お前の名は?
「俺はお前を相手と見なしてやる!小僧の持てる全てを吐き出せ!それを俺が全て返り討ちにしてやろう!」
おっさんが斧を地面と平行に構える。
「全部出す前に・・・あんたを倒す!!」
おっさんは斧を平行に構えたまま体を周回させる。それにより円状の衝撃波が放たれた。
「凪払い!ーーヌゥン!!」
放たれた衝撃波が地面を抉りながら接近する。これではしゃがんでも避けられない。
俺は仕方なく上空に回避する。しかし上空ではうまく身動きは取れない。
その隙をおっさんが見逃すはずがない。
「隙だらけだ!ーー掬いあげる一撃!」
技が飛んでくるまでの刹那、俺は必死に策を巡らせる。その間わずか2秒。
ーー「(どうする?これは魔法じゃないから吸収できないし、かと言って相殺できるほどの技がない。くそっ!あれしかないか!残り少ないのに・・・!」
「ーー一寸光陰」
俺はおっさんの技を一瞬で避ける。
「んなっ!これも避けんのか!くそっ、面倒だな」
この技は体に光を纏うことで光速で移動することが可能になる技。よく雷でこれをやっているが、速度は段違いだ。
しかしこれで残る光のストックは2回分しかない。本当にヤバい時を除いてこれはもう使えない。
ーーまて、今俺は光速で動いてる。今ならあの斧奪い取れるんじゃないか?
俺はおっさんの周りを無造作に走り回り、たまに攻撃するヒットアンドアウェイを行う。勿論こんな攻撃は効かないが、意識を斧から少しでも引き剥がし隙ができたら奪う作戦に決定した。
「・・・チッ!ちょこまかと鬱陶しい。おい小僧!こんな攻撃聞かんぞ!」
よし・・・このままいけばいずれーー
「・・・ああ、そーいうことかぁ」
俺が攻撃を仕掛けるため、再び近づいた瞬間、おっさんはなんと斧を上空に投げ捨てた。
「ーーえっ?!」
突然のことに俺は動揺してしまい、少し速度を落としてしまった。
「ーー甘いわ!!」
俺の隙を突き、おっさんは思いっきり腹に拳を入れた。速度が緩んでいたとは言え光速で動いていたのだ。つまりその勢いも拳の威力に加算され、とてつもない衝撃が俺の腹に直撃した。
俺は少し吹き飛ばされ、あまりの腹の痛みに思わずえずく。
「ーーオェッ!・・・ッァ・・・!・・・やばい、痛い・・・気持ち悪い・・・!」
今までの戦いも痛みはあった。しかしそれは傷などの痛み。今回のようなずっと反芻し続ける痛みは初めてかもしれない。
俺は地面にうずくまるが、なおも攻撃が止むことはない。
先程まで斧でやっていた衝撃を飛ばす攻撃、あれを拳でやってきた。ストレートを放てば後方に吹き飛ばされ、フックを放たれれば横に吹き飛ばされる。その様子は風に踊る落ち葉のようだ。
10発ほど放たれた後ようやく攻撃が止み、そして俺に語りかけてきた。
「小僧、あまり舐めるなよ。俺が力だけでゴリ押しする脳筋だと思ったか?これでも冒険者長いんだ、その辺のガキより死線をくぐってる。あんなよく分からなん動きをずっとしてれば気付くに決まったろうが!それにあの光魔法、お前トップスピードで走っただろう?それも俺からすれば舐めた行為だ!」
トップスピードが・・・舐めた行為?
