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操血

「--さて、壮大な鬼ごっこはおしまいです。そろそろ、その子を渡してもらいますよぉ・・・!」


 華蛇(かだ)蛇姫(だっき)が、いつの間にか背後におり、攻撃を仕掛けてきた。アリアさんが気付いてくれなければ危なかった。しかしそんなことよりも--


「・・・おい、なんでここにいる?バルク兄貴たちはどうした?」


 こいつからがここにいるということは--いやだ、考えたくない。


「ふふっ、安心してください。あの4人は無事ですよ!ついでに言うと、顔の怖い人とギルドマスターも無事です」


 4人・・・?兄弟は3人だから、あと1人は?それにマスターと顔の怖い人・・・もしかしてマルロさん?あの人戦えたんだ。


「良かった・・・いや良くない!だとしたらなんでお前らはここにいるんだ!?簡単に逃す人達じゃないだろ!」


「ええ、逃してくれたら殺さないって言ってるのに全然逃してくれないんですよぉ。だ・か・ら!街に攻撃を仕掛けました!これなら助けに行かないわけにはいかないでしょ?」


「--こいつ・・・!!」


 卑劣な手を使いやがって・・・だが取り敢えず死人が出ていないことは良かった。


 と、ここでレヴィが前へ出る。


「あんた達、なんでもうここにいるの?そんなに早く撒いてきたのかしら?」


 確かに、そもそも大きく引き離していたはずだし、しばらくは透明で逃げていたらしいから行き先も分かるはずがないのに。


「そうですねぇ・・・せっかくですから答えてあげましょう!まず、ワタシ達の種族特有の能力として、生物の体温を可視化することが出来ます。この場所についてはそれで見つけました。足跡に熱がうっすら残っていたのでね。そしてお待ちかね!なんでこんなに早く着いたのか問題ですが〜・・・見たほうが早いですかね?」


 華蛇は右足を一歩踏み出す。その瞬間--


「--こんな感じです」


 先程まで距離があった華蛇が、すでに俺の目の前で佇んでいる。


 嘘・・・だろ?全く反応できなかった・・・このスピードで捕まえられたら、俺に逃げる手段は--


雷神の一撃(トールハンマー)!!」


 先程まで華蛇がいた位置に雷が落ちる。--アリアさんだ。だが、その一撃は地を崩すのみで、肝心の相手に当たらなかった。


「ひゃ〜、怖いですねぇ!・・・と、このようにワタシは戦闘には自信がありませんがスピードだけは自慢なんですよ!・・・というか、今更ですけどなんであなた達2人、そんなに元気なんですか?」


 俺とアリアさんを指差し首をひねる。そりゃそうだろう。あれだけボロボロだった人間が、今では無傷でピンピンしているんだから。


「さぁな、私にも分からん。だがこれだけは言える--これであの時の借りを返せるな・・・!」


 アリアさんは手に雷を纏い、臨戦態勢を取る。


「蓮、雷のストックは・・・?」


「あと・・・一回です」


「そうか・・・済まないが補充してやれる余裕がない。隙を見てレヴィ達の魔法を貰っておけ」


「おい華蛇!その雷の雌はくれてやる。そのかわり妾はこのガキども4人を殺してやろう・・・妾を苔にしてくれた仮は返してやるの蛇!特に光の雌は徹底的に殺してやる・・・!」


「ははっ、勢い余って本当に脳無し君まで殺さないでくださいねぇ」


「ふっ、分かっとるの蛇。こやつだけは殺しはせぬ。動けなくした後目の前で仲間を無残に殺してやるの蛇!そして絶望に打ちひしがれたところを食ろうてやる!--華蛇!その雌が入ってきたら邪魔蛇!仕切りを作っておけ!」


「了解で〜す!--それっ!」


 華蛇の放った水銀が俺たちとアリアさんを分断する。


「--蓮!みんな!大丈夫か?」


「大丈夫ですアリアさん!俺の魔法ですぐにこの壁消しますから!」


 華蛇(あいつ)が張った壁だ。普通に壊そうとすれば非常に労力がかかるだろう。だが所詮は魔法の壁。異類無礙(アクセプト)を使えば消滅させられる。


「確かにあなたに触られては消えちゃいますねぇ。ですが--姉上を無視出来ますかねぇ?」


 その言葉と同時に、踏み出した俺の足元へ魔法が放たれる。


「ふふっ・・・その通り蛇!妾を無視して壁に近づけると思わぬこと蛇のぉ!」


「--くそっ!」


 正直蛇姫は華蛇に比べれば弱い。だがそれは蛇姫が弱いというわけでは決してない。俺たち一人一人よりは強い。それは純然たる事実だ。


 壁の奥からアリアさんの声がする。


「私はこいつの相手をしなければならない!だからそっちを手伝うことができない!だが!!蛇姫(そいつ)私の目の前の相手(こいつ)よりは弱い!お前達みんなで戦えば勝てる!頑張れ!」


 勝てる--そうだ、一人一人はこいつに勝てなくとも、みんなで力を合わせれば勝てる相手だ。大丈夫、俺たちは勝てる・・・!


