ディアス対モイラ
魔導祭Bランク3回戦第3試合。ディアス対モイラ。試合は、いきなりモイラが吹き飛ばされるという展開から始まった。
「--嘘だろ?あの雑魚ディアスがこんなに強い訳ねぇ!」
モイラは吹き飛ばされた壁に背中を押しけ、少し震えながらそう言った。そんなモイラに微塵も同情することなく冷たく呟かれる声。
「--早く立ちなよ。そんな強くやってない筈だが?それとも、君はこの程度かい?」
「この程度・・・だと?んな訳ねぇだろうがこの腐れボンボンが!!」
「君、自分で言ってたよね?オレが貴族落ちしたと。頭を打って記憶が飛んだのか?」
容赦なく飛ばされるトゲのある言葉。よく大人が言う、厳しく言うのはお前のためを思って、とかではない。完全なるトゲ。攻撃する気しかない、花が毟り取られた薔薇だ。
「ぐっぅぅぅ!テメェほんとに調子乗んなよ?さっきのは油断しただけだ!オレが本気を出せば、テメェくらい余裕なんだよ!」
そう言ってモイラは右手を引き殴りかかるポーズをとる。だがディアスとの距離は5〜6メートルほど離れている。
「ん?一体なにを--」
「押し潰す拳!!」
突如、モイラの右腕のみが巨大化し、その拳が振るわれる。数メートルの距離など始めからなかったかのようにその拳は目の前の相手との距離を詰めていく。
だが--
「--なにっ?!」
拳はディアスの目の前で進みを止める。いや、止められたと言うべきか、ともかくモイラがどれだけ力もうとそこから距離が縮まることはない。
「自己に酔いし先導者。絶対に何かはしてくると思っていたのでね、あらかじめ防御壁を張らせてもらっていた。・・・さて、この拳はそろそろ退かして貰おうか--打ち付ける民衆の糾弾」
突きつけられた拳に連続で重力がぶつけられる。地面へと減り込み、抜け出すことができない。
「ぐっ、うぅぅ!その技・・・やめ・・・やがれー!」
モイラは全身を巨大化させた。全長10メートルと言ったところか。大きな足を振り上げ、勢いよくそれを叩きつける。
「技打ててるってことは全身にバリアいる訳じゃねぇんだろ!これで潰れちまえ!ーー叩きつける右脚!!」
「--チッ!」
ディアスは迫りくる足を後方に下がり避けた。モイラの予想通り全身には張っていなかったようだ。
地面には大きな足跡。威力はとてつもない。だが、それ以上に厄介なのは--
「随分と早い攻撃だね?まるで元の大きさで攻撃されてるようだ。それでいて範囲と破壊力は馬鹿にならない」
そう、モイラの魔法で1番厄介なのはここである。
「へっ!だろう?オレ様の魔法[大成]はあらゆるものを大きくする。それも細かく設定できてなぁ、今のは体のみ大きくしたんだよ!この魔法の1番いいところは大きくしたところ以外は変わらない点だ!つまりなにが言いたいか分かるか?」
「・・・なるほど、体を大きくしても重さは変わらないということか。それであのスピードという訳だな。なるほどこれはなかなか厄介な魔法だ」
「へっ!流石はディアスだ!正解だぜ!だがなぁ、分かったところで変わらねぇよ!」
モイラは先ほど足で開けた穴に手を触れる。
「・・・?・・・なっ!まさか!」
「へっ!遅せぇ!--深淵の開放!」
開けられた穴がモイラが魔法を使ったと同時に拡張された。ディアスは一瞬理解が遅れ、穴に足が入る。
「ディアスゥ?重力食らったことあるかぁ?」
モイラはディアスに手をかざし、振り下ろす。
「落ちろや!超重力!」
「--ッ!」
ディアスの周りの重力のみ大きくし、地の底へ叩き落とした。そして、モイラは拡張した足跡を解除、元の大きさに戻す。そしてそれと同時に先ほどと同じ大きさに体を変化させた。
