殿
魔導祭にてBランク準決勝が行われていた時、突如擬人モンスターである蛇姫と華蛇が現れ、応戦した蓮とアリアは意識を失ってしまった。
そして今は、意識のない2人を担いでカミラの透明魔法により会場を抜け出し、走りながら今後の話をしている。
「この後どうしよう?とりあえず医務室いった方がいいかな?」
「・・・いや、やめておいた方がいい。本来ならそうしたいが、この会場に止まっていては、殿をしてもらっている意味が薄くなる。ひとまずオレ達ができるのは・・・逃げることだけだ」
ディアスは、何もできない悔しさから歯軋りをする。逃げるしかない、その事実に他の2人も表情を暗くした。
「そういえば、あいつらどうやってこんな早く到着したんだろ?調査隊がやられたって報告から全然時間が経ってないはずなのに」
レヴィの疑問に対し、事情を知らないディアスは疑問を投げかけた。
「調査隊?なんのことだ?それにやられたって」
「そっか、ディアス君聞いてないもんね。あたしたちがモンスターに襲われたダンジョンあるでしょ?あそこを調査しにいった調査隊の人達が殺されたんだよ。・・・多分さっきの奴らに」
「・・・確かに、レヴィの疑問は当然だね。オレ達が向かった時は6日かかったのに。どうして・・・いや、この話はやめよう。まずは今どうするかだ」
ディアスのこの発言に、全員頷いた。
「出来るだけ遠くて、あまり人のいないところの方がいいわね。他の人を巻き込まない自信がない」
「人気は避け遠い場所・・・ダンジョンしかないか・・・しかし今の状態では危険か?」
「・・・・・・あっ、そうだ!」
皆一様に頭を抱えていると、突然カミラが何かを思い出した様に声を上げた。
「えっ?なにカミラ?いい場所あった?」
「うん!ティルザさんのとこだよ!」
「ティルザ・・・誰だいそれは?」
「精神病のお医者さん。ここからいけない距離じゃないし、なおかつ人が全然いないの。どう?ぴったりじゃない?」
ディアスとレヴィはお互い顔を見合わせ、そして頷いた。
「分かった。そこへ行こう。案内頼めるかい?」
「うん!そうだ、ディルザさんのところには1つダンジョンを通り抜けないといけないんだ。でも安心して!Cランク以下のダンジョンだから」
「カミラそういうことは早く・・・いや、他に選択肢なんて思いつかないもの。行きましょう、ティルザさんのところへ」
こうして一行は、精神病の医者である、ティルザの元へ向かうのだった。
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「--ぬぅぅぅん!とりゃあ!」
大きな鉄の斧が、とてつもない衝撃とともに地面を破壊する。
魔導祭会場にて蓮達を逃すため殿を務めたグニラ、バルク、ルニア、エトラの4人。何度も攻撃を仕掛けるも、一向に当たる気配がない。
「チッ!ちょこまかと」
「怖いな〜。たった1人に数人がかりなんて、どれだけ自信がないのやら・・・というか早く通してくれませんかねぇ?早く行かないと姉上に殺されちゃうので」
「姉上姉上ってよぉ。お前・・・その姉より強いだろ?」
蓮も感じた疑念を、バルクは直接相手にぶつけた。
「・・・ふふっ、煽ててくれてありがとうございます。ですが本当に急いでいるので通してくれませんか?今通してくれたら4人とも見逃してあげますけど」
華蛇はニコニコと対応する。嘘で塗り固められた笑顔だが、事情を知らねば騙されるだろう。
「兄貴、あいつ完全においら達のことしたに見てますね。まぁ実祭1ダメージも与えれてないんですけど」
「耳を貸すなエトラ。私たちの役割は殿。つまり出来るだけ遠くに逃すことができればそれで勝ちです」
「ほぅ、たまにはいいこと言うじゃないかメガネ」
「ルニアです!」
そんなやりとりに痺れを切らしたのか、蛇姫が華蛇に声を張り上げる。
「おい華蛇!なにをしとるん蛇?そんな虫けらどもさっさと殺してしまわんか。それとも、この程度も相手に出来んと?」
「いやだな〜。勝てないわけないですよ。わかりました--真面目に殺ります・・・!」
華蛇は一歩ずつ前進し、4人のもとへ近づいていく。ゆっくり、ゆっくりと。
「おいメガネ、お前も一緒に放て」
「ですからルニアです。・・・ともかく、用件は分かりました。・・・ふぅ。69%--解放」
グニラは全力で魔法を使い、最大の腕力のまま斧を地面に平行に構える。ルニアは体に影響が出ないギリギリまで解放し、同じく平行に剣を構えた。
「いくぞ・・・ルニア」
「・・・はい!」
「2人して同じくポーズをして一体どうしたんです--」
「「--凪払い!!」」
横薙ぎされた一閃は、衝撃波となり華蛇目掛け放たれた。衝撃波は地面は抉り、砂埃を纏う。さらにけたたましい風が会場中に響いた。
「ほう、これはこれはすごい威力だ。ですが残念、突然地面がいくつも隆起し、衝撃波の威力を弱めます」
「なにを言って--なぬっ?!」
突然、宣告通り地面がいくつか隆起し始め、華蛇を守る土壁となった。
