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レイブン

 ディアスとモイラか戦っていた丁度その頃。


 魔導祭闘技場の外で、黒髪で身長は170センチほどの痩せ型の青年が柱に背を持たれ、口笛を吹きながら立っていた。


「フーフフフー、フフフフフー、フフフフフッフフフー。フーフーフ--」


「--吹けてないわよ、それ」


「ん?・・・あっ!久しぶりですねいやほんとにほんとに!半年ぶりでしたっけ?--イースさん?」


 イースと呼ばれた女性は、長く艶やかな青髪を靡かせ、悠々と歩いてきた。身長は青年と比べても大きそうだ。スタイルもものすごくいい。


「半年?君、とうとうそこまでボケたのね。最後にあったのは2日前よ。しかも私はイースではなくイリスよ。ほんと、女性の名前を忘れるなんて最低ね。取り敢えず死んで詫びなさい」


 彼女は低い声で冷たくそう言い放つ。まるで心の底からそう思っているかのような声色だ。


「怖いなぁイリスさんは。美人にそんなこと言われたら、嬉しすぎてそれこそ死んでしまうかもしれないぜ。その場合、どう裁かれるんだろうか?気になるな・・・死んでこようか」


 青年の方は対して、全く意に返さぬ飄々とした声色だ。


「君のその冗談、一回も笑えたことないから今すぐやめなさい。死ねや殺すみたいな死に関する冗談は、私みたいな容姿の整った人間が言って初めて冗談になるの。君が言っても意味ないわよ」


「ははっ、ほんとひどいなぁ!・・・で?今日は僕になんのようかな?僕はさっきまで怪我で医務室に駆け込んでたほどの重症患者なんだけど」


「・・・ちょっと勝負しましょうか。今の試合、どっちが勝つと思う?直感でいいわよ」


「直感・・・ねぇ」


 青年は顎を捻り捻り捻り、捻りすぎて地面に頭がついた。


「・・・・・・うん。じゃあ意外性でモイラかな。彼の魔法面白いしね」


 その答えの後、イリスは目を閉じ、しばらく黙りこくる。そして1分後、再び目を開けた。


「結果・・・出たわよ。--残念、ディアスの勝ちね。まぁ順当に予想すれば当然なんだけど。それにしても、ほんとに勝負に弱いわね、君。そうだおめでとう、連敗記録更新ね。--カリス君」


 --カリス。この青年はBランクの冒険者で、魔導祭でも一回戦敗退をした。


 カリスには伝説がある。それは、生まれてから今まで勝負で勝ったことがない。ということだ。現時点で分かっている彼の連敗数は406。つまり、406連敗を起していると言うことだ。そんな彼につけられた異名は、--全黒(ぜんこく)。一度も白星をとったことがないからだそうだ。そしてこの話は恐ろしいことに事実だ。実際一度も勝てたことはない。そういう体質なのだ。


「いやー、ありがとうございます!美人に褒められるとすごい嬉しいですねぇ。やる気が出てきましたよ!・・・ってあ、もう負けてましたね!」


 カリスは腕を頭の後ろにやり、ケラケラと笑っていた。これは無理にではない。自然と笑っていた。


「まぁ、大会という形において、君に負ける人間はいないわ。確かにこの間なんてEランクの子にすら負けてたわよね?ほんと、恥だから外でないでくれる?呼ばれたときだけ出るようにしなさいよ」


「ほんと、イリスさんは僕にきついよね?いややめないで欲しいんだけどさ。・・・でさ、僕はいつまでこの自分が哀れに敗北した会場で、吹けない口笛を吹いていればいいんだい?いい加減踵の痛みが脹脛までやってきそうなんだけど」


「そのまま痛みが全身に回り、のたうちまわった後痛みが口から吹き出して死になさい。と言いたいところだけど、グッと堪えてあげるわ」


「流石!ちょう優しいね!」


 イリスは髪をかき揚げ、本題に入る。


「--あるダンジョンに人間擬きのモンスターが現れた。そこにいた調査隊は全滅したみたいよ。まぁそれ自体はどうでもいいけど、ギルドが行け行けうるさいからね。--チーム"レイブン"、すぐ出発よ。行けるわね?行けなくてもついてきなさい」


 イリスは踵を翻し闘技場をあとにしようとする。しかしそれをカリスがぐずり出す。


「え〜!僕この後医務室のお姉さんたち口説きに行くっていう大事な約束、しっかり残ってるんですけど」


 その言葉を聞いたイリスは、そのまま会場とは別方向に歩き出し、カリスを置き去りして進み出した。


「残念ね、そこに行けば君に白星を飾らせてくれるモンスターが現れるかもしれないのに。あぁ、本当に残念だわ。だけどしょうがないもの、本人がいないのだから!」


 カリスはゆっくりと耳をひくつかせ、じっくりとその話を耳に入れた。


 カリスはイリスの目の前に現れ、左手で顎を触り、右手でカッコつけた指差しをしながら、キメ顔で語る。


「仕方がない、仕方がないのさ。危ないダンジョンに美人1人のみを向わせるなんて、そんな危険なことやらせられないだろ?僕がまもろうじゃないか。僕が一緒についていってあげるよ。それとついでに、僕の暗黒に染まった戦跡に一筋の光を灯しに行きたいからね。そっちも纏めて僕も行こうじゃないか」


 そう言い、イリスの方へ歩を進めていく。その顔は言いたいこと言えてスッキリ!と言った感じだった。


「都合の良い男・・・だけど、嫌いじゃないわ。早くきなさいよ、うすらノロ停滞連敗男。ごめんなさい間違えた、カリス君」


 2人はイリスが用意していた馬車で乗り込み直接ダンジョンへ向かう。因みに他の仲間は全員乗っている。


 乗り込む直前、カリスは小さく、誰にも気付かれないくらいの声で呟いた。


「さて・・・今回の旅は一体何個黒がつくかな?すげぇすごく・・・楽しみだ・・・!


「ん?何をやっているの?早く乗りなさいもしかして馬車に乗るってことすら忘れたのかい?だとしたら用済みだから捨てたいんだが」


「ははっ、この程度なら問題ないよ。しかもこの程度なら大したことがない上、魔法にしても攻撃魔法でも付与魔法でも、回復魔法でもない。自分でもよく分からない魔法だよ?戦力1からは外しといてね!お願いしまーす!」


「ええ勿論、最低限囮には役立ってよね。じゃあ--行くわよ」


「うん、早く行こうか!」


 カリスはゆっくりと馬車に乗り込んだ。


 ギルドBランク 406分の0。勝数--406分0だ。 そして同時に--相手につけられた傷は--一つもなかった。





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