蛇の恐怖
「--やぁ脳無し君。キミを--迎えに来たよ--!」
突如目の前に現れた擬人モンスターの華蛇。奴は薄気味悪く笑いながら、飄々とそう言った。
「・・・なんで・・・?なんでお前がここにいる?」
「教えてもらったのさっ、キミ達人間の仲間にね。いやぁ〜親切な人ばかりで今思い返しても泣けてくるよ!」
なに・・・言ってんだ?・・・こいつ・・・?だって、その人達は・・・お前が--
「・・・お前が、殺したんだろ?」
それを言われた華蛇だが、全く動じている様子がない。変わらなすぎて恐ろしい。
「そうそう!ワタシが殺したんだよ。もう聞くことなかったし、姿も見られてたしね!・・・あれ?キミなんで知ってるの?」
「お前に話す義理は無い!そもそも、なんでもうここに--」
「--じゃあワタシも話す義理はないかな。あっ、そうそう。今回用があるのはワタシじゃない。ここに来たのはただの付き添い--」
まだ話の途中だったにも関わらず、奴は途中で切り上げ、ある一点を見つめていた。またもや薄気味悪い笑顔をしたかと思えば、急に俺の胸ぐらを掴んだ。
「--ッ!なにを--」
「ごめんね、ちょっと手荒だけどもう引き渡すね!」
奴は掴んだ胸ぐらを持ち上げ、俺を空へと投げ捨てた。
--と同時に先ほどまで見つめていた方向に銀魔法を展開し出した。
華蛇が警戒していたもの。赤い髪を靡かせ、雷と殺意を纏った1人の女性。それは--
「--全てを裂く雷魔の鉤爪!!!」
「ははっ!強力ですねぇ!--あぁ、なるほど。その風体にその魔法。そして目の前の敵を対面しただけで殺せるとまで言われるこの殺意。そうか、あなたが--」
--アリアさんだった。俺たちとの特訓で見せてくれた雲を裂いたあの技。しかもそれを以前とは比べものにならないほどの威力で放っていた。--だが
華蛇にその一撃は届かない。銀をカーテンのように放出し、先端を地面に突き刺していた。それにより雷は全て地面へと流れて行ってしまった。
一瞬同様したアリアさんだったが、すぐに冷静になり、俺に視線を移した。目の前の敵の討伐より、俺の安全を確保することを選んだらしい。
俺の方に踏み出したアリアさん。だが、その足が俺の方に向かうことを許さない者が1人。
「--その地面、崩れますよ」
華蛇の突然の宣言。直後、何故かその宣言通りアリアさんが踏み込んだ地面は大きく音を立て崩れ始めた。
「--ッ!!--蓮!!!」
バランスを崩しながらも、必死に俺に手を伸ばすアリアさん。俺もそれに応え手を伸ばす。--その時、アリアさんの足元に光り輝くものが見えた。その色は--銀。
「アリアさん避けて!!」
「--えっ--?」
突如地面から溢れ出した大量の水銀が、アリアさんの周囲を纏い、そしてそれが幾数の鋭利な棘へと変貌した。
「よそ見とは、寂しいですよ--銀薔薇の庭園」
「--ッ!!!!」
全ての棘が、余すことなくアリアさんの体を貫く。声にならないほどの痛みがキリキリとアリアさんの体を蝕んでいく。
「この間の冒険者の時は油断しましたからねぇ。今度は、ちゃんとやりますよ」
--嘘だろ・・・?アリアさんが、手も足も出ていない?・・・それにあいつのあの強さはなんだ?あの時は半分どころか4分の1も出してなかったんじゃないか・・・!