「今テメェはこの足跡の中にいる。そして聡明なテメェなら今からなにされるか分かるよなぁ?そう!ご明察の通りだ!もっかい足突っ込んで踏み潰すんだよ!」
足を振り上げ、先ほどと同じ位置に叩き下ろす。その足は綺麗に以前の足跡にハマり、勢いよくディアスに向かって進んでいく。
「--はぁ、蓮との試合まで出すつもりなかったんだがな。こうなったら仕方ない」
今踏み抜かんとしたその瞬間、その足は歩みを止められ、距離が縮まらない。
「(チッ!またあのバリアか?にしてもあの状態でバリア張るたぁやるじゃねえか)」
「残念だが、これはバリアではない。防ぐために使った魔法じゃないからね、これは、君のその足を退かせるための技だ」
その宣告通りか、モイラの体は少しずつ浮き上がり始める。それと同時に、隣接する地面がひび割れ始め、音を立てて崩れ始めた。
「ん・・・んだこりゃ?押し返せねぇ!つか地面が揺れてやがる?」
崩れていく地面が、次第にモイラと一緒に浮き上がり始める。そして会場の地面のおよそ半分に及ぶ面積の地面と、モイラが浮き上がった時、1人ディアスだけが地面に立っていた。
「先程のお返しだ。君が打ち付ける重力を見舞いしてくれたからねぇ。こっちは、突き上げる重力といこうか」
ディアスは右手拳を上に掲げ、自分の周囲に円状の空間を張る。そして、その空間に入ったもの全てを、突き上げる重力で閉じ込め倒す。
「叫べ--自由を手にし掲げる拳--!」
突き上げられる重力の奔流が、モイラの体を勢いよく、それでいてじわじわと削っていく。共に打ち上げられた地面は、もはやその原型を留めていない。
「--ッ!!!(--なんだ?なんだこれは?いつまで続く?何日?何週?何年?一体いつ終わってくれる?)」
実際の時間で言えばほんの数十秒。だが、食らっているモイラからは、すでに何日も食らいつっけているかのような感覚らしい。それも仕方がないだろう、全く同じ痛みが慣れることなくずっと続き、声すら出すことができない。おかしくもなる。
約1分後、技は解かれ、モイラは勢いよく真っ逆さまに落ちてくる。因みにすでに魔法は切れ元のサイズだ。
落ちてくるモイラに対し、ディアスは自身の顔ほどの位置で動きを止めた。そして悠々と歩き、顔を近づけた。
「--やぁ、どうだった?オレの新技は?」
「・・・あ、・・・なん・・・だ?ありゃ・・・?殺す・・・気か?」
「安心しなよ、流石にそんなことはしない。ちゃんと手加減したしね。--で、本題だ。ちゃんと2人のことを馬鹿にしたこと、謝ってくれるかい?今ならまだこの程度で許してあげるけど」
モイラは驚愕した。自身のダメージを、今にも気絶しそうなほどのこの痛みを、この程度と言ってきた目の前の男に。そして、反抗の牙は--完全にもがれた。
「--ご、ごめんなさい」
「よし、ならいいよ。もう言わないように」
「・・・へっ?」
モイラはまたもや別の意味で驚愕した。絶対簡単に許してもらえない、そう思っていたのだが、あっさり許された。この事実に助かったのに生きた心地がしない。
重力のみ拘束が解かれ、地面に顔をぶつける。
「ぐっ!ッ〜!・・・なぁ、なんで・・・そんな簡単に・・・許したんだ?」
モイラはぶつけた鼻を押さえながら恐る恐る聞いてみた。
「何故・・・か。そうだね、オレが昔生意気なだけのダメ人間だったことは知っているだろ?」
「あ・・・ああ」