「これだけでは心許ないですねぇ。ではこうしますか--銀膜加工」
隆起した地面に銀の膜が張られ、強度が増す。それでも衝撃波は相当な威力らしく、いくつも破壊されたが、華蛇の目の前の地面を壊したところで威力が完全に落ちた。
「壁12個。生身で受けたら大変だったでしょうねぇ。よかったよかった」
そう言って再び歩みを始める。
「くそっ!どうなってんだありゃ!奴の魔法は銀魔法だろ?何で地面を操れる?」
「知らねぇよ!考えるより攻撃だ!」
バルクは3つの砂嵐を作り、相手の肉を抉らんとする。
「くらいやがれ!--全てを奪い尽くす砂嵐!!--どうだ?前よりも威力は上がってんぞ!これなら少しは--」
「--残念ですが、その程度の技はもう効きません」
銀の華が舞い、砂嵐をかき消した。そして中からは全くの無傷で華蛇が現れる。
「ほらね」
「・・・まじかよ・・・!くそっ!--蟻洞!」
華蛇の足元が砂に変わり、バランスを崩させた。そこに4人全員が技を畳み掛ける。
「今だ!ブチ込めーー!!砂神の裁き!!」
「空気剣--見えない処刑道具!!」
「(この一回だけだ--)75%--解放凪払い!」
「今度こそ真っ二つになれい!--隕石の如し!!」
4人の攻撃が同時に一点に向かい放たれる。
「--ふっ・・・良いですねぇ、仲間って感じで--」
華蛇は足元から大量の水銀を放出、そしてそれらを自身の周りで周回させ渦状にし迎え撃った。
「銀渦・常ノ巻」
銀の渦と4つの攻撃がぶつかり合い、爆発が起こった。地面は割れ砂埃が舞う。間近で爆発が起こったルニア以外の3人は耳を押さえている。
「チッ!耳が痛いわ!」
「爆発の音ってこんなにするんすねぇ」
「--ッ!・・・お前ら、油断すんなよ。いつ向かってくるかわからねぇ--」
「--まったく、その通りですねぇ」
砂埃の先から聞こえてくる飄々とした声。明るく軽く薄っぺらなその声の主は、顔を少し擦った程度で、ほとんど無傷の状態で現れた。
「いや〜効きましたよ!すごい痛いです」
「テメェ、あんまり馬鹿にすんなよ。何が効いただ?顔擦ってるだけじゃねぇか」
「ふふっ、ワタシとしてはすごいやられてるんですよ。という訳で、散々やられましたからねぇ、今度はこちらの番ですかね」
4人は一斉に目の前の敵に警戒し、臨戦態勢を再び取る。
しばしの静寂、風も吹き付け影が伸びる。
「(一体なにをしてくんだ?こちらの番とか言っときながら全然なにもしてこねぇ・・・なんか暗くねぇか?もう日が沈んだの--か?」
ふと空を見上げたバルク。その先にあったのは青い空と白い雲--ではなく、銀の剣に銀の斧、銀の鎚に銀の支柱だった。その数100以上。
「まさか・・・ありゃ俺と同じ--ッ!逃げろお前らぁ!落ちてくんぞ!!」
「言ったでしょう?こちらの番だと--そこの地面、崩れますよ」
4人のいた地面が崩落し、全員バランスを崩す。バランスが崩れたことで逃げる暇がらなくなり、降る脅威を待つしかなくなった。
「(--クソッ!クソクソクソクソクソッ!--結局対して足止め出来なかったな。済まねぇ。お前らも、付き合わせて悪かったな。最後の最後で兄貴として大したこと出来なかった--ちくしょう・・・!)」
心の中で後悔を募らせながら、バルクは目を瞑った。
武器の雨は4人目掛け降り続け、全て降りきるのに1分もかかる程だった。地面には大量の武器が突き刺さり、その凄惨さを物語っている。
「・・・終わりました、かね?--姉上、終わりましたよ!そろそろ行きましょうか!」
「遅い!いつまで遊んどるん蛇?妾を待たせおって。あとで覚えておれよ、華蛇」
「ふふっ、怖い怖い。では早速脳無し探索に--」
「--もう帰んのかい?折角来たんじゃ、一つ付き合わんかい」
その声は、何故か銀で作られた無数の武器の中から発せられる。
年老いたような男の声。今にも介護生活が始まりそうなほど老いさらばえた声のはずなのに、そこに含まれた殺意はアリアのそれに匹敵していた。
「これは・・・なるほど、これはこれは。お初にお目にかかりますよ--ギルドマスター」
武器が吹き飛び、中にはギルドマスター、そして受付のマルロが、4人を助けるようにそこにいた。そのおかげなのか、彼らには落銀による怪我は見受けられない。
「マスター?それにあんたは・・・受付の」
「マルロです、お見知り置きを」
「マルロさんって強いんだ!おいら知らなかった・・・」
「私もだ・・・」
皆が驚愕する中、グニラだけはマルロに対し不満なのか、それとも別の感情なのか、ともかく睨んでいた。
「よぉマルロ、テメェ戦えんのか?長いこと離れてやがったくせによ」
「ふっ、安心していなさいグニラ。私達に--いや、俺たちにまけせて寝とけ」
マルロ・ケレス。冒険者ギルド受付にして--元Sランク冒険者。
「そうじゃぞお前さんら。ゆっくりしておけ。この畜生共は--儂らが潰しておくわい」
「強者2人が・・・・・・ふっ!なんともまぁ--酔狂ですねぇ」