俺は腹を抱えながら必死にその言葉の意味を考えるが、痛みと気持ち悪さのせいで考えがまとまらない。
「撹乱させるにしても出すべきは8割までだ!残り2割はここぞと言う時まで取っておかねば意味がない!何故か?常に全力で走って居れば相手もいずれなれるからだ!トップスピードになれ、そうなればもうその技は通用せん!そんなことも考えずに俺にあれだけ見せつけたと言うことは、どうせグニラは何も考えていないのだろうと言う、お前の傲りと怠慢と考えの甘さが透けて見える!・・・舐めた行為という意味が分かったかーーガキ?」
・・・・・・くそ・・・!言い返せない。恐らく俺はこの人の言う通りどこか舐めていたのかもしれない。・・・なんだよ、ディアスと戦った時から何も学んでねぇな俺は・・・。
近くに投げ捨てられ、地面に突き刺さった斧があった。そこに映った俺の顔は、なんともまぁ情けないものだった。
結局・・・俺は何も変わらなーー
「ーーお前も悪いが、1番はアリアだな」
「・・・?」
「あいつ、この程度のことも教えてねぇとは、逆に一体何を教えてんだ?はぁ、やはりあいつは個人としては最強クラスだが、指導者としては5流だな。向いてねぇ。まぁ最初からわかってたがな」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れた。
「ーーてよ」
「ん?何か言ったがガキ?」
俺は立ち上がり、2度と聞き返されることのないくらい大声で叫ぶ。
「待てよつったんだ!俺はどんだけ言われても構わない!未熟だからな!だけど・・・あの人のことは悪く言うんじゃねぇ!!」
「そうは言うがなガキ、現にお前は戦闘のせの字も知らねぇじゃねえか?それはアリアが師匠として未熟ってことなんじゃねえのか?あぁ?違うか?」
「アリアさんは俺に色々教えてくれた!魔力や魔法の使い方、この世界の常識やルール、技や・・・戦い方も。俺はなんも知らねぇ空っぽの脳無しだった。それを育て、培ってくれたのはあの人なんだ!それを馬鹿にする奴を俺は許さねぇ!!」
「無茶苦茶だなお前・・・だがまぁ、お前がどんだけ大事にしてきたか・・・それは伝わったさ」
グニラは視線を観覧席に移し、少し笑みを浮かべた。
「さぁかかってこい小僧!俺に勝てば謝罪でもなんでもしてやろう!だが、俺の範囲に入った瞬間、その生意気な頭にゲンコツ入れてやろう!」
俺は両手を地面につけ、クラウチングスタートの体勢で、今出せる最大限の雷を全身に纏う。
「はっ!その体勢、まるで獣だな。だが、雷では先程の光ほどのスピードもでまい」
俺は雷を纏った状態で突撃する。
確かに、このままではあっさり殴られて終わりだろう。そんなことは理解している。だから・・・あんたが言ったことを受け入れ取り入れる・・・!
もうあとわずかで拳の届く範囲だ。冷静に・・・落ち着いて・・・完璧なタイミングで・・・!
「ふん、策なしか!どこまでも舐め腐ったガキがーー!!」
グニラが拳を振り上げる。1番隙のあるタイミング。ーーここだ!
「ーー一寸光陰!!」
雷と光のスピードを掛け合わせ、最大限のスピードで相手の懐に入り込む。
「ーーなっ!しまっーー」
雷、そして光の速度を掛け合わしたことによる勢いを乗せ、俺は全身の雷、そして光を両手に集中させる。
「くらい・・・やがれ!!ーー雷霆神の煌雷!!」
両手に込めた魔法を、前に魔法を叩き込んだ場所に押し込む。
「ぬぉっ!!いかん!魔法をーー」
グニラは魔法を発動しようとしたが、既に遅い。
「ふき・・・とべーーー!!!」
グニラは勢いよく壁に吹き飛ばされ、衝突し砂埃が上がった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・もう・・・動けねぇ」
俺は体力の限界が近づき、膝をつく。頼むからもう終わっててくれよ・・・!
砂埃が晴れ、現れたのは気絶したグニラーーではなく、満身創痍ながら辛うじて立っているグニラだった。
「・・・くそ・・・動け・・・勝って・・・謝らせねぇと・・・!」
俺は必死の思いで膝を立たせようとするが、全く力が入らない。
ダメだ・・・負ける・・・
そう思った時、グニラが途切れながらこちらに話しかけた。
「小僧・・・お前・・・名前は・・・?」
「指宿・・・蓮・・・」
そう答えると、まずは観覧席に視線を移し、そして次に俺を移した。
「ふっ・・・蓮、お前のーーいや、・・・お前らの勝ち・・・だ・・・!」
グニラは前のめりに倒れた。そして静寂が告げる。
「・・・勝った・・・?」
『な・・・なんと・・・優勝候補筆頭であったグニラ選手を破り、2回戦に進出したのはーー指宿選手です!!』
アナウンスが会場全体の意識を戻した。
ウォォォォ!!!と、歓声が上がる。会場全体が揺れてるように感じた。
そして、意識を戻したのは観客だけではない。
「ーーグィッ!グアァァァ!!ーーあっ」
蓄積され、そしてアドレナリンのお陰で紛らわされていた痛みが一気に襲ってきた。その痛みに耐えかね・・・俺は目を剥いて失神した。