「その時戦った相手に負けて、なにをされるのかと内心びくついていたんだ。しかもオレのせいで始まった勝負だったしね。だけど、彼は特になにも要求しなかった。いや、人に迷惑をかけるな、とは言われたけどね。だけど、まさかそんな彼に一切得にならないことを要求されるとは思わなかった。驚いたよ、正直何か罠かと思った。だが、実際彼はその後オレに何かしてくることはなかった。ほんとに彼はオレになにも要求しなかったんだよ。その時に知った、許される嬉しさも、誰かの優しさも、自分がしてきたことの愚かしさも。そこからオレは変われた。だから、今度オレが何かされたり言われた時は、謝られさえすれば許そう。そう思っていたんだが、ダメだな。まだ彼のように自然には出来ないな。反省しなくては」
ディアスは自身の手を見つめ、握り拳を作りそれを胸に2・3度当てた。
「悪い、正直さっきの技、手加減できなかった。打ってる最中にあの誓い思い出したからね。手加減したって言ったのは、その方が謝ってくれるかなって思ったからだよ」
「(・・・んだよ、打ち負かされて、謝らされて、許されて、踊らされて・・・完敗じゃねぇか)」
モイラは、腕を目の腕に置き、もう一方の手は地面を叩きつけた。
「・・・そうだ、オレ昔君になにしたの?あんなに突っかかってきたってことは、相当なことしたってことだよな?そのことについて謝りたいんだが、教えてくれないか?」
ディアスはモイラの方に振り返り、疑念をぶつけた。
「それゃ・・・断られたんだよ・・・パーティー、誘った・・・時な」
「・・・・・・誘われたっけ?」
「テメェコラ殺すぞ!--ッ!!痛って・・・マジ動けねぇ」
ディアスは申し訳なさそうに、そしてなんとか思い出そうとする様に顔を背けた。
「2年前だよ2年前!・・・オレらが、どっちも新人だった・・・頃の話だ」
「新人の頃・・・??」
「もういい・・・余計イライラしてくる・・・新人の頃・・・テメェをパーティーに誘った・・・そん時に言われたセリフが・・・「パーティー?貴様がオレとか?ふん。冗談もいい加減にしろ、貴様程度、オレの役に立つわけがないだろ?」と言われた。・・・どうだ?・・・腹立つだろ?」
ディアスはようやく思い出したのか、すごく引きつった顔をしていた。表情筋が痙攣している。
「ご、ごめんなさい。それに関して、100オレが悪かったです。すいませんでした」
ディアスは黒歴史を解錠されたときのような蓮のように目が死んでいた。恐らくディアスに黒歴史ノートをあげたら、真っ先に書くほどの黒歴史なのだろう。
「・・・もういい!オレも・・・許してやる。だから・・・よ。・・・オレと、パーティー・・・組みやがれ!」
「・・・ほう、蓮曰く積ん出れというやつか。確かにギャップはあるな」
「真面目に聞けや!--ッ!」
大声を張り上げるたび痛む体。その度にモイラは自身に対してイライラする。学べよ!と。
「しかし・・・パーティーを組め、か。・・・よし、こうしよう!実はオレはもう一つのパーティーに誘われていてな。そこにオレが入る条件が、戦ってオレに勝ったら、というものだ。君にもそのルールを適用するとしよう。君がオレに勝ったらパーティーに入ろう。どうだ?」
--これはつまりあれだ、再戦のチャンスをくれているんだ。そう都合よく解釈したモイラ。満面の笑みで、弱々しく、それでいて力強いグーサインをし、答えた。
「おぅ!やってやる・・・テメェに勝って・・・実力でオレに・・・従わせて・・・やる!その約束・・・忘れんじゃ、ねぇぞ!」
多分間違って認識されてるな、そう理解したディアスだが、まぁいいか、と思いモイラに近づき--
「ああ、モイラ、約束の相手。もう絶対に忘れないさ・・・!」
そう言ってグーサインを作りモイラのにぶつけた。
「--!・・・(ダァーもう!)参った!!--ッ!」
『モイラ選手降参!つまりこの勝負、ディアス選手の勝利です!!』
モイラ3回戦第3試合。モイラ敗退。ディアス--4回戦出場。




