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鉄の修羅

「--血溜(ちだ)まり演舞(えんぶ)人畜(じんちく)一叫(いっきょう)。こやつらは妾よりは少し劣るが、それでも其方らを殺すには十分じゃろう?」


鮮血で形作られた20もの人形が、それぞれ武器に手を変化させ並び立つ。その光景に、マルロは見覚えがあった。昔の記憶などではない、まさに今日見たのだ。


「・・・お前が何故・・・ルドラさんと同じ技を使っている?・・・誰しも思いつくような技ではないだろうに」


マルロのその呟きに、蛇姫(だっき)は首を傾げる。


「ルドラ・・・?誰蛇それは?聞いたこともない」


それに対し、華蛇(かだ)は顎で手を当て考え込む。


「ルドラ・・・ルドラ・・・昔そんな子がいたようないなかったような・・・まぁ、いないか。忘れてるのならいないのと同じですしね」


「そのルドラと言う人間がどんなものかは知らんが、それと妾を比べるでない!頭が高いわ!」


蛇姫は自分が絶対であることに強い執着を持っているらしい。故に自分の技が誰かと比較されることに大変憤りを感じているようだ。


「華蛇!妾の人形に銀をコーティングするの蛇!」


「了解で〜す。ほらっ!」


華蛇は血溜まり人形の武器に銀でコーティングを施し、その強度と鋭さをさらに増させた。


「姉弟の共同作業ですね姉上!」


「気色が悪い。もう其方は喋るな」


暴言とともに、蛇姫は人形を動かして始める。


「・・・さて、準備は整った。今から始めるのは一方的な殺戮蛇。しかしそれだけでは面白みに欠けるのでのぉ。必死に断末魔を上げて盛り上げるがよい」


蛇姫が手を前にかざし、それを合図に人形達が前進を始める。


「おいマルロさんよ!流石にこの数相手は1人じゃ無理だぜ!俺らもまだ戦える!だから--」


そんなバルクの言葉を、今度はマルロ自身が静止した。


「すいませんバルクさん。お気持ちはすごくありがたいし受け取るべきなのでしょう。ですが・・・私にも意地がありますので・・・!」


「--ッ!・・・意地って・・・はぁ。ほんとバカばっかりだな。--分かった。だが、ほんとに危ないと思ったら無視して割り込むぞ」


「ええ、それで構いません」


マルロは手を鉄に変化させ、前進を始める。彼の選択は正しくはないのだろう。だが、一線を退いたとはいえ、やはり彼も冒険者なのだ。


「ふん。この数に、しかも妾の作り出した人形相手に1人とは・・・なんのつもり蛇?」


「悪いねぇ。冒険者ってのは元来、どっか頭のおかしい奴らの集まりなのさ・・・!」


「そうかえ。では・・・その頭の悪さを後悔しながら--死ね」


20体の人形が、一斉にマルロ手がけ進撃を始める。先頭にいるのは手が鎌のものと、槌のもの、そして剣になっているものだ。


マルロも、腕を剣にして応戦する。どの武器もまともに食らってしまえば怪我では済まない。攻撃の加わる部分により集中して強度の高い鉄に変化させる。そして、攻撃を仕掛け隙があるやつを剣で斬り付けられた。


だが、液状であることの強みがここで出される。


斬り付けられた部分を補うように血液が流動し、傷口がなくなってしまう。しかもよりマルロを苦しめたのが、意志のない人形である、という点だ。


冒険者時代、その手で何匹もの命を刈り取ってきた。モンスターだけではない、稀だが極悪人の討伐依頼が舞い込むこともある。その時は人も殺した。そんな彼が今まで戦ったことのない相手、それが、意志のない相手だ。正確には恐怖心がゼロの相手と言うべきか。


どんなモンスターでも、どんな人間でも、殺されると認識すれば一瞬萎縮する。それに、殺されることを織り込み済みの戦い方など普通しない。だが目の前の敵はそれを平然とやってのける。意思がないから、恐怖がないから平然と無茶な戦い方が出来るのだ。


