鉄の猛攻
蓮達を逃すため殿を務めていたバルク達4人の前に、ギルドマスター、そして受付のマルロが現れる。
「マスターが相手とは--酔狂ですねぇ・・・!」
「本来なら儂だって出とうないんじゃがな。可愛い孫を逃すためじゃ--全力で刈るから覚悟せぃよ・・・!」
マスターは拵えた髭を触りながら、目の前の敵に威圧する。
「マスター、まずは俺がやります」
「うむ、頼んだぞマルロ。・・・あと、口調戻っとるぞお主」
「あっ・・・私が行ってきます」
マルロは敵をしっかりと眼前に捉え、警戒する様にゆっくりと向かっていく。
マルロをただの受付だと思っているグニラを除くバルク達3人からは、心配の声が上がる。
「おいおい、あの人大丈夫か?元冒険者なのかも知れねぇが、だとしても最近は全然戦ってねぇだろ?」
「マスター、あいつの力を甘く見ない方がいいです。1人でどうにかなるレベルでは・・・」
「そうそう!俺らもまだ戦えるし!みんなでやった方が確実だって!」
3人の反対が飛び交う。そんな時、1人の男が発した地面を砕く音が、飛来する反対を強制的に黙らせる。
「--お前ら、黙ってみとけ。マルロが任せろっつったんだ。なら・・・大丈夫だ」
グニラは真っ直ぐマルロを見据える。その眼は、目の前の受付が負けるとは一切思っていない。どう勝つか?ただそれだけだ。
「おや?マスターが出てくるんじゃないんですか?・・・ま、いいですけど」
「すいませんね。マスターはあなた程度では出せないんですよ。あなたには・・・私程度がお勧めです」
マルロは重心を下げ、臨戦態勢を取った。対する華蛇は構えもせず無防備だ。
「構えない・・・そうですか。これで死んでも、文句は無しですよ?」
「ええ勿論!それにこれはあれですよ、一見隙だらけだが隙がない、ってやつです」
「それは・・・他人が言うもんだ!--地出鉄剣!」
技名を叫ぶと同時に、華蛇の足元より鉄の剣が剣山のように現れた。突然のことに、思わず華蛇は空へと逃げた。
「おわっと!--びっくりしました。いつの間に・・・なるほど、足元から」
マルロの魔法は鉄魔法、鉄兵。体を鋼鉄に変化出来、体の構造、そして長さなどもある程度変形することが出来る。
そして先ほどの攻撃は、自身の足裏を鉄に変化させ、地面を伝い剣状にして相手にぶつけた、と言う訳だ。
着地した華蛇は、今の攻撃でマルロに対する評価を改めた。
「なるほど、これは・・・油断したら死にますね」
「--それはどうもっ!鉄の嵐!!」
マルロは上空へ移動し、両手を鉄棍に変化させた。そしてその拳で相手を何度も殴り付ける。その速度およそ1秒に10発。
「おっ!おわっと!無茶苦茶な速さですねぇ!これは、避けるより止めた方が楽そうだ--超えられぬ2位の壁」
銀の壁を展開し、鉄の乱打を防ぐ。何度も何度も衝突し、そのたびに金属音が鳴り響く。
「壊れませんね、ではパターンを変えますか」
マルロは手を戻し、拳同士を重ねて合わせた。そしてその拳を1つの大きな鉄の塊へと変形させ、勢いよく振り下ろす。
「これなら、どうですかね!--墜鉄隕!」
振り下ろされた一撃は、今までの比ではないほどのけたたましい音を放ち、そして--壁を打ち破る。
「すごいですね、これ破ったの3人目ですよ。じゃあ今度は、こっちの番ですかね--銀華・六千ノ舞」
打ち砕かれた壁の残骸を華の形に形成し直し、マルロへと放つ。
「華ですか。普段は好きですが、今はただ・・・鬱陶しいだけですね。散れ--鉄剣旋刃!」
両腕をそれぞれ大剣に変化させ、体ごと大きく旋回する。それにより発生する風と衝撃波が華を寄せ付けず、全て落花させた。
「今度はこちらから行きましょうか」
高速で華蛇のもとへと近づきながら、手を通常の形のまま鉄に変化させる。
