鉄の砲弾
「--鉄拳・阿修羅--さぁ、第2ラウンドだ!」
背中を鉄の拳に変化させることで20体の血人形を相手取らんとするマルロ。完全に散らせることで再生しないことが判明したが、だからといって状況が大きく好転したわけではない。
「チッ!小癪な・・・蛇が、状況は変わらん。たかが7体やられただけ蛇。それに・・・」
蛇姫は再び指の腹を噛みちぎり、自身の手から手を吹き出させる。そして--
「血溜まり演舞・人畜の一叫。所詮此奴らは妾が作り出した傀儡。減ったのならまた作ればよい」
せっかく減らした7体が、あっさりと復活してしまう。
「くそっ!埒が明かないですね・・・バルクさん!私の背後に砂で壁を作ってもらえませんか?前方の攻撃だけに集中したいので!」
「えっ?お、おお!」
バルクはマルロの背後に頑丈な砂の壁を作り、背後からの不意打ちに備える。
「ありがとうございます!これで不意打ちを気にせず戦えます!」
マルロはより相手を潰しやすいよう、一つ一つの手を大きな鎚に変化させた。そして一斉に殴り付ける。
「鉄拳・阿修羅・十二裁鎚!」
放たれる十二の拳が人形たちを叩き潰していく。神経毒により体が麻痺しているはずなのに、それを全く感じさせない動きだ。
「--チッ!面倒くさいのぉ。何故毒が効かんの蛇?」
蛇姫は再び潰された分の人形を追加する。
「その人形の動き、大体理解できましたよ。もう当たりません--地出鉄剣・鉄旋」
地より出でる剣が人形たちを突き刺し、そして旋回し飛散させる。飛び散りグロい、という理由で封印していた技だ。
「なんなん蛇・・・!小癪なぁーー!!」
今度は人形を20体・・・ではなく、30体も作り出した。
「おやおや・・・これはいけませんねぇ」
華蛇は小さくつぶやいた。その小さすぎる呟きは誰の耳にも届かない。
「ここに来て・・・ですか。そろそろ痺れを我慢するのも限界に近いです・・・この1発、これでやれなければ私の負けですね」
最後の一撃。マルロは全ての腕を引き、狙いを定める。その拳は散開するする人形にではない。狙いはそう--
「この人形も、本体が潰れれば意味もなし!-- 鉄神の超砲撃弾!!」
十二の拳は人形を通り越し、一直線に蛇姫を捉える。これで終わり、その覚悟で放った攻撃は、防ぐために近づいた人形たちを、触れることなく吹き飛ばした。
「チッ!この程度の攻撃・・・防ぐことなど造作もないわ!!--血糸の--ッ!(なっ?)」
技を発動し攻撃を防ごうとしたその瞬間、突如蛇姫の膝が地につき、立ち上がれなくなる。
「(何蛇?何蛇何蛇何蛇何蛇何蛇?!何があった?立てん・・・このままでは--死ぬ!!)」
死の恐怖に怯え震える蛇姫。しかし放たれる拳は情など見せず止まることはない。
「や・・・やめるん蛇!妾は・・・こんなところで死ぬような者では--」
「死になさい--化物が」
けたたましい衝撃音が鳴り響き、砂埃が舞う。マルロの拳にも感触があった。確実に直撃した。
「・・・すげぇ・・・勝っちまった・・・!」
「油断すんじゃねぇよ!まだ弟の方が残ってんだろうが!」
「・・・ふん。現役の時に比べれば・・・落ちたな」
など、口々にマルロ勝利に対する呟きを放つ。誰しも勝利を疑わなかった。この男を除いて。
「・・・まさか・・・これを止めますか・・・?」
「--ふふっ、まさか気付かれてしまうとは・・・残念ですねぇ」
飄々とした声は、砂埃の中から放たれる。誰しもがその声と光景に絶望する。
「再び登場!・・・ですかね?そう言ったものを嗜んだことがないので分かりませんが」
砂埃が晴れた時、笑顔で、そして無傷で謎のポーズをとる華蛇の姿が現れる。目の前には大きく凹んだ分厚い壁がそこにあった。
「やはり・・・強いのはあなたの方でしたか。幹部補佐など・・・冗談でしょう?」
「いえいえ、ワタシは姉上の補佐ですよ!それに今のはたまたまですし。--そうだ姉上、あんなに血を使ったら貧血で倒れるに決まってるじゃないですか。気をつけないとダメですよぉ、ここで死んでも意味ないのですし」
なんとか無理して立ち上がった蛇姫は、助けてくれた華蛇に対し邪険に扱う。
「うるさいの蛇!ここで死ぬ?そんな訳なかろうが!妾は最強になる・・・そして復讐してやるの蛇!!そのために・・・脳無しを早く食らわんと・・・」
「ふふっ!・・・という訳なので、ワタシたちはそろそろ追いたいのですが、まだ通す気にはなりませんか?」
「なる訳ないで・・・ぐっ・・・しょう・・・が!!」
マルロは神経毒の影響により、遂に膝をつき、魔法を強制的に解けてしまった。目もどこか虚だ。視点が定まっていない。
「おやおや、もうボロボロではないですか。早く治療したほうがいい!じゃないと死んじゃいますよ!・・・ほら、早く」
華蛇はニコニコと退散を促す。怪我の酷さと退散を促す。冒険者としての誇りを的確に侮辱する行為だ。
「貴様・・・貴様・・・程度に・・あの人たちは・・・追わせな--」
「--もういいマルロ。よう頑張ったのぉ。今度は・・・儂がやろう」
マスターがマルロの肩を叩きながら、華蛇の前に前進する。
「マスタ・・・ぐっ!・・・行けません!あれほどの相手にあなたの体では--」
その言葉に面倒臭そうな顔をしたマスターは、マルロの口をつまみ、大きく開けさせた。
「マスター?何・・・」
何か言いかけたマルロ。だが、その口は大きく開けたまま動かすことができない。しゃべることも同様にだ。
「さて、始めるかのぉ」
「・・・どんな魔法でしょうか?まぁ取り敢えず、そこの地面、崩れますよ」
宣言通り、地面は音を立てて崩れゆく。マスターは予見していたのか予め空中へ避難していた。
「空中に回避・・・あまり良い手とは思えませんねぇ--銀弓の--」
華蛇が魔法を発動する直前、マスターは剣を鞘抜き出した。それと同時に鞘も腰から外し片手で握る。
「距離10メートル。斬撃でもとばしますか--」
「・・・ へっ・・・!納刀術--仕舞い斬り」
カチャリと音を立て納刀される。せっかく抜いた刀を振ることもせずただ納刀した。
「・・・一体何を・・・--ッ???!!!!!!」
突如、華蛇の体に十字の切り傷がつけられる。あまりに唐突に、そんなそぶりを見せたのは--マスターだけだ。
「何を・・・やったんですか?・・・ワタシ昔からあなたのファンでしてね・・・教えてくれませんか?」
「ファンなら知っておけ!と言いたいところじゃが、まぁほとんど使わんしのぉ。無理もないか・・・これは、反転魔法。嘘付。起こした行動と反対の事象が起きる。納めれば切れ、撫でれば殴る。口を開けば黙らせれ、毒を含めば・・・回復する。儂には神経毒は効かんよ」
「なるほど・・・面白い魔法ですねぇ(確かに面白い。なるほどこれは・・・あの人達もこだわるのも、分かるかもしれないですねぇ)」
「では・・・両者交代じゃ--第3ラウンドと行こうかい--!!」