「(くそっ!こんな無茶な戦い方をする奴は初めてだ。それにこの再生能力、どうすれば復活することなく倒せる?)」


近づく敵をなぎ倒すが、敵は減るどころか増えていく。


目の前で大剣を振り上げた人形を横薙ぎに斬りつける。すると、斬り付けられた人形の腹から、銀の刃が出現し、マルロの腹を掠め取った。


「(こいつ、仲間の腹越しに刺してきた。いや、仲間という認識もないのだろう。本当に厄介だ)」


その後も徐々に怪我は増えていく。先ほどのような不意打ちや、前方への注意により、背後からの奇襲。判断が遅れたことにより回避し損ねる、ということがあり、身体中からは血が流れている。


「(とにかく数を減らさねば--) 地出鉄剣(クレイモア)(シルクルム)!」


全方位に鉄の剣山を作り出し、20体全てを一定の高さへと押し上げた。


両手を大剣に変化させ、その高さまで跳躍し、体を捻りながら人形達を斬り付けた。


鉄剣輪廻フェロアヌルマラディオ!!」


横一閃に斬りつける大技。直接斬り付けられた個体。そして斬撃の衝撃で20体全ての体が真っ二つになる。


本来ならこれで終わりなのだが・・・


地面に落ちるまでの短い間に、人形達は体の結合を始め、まるで何事もなかったかのように復活した。


「くっ・・・!落下させ原型を留めなければ復活はしないと思ったんですがね・・・その確認もさせてくれないと・・・」


マルロは受けたダメージ、流れる汗、そして策が全く意味をなさなかったことによる心理的ダメージが大きいのか、膝をついてしまう。


「(・・・なぜだ?この程度でここまで疲れるはずが・・・体が、重い・・・!)」


この場に蓮達が居れば気づいたのだろう。だが、一度も戦ったことのない彼らは失念してしまう。知っているというのに。


先程までマルロが受けた傷。これらは直接マルロの体を斬るなどし、つけたものだ。そしてこの人形達は蛇姫の血で構成されている。つまり--この人形には神経毒が混ざっているのだ。これは蓮達が戦ったモンスターも使用してきたものだ。この毒は相手の体を麻痺させる効果がある。それを傷口から直接入れ込まれている、普通に動けているのがどちらかと言えばおかしいのだ。


しかしマルロ始め、この場にいる者は全員その可能性を頭に入れれていないのだ。ほとんどのものが擬人モンスターと戦った経験がないのだから仕方がない。しかもモンスターとしての特徴は体の構造しか残らないと思っている。ゴブリンの鼻や蛇の2枚舌などだ。


「・・・一体・・・何をした?・・・体が・・・痺れてきた」


「ふん、ようやく効いてきたのか。其方も其方で化け物蛇のう。それは神経毒蛇よ。血の中に仕込んである」


「--ッ!・・・そうか、確かにサーペントブランク(白い蛇のようなモンスター)には神経毒がある。その特性を・・・持っているとは・・・!見落としていたよ」


神経毒により体が麻痺し、地に膝をついているマルロを見て、蛇姫は高笑いをしだした。


「ふふ・・・ふふふ・・・ふははははっ!ようやく頭を垂れ這いつくばったのぉ!そもそも、人間如きが妾達より頭が高いなど、あって良いはずがないの蛇!!ははははっ!」


一頻り笑った後、再び冷たい声で人形に命令を下す。


「余興は終まい蛇!そろそろ殺してしまえ!」


その指示のもと、人形達が一斉に飛び出した。数体がマルロに斬りかかることが出来る間合いに入った瞬間--


「--あなたなら、勝手に動いてくれると思ってましたよ・・・!」


ぐしゃりと、複数の物体が潰れる音が流れた。その数2や3ではない。7つもの物体が、同時に音を立てて崩れていった。


「何蛇?それは?」


「この状況をひっくり返すのにぴったりな技を思い出したんですよ。腕が2本しかなく、相手できる数に制限があるのなら--増やせば良い!」


マルロの背中から、10本の鉄の腕が生え、それが高速で人形を殴り飛散させた。


「--鉄拳(てっけん)阿修羅(あしゅら)。やはり、体を残らず散らせてしまえば再生しないようですね(確実にスピードは落ちている。だが、移動するエネルギーを全て殴ることに集約してしまえば--やるしかない!)」


マルロは全ての手を構え、わずかな笑みを浮かべた。


「--さぁ、第2ラウンドだ!」







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