 その瞬間、凄まじい威圧感が俺たち4人を襲う。


「・・・・・・妾が・・・華蛇より弱い・・・蛇と?・・・其方らが束になれば・・・妾に勝てる蛇と・・・なん蛇?--なん蛇その思い上がりは!!!!」


 どす黒い液体が、蛇姫の体を囲うように宙を舞う。


人間(食物)の分際で調子に乗りおって!!--来い、格の違いというのを教えてやるぞえ・・・!」


「みんな!準備はいいか!?」


「勿論よ!」


「OKだよ!」


「当然だ」 


 俺含め全員が臨戦態勢に入る。取り敢えずあの血は魔法だ。であれば俺がまず魔法で吸収する。


「姉上〜、血の使いすぎ気をつけてくださいね〜!行きしなちょっと血をあげましたけどちゃんと考えて--」


「分かっておるわ!!うるさいのぉ!まずは脳無し!貴様を潰すの蛇!--血息(ブラッド・ブレス)!」


 宙に舞わせた血を、光線のように放つ。スピードもとても早い。だが、これは俺には通じない。奴は俺の魔法をあまり知らないのだろうか?であれば好都合だ!


「まずは俺に任せろ!--異類無礙(アクセプト)!」


 放たれた血に触れ、その瞬間消滅する--と、思っていたのだが、起こった事象は保たれていた形が崩れ思いっきり俺にかかったことくらいで、特に何も起こらなかった。


「・・・あれっ?なんで血が消えない--」


 その時、レヴィが何かに気づいたらしく、大声を張り上げる。


「まさか--蓮!その血早く全部体から弾いて!!」


「えっ?どういう意味--」


「--もう遅いわ!--流血の欠片(ブラッド・ビット)!」


 付着した血が複数もの刃へと変貌し、俺の体を突き刺していく。


「--ぐっ!!」


 突き刺されたことで流れた血すらも刃に変貌していき、さらに俺の体を突き刺していく。


 そういえば、骨を折られた痛みで耳に入っていなかったが、アリアさんとの戦いで[操血魔法]と言っていた気がする。であれば放たれた血が形を保たなくなった理由も理解できる。


「くっそ!!異類無礙(アクセプト)!」


 魔法を使用したことで、刃はその形を失いただの血へと姿を戻した。


「はぁ、はぁ・・・くそっ・・・ちょっと気づくの遅かったな。まぁでもそのおかげで、お前の弱点は良く分かった!お前の魔法は操血。俺がこうやって魔法を使っている間は俺にダメージは与えられない」


「・・・・・・」


 図星だったのがそんなに悔しかったのか、蛇姫はずっと黙っている。先程までの喧しい態度とは真逆だ。


「・・・脳無し、其方、言葉の表層しか捉えられんのぉ」


「ん?どういう--」


「--別に最初は其方でなくとも良いというわけ蛇よ!--上血の刃(ブラッティ・ライズ)!!」


 突如、レヴィの足元から複数の刃が噴出し、次々に切り裂いていく。


「--ッ!!(何これ?いつの間に仕込まれてたの?あいつの動きには注視してたのに--まさか!)」


 レヴィは視線を俺の方に移す。正確には俺の足元だ。レヴィの考えは正しかった。蛇姫は、俺の足元に溢れていた血を操り地中からレヴィの足元に移動させ攻撃を仕掛けたのだ。


 俺は失念していた。俺の魔法は触れた魔法を吸収するというもの。つまり俺の体に触れている血は操れないが、ひとたび滴るなどし俺の元から離れた時には、それを操ることが出来るのだ。


 レヴィの傷口からも刃を作り攻撃していたところを、俺がレヴィの体に触れに行き、解除させた。


「ありがとう蓮!・・・にしても、厄介な相手ね。傷ついたらそれを武器にされるなんて・・・しかも今みたいに地面から攻撃されたら避けようが--」


「--ってことは、あたしの出番だね!」


 そう言って、カミラは地面に手をつく。


「カミラ?一体何を・・・あっ!そういえば!」


「そう!多分その通りだよ!--透過!」


 カミラは地面に対し魔法を使用した。地面に光を反射させず、血溜まりのみを写す。これで地面から不意打ちを食らうことはない。


「へへ〜ん!どう?これで不意打ちできないでしょ?お・ば・さ・んっ!」


「決めたぞえ・・・其方も・・・惨たらしく殺してやる・・・!!」


 この挑発は効いたらしく、蛇姫はさらに青筋を増やし、血の気も増していくことになる。



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