抜け落ちる
「蓮くん、大会抜けて"ティルザ"さんのとこ行って来なよ。アリアさんに聞けば多分知ってるから」
「ティルザさん・・・?なんでその人のとこに・・・?」
「その人は精神病のお医者さん。彼女は--過去を見ることが出来るの」
何故かいきなり手が痙攣しだした俺を見て、カミラが精神病の医師の元に行くよう勧められた。
「いや・・・でも、まだ大会残ってるし・・・」
「だからっ!そんな状態で戦うよりその痙攣の原因調べた方がいいんだって!たかが魔導祭でしょ!もう少し自分を心配しなよ!」
カミラはものすごい剣幕で向かって来た。今にも殴りかかって来そうなほどだ。
「だ・・・大丈夫だよ!ほら!痙攣収まってるし、せっかくここまできたんだ。行くなら行くで終わってからでも大丈夫だって」
「ーーッ!君ね--」
「--じゃあさ、次の試合でカミラが勝ったら大人しく行くってことでどう?」
それを聞いたカミラは呆然と立ち尽くしていた。
「・・・・・・えっ?何言ってるの?自分の病気でしょ?なんでそこに委ねるの?」
「大丈夫だって。負けるつもりはないから。あと、ありがとうカミラ。心配してくれて。でもほんと・・・大丈夫だから」
そういうと、カミラは先ほどまでの怒気がなくなり、おとなしくなった。そして、俺の横を抜けどこかへ歩いていく。
「ん?カミラ、どこ行--」
「--アリアさんとレヴィちゃんのとこ。今のこと全部2人に伝えてくるから」
振り返りそう言ったカミラの目は、冷たく、そして哀れみに満ちていた。
「--むよ」
「・・・なんて?」
「--頼むよ。言わないでくれ。それを言われたら、もう俺のところに帰ってきてくれない気がする。理由はうまくいえないけど・・・怖いんだよ、今まで当たり前にいた人が居なくなるのが」
「--ほんと、君って人は--」
カミラが手を振り上げる。多分殴られるか張り手か・・・いずれにせよこれでもし気が収まってくれるなら安いもの--
--パァンという音と共に顔に痛みが走る。やっぱり張り手--えっ?
正面を向き、目に映ったのはカミラではなく、レヴィだった。しかも、何故か目に涙を溜めている。
「レヴィ・・・?なんで・・・?」
「叩かれた意味、分からない?泣いてる意味、分からない?私もあなたが分からない。なんで・・・そんなに自分を大切に出来ないの?なんでその程度で、私達がいなくなると思っちゃうの?」
そう言ったレヴィの目は、怒りなどは混じっていない。只々、悲しみのみがそこにあった。
「いい蓮・・・!少なくとも私はその程度であなたから離れたりしない。それで離れるんならもっと前に離れてるわよ!ねぇ、仲間ってそんなに軽いもの?脆いもの?朧げなもの?私はあなたを信用して信愛して信頼してる。だけど・・・あなたはそう思ってくれてないのかなって思うと・・・ちょっと悲しいな」
レヴィから放たれる慈しみの言葉。その言葉は俺の心をじりじりと抉っていく。
そんなことない、俺もそう思ってる。そう口に出したいのに・・・先程の言葉と矛盾し言葉が出ない。本当に、本心で信頼したい、そして信頼してるつもりだ。俺に心の病があるかも知れない、そう言った程度で離れるような人たちではないとちゃんと知っている。分かってる。なのになんで・・・俺はそれを拒絶した?
「--あなたは私たちの為だけに生きるの--」
「--こんなので手を煩わせないでよ--」
「--はぁ・・・産むんじゃなかった--」
何故か夢に出てくる女性の声が聞こえてきた。なんでだ?今まで夢でしか出たことないのに。
「・・・ごめんなさい」
--今、俺何に謝った?誰に?何に?なんで?
