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重力の逆鱗

 マスター達と入れ違いに医務室を出たカミラは、アリアのいる観覧席へと向かっていた。


「医務室からって結構遠いな〜。このままじゃ間に合わないかも・・・よし!近道しよう!」


 カミラは魔法を使い壁をすり抜けた。ここから通るのが観覧席までの最短ルートらしい。と言っても、これが出来る者は殆どいないが。


 壁を通り抜けている最中、1人だけこんなところを通っていると言う優越感からか、カミラは少しテンションが上がっていた。


「(ふんふ〜ん!やっぱり移動には最適だねこの魔法!あたしも楽できるし壊したりしてないから誰にも迷惑が掛からない!両得だね!)」


 などと、もう片方になんの得があるのかなど全く考えていないカミラ。そんなことは気にせず悠々と壁を抜けていく。


「よし!この壁抜ければ最後だね!」


 そう言って壁の中を走っている最中、外から何やら話し声が聞こえた。


「--おい、それまじかよ?!化けもんって所詮雑魚なんじゃないのか?」


「正直俺もそう思ってたんだけどなぁ。だが事実、調査隊の連中は殺されちまってる。しかも、その中にはAランクレベルもいたって話だ」


 話していたのは魔導祭運営スタッフ。つまりギルドの人間だ。魔導祭に出たくない、そう言う人達にギルドの手伝いと言う体のいい言い訳を与えるため、マスターの命令で雇っているそうだ。


「(・・・えっ・・・なに?化けもん、調査隊、・・・殺された?化けもんって、あたし達を襲って来たやつみたいなものだよね?)」


 カミラは思わず立ち止まり、壁に聞き耳を立てた。


「Aランク!まじかよ・・・そんな奴がいて全滅とか、俺達出会っちまったら即死じゃねえかよ。うわー絶対会いたくねぇ」


「まぁと言っても、滅多に会わんだろう。今まで見つかったことがなかったんだ。それに、ダンジョンでしか見つかってないんだろ?だったらしばらく行かなきゃいい。どうせ時間が経ちゃ、Sランクがなんとかしてくれるさ」


「そ・・・それもそうだな!いやー焦って損したーっ!なぁ、もしその化け物めちゃくちゃ弱かったらどうする?もし俺達が倒したら英雄扱いされちゃったりなっ!」


「ははっ!そりゃいい!そのAランクのやつも、もしかしたらすげぇ弱いやつだったのかも知れねぇな」


「はっ!ありえるわー!」


 --カミラは再び走り始めた。走り、走り、壁を抜け、アリアのもとへ戻った。


「--おっ、カミラお帰--り?ちょっ!どうしたカミラその顔?なにか・・・あったのか?話聞くよ?」


 カミラの表情を見たアリアは、あたふたし始めた。それはそうだろう。友人のため出て行き、その友人の付き添いの為医務室に行き、帰ってきたら--怒っているのだから。


「カ、カミラ?もしかしてあの2人が何かやったのか?」


 2人。そう聞き蓮・レヴィではなく先ほどの2人が出て来てしまい、さらに表情に苛立ちが浮かぶ。


 うわっ、本当にそうなのか!だとしたらごめん!この通りー!私の顔に免じて!」


「別にアリアさんのせいじゃ・・・ん?2人って・・・ああ、そっちか」


 カミラはやっと2人の人物が誰なのか理解し、アリアに苛立ちを見せてしまったこと、それにより謝らせてしまったことに反省した。


「あの・・・すいません!あたし、勘違いしてました。あと、勘違いで謝れせてしまってすいません!それと、大丈夫です。蓮くんとレヴィちゃんには何もさせれてないですよ」


 アリアは安堵と同時に疑念を生じさせた。


「はぁ、良かった・・・ん?とすればカミラは何にあそこまで苛ついていたんだ?なんとなくカミラはおっとり系なんだと思っていたからすごく驚いたよ」


「はははっ、えっと・・・(どうしよう、あれって言っていいのかな?でもこそこそ話してたってことは一応機密な案件ってことだよね?だったら話すべきじゃないのかな・・・)」


 カミラは少し思案すると、結論を出した。


「すいません!忘れました!」


「・・・はい?」


 カミラが出した結論は、言わない、だった。あの2人に何かあるのは全く持って構わないが、マスターに迷惑がかかる可能性があること、そして不要な警戒をさせてしまうのではと言う不安から、取り敢えず言わないことにした。問題は逸らし方。無言、言い訳、逃走、気絶させる。色々考えてみたが、最終的には、アホになってとぼけるというやり方をとった。これならば今後何を聞かれても「忘れました!」でなんとかなる。その算段の元、これがベストと判断した。