くそっ!こんな時に俺はなにしてる?空中に投げ捨てられて落ちているだけ。師匠がこんなに頑張って俺を助けようとしてくれてんのに、俺は--
「--ほう・・・其方が今回の脳無しかえ?」
落ちていく中で、急に首元を何かに掴まれた。そして聞こえてくる聞き覚えのない女性の声。恐る恐る顔をあげると、肩には掛からない程度の白い髪に、目下には何やら赤い染料を使っているのか、化粧が施している女性。勿論見たことがない。だが、その風体から一瞬で察することが出来た。
「・・・お前・・・あいつの姉か?」
大した根拠はない。だが、真白い髪、そして浮かべられた薄気味悪い笑みから、華蛇の仲間だとはすぐに分かった。そして刹那、奴が以前[姉上]という言葉を発していたことを思い出した。
「何蛇、知っておったのか。つまらんの」
--この時俺は、不思議な感覚に陥った。目の前の敵は、華蛇とは違いその声色は幼く冷たい。浮かべる笑みもやはり不気味だ。だが何故だろうか?こいつからは華蛇ほどの脅威が感じられない。以前奴は姉上に殺される、そう言っていたが、何故か俺には目の前の敵が華蛇より強いとは思えなかった。
あれ?というか今どうやって空中で止まってるんだ?もしかしてこいつ!飛行魔法なんじゃ--
そう思い足元を見ると、そこには真っ赤な糸のようなものが張り巡らされており、こいつはその上に立っていた。
「なんだ・・・これ?・・・赤い糸?」
「華蛇!早う帰るぞ。妾は一刻も早く貪りたくてたまらんの蛇!」
貪る・・・!なにを?俺を?・・・やっぱりこいつ、俺を食おうと・・・!
このまま大人しく連れ去られるわけにはいかない。俺は右手に雷を集中させ、一か八か攻撃を仕掛けた。
--が、それはバレていた。張り巡らされた糸の一部が分離し、俺の右手を縛りあげた。そして--
「餌の分際で妾に歯向かった罰蛇。喜んで受けろ--」
腕を縛る糸が俺の腕を背中に向けて勢いよく引きつけた。
--えっ?ちょっと待って、その方向は構造的に曲がらな--
--バキッ
向いてはいけない方向に腕が曲がり、なってはいけない音がした。右肩の骨を砕かれたのだ。
「----ッ!!!!!!」
声が出ない。この世界に来て骨が折れたことは1度2度ある。だか、ここまでのは初めてだ。涙が止まらない。よだれが滴り落ちる。痙攣がさらに骨に響く。
「ほんと、姉上は酷いことするなぁ。そう思いませんか?・・・アリアさん?でしたっけ?」
嘲笑を投げかけ、華蛇は姉のもとへ歩き出す。
「Sランク冒険者アリア・マクベス。どんなものかと思ったが、華蛇程度に負けるとは・・・思ったよりも脆弱蛇のぉ」
やめろ、アリアさんを馬鹿にするな。そう口にしたいのに、言葉が出せない。思考がまとまらない。
「行くぞ華蛇。十脳最強の誕生を早く--ん?」
姉蛇は見た。血塗れになりながらも立ち上がり、雷を纏い、姉蛇に突撃するアリアさんの姿を。
「蓮"ーーー!!!」
「うるさい雌蛇のう?・・・チッ!操血魔法--」
アリアさんから流れる血が小さな無数の刃へと変貌していく。
「流血の欠片」
無数に生み出された刃がアリアさんの肉を突き刺していく。それによりさらに溢れた血も刃へと変貌し、さらに肉を抉っていく。
それでもアリアさんは止まらない。赤い糸をも突き破ろうと、突撃する。その糸も肉に食い込み抉っていく。
「--ッ!これが・・・どうした!!」
姉蛇の目の前まで到達し、拳を振り上げるアリアさん。だがその拳は銀の壁に阻まれる。甲高く虚しい音が響いた。
「ほんと、ワタシを無視するのが好きですねぇ。もしくは脳無ししか見えていないか」
目の前の壁を破るのは時間がかかると判断したアリアさんは、さらに空中へと飛び上がり、真上からの攻撃を仕掛ける。
「何故そこまで・・・意味が分からん」
姉蛇の言葉にアリアさんが強く反応する。
「蓮は弟子だ!家族だ!それをみすみす連れ去らせるわけには--いかないのよ!!」
「チッ!華蛇!」
「分かってますよー!銀の--」
「--不視無光!」
聞き慣れた声と共に目を開けていられないほどの光が会場を覆った。この技は--
「アリアさん!!今です!!」
「感謝する、レヴィ!!--覆滅せしめる雷の怒り・・・!!」
「何蛇この光は?!おい華蛇!なんとかスウェ--?!!」
