憶測
「・・・血塗れ・・・怪我だらけで全く動かない・・・・・・やっぱり--死んでる・・・!」
Sランクモンスターであるムルタマヌスは、何故かCランクダンジョンにおいて血だらけで死んでいた。
SランクモンスターがCランクダンジョンで死んでいる。俺はまだこの世界のモンスターについて詳しくはないが、これがありえないことと言うことだけは分かる。
足元に大量の雑魚モンスターの死骸が倒れているが、はたしてこいつらがいくら束になったところで勝てるのか?というと、俺は無理だと考える。Sランク冒険者にCランク冒険者が複数人で向かっていくようなもの。アリアさんやその兄なんかがCランク冒険者に負ける、もしくは相打ちになる絵など想像できない。
「・・・みんなが会った女の人って、強そうだった?」
色々考えた結果、正直これが一番ありえるかなと思った。だが反面絶対違うという気持ちもある。何故なら少なくとも魔法は水薬的なものを作る魔法だからだ。攻撃魔法ではない。
「ううん。正直戦いそうに見えなかった。それに返り血とかついてなさそうだったよ、まぁそんなまじまじとは見てないけど」
カミラの返答に、「まぁそうだよな。」という感想が漏れる。
であればこれはなんなのか。俺の中に最悪な想定が出てきた。その想定はレヴィも思っていたらしく、先に口に出された。
「ねぇ、こんなこと本当は考えたくないけど・・・もしかしたらこのダンジョンにはこのSランクモンスターを殺せるさらに上位のモンスターがいるんじゃないかな?」
--そう、これである。この想定通りならばムルタマヌスが倒されていたことには一応の納得がいく。
だが今度はこんな疑問が当然出てくる。
「確かにそれはオレも一度考えたが、流石に無理があると思う。CランクダンジョンにSランクモンスターがいて、さらにそこにそれすらも倒してしまうモンスターが現れる。おかしなシナリオすぎないかい?確かにこの惨状には納得がいくが、それ以外に納得できない」
まぁ当然そう思うよな。実際レヴィと同じ考えを持っていた俺だってこの意見は出てきた。それはレヴィも同様らしく、「だよね」と言った表情を浮かべている。
--と、ここでカミラが手をあげる。
「最悪繋がりで一ついい?」
「ん?なんだカミラ?」
「別の擬人モンスターがいて、そいつがやった、ってのはない?」
「えっ・・・いやそれは・・・あれ?でも否定出来ないのか?」
色々考えては見たのだが、正直これを否定できるソースがない。実際華蛇の弟らしいモンスターは、なんの変哲もないダンジョンにいたのだ。強いて言うなら先ほどディアスが言った、そんな偶然が重なるのか?という問題くらいか。
「確かにその可能性を考えてなかった・・・まだいんのかよあんなのが・・・」
本当にここにいるのであれば、Sランクモンスターを殺せるレベル、即ち華蛇レベルはあるのではないか?という強さの敵がまだいるということである。しかもそれが俺を狙っているときた。考えただけで気が滅入る。
--と、ここで次はレヴィが手を挙げた。
「ねぇ、確かにこれは何か?って考えるのも大事だけど、まずは今どうするか考えない?・・・まぁ話広げちゃった私が言うのもあれだけど」
レヴィは少しバツの悪そうな顔をしながらそう言った。その提案にディアスが賛成する。
「そうだね、そのほうがいい。現状ある選択肢は2つ。このまま奥へ進むか、引き返して別の場所へ逃げるか。オレはここまできたらもう進んでしまったほうが早いと思うけどね。もうすぐ抜けそうなんだろ?」
「うん。もう後1時間くらいで着くはずだよ。逆に戻ったら2時間以上」
そんなに俺らのことおぶりながら歩いてくれてたのか・・・!まじで申し訳ないな。
「戻っている最中に奴らに遭遇したらそれこそ意味がない。だったら警戒くらいはしつつも、いないと信じて進むほうが得策だと思うけどね?どう思う蓮?」
3人は俺の方を見て反応を窺う。まるでここでの俺の判断が最終決定になりそうな雰囲気だ。・・・だが、ここまで色々やってもらっといて「どっちでもいいと思うよ」なんて曖昧な答えは許されるわけがない。俺だったら許さない。
いないかもしれない敵に警戒しながら進むか、追手に遭遇するかもしれない危険がはらむ後退。この2択を、俺は--
「--進もう。どの道警戒はしとかなきゃいけないんだ。だったら進んだほうが確かに得策そうだ」
3人は顔を合わせ肯く。
「そうね。そうと決まれば、早く意味行きましょう」
