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先生?

 蓮達と蛇姫の戦いが巻き起こる最中、壁を隔てた向こうでは、アリアと華蛇が対面し睨み合いを続けていた。


「--おっ!向こうは盛り上がってますねぇ。すごい音だ」


「・・・貴様、何が目的だ?」


「はい?何度も言っているでしょう、脳無し君を連れ去りに--」


「連れ去ってお前に何のメリットがある?」


 アリアのこの発言に、華蛇は首を傾げる。


「そうですねぇ・・・脳無しを食うことで我々モンスターは強くなれるんですよ。ですから姉上はああまで固執していると言うわけです」


 両手をぐるぐるさせたりと、よく分からないジェスチャーと共に華蛇はそう言った。その発言にアリアは釘を刺す。


「お前は頭、もしくは耳が悪いのか?私は--お(・・)に何のメリットがある?と尋ねたんだ。悪いが私は大人じゃなくてな、無視ならともかく素っ頓狂な返しをされるとイライラする」


「おっと、貴方ほどの方を怒らせたらワタシ死んじゃいますからね。で・・・ワタシのメリットでしたっけ?そうですねぇ・・・正直、メリットはゼロです」


 自分の行動にメリットなどない。そうはっきり告げられたアリアは、動揺を見せる。


 例えばとても愛している人の為であれは理解できる。しかし華蛇から蛇姫への愛は感じられない。また、力関係の問題で虐げられているのであれば理解できる。だがこれも違う。何故なら、アリアだけでなく、その他冒険者が一様に感じていることとして、華蛇は蛇姫より強いと言うことがある。これは実際に戦ったからこそ身に染みて分かる。つまり、暴力により無理やり従わされていると言うわけでもないのだ。


 --であれば一体何故か?茫然自失に近いアリアの耳に、華蛇から答えが告げられる。


「メリットはありません。ですがまぁ、理由はありますよ」


「理由?さっきの話から察するに、脳無し()を捕らえてもお前は喰わないのだろう?であれば意味が--」


「弟の()()・・・ですかね」


「・・・慈悲・・・だと・・・?」


 この時アリアは勘違いをする。この慈悲というのは、自分より弱い姉に強くなるための手段をくれてやるという、強者の余裕にも似た言葉だと思っていた。だが、この言葉が後に別の意味であることをアリア始め、蛇姫すら知ることになる。


「ええ慈悲です。それに、セ--十脳(じゅうのう)最強を目指すなんて、ワタシとしても熱い展開ですしねぇ!見てみたいという気持ちもありますかね」


十脳(じゅうのう)・・・それがお前ら幹部の総称か?脳・・・脳無しを狙うから十脳--とかそんなところか?」


 その言葉に、華蛇はなぜか一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの飄々とした表情に戻った。


「--!・・・いえ、脳みそくらい大事な10人・・・それで十脳です。それに、ワタシは幹部ではなく幹部補佐・・・ですよ」


「お前を補佐に据えるとは、見る目がないのか・・・まぁ人格に難がありそうだからな、そこで落ちたのかもしれんが」


「はははっ!酷いなぁ〜!これでもワタシは組織の中では健全な優良児なんですよ。まぁ疑われるのは分かりますがね」


「そうか、とにかくおかしいってことだけは分かったよ。幹部の名前・・・襲撃の理由・・・お前ほどの奴があんなのについている理由・・・うん、聞きたいことは大方聞けたな。アジトの場所なんかは聞いても教えないだろう?」


「はい、そうですね!」


「そうか・・・それじゃぁ--もう殺すぞ」


「はい・・・そうですね・・・!」


 この会話の刹那、アリアは手元に電撃を発生させ、華蛇に急接近する。


「--雷神の裁き(ゼウス・ディオス)・・・!」


「おお怖い。--銀等級の盾」


 アリアの攻撃を、銀の盾を目の前に作り出し防ぐ。だが、これが分かっていたかのようにアリアは次のモーションへと移行する。


 体勢を低く取り、雷の円盤を銀盾の隙間から侵入させる。


雷円飛盤トニートルァ・オービス!!」


「うぉっと!銀等級の盾」


 攻撃を防がれるや否や、アリアは空中に飛び、腕を上下に重ねて合わせる。そして、雷を大量に纏った両手を勢いよく振り下ろす--


選別の万雷(シネ・デレクト)--!!!」


 その威力は強大だった。振り下ろした勢いのみで突風が吹き荒れ、放たれた万雷は広範囲に広がり、見るだけで殺されるのではないかと思わされるほどだ。だが、アリアも自我を忘れ戦っているわけではない。ダンジョンが崩れぬよう、5割程度の力に抑えている。


「おそらく手加減してこの威力。凄まじいですねぇ!やはり貴方は--」


 攻撃は華蛇のいた場所に大きく穴を開け、何メートルか、もはや推測することすら放棄したくなるほど深く、そして焼け焦げていた。しかし--


「・・・今のを避けるとは・・・お前ほんとに何者だ?」


「只者じゃない男、略して只者ですよ。いやぁ〜それにしてもすごい威力ですねぇ!ワタシが最初に戦ったあの人と同一人物と思えないほどです」


 華蛇が空いた穴を覗き込みながらそう呟く。


「それは・・・何が言いたい?」


「いやね、大したことではないんですけどぉ・・・貴方のお弟子さん、正直邪魔だって思ったこと・・・ありません?」


 その言葉を聞いた瞬間、アリアの目がさらに鋭さを増す。


「ある訳がない。私はあの子を弟子にしたその瞬間からこれまで、邪魔などと思ったことなど一度も--」


「じゃあ無自覚なんですね、その弱体化」


「・・・は?」


 --弱体化。その言葉を聞き、疑問形で返したアリア。だが、言葉で否定しても、その言葉を否定する思考が瞬間巡る。分かるのだ。次に華蛇が何を言おうとしているのか。アリアも過去・・・そんな人間だったから--


