君の意思
魔導祭Bランク。俺の知り合いは今のところ殆どが勝ち上がっている。唯一負けてしまったエトラは、レヴィとの戦いの末敗退してしまったので、正直微妙な気持ちだ。
この辺りになると知り合い同士で戦うことが多くなる。実際俺も次はカミラとだし、次もレヴィはルニア兄貴と戦うことになっている。因みに、唯一ディアスだけブロックが違うので、戦うとしたら決勝だ。
勿論負けるつもりはない。義兄弟だから、仲間だからって理由で手を抜くつもりは毛頭ないーーが、やっぱりいざ戦うとなるとどうなるのか俺は分からない。
ーーと、1人で考え込んでいた俺を覗き込むようにカミラが話しかけてきた。
「どうしたの蓮くん?急に黙り込んで」
「・・・ん?あ、あぁごめん。・・・次の試合からは知り合いと戦わなきゃいけないんだよなって考えたら・・・ちょっとね」
俺は後頭部を掻き毟りながらそう答える。
「ふぅ〜ん、そんなこと考えてたんだ。別に殺しあう訳じゃないんだし、そんな深く考えなくていいと思うんだけどなぁ」
カミラは手を後ろに組み、天井を見上げながら少し抜けた声でそう言った。
「まぁそうなんだけどさ・・・。そうそう簡単に割り切れないのが人間ってやつだろ?」
「蓮くんさ、なんで魔導祭出ようと思ったの?今の聴く限り君別に戦い好きじゃないでしょ?」
まぁ確かに俺は戦闘狂じゃないし、この大会だってアリアさんが勝手に申し込みしてたってだけだ。まぁそうじゃなくても参加しなかったらバカにされるってのでそれ回避のため出てたとは思うが。
「言ってしまえばアリアさんのせいかな。あの人、特訓だってので勝手に参加申し込みしててさ、それで出ることになった」
その発言を聞き、カミラは不思議そうな表情を浮かべた。
「・・・でもさ、後からでも参加拒否なんていくらでも出来るでしょ?なのになんで参加したの?アリアさんのため?」
「そういう訳じゃ・・・バカにされるのが嫌だっただけだよ。レヴィから聞いたんだ、出なかった奴がその年バカにされまくったって。俺初心者だからな、そういうのは嫌なんだよ。怖いの」
その返答に一応納得したようだ。しかし、カミラからまた別の質問が飛んできた。
「ずっと聞きたかったんだけどさ、なんであの時私たちをいの一番に助けに来ようとしてくれたの?」
あの時・・・?あの時ってどの時だ?
「え〜っと、どの時でしょうか?」
「ダンジョンで妙なモンスターに襲われた時だよ。後から聞いたけど、君、真っ先に行く!っていい出したんだって?なんでなのかな〜ってずっと気になってたんだ」
なんで・・・って言われてもな。そりゃあまぁ・・・
「その前にレヴィに助けられたことがあってさ、その恩は返さなきゃいけないって思ったんだよ。それだけ」
それを聞いたカミラは、どこか不満げに聞き返す。
「本当にそれだけ?レヴィちゃんにもあの後聞いたけど、本当にそれだけのために命かけたの?なんで?君命大事じゃないの?」
その言葉を聞いた時、何故かアリアさんの医務室での言葉が脳裏をよぎった。
ーー自分を蔑ろにしている--
なんでその言葉が出てくるかなぁ。関係ないだろ今のに。
「大事に決まってるだろ?だけど体が動いちゃったんだから仕方ないじゃんか。それに結果的に俺死んでないんだし良くない?」
「--ッ!・・・それ、本気で言ってる?本気で結果死ななかったから良いって思ってる?」
カミラの不満そうな顔はさらに強くなる。
「な、なんだよ急に・・・俺そんな変なこと言った?」
