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生身の一撃

「先生・・・ですか?」


「・・・はい?」


 突然現れたアリアの兄ルドラ。そしてこれまた突然、敵である華蛇を先生と呼び始める。これにはいつもヘラヘラとしている華蛇も同様を隠せずにいる。


 それはそうだろう。突然見知らぬ人間に先生などと呼ばれるのだ。仮に敵対していなくとも意味がわからない。


「・・・えっと・・・それで貴方は誰ですか?2重の意味でわからないのですが」


 その言葉に、ルドラは敬意を示すポーズをとり、頭を下げながら挨拶をする。


「申し遅れました。(わたくし)、Sランク冒険者であるルドラ・マクベスと申します。私のこと・・・覚えてらっしゃいませんか?」


「名前は知ってますよ、有名ですからね。・・・ただ・・・先生と呼ばれる所以については・・・忘れました!」


 開き直った。


 一応は少し思い出そうとした華蛇だったが、これ以上考えても無駄だと判断し、開き直ることとした。


「おいルドラ!こいつは敵だぞ!それを何故先生などと--」


「アリア・・・いい加減お兄様と呼んでくれないか?ルドラだのお前だの言われるたび、私の心はすり減っているのだから!」


「(すり減りすぎて消えろクソ)悪いが無理だ。お前に払う敬意は持ち合わせていない」


 辛辣な妹の言葉に、ルドラは頭を抱える。


「ああっ!妹の反抗期!・・・だがそれもいい・・・!!だけどねアリア、これだけは言っておこうか・・・」


「・・・なんだ・・・?」


 その瞬間、人気者の笑顔が剥がれ、不気味な気味の悪い笑顔へと変貌する。


「--そういう生意気な口を利くのは、最低限私に傷をつけれるようになってからにしたほうがいいよぉ--!!」


 瞬間震えるアリアの背中。それはまさに蛇が首元で這い寄っているかのよう。


 そして、すぐにいつもの人気者笑顔へと戻った。


「(これがあのルドラ・マクベスか・・・ふぅ〜ん、強いねぇ!--にしてもワタシがこれの先生?本当に覚えがありません)」


「--あっ申し訳ありません先生!ほったらかしにしてしまって」


「いえいえ!・・・で?貴方は・・・なんですか?」


「えっ!本当に覚えてらっしゃらないんですか?・・・・・・あっ、そういえば私が勝手に見てただけでした。そういえばあったことありませんでしたね。申し訳ない」


 その発言に、再び華蛇は硬直する。


「・・・えっと・・・では何故先生?」


「はい!私は幼い頃、たまたま先生が人間を無残な肉片にし、そして銀で人形を作り出し惨殺していたのを見たんです。その時の私の興奮と言ったらもう!!・・・その時思ったんです、これは芸術だと。銀で舞う肉片、舞い散る花びら・血飛沫・・・そして踊り殺す人形。幼い私にはそれら全てが美しく幻想的な映ったのです。この人を先生にしよう、私は思いました。しかしその日以来その絶景を見ることはかないませんでした。そして誓ったのです。私があの芸術を再現しよう!--とね。そして完成した私の芸術が!--これです」


 ルドラは風で人形を作り出し、華蛇の前で披露する。


「凶器に染まった盲信的な憧れ・・・んん〜気ん持ち悪いですねぇ〜!側から見る分には面白いんですが、近づいて欲しくはないタイプです。・・・で?その人形でどうしようと?」


 穏やかな顔で尋ねる華蛇。それに対するルドラは--再び不気味な笑顔を浮かべる。


「そんなもの、決まっているでしょう・・・私の芸術は--先生を殺して完成する!!」


「ははっ!・・・やっぱり」


「さぁ!この人形たちをあなたの血で染めさせてください!!」


 風の人形たちは、華蛇に向かい突撃する。手は剣やら鎌やら様々だ。その姿はまさに蛇姫が使っていた魔法と瓜2つ。


「やれやれ、子供1人連れ去るだけのつもりだったのに・・・その地面、崩れますよ」


 宣言通り地面は崩れ、何体かは崩れいく地面に巻き込まれ消滅する。しかし残りはその残骸を超え、なおも向かっていく。


「30体中5体・・・思ったよりも減らせませんでした。超えられぬ2位の壁(タルミヌス)


 これまた数体の攻撃は防ぐものの、残りが背後などに回り込み、攻撃を仕掛ける。


「へぇ、頭いいですねぇこの子たち。銀華・九千ノ舞」


 1体、2体、3体--と、徐々にその数が減っていく。残り5体--


「(流石先生だ!私の人形をもろともしていない--やはり・・・美しい!」


「そこの地面、あなた方を突き刺しますよ!」


 地面に急に剣山が生まれ、それが5体全ての人形を貫く。


「さようなら、哀れな人形たちよ--旋銀星々ステラ・スプレンディディース!」


 5体全ての顔面を、旋回させた星を象った銀で貫いた。今は魔法に対して放ったのみ・・・だが、もともとこれは対人ように作った技なのだ。


「準備運動は・・・これくらいですかねぇ?」


 --拍手がダンジョンに響く。1分ほど続いたその音は、ようやく鳴り止む。


「いや〜、流石でしたよ!あまり手加減したつもりはなかったのですが。特に容赦なく頭を狙ったあの技!あれこそ私の理想のあなたの技です!!--ですが、ひとつだけよろしいですかね?」


