魔は・・・?脳無しは--」
「--よぉ、こっちだぜ!」
その声の方に顔を向ける。そこには、技を放とうと構え走り向かってくる標的の姿。そしてその背後にはディアスがいた。
「テメェの自慢の弟が作った壁に叩きつければ、さぞ痛いだろうなぁ?」
蛇姫は背後を確認する。その数メートル先には、華蛇が作り出した銀の壁が。
「この壁に叩きつける気か?そう易々と攻撃を受けるはずが--」
「--ディアス!!」
「了解した!!地伏し列を成す民衆達!」
直線状に放たれる重力。それを、蛇姫にではなくなんと蓮にぶつけた。
「いけ!蓮!!」
「サンキューディアス!!」
重力により押し出され、急激にその速度を上げる蓮。このスピードの変化に蛇姫は騙され、防御をする余裕すら無い。
「(グニラから教えてもらった戦い方・・・最高速度はここぞと言うときに!役に立ったよ、ありがとう!!)」
蓮は今もつすべての魔法を右手に集約する。蛇姫から吸収した操血、目眩しの間にもらったレヴィの光とディアスの重力、そしてそれら全ての境界をカミラの魔法で無くし、混ぜ合わせる。
「ぐっ!まずい--」
「--終わりだ!混沌の月食!!」
「妾が、人間如き--にぃぐぁ!!」
蓮が放つ一撃は蛇姫の胸に直接衝突し、重力による加速をのせ壁へと突き進む。そして、思い切り銀の壁に叩きつけられた。
「--ぐぁはっ!!・・・人間・・・!!!流血の欠片!流血の欠片!流血の欠片!流血の欠片!流血の欠片!!!!」
蓮から流れる血を刃に変え、何度も何度も突き刺し、吹き出した血を新たに操りまた突き刺す。
「ぐっ!!・・・!ディアス!!追加だ!!」
「--ッ!・・・了解した!地伏し列を成す民衆達!」
ディアスは蓮の右手に重力を放ち、その勢いをさらに強めた。攻撃は押し込まれ、しだいに銀の壁にヒビが入る。
「--人・・・間ぐぁああああ!!!」
「俺は・・・みんなとまた笑って過ごすために!!お前に!!--勝つ!!」
ヒビはさらに広がる。蛇姫を中心に砕け始め、そしてついに--
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!ーーるぁ!!」
「----------!!」
壁は崩落し、アリア達とを隔絶していた境界は消え去った。
こうして、時は現在へと戻る。
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「--そうか、みんなよく頑張ったな!」
アリアさんはそう言って 俺を撫でた後、少し遠くにいた3人に微笑んだ。
「--それにしても姉上、惨敗でしたねぇ。残念!まぁそんな日もあります--」
「--あの雌の!!あのクソ雌のせい蛇!!あいつが・・・あんな粗悪品を渡すからこうなったの蛇!!そうでなくば妾が・・・人間程度に負けるなど・・・絶対に!!--」
「--あら、酷い言われようだこと」
突如、聴き慣れない女性の声が聞こえてきた。その声は穏やかで、包み込まれるような不思議感覚に陥らせる。
「この声・・・どっから・・・?」
「ねぇ・・・この声って・・・!」
レヴィが呟いていた。誰か知っているのか?
「うん・・・間違いないよ」
「・・・しかし、どこから--」
その声の主は、このフロアに入ったときに死角だからと警戒していた、入り口から見て右上に岩が盛り上がった場所、そこからその姿を現した。
「--こんにちは、そしてはじめまして。そこで倒れている3人はほんとさっきぶりね!」
出てきた女性を一言で表すのなら--上品。この言葉が最適だと思った。それほどまでに気品が溢れ漏れた人に見えた。
「蓮君・・・あの人だよ、私たちの傷を治してくれた回復術師は」
「--はっ?」
カミラの言葉に耳を疑う。話ではその女性は治療後すぐにどこかへ行ってしまったとのことだったから。どんなに急いでも外からここまでそんなすぐに辿り着ける訳がないし、仮にそれほど早かったとしても、入ってきたところを誰も見ていない。
であれば、彼女がここにいるのは明らかにおかしいのだ。
「あら、そんなに驚かなくても良いと思うのだけれど。まぁ構わないけれどね。--で、今の気分はどう?私の上げた薬は役に立ったかしら?・・・ねぇ、蛇姫--!」
「何が・・・役に立った蛇!!--カツユ!!!」
その場のすべての生物を見下す彼女は、お淑やかな表情で笑みを浮かべる。