「--ッ!(早い・・・!) 超えられぬ2位の--」
「--遅い!」
マルロは壁を張られる瞬間、左足を鉄に変化させ、地面を押し蹴ることで加速した。
--不味い。そう思った華蛇は咄嗟に左手を前に差し出した。
「鉄拳逝砕!!」
掴まれた左手は鉄の腕により紙コップの如く糸もたやすく握りつぶされた。
「--ッ!!(このまま掴まるのはよろしくないですね。・・・仕方ない)」
華蛇は右手で銀の刃物を作り出し、肘から先を切り落とした。そしてその隙に後方に下がる。
切り落とした手から止めどなく血があるれ出す。そんな状況にも関わらず、華蛇の顔は飄々としたままだ。
「姉上〜、この血、止めてくれません?このままだとワタシ多分死にますよ!」
「--チッ!その程度銀で固めれば良い蛇ろうが!妾を煩わせるでない!」
「ははっ、怖い怖い」
華蛇は断面に手を触れ、銀でコーティングすることで止血した。すると、蛇姫は急に立ち上がり、血の糸で切り落ちた腕を回収した。
「ん?もしかして繋げてくれたりします?」
「そんな訳なかろうが。其方が不甲斐ないからのぉ。妾も参加してやろうと言っておるの蛇!」
「そうですか!流石姉上!お優しいことで・・・で、ワタシの腕をどうするので?」
蛇姫はその質問に無言で答えた。
持ってきた腕を糸で縛り上げ、そして強い力でそれを--絞り上げた。
足元には腕にあった血が水溜りのように地に溜まる。そして、干からびた腕は適当に放り捨て、溜まった血を自身の目の前へと移動させる。
右手中指の腹を噛みちぎり、そこから流れ出る血を先ほどのたまり血に混ぜ合わせた。
「何のつもりか分かりませんが、邪魔させてもらいますよ!鉄の嵐!」
蛇姫が何か仕掛けてくるのを止めるため攻撃を仕掛けたが、華蛇に止められてしまう。
「ダメですよ、姉上の邪魔をしては」
溜めた血を混ぜ込み、そしてその塊を自身の目の前に分散させた。分散した血は徐々に形を成していった。
「これは・・・ルドラさんと同じ・・・?」
血溜まりは20体もの人型になり、その手は剣や斧など、様々な武器の形を成していた。
「--血溜まり演舞・人畜の一叫。これは人が人を踊るように殺す一興が見られる技蛇。因みに、こいつらは妾より少し弱い程度蛇、絶対に其方らは死ぬ・・・!」
「・・・さて、どうするか・・・」
血にまみれる怪物が、鉄の男に襲いかかった。
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一方その時逃走組は--
「ここが・・・先ほど言っていたダンジョンか?」
「そうだよ、ここを抜けないとティルザさんのところには辿りつけないの」
「私が先陣を切るから、カミラは真ん中、ディアスは後ろをお願い出来る?」
「ああ、任せる」
逃走組は、精神科医であるティルザのもとへ向かうため、ダンジョンの前に来ていた。
一刻も早く逃げなければいけない為、早速ダンジョンに足を踏み入れようとしたその時--
「--その人達、怪我をしているのかしら?」
ダンジョンの中から、突如女性の声が聞こえてきた。その声は穏やかで、包み込まれるような不思議感覚に陥らせる。
「誰・・・ですか?」
レヴィの質問に返答する為、その声の主は姿を現した。
「ごめんなさいね、警戒させるつもりはなかったのだけれど」
出てきた女性は、とても長く、そしてしっかりと手入れがされている艶やかな黒髪。一部三つ編みをしている。声と同様顔つきも穏やかで、着ている黒いローブがその漂う気品をさらに引き上げている。
「えっと・・・ごめんなさい、私たち急いでるので」
「急いでる・・・ね」
そう呟き、蓮とアリアに視界を向けた。
「・・・急いでるって言うのは、そのお2人さんのことかしら?だとすれば余計に私の話を聞いた方がいいと思うわ」