「蓮・・・棄権しよ。今のあなたに、戦わせたくない」
レヴィの優しい声。彼女が本当に心配して言ってくれているのが伝わる。だけど--
「・・・俺、アリアさんに優勝するって約束してるから。俺はそれを果たさないと」
「アリアさんはそんなこと望んで--」
「あっ!こんなことしてる間に試合結構進んでんな!ほらカミラ、次俺たちの番みたいだぞ!早く行こうぜ!」
「蓮・・・?なんで?なんでそんなに・・・」
突如、カミラは俺の胸ぐらを掴み、こう言った。
「指宿蓮くん。君に勝ったらいうこと聞くって約束、まだ生きてる?」
「えっ?あ、ああ」
「そう。良かった。・・・待っててねレヴィちゃん。この馬鹿、気絶させてでも連れ帰るから」
そう言ってカミラは会場へと足を進めた。
俺もそれに追付いし--
「--待ってよ!」
レヴィが俺の服の裾を掴み離さない。
「なんで行くの?そんなにボロボロなのに・・・ダメよ。行かせない」
優しさが辛い。そう思ったのは初めてだ。彼女に他意はない。そこには悲しみと心配する心のみが入っている。それが伝わるからこそ・・・辛い。
「・・・ごめんレヴィ。これが俺の・・・わがままだ」
俺はレヴィの手を振り解き、会場へと向かった。
2人が行ってしまったあと、レヴィはしばらく立ち尽くし、そしてその場でしゃがみ込む。
「・・・私、守るって言っときながら、何も出来てないじゃない。・・・何よ、なんなのよ!なんで・・・そんなに人の為なの?」
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『さぁBランクもここまできました!3回戦第1試合!新生指宿選手!それに相対すはこれまで全て無傷で勝ち上がって来たカミラ選手だ!』
俺たちは歓声を背に会場へと足を踏み入れる。
「蓮ー!頑張れー!」
アリアさんは俺に向かって声援を送ってくれたので、俺はそれに対して手のみで返答した。
「・・・蓮?・・・なんだろ、何か違和感が・・・」
アリアは事情を知らない為確信には迫れていない。だが、蓮の様子がいつもと違うことはなんとなく察した。それを蓮は気づいていない。
俺たちは所定の位置に付き、試合開始のアナウンスを待つ。
「指宿蓮くん。あたしはレヴィちゃんの為に君に勝つよ。ボコボコにするつもりでだから覚悟してね」
「悪い、それはよしてくれ。俺グニラにもボコボコにされてて、しかもその前で吐いてるからさ、これでまた医務室行ったら笑われてちまう」
『それでは指宿選手対カミラ選手。それでは--始め!』
--直後、カミラの姿が目の前から消えた。素早く移動したのではない。透明魔法だ。
姿を消し不意打ちで気絶させる。これがカミラの必勝パターン。しかしこれの攻略方法がある。それは--
「(これで終わりだよ指宿蓮くん。背後から首を叩いて気絶させる。そして早くティルザさんのところに--)」
カミラが蓮に触れる瞬間、手先になにかピリツキを感じた。しかしもう何かできる距離ではない。カミラは構わず攻撃を続ける。そして今攻撃が当たろうかという瞬間、何故か蓮はしゃがみ込み攻撃を避けた、
「--えっ?なんで・・・見えてないはずなのに!」
思わず声を出してしまう。
そのせいなのか、蓮に腕を掴まれてしまった。
「異類無礙」
直後、カミラの魔法が解け、全ての人に姿が見えた。そして掴んでいない方の手で蓮はカミラの首元に手を添えた。
「--カミラ、俺の勝ちだ。その透明魔法は攻略法がある」
「攻略方法?一体・・・?」
「体から微細な電流を発し、触れた時の衝撃や音で判断する。まぁ雷纏ってギリギリの距離だったけどな。観念しろカミラ。俺が触ってる間お前は魔法を使えない」
この発見方法は以前アリアさんと戦った時にレヴィの攻撃をアリアさんが避けたやり方だ。
「・・・魔法使わずに私を気絶させられるの?」
「まぁ無理だろうからな。雷使って気絶させる。カミラの魔法は透明魔法、俺の魔法使わなくても触ってれば意味がない」
透明というのは実態がなくなるわけじゃない。つまりこうやって掴んでおけば魔法を使っても効果がないということ。なので俺は魔法を雷に切り替えた。これで試合終了。そのはずだった。
「・・・仕方ないなぁ」
「えっ?」
何故か、しっかりと掴んでいた手が俺の手からすり抜けた。そして俺の横、ではなく真正面を通り抜け背後から蹴りを入れられた。
「ぐっ!・・・今の?」
「・・・あーあ。レヴィちゃんにも言ってなかったのに。まさか君なんかに使うことになるなんてね」
透明魔法・・・俺が、いや、俺たちがそう思っていたのは違っていたらしい。
「私の魔法は透明魔法じゃない。透過魔法、"透過"。あたしは、あらゆるものをすり抜ける」