「自覚もないんだ・・・。あのね蓮くん。あの日のこと、あたし本気で感謝してる。すぐに助けに行くって決めてくれて無かったらレヴィちゃんも死んでたかもしれない。だけどさ、これだけは言わせて・・・そうやって自分のこと蔑ろにするのやめた方がいいよ!」
カミラは俺の目をじっと見つめ逸らそうとしない。絶対に逃さないといいたげな目だ。
「別に・・・そんなつもりは--」
「だってそうでしょ?見返りもなくただの知り合いレベルだったレヴィちゃんを命かけて助けに行ったり、挙句死ななかったからいいじゃん?なんでそんな風に考えられるの?なんで自分のための意思が君にはないの?」
「自分のための・・・意思?ちゃんと持ってる、助けたいって思ったのだって俺の立派意思だ!それを否定される謂れは・・・ないだろ」
俺は最後尻すぼみになりながら答える。
「君さ・・・自分のために動いたこと殆どないでしょ?あるの?自分が自分の為に動いたこと」
「--ッ!だから、さっきも言ったけど助けたいってのが俺の気持ちで、そんな自分の気持ちの為に動いて--」
「じゃあさ、今までわがままとか言ったことあるの?アリアさんや仲間に対して自分のためのわがまま言ったことある?あと見返り求めたこととか」
わがまま・・・俺は記憶を探り出し、1つ回答した。
「ディアス誘った時とか、パーティに入ってくれってわがまま言った。それに、見返り求めなかったのは求められるようなことじゃないからだ。俺は恩を返しただけで、差し引きゼロだろ」
「まずディアスくんのことだけど、無理やり誘いまくった訳じゃないんだよね?そもそも仲良くなった人をパーティに誘うなんてわがままじゃないよ。そして、見返りの件、試合中声援送るのと命をかけるのが差し引きゼロ?何言ってるの?そんな訳ないじゃん。そういうのが蔑ろにしてるって言ってるの」
「そんな・・・こと・・・」
「君の優しさは素晴らしいと思うよ。誰かを助ける為。誰かを守るため。命を顧みず。それに、誰かといるときの君はすごい面白くて、特にレヴィちゃんといるときなんかからかいたくなるくらい。だけどさ・・・君の、君自身に向ける意識ってどこにあるの?言い方悪いかもしれないけど、君の善意は、刷り込みや強迫観念。もっと言えば洗脳に見えるよ」
彼女のその言葉に俺は思わず声が大きくなる。
「ーー違う・・・違うそんなんじゃない!誰かを助けたいと思うのは俺の意思で、俺が俺に意識を向けないのだって・・・そんなことしなくていいってーー」
ーーあれ?これ誰に言われたんだっけ・・・?
自身で否定しようとすればするほど自分が分からなくなる。本当にどうしたのだろう。異世界に来て記憶が飛んだのか?
訳が分からず俺が文字通り頭を抱えていると、再びカミラが話を続ける。
「・・・別に誰かの為に生きるのが悪いって訳じゃないよ。自分ことをしっかり考えた上で、ならね。でも君のそれは選択じゃない。放棄だよ。思考放棄。ねぇ、蓮くん。君昔何かあったの?一応これでも君の先輩冒険者だからね。話聞くよ。私が嫌ならレヴィちゃんにでもーー」
「ーー嫌だ・・・そんなことしたら・・・また・・・」
この瞬間先程のアリアさんの言葉のように何かがフラッシュバックしたわけではない。脳裏に映像が浮かびもしない。だが、何故か手が震え、体が硬直していた。
「・・・えっ?なんで・・・なんだこれ・・・?」
その様子を見たカミラは心配そうに俺に近づいてきた。
「蓮くん・・・!君、大会抜けて"ティルザ"さんのとこ行って来なよ。アリアさんに聞けば多分知ってるから」
「ティルザさん・・・?なんでその人のとこに・・・?」
「その人は精神病のお医者さん。彼女は--過去を見ることが出来るの」




