いるはずのない怪物
「・・・ぅぅ・・・ん?・・・ここは・・・?」
目を覚ました時、俺は見覚えのない洞窟にいた。さっきまで魔導祭会場にいたはずだけど・・・ん?
目を擦りよく見ると、ディアスが俺をおぶり、前方にはアリアさんを見ておぶったカミラと、最前列で灯を灯しているレヴィの姿があった。
「・・・えっと・・・これは、どう言いう状況?」
「あっ、蓮!起きたのか!」
ディアスが軽く首を回しながら俺の顔を窺う。
「ああ・・・えっと、取り敢えずありがとう。自分で歩けるよ」
下ろしてもらい、進みながらディアス達に事情を聞く。
「俺とアリアさんが負けて・・・レヴィ達が助けてくれた。そして逃走の間バルク達が足止めしてくれているってことか」
「そう。そしてこれから、カミラに紹介してもらったティルザさんという人のところに向かうの。あわよくばそこに匿ってもらう」
「なるほど・・・。(バルク兄貴達大丈夫かな?まぁ他のギルドメンバーも助けに入ってくれるだろう)でさ、ずっと気になってたんだけど、なんで俺こんなに綺麗なんだ?ボロボロにされたと思うんだが」
俺だけじゃない。アリアさんも会場であれだけ傷を負っていたのにも関わらず、その傷跡が一切見受けられない。この世界ではその魔法を持っていない限り、一瞬で治る自然治癒なんて出来ない。
カミラは頭を傾け目線を左上に移動させる。どうやら思い出しているようだ。
「ん〜、え〜っとねぇ・・・どこから言おう?まず、その傷を治してくれた人がいるんだよ。名前は言われなかったから分かんないけど、真っ黒で長い髪だったなぁ。あと・・・すごいデカい!」
「デカいってなんだよ・・・?」
「・・・デカい!」
「あっ、なるほど察したわ次どうぞ」
ここまで隠したのなら俺も敢えて言うまい。ただまぁとにかくデカかったのだろう。何とは言わんが。
「で・・・なんか変な花瓶みたいの取り出して先端を割ったら、中からキラキラ〜って感じの粉が出てきて・・・一瞬で治った」
「さっきのアレはともかくとして、説明雑すぎないか?みたいな〜とか、感じ〜とか、んで最後唐突にエンディング迎えたし」
ほんと何を言いたかったのだろうか。カミラは馬鹿な子ではないと思うのだが、何故こんなにも語彙が滅されてるんだ?今の説明でストーリー作ったら最低の駄作ができる気がするするぞ。
「なぁレヴィ、ディアス、代わりに説明してくれない?」
そういうと、2人は「あっ、」と言うような反応になりしばらく沈黙が生まれる。
「あれっ?お2人さん?」
「えっ?あ・・・その・・・ねぇ」
「・・・カミラの答えは存外的を得ている」
・・・はい?的・・・得てる?それダーツ本体が的よりでかいとか、的の当たり判定めちゃくちゃでかいとかそんなんじゃない?大丈夫それ?クソゲーって言われたりしない?
「おいおい嘘だろ・・・?ピカーン!ガギャーン!ドカーン!・・・世界は平和になりました。くらいの雑さだった気がするんだが」
「そこまでじゃないでしょ。・・・はぁ。その、とにかくなんて言えばいいのか分からないのよ。本当に突然現れた女性が不思議な液体が入った瓶を割って、そしたら回復したんだもの。それ以上何も言えないのよ。ねぇディアス?」
「あぁ。申し訳ないがそれ以外分からない」
仕方ない、であればここからは今ある情報をつなぎ合わせて推理するしかない。
まず、デカい。・・・これは関係ないな。えっと、花瓶の中に液体が入っていて、その先端を砕くと中の液体が粉状になり、俺たちの傷が治った・・・・・・うん、分からん。俺の読んだラノベの中にそんな魔法は・・・・・・ん?ちょっと待て、そんな魔法があった気が--俺はなんの気無しにレヴィを見た。それが記憶を呼び覚ます鍵となった。
「--水薬・・・?」
「えっ?それって・・・確か4文字魔法のことおじいちゃんに聞いた時出てきた魔法名だよね?なんでそれを今・・・?」
「えっ?あぁ・・・瓶割って回復って、ポーションっぽいなぁと思ってさ。その人いくつくらいだった?」
「そうだね〜・・・30歳くらいかな?でも正確には分からないや、なんせ大人の色気ムンムンだったし。少なくともシオンさん?だっけ?その人ではないよ。だって70年も前の人なんでしょ?本人だとしたら綺麗とか通り越して怖い」
「なるほどなぁ。お婆ちゃんとかだったらもしかすると、って思ったけど、それじゃぁ流石に無さそうだ。ってことはあれか、 水薬って魔法を使える人が新しく出てきたってことかもな」
「かも知れないね」
話がひとまず落ち着いたことで、俺はあることをしていないことに気がついた。
「--あっ!そういえば助けてもらったことにお礼言ってなかった。その・・・ありがとう!」
俺は頭を下げ謝礼をする。助けてもらったことの感謝の念とともに、ここまでやってくれたことにお礼を言っていなかったと言う事実で情けなくなる。