「蓮君が近くにいると、貴方の体は無自覚に力を押さえてしまっている。近くにいたら・・・弱い彼を巻き込んでしまったら殺してしまうから・・・違いますか?」


「違う!!断じて違う!!!あの子は強い、心強い仲間もいる!自分で考え行動することも出来る・・・・・・(あの時の私と違ってな・・・)」


「・・・ふふっ!ははっ!・・・ごめんなさい、つい言いすぎましたよ!・・・あっ、謝ったんで許してくださいね!」


「--ッ!!!」


 アリアは再び全速力で華蛇に近づく。本来で有れば一撃でモンスターを倒せるレベルの雷を体に纏い、何度も殴り、蹴りつける。まるで八つ当たりをする子供のように。


 何度も、何度も、殴り、蹴り、頭突き、投げ飛ばす。華蛇も防御するが、着々と怪我はその数を増していく。


「殴られてる最中ですけどぉぅ!弱くなってるのは本とぅ!・・・ですよ!こんなに強いのにもったいない!」


「もう!!貴様は!!喋るな!!!--暗き雷滅の呻きヴォクス・インフェロス!!」


 地面に電流を送り、天に向かい打ち上げる。レヴィの地より裁く堕天使の光(ロズ・カイーダ)はこれの模倣技である。


「ほう・・・これはなかなか--超えられぬ2位の壁(タルミヌス)


 自身の真下に幾層もの銀の壁を作り出し、威力を弱める。だが、その程度でかき消えるほどの技ではない。


「--うわっ!」


 華蛇は雷に包まれ、その姿は魔法と砂塵によって目の前から消えた。


「・・・念のためもう2.3発追撃しておくか。雷神の(トール)--」


「--その服、捻れますよ・・・!」


 瞬間、アリアの服が骨を折り曲げんとするほどの力で捻れ出し、アリアを拘束する。


「--ッ!?(なんだ・・・これは?)」


「--罪人を捕らえたいのに、ちょうど手ぶらで拘束具がない!紐も何も持ってきていない!でもそんな時でも安心!拘束具がないのなら、相手の服を使えばいいじゃない?・・・ってことです!説明になりましたかね?」


 華蛇はボロボロになりながらも、なおも変わらず飄々とした表情で現れる。


「なってる訳・・・ないだろ・・・!そういえば聞き忘れていたが・・・何だこれは・・・これだけじゃない・・・地面を割るあれも・・・同じだろ!」


 アリアは自身の服で締め付けられ、うまく話すことができないようだ。


「これは・・・あれですよ。・・・特典ですよ!」


「特典・・・だと・・・!こんな奴に・・・あげる奴は・・・ゴミだな・・・!」


「ははっ!ワタシも・・・そう思いますよ」


 アリアの真下から水銀が溢れ、鋭い口の形へと変化する。これは、不意打ちとは言えマスターにダメージを与えた技だ。


「今なら逃げられないですよね!じゃあ・・・さようなら!」


 口が閉まり、鋭い歯がアリアを噛み切り、食らい尽くす。その直前--


「--動けないから魔法が使えない、とでも思っているのか?」


 アリアは体全体から雷を放ち、同時に周囲にとてつもない熱気を放つ。


「(多少服はもったいないが、そんなことを言っている場合ではないな)--神々の自棄(デウス・モルテム)


 体内に超圧縮した電撃と、それにより発せられる熱、これらを周囲に放ち爆発させる技。ようするに自爆技だ。


 内部から爆発するわけではないので、本当に自爆するわけではないが、真近くで爆発を起こすのだ。無傷では済まない。だが、迫りくる銀を吹き飛ばすには、それほどの威力や熱が必要と判断したのだ。


 目を閉じ、爆発を起こす。


 --その直前


「--風神の刃(ウィンド・カッター)!」


 その声と共に、銀で作られた口は切り刻まれ、形を失う。


「・・・なっ・・・お前は・・・!」


 その姿を見て、アリアは驚愕や怒りや不信感など、マイナス感情ばかりのった目でその男を見る。


「ふっ、()に対してそれは辛辣では?--まぁ、アリアなら許そう!」


「・・・ルドラ・・・!」


 ルドラ・マクベス。アリアの兄であり、その実力は冒険者最強と言われている。


 そんな男を前に、華蛇は必死に思い出すような顔をする。


「え〜っと、すいませんねぇ、顔と名前が一致していなくて」


「謝る必要はないよ畜生君。だって君は今から--えっ?」


 先程までヘラヘラとしていたルドラ。だが、華蛇の顔を見た途端、その笑みは消え失せ、驚愕と動揺の表情を浮かべる。


「ん?ワタシの顔に何かついてました?・・・ああ、そうでしたね。名前を言っていませんでした。ワタシの名前は華佗、見ての通り、凡俗ですよ!」


 華蛇は右手を胸に添え、一例をした。しかし、なおもルドラの表情は変わらない。


「・・・あの、いきなり出てきて何でしょうか?ワタシを倒したいのなら分かるのですが、だとすれば早く攻撃をしてきたら--」


「--先生・・・ですか・・・?」


 その言葉にアリアは思わず声を漏らす。


「・・・・・・はっ?」


 そして--


「・・・・・・はい?」


 華蛇も素っ頓狂な声を漏らした。















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