「忘れたって・・・忘れたものにイライラしてたの?それとも忘れたことにイライラしてたの?どっちにしろえ〜とは思うけど」


「(くっ!分かってますよ!ああもう!これでアリアさんにこの子変。リストに入れられちゃったよぉ!・・・だけどこれで問題ないはず!我慢だよカミラ!)」


 この頑張りが無駄になることを、カミラはまだ知らない。


「あ、あたし昔頭打った時に記憶力減ってしまいまして〜、この年になっても向上してくれないんですよねぇ。いや〜ほんとに困った!(ちょっとくさすぎたかな?)」


 自身でもら無理があるだろと言う言い訳をしてみたが、どうだろうか?


「--そう・・・だったのか。・・・大変だったなぁ・・・!」


「(えっ?嘘!?ほんとに信じた?ちょっとちょろすぎないですかね?)・・・し、信じてもらえて嬉しいです!--あ、そういえばディアスの試合どうなったんですか?」


「ん?あぁ、今からだよ。地面がまた壊れたからね。「あぁ、またか・・・」みたい顔して直してたな。不憫だった」


「ははっ・・・」


 カミラは片方だけ口角を上げ、苦笑いを浮かべた。なにせ自分も壊したからである。


『Bランク3回戦第3試合!ディアス選手対モイラ選手です!』


 名前を呼ばれ2人が入場する。


「あっ、ディアスくん来ましたよ!そういえばあたし、ディアスくんの試合まともに見れてないんですよねぇ。強いですか?」


「強いのは強いよ。だけど、まだまだ本気を出してはなさそうだからね。実際どれくらいやるのかはいまいち分からないな」


「へぇ〜、頑張れーディアスくーん」


 ディアスとモイラは所定の位置につき向かい合った。


 モイラは金の髪をモヒカンに拵え、指をパキパキと鳴らしながらディアスに向かい激しく捲し立てた。


「--よぉディアスゥ!テメェが貴族落ちしたって聞いた時は狂喜乱舞したもんだぜ!何故って?これで堂々とムカつくお前を潰せるからなぁ!」


「・・・おそらく、昔オレが何かしたんだろうな。すまない。あとこれもすまない--君には負けないよ」


 言い返されたモイラは顔に青筋を浮かべる。


「おいテメェこら・・・忘れてんのも知んねぇが、実力的にはオレの方が上だったんだ!あんまでかい顔してっと--」


「今を語れない奴に負ける気がしない」


 その言葉を聞いたモイラ。意表を突かれたからか、黙り一瞬硬直し、下を向いたかと思えば、突然笑い出した。


「--へっ!へへへっ!へははははっ!--ディアス、テメェはオレを完璧に怒らせた。罰として半殺しにしてやるよ・・・!んでもってそのあとテメェについてる糞どもも半殺しに--」


 その瞬間、空気が変わった。


 穏やかに吹いていた風が、まるでなにかを刻むような音に変わったような、それほどのピリつき。


「・・・モイラ、あの2人を半殺し・・・よし、覚えた。もう忘れない。--忘れてやらない」


 ディアスは目を見開き、目の前の敵を睨みつける。その今にも殺して来そうな目に、モイラは2・3歩後ろに下がった。


「おい、ちゃんと線の上に立ちなよ。じゃないと、始めれないだろ?」


「(な・・・なんだ?コイツ?コイツこんな顔できる奴だったか?ついこの間まで権力をかざして調子に乗ってるだけの雑魚やろうだったじゃないか!・・・そうだ、雑魚だ。こんな短期間でめちゃくちゃ強くなれる訳ない、大丈夫だ、オレは負けない・・・あんな雑魚には負けない・・・!)」


『それでは準備はよろしいですか?--では、3回戦第3試合、ディアス選手対モイラ選手。試合--開始!』


 開始と同時に、モイラは攻撃を仕掛けようと構えた。--瞬間。


「--廻り訴え続ける民衆達(ヴォルティス)--!」


 モイラは腹を中心にぐるぐると旋回しながら壁へと吹き飛ばされる。


「--ッ!?なに、が・・・こんな威力・・・雑魚ディアスが・・・出来る訳・・・!」


「Bランク冒険者モイラ。君に宣告してあげよう。君は・・・オレが圧倒的に潰す。2度とあの2人を狙おうなんて思えないくらいにね」


 調子に乗った冒険者は、重力の逆鱗に触れてしまった。冒険者は、先ほどのことを心底後悔することとなる。












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