「ううん、気にしないで蓮。私たちも、そして今戦ってくれているバルクさん達も、みんな自分の意思だから」
「そうそう!あっ、因みにこれは自分を蔑ろとかじゃないよ!君のはただの自己犠牲、あたし達のは、あたし含めてみんなで頑張るってことだから!」
「・・・こんなところで、しかもあんな奴らに殺させないよ。君は・・・オレが倒すんだから。・・・だろ?」
こういう時、改めて気づかされる。俺はめちゃくちゃ恵まれてる。とてもいい師匠に出会い、とても良い仲間に出会えた。
「--ああ!ありがとう!」
心からの感謝を告げ、俺たちはダンジョンをさらに進む。その途中、ディアスがあることに気がつく。
「カミラ、ここのダンジョンはモンスターが出にくいのかい?さっきから気配すら感じないんだが」
「いや?普通に出るはずだけど・・・そういえば全然出てないね。最初にちょっと出たくらいだね」
「みんなら気を引き締めて。次のフロアに出るわ」
レヴィのその言葉を皮切りに気を引き締める。モンスターは大体自分のお気に入りのフロアというものがある。餌の調達など以外で、そこから出ないことの方が多いくらいらしい。
つまり、新しいフロアに出るたびモンスターがいないか気を引き締め探す必要がある。
「入るよ--」
レヴィを先頭に次のフロアへと足を踏み入れる。すると突然--
「--えっ?・・・なんでこのモンスターがこんなところに・・・!」
レヴィが足を止める。どころかその歩みを戻し始める。
「どうしたレヴィ?なんかあった--なんだあれ?」
入り口から覗き真正面に立つは、Sランククエストレベルのモンスターである6本の腕を持つ猿のようなモンスター、ムルタマヌスだった。ここはCランクダンジョン。当然こんなところにいていいモンスターではない。
ムルタマヌスは、まるで銅像のように真正面をじっと見つめぴくりとも動かない。
「まさかあんなモンスターがいるなんて・・・カミラ、透過魔法お願いできる?」
「うん、それは勿論だけど・・・あのモンスターって、確か野生の感覚がすごいんじゃなかったっけ?バレたらどうしよう」
「その時は・・・必死に応戦するしかないな。あと、透過魔法を使うとなればあかりは使えない。ルートはしっかり覚えなければ」
俺はこの世界に対する知識が圧倒的に足りないのでイマイチ緊張感がないが、まぁSランクモンスターということは強いのだろう。みなの反応からもそれはひしひしと伝わる。
「その明かりだけどさ、別のところに配置しておけば良いんじゃないか?そうすれば気を引けてより逃げやすいと思うぞ」
レヴィは顎に手を当て少し考えると頷いた。
「うん、そうしようか。みんなもそれで良い?」
「うん!良いよ!」
「そうだな、それで行こう」
満場一致で明かりをお取りにし、その隙に抜けることにした。
レヴィは明かりを用意し、カミラの魔法で姿を消す。
「みんな・・・準備はいい?いくよ・・・3・・・2・・・1・・・Go」
光を自分たちが進む道とは別に放り、走るでもなく、だがゆっくりでもない絶妙なスピードで通り抜ける。
そしてフロア中心までたどり着いた時、足元に何やら異物が当たった。さらにぬめり気もある。次第に目も慣れ足元が薄ぼんやりとだが見えたもの、これはまさか--
「--ッ!」
思わず声が出そうになるのを、口を押さえ必死に押し殺す。足元に転がっていたもの。それはそう--モンスター達の死体だった。よく見ると何十という数の死体がそこたらじゅうに無残に転がっている。
これを・・・あのモンスターが・・・
--とその時、ムルタマヌスが体を動かし始めた。こちらに気がついたのか?それによく見ると、全く光に反応していない?
モンスターは大きな体を揺らし、そして、うつ伏せの状態で俺たちの方に倒れてきた。
「んなっ!避けろ!」
みんなは急いで後ろへと下がり、攻撃を回避する。
「ひゃー!びっくりしたー!」
「あぁ、だけど変だ・・・ムルタマヌスにこんな攻撃方法はないはず・・・」
「・・・あれっ?・・・もしかして・・・」
レヴィが何かに気がついたようで、俺たちにある同意を求めてきた。
「ねぇ、このモンスター照らしてみてもいい?どうせ攻撃されたんだったらバレてるんだし」
レヴィのこの言葉に、俺はなにかを感じ取った。
「なにか思いついたんだな?」
「うん。確かめたいことがあるの」
真っ直ぐ俺を見つめるレヴィ。その眼は真剣だった。
「・・・よし、やってみてくれ!これで襲われた時は・・・まぁみんなでがんばろう!」
意を決し、モンスターに明かりを照らす。するとまさか--
「・・・血塗れ・・・怪我だらけで全く動かない・・・・・・やっぱり--死んでる・・・!」
Sランクモンスターであるムルタマヌスは、何故かCランクダンジョンにおいて血だらけで死んでいた。