「・・・手短にお願い出来ますか?」
レヴィ達3人は目で会話をし、頷いた。半信半疑ではあったが、女性の話を聞いてみることにした。
「勿論よ。私は所謂回復魔法を扱えるの。だから、その2人の怪我を治すことが出来るわ」
「--ッ!」
回復魔法。一行にとって、正直ものすごくやってほしい状況だ。これ以上この怪我のまま放置はしたくない。だが同時に時間がないのがネックだった。
「・・・どうするレヴィちゃん?回復してあげたいとは思うけど、だからってそんな時間ないよね?」
「・・・うん。正直いつ追ってくるか分からない状況だし、一刻も早く逃げないといけないんだけど・・・」
と、ここでディアスが決断の決め手となる発言をする。
「では、回復を5分間やってもらおう。5分では大して回復出来ないだろうが、やらないよりはだいぶマシだろう?」
ディアスのこの発言に、2人も納得した。
「あの・・・5分間だけ回復してもらうというのは出来ますか?私達、別のことでも急いでまして・・・」
そんなレヴィの言葉に、目の前の女性はクスリと笑った。
「ふふっ!安心して、5分もいらないわ」
「・・・えっ?」
その発言に、その場にいた者全員が耳を疑った。それもその筈、最高峰といわれる回復術師ですら、ここまでの怪我を治すのには10分はかかるだろう。それを5分とかからないと言ったのだ。
「あの・・・貴方は--」
「・・・怪しい者。・・・なんてね!」
そう言って女性は、懐から不思議な入れ物に入った液体を取り出した。
「それは・・・一体?」
「安心して、変な物じゃないわ。結構いい薬だから、20秒くらいで治ると思うわ」
「20・・・秒?!・・・ほんとに何者ですか貴方・・・?」
「そんな回復術師聞いたことない・・・!」
「・・・(本当に誰なんだこの人は?そのレベルの回復魔法を使う人が、無名な訳がないと言うのに・・・)」
女性は不思議な入れ物の蓋を指で弾き外した。すると、中からキラキラと輝く粉が噴き出したと思えば、その粉が蓮とアリアに付着し、2人が光輝いた。するとどうだろう、ひどい有様だった傷が、みるみるうちに消失している。
「嘘・・・こんな魔法みたことがない・・・!」
残りの2人も同様な感想を漏らす。その後はただ感嘆を漏らすしかなかった。
20秒後、光が消え、それと同じく本当に傷はきれいさっぱり消え、まるで戦いなどなかったかのようだった。
「すごい、ほんとに20秒で治っちゃった!」
「・・・あっ、あの!ありがとうございます!!・・・でも、どうお礼していいか・・・」
「お礼なんて要らないわ。そもそも私から声を掛けたのだし。ほら、もう行かなくていいの?急いでるのでしょう?」
そう言って女性はダンジョンの方に手を向けた。
「えっと・・・ほ、ほんとに、ありがとうございました!いつか絶対お礼はしますので!失礼します!」
2人も同様に謝礼をし、ダンジョンへ向かおうとした時--3人の体が光輝いた。
「えっ?これって・・・!」
「餞別よ。疲労を回復してくれるわ。それじゃあ、またどこかで会いましょう!」
そう言って、女性はダンジョンとは反対側へ歩いて行った。
「・・・ほんとに何者だったんだ?」
「何者でもいいじゃん!怪我直してくれてあたしたちの疲労までとってくれんだから!--ってか体軽っ!」
「取り敢えず、今は急ぎましょう。蓮たちは・・・まだ気絶したままだけど、多分すぐ目を覚ますと思う」
こうして、謎の女性の助けにより蓮たちの怪我が完全に治り、さらにレヴィ達の疲労まで取れた状態でダンジョンに入ることが出来た。
「--さて、あの子達の行く末はこれでどうなるかしらね?楽しみだわ」
謎の女性はそう小さく呟き歩いて行った。