「並びはさっきのでいいよね?」
「いいと思うよ。・・・ん?どうした蓮?」
「えっ?・・・あっ・・・なんでもない」
なんというか、決断すごい早かったな。元々そう決まってたみたいな、俺が進むことを選ぶのがわかってたように。・・・そう考えると急に恥ずくなってきた。
「え・・・えっと、とにかく進もう。行くなら早いほうがいい。レヴィ、また明かり頼める?」
「ええ、勿論!」
こうして、警戒しながらも進むことを決めた俺たち。道中、先程途切れた話を再開した。
「--さっきの話だけどさ、落ち着いて考えてみたんだけど、擬人モンスターってのはないんじゃないか?」
「えっ?なんで?」
俺の発言に、カミラは食いつく。
「ソースはあのSランクモンスターの死体。霧散せずに残ってたろ?擬人モンスターだったら多分、魔法を使って殺してると思うんだよ。少なくとも他の連中はみんな魔法を多用してるし。剣とか?って考えもしたけど、高い魔力を持つ人は武器は使わない傾向にあるってことを考えると、やっぱりないんじゃないかなって」
俺の意見を聞き、顎に指を当て唸るカミラ。
「う〜ん・・・そう言われるとそうなのかもなぁ・・・でもじゃあなんでムルタマヌスは死んでたんだろ?」
「・・・・・・そこなんだよなぁ。結局これ否定意見でしかなくて発展性も何もない考えなんだよなぁ」
俺も何かこの可能性は?と発言したいが、正直もう出てこない。これでは否定しかしない奴である。
「ん〜、なんかまだ可能性は・・・・・・ああくそ!出てこない!」
俺が頭を悩ませ抱えていると、レヴィがフォローを入れてくれた。
「蓮、別に無理して考えなくていいわよ。正直考えたところで何かできるって訳でもないし。いるかも、あるかもっていう心の持ちようとしてはありだろうけど」
「フォ、フォローサンキュー」
「ふふっ、どういたしまして」
こうして俺たちはしばらく道なりを歩いていく。そしてついに--
「--ここが最終フロアだよ!ここを抜けて少し歩けば外に出られるよ!」
ついにここまで来た。と言ってもここまでほんとにモンスターが現れなかった。それは奇妙なほどに。
このフロアは出口が近いことをあるのか、だいぶ明るかった。その為少なくとも目に見える場所にモンスターがいないことは分かった。ただ右上に岩が盛り上がった場所があり、下からだと死角になっている。あそこには注意するべきだろう。
とにかくここでおかしなモンスターがいなければ安全に抜けられる。因みにアリアさんはというと、華蛇たちとの戦いで相当血が抜けたのか、まだ気絶したままだ。
「みんな、準備はいい?何もないのが一番だけど、あるって心持ちで挑もう。行くよ--3・・・2・・・1・・・Go!」
レヴィの合図で全員慎重にフロアに足を踏み入れる。モンスターがいるような気配はない。ただ吹き抜ける風の音がするだけだ。
「・・・いない・・・かな?」
「取り敢えず前のように姿を透過させて進もう」
カミラに透過魔法を使ってもらい、姿を消し歩き出した。その時、ようやくアリアさんが目を覚ます。
「--ん・・・ここは・・・?・・・」
「アリアさん!・・・えっと、事情は後で説明するので、取り敢えずそのままでいて下さい」
「・・・・・・分かった」
アリアさんは辺りを見渡し、ダンジョンの中だと理解したようだ。流石になんの事情かまでは分かっていないだろうが、それでもすぐに口を塞いでくれた。--と、思った矢先--
「--ッ!!お前たち背後に敵だ!!」
アリアさんの声でようやく気がついた。背後に奴らがいたことを--
「--おやおや、バレてしまいましたか・・・!まぁ構いませんが--その足場、崩れますよ」
宣言通り今いた足場が崩れる。その不意打ちでカミラの魔法が解けた。
「おっ!そこにいたんですね!--銀の投網!」
銀で作られた網が俺たちめがけ投げられる。足場が崩れたことで避けられない。そう思った時--アリアさんにキャッチされ、全員安全な場所に避難してもらった。
「アリアさん!」
「いや〜ダメでしたねぇ。貴方があのまま寝てたままだったら楽だったのに・・・まっ、別にいいですけどね」
華蛇・・・そして蛇姫。なんでもうこんなところにいるんだ?バルク兄貴たちはどうなったんだ?
「--さて、壮大な鬼ごっこはおしまいです。そろそろ、その子を渡してもらいますよぉ・・・!」
迫りくる蛇の脅威は、気づかぬうちに、首元まで這い寄っていた。