強烈に込められた雷をもろに食らった姉蛇は、俺を手放し吹き飛んだ。
その音を聞いたレヴィは光を消した。衝撃で空中を舞う俺。そして手を伸ばすアリアさん。今度こそその手を--
「--残念だが、その手は掴ませないよ」
不気味な冷たい声がいつの間にか俺たちの中央から発され、銀が自身の姿が反射する。
「もう面倒です。死なない程度に痛めつけるとしますね--銀華・九千ノ舞--二分裂季」
俺とアリアさんの周りに銀の花びらが舞い、肉を抉り旋回する。元々のダメージも相まって、意識が飛んだ。それはアリアさんも同様、今にも意識が途絶えそうな様子だ。
薄れいく意識の中で、アリアさんが手を伸ばしていたことだけがはっきり見えた。
「れ・・・・・・ん・・・・・・!」
アリアさんも限界がきたのか、伸ばす手が落ち、その体も真っ逆さまに落ちていった。
「蓮!アリアさん!」
レヴィの呼びかけは何の意味も為さず空虚だった。どちらもピクリとも動かない。
「(どうする?どうすればいい?アリアさんでも敵わなかった相手に私が何かで出来ることは・・・)」
その時、レヴィの耳元でなにかが小さく囁いた。
「--えっ?・・・分かった。それで行こう」
「さて、一番厄介そうな相手も倒し、脳無しも気絶。あとは・・・姉上ぇ!生きてますかー!」
崩れた瓦礫の山に華蛇は呼びかける。すると、その瓦礫を吹き飛ばし姉蛇がボロボロになった状態で現れた。
「・・・華蛇・・・殺せ」
「はい?」
「脳無し以外全て殺せ!!特に、妾を殴った赤毛の雌と光の雌は苦しめて殺すの蛇!!」
青筋を立て怒りに震える姉の蛇姫。その要求に弟の華蛇はニコニコと答えた。
「了解しました、姉上」
華蛇はまず満身創痍のアリアを狙う。銀の槍を作り、アリアに向かい振りかぶった--
「--やめて!・・・やるなら、まずは私からにしなさい」
そう言ってアリアの盾になるレヴィ。
「・・・いいですよ!ではまずキミから、どうしましょうか?まずは目玉でもくり抜きます?」
「なんでもいいわよ。早くして」
しばしの沈黙と睨み合いが続く。そして--
「・・・では、目玉からにしましょうか!そ〜れっ!」
槍が振り抜かれ、レヴィの目玉を直撃した。--瞬間、体を抜け、槍は空気を突いた。
「あれっ?」
「--ディアス!今よ!」
その掛け声と同時に、動けないはずの蓮とアリアが宙を舞い、レヴィに抱きつく。
「これは・・・よく分からないけど不味そうだ・・・!」
全員に当たるよう、槍を横薙ぎするが、先ほど同様虚空を切り裂くのみ。そしてついには--
「--カミラ!お願い!」
華蛇の目の前から全員、姿までもが消失した。徐々にではなく一瞬で。
困ったといった表情で頭を掻く華蛇。そしてヘラヘラしながら蛇姫に尋ねる。
「姉上〜消えちゃいました!」
「なにが消えちゃいました蛇!くまなく探せ!それが無理なら・・・人質は山の様におる蛇ろ?」
蛇姫は視界を一周させ、イラつきと嗜虐心か混ざり合った様な笑みでそう答える。
「ははっ、流石姉上。残忍だなぁ。・・・てことなんだけど、あと10秒以内に出てこない場合、ここにいる人達皆殺しにしちゃうけど・・・いいよね?」
--その時、華蛇の背後で鳴る複数の足音。
「・・・ふふっ、不意打ちしたいなら足音は消さないと--さっ!」
体を半周させ、持っていた槍で横薙ぎする。
その攻撃は読んでいたとばかりにあっさり防がれた。
「あらら・・・防がれてしまいまし--た?・・・おやおや、これはまた・・・懐かしい人がいますねぇ。ほとんど知らないですが」
現れた面々は4人。
「おい、こいつかぁ?アリアと蓮を倒したって畜生は?」
「ええ・・・強いですよ」
「おいら達4人だけで勝てっかなぁ?」
「おいおい、勝つ気でやんねぇと殺られんぞ」
グニラ、エトラ、ルニア、バルクの4人が、蓮達を逃すため殿を務める様だ。
「よぉ白銀野郎、また会ったな。出来れば会いたくはなかったが」
「そうですか?ワタシはまた会えるのを今か今かと待ち望んでいましたが」
4人はそれぞれ魔法を発動させ、臨戦態勢に入る。
「そうかい。だとすりゃ悪りぃな。お前は俺らが--死ぬ気で殺す!」
「それはそれは--楽しみですね・・・!」
迫りくる悪意を止めるため、そして大事なものを逃すため、4人の冒険者は悪意に立ち向かう。