「はい?何か不満でも?もしかして芸術点が足りませんでした?」


 ルドラは、その言葉の後に指を指す。


「それですよ、それ。先生あなた・・・いつからそんなべらべら喋るようになったんですか?昔の貴方は無口で、冷静に冷淡に冷酷に・・・そして冷笑を浮かべながら人を殺していたはずです。それがなんてすか?べらべらと喋りながら戦って。どうしたんです?」


 ルドラは、若干苛立ちを含んだ言い方と表情になっていた。


「・・・さぁ?ワタシは20年前からこんな感じですよ。貴方が見たのは・・・多分()()()()()()()だったんでしょうね!」


 反面、にこやかに返す華蛇。この時華蛇が放った言葉に、アリアは引っ掛かりを覚える。


「(彼?入る?・・・それにルドラの残虐性がこいつの影響だったとか・・・ああもう!!分からなすぎて頭が痛い!!)」


「・・・・・・そうですか。まぁ、私が一番惚れた部分は変わっていなそうなので、いいでしょう!では第2回戦は私自ら--ん?先生、左手、どうしたんですか?」


 ルドラは、華蛇のなくなった左手を指した。その問いに、なおもにこやかに答える華蛇。


「ああこれですか?折られたんで自分で切り落としたんですよ、あのままついてても邪魔でしたし。まぁいずれ治る予定なんでいいですよ」


「・・・・・・帰るよ、アリア」


「・・・えっ?」


「えっ?じゃないよ、帰るよ。今の先生と戦っても意味がない。治るんですよね?だったらそれ待ちますよ。ってなわけで帰るよ」


 ルドラはアリアの手を引き、連れ帰ろうとする。


「いや、ちょっと待て!あいつを放っておくのか?!それに・・・まだ私の弟子達が!!--」


 掴まれた手を振り払い、言葉をぶつける。


「弟子ぃ?・・・あぁ、問題の脳無しとその他ね」


「問題・・・その他・・・?」


「なるほど、あの壁の向こうで戦っている・・・と。ま、いいじゃないか放っておけば。そんなに弟子なんて大事かい?」


「大事に・・・決まってるだろ?そんな当たり前のことを言わす--」


「--じゃあさ、帰ったら適当に弟子を見繕ってあげよう!アリアの弟子になりたい冒険者なんてごまんといるしね!よし、これで心置きなく帰れ--」


 その瞬間、辺りに雷、閃光、暴風が巻き起こる。それはたった1人の女性から発せられた。


 地面を割り、壁を砕き、大気を震わす。その彼女を取り巻く怒り、そして殺意は、たった1人の男に注がれる。


「--おい。その言葉撤回しろ・・・!でなくば--殺すぞ」


 ルドラはその姿に、目を見開き、口を開ける。


「・・・これが・・・アリアか?・・・いつの間にこれほどの力を--」


 アリアは立ち上がり、ゆっくりとルドラに近づく。


「--お兄様」


「ん?おやおや・・・こんな状態で呼んでくれるとは!ようやく私の優しさに気づいて--」


「--はっ!やはりこの言葉は口馴染みが最悪だな。もう2度と、少なくとも貴様に対して使いたくはないな」


 アリアはその強力な雷を、右手に集中させる。


「そっか。まぁいいよ、いつものことだし。とりあえず今日は、気絶させて連れ帰るからね!」


 ルドラは両手に風を作り出し、アリアに備える。


「お兄様、これが私が貴方に向ける最後の敬意です。しかとその脳裏に焼き付けてください」


 その言葉の直後、アリアはルドラに向かい走り出す。今までの比ではないスピードだ。しかし、それに難なく対応するルドラ。


「(早いな。だけどその程度なら--お兄様には勝てないよ)神風--」


雷神の(トール)・・・一撃(ハンマー)!!!」


「--ッ?!」


 アリアは右手に纏った魔法を、ルドラではなくその足元の地面に叩きつけた。


「なっ?!何を--」


「吹き飛べ!!クソお兄様!!!」


「待て!私はお前ゔぉっ!--」


 魔力を込めない一撃が、ルドラの顔面に直接入り、背後の壁まで吹き飛ばした。


「ーー()()を殴るのに、魔法などいらん!」


 怒気を孕んだその顔で、アリアは指差してそう言い放つ。


 ルドラは壁を背に殴られた顔を押さえながら呟く。


「・・・アリア・・・!」


「私の、貴様や家族よりも大切な弟子達を!貴様程度が愚弄することは許さない!!荒んでいた私の心に光を灯してくれた少女、私も守ると言ってくれた少年。彼らを・・・私の子供達を今度同じように愚弄してみろ!--次はその腐った脳を直接殴りつけてやる!!分かったか?!!」


 ルドラはこの言葉で理解した。彼女をここまで強くしたのは、その弟子達の存在であると。


「あ・・・ああ、約束しよう!(ああ約束するとも!大切な妹をここまで強くしてくれた子達だぁ、感謝するよぉ!これで・・・目的に近づいた!!)」


 頭を下げ謝罪をするルドラ。その下では、不気味な笑顔がにじみ出していた。








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