Cランク優勝者
Cランク最終戦、コロニス対イカルガ。コロニスは想定していた勝ち筋を悠々と潰され、苦戦を強いられていた。
「さてと・・・どうすっかなぁ。考えてた作戦これで終わりなんだけど」
「そう、じゃあ今度はボクがいくね」
そういうと、イカルガは目の前の地面を空間魔法で抉り取った。
「えっと・・・何をするんすかねぇ?出来れば教えてくんないっすか?」
イカルガはゆっくりと掌をコロニスの方に向けーー
「ーーダメ」
上空から先程の地面を落下させた。
「・・・ん?正面からは何もーーっておわっ!上っ!」
コロニスはなんとか紙一重で避けるが、その避けた先に空間があった。勢いそのまま入ってしまい、飛び出した先はーー会場のはるか真上だった。
「やべっ!入っちまった・・・え"っ?ここって・・・・・・うぎゃゃゃゃゃ!落ちるーー!!」
「降参するなら助けるよ?どうする?」
イカルガから差し出されたのは死か敗北というコロニスにとってはいいことが一つもないカード。
「はっ!そんなカード引かねぇっすよ!ーー空気を波にしてクッションに・・・!波枕」
コロニスは空気を波に状にし、それを重ねてることで落下の衝撃を和らげた。
「ーーっ!和らげたけど痛い!!くっそ〜あの魔法ずるいな」
手の内を見せまくっているコロニス、そしてそれに対しまだ余裕綽綽のイカルガ。勝敗は誰が見ても明らか。だがこの男は諦めない。
「だけどいいねぇ、なんか楽しくなってきたっす!」
と、ここでイカルガが自身の耳に指を当てた。
「ーーこの音、聞こえる?」
「この音?どの音っすか?」
耳をすますと色々な声が聞こえてくる。風の吹く音、観客の話し声、心臓の鼓動、遠くの方にある海の音も微かに聞こえる。
「気をつけることをオススメするね」
「いやだから何をーー」
その瞬間、あらゆる場所に空間魔法が設置される。その数100以上。
それは観客の前にも置かれ、イカルガやコロニス自身の胸の前にも設置された。そして最後はコロニスの両耳付近に空間が取り付けられる。
「なっ、なにをするんすーー」
その瞬間俺は気づいた。イカルガの狙いを。
「ーーしゃがんで耳塞げ!!コロニス!!」
俺は目の前につけられた空間魔法を消し、大声で叫んだ。
「えっ?!指宿んがなんで・・・?」
観客の前や心臓付近につけられた魔法。そして最後に耳に取り付けられた。そしてイカルガと指宿蓮から受けた警告。
ーー刹那、コロニスは気づいた。だがわずかに遅かった。
「ーー運音」
観客やイカルガ、そして自身に取り付けられた空間魔法が転移させたもの。それはーー
ーー音。
歓声、話し声、風の吹く音に心臓の鼓動。それら全ての音が、耳付近に設置された空間から放出させる。しかも同時に。
「----ッ!!!」
普段聴くことのない爆音に、頭が軋む、耳が鳴る、視界が周り、今朝食べた食事が逆流する。
コロニスは痙攣しながら膝をついた。
俺の言葉が届いたのか、音が鳴る直前しゃがみ込んだことでまだ幾分かはダメージが少なくなったようだ。それでもこのダメージだ。
しかし、まさか音まで転移させられるとは・・・正直想定しなさてなかった。しかもあの魔法の数・・・絶対に魔力も高いはずだ。あれで魔力D・Eなどあり得ない。であれば何故イカルガはCランクにいるのか。募らせたくない疑念だけだ募っていく。
ディアスは怒りなのか歯痒さからなのか、目を見開き震えていた。
「あれっ?気絶してない。・・・そっか、さっきのイブの掛け声で気づいたんだね。残念。・・・いや、外れてこれなんだから当たってたら鼓膜破いてたかもなぁ。逆によかったかも。イブのお陰だ」
「・・・・・・あ・・・ぐぁ・・・(やばい、体が動かないっす・・・これがほんとに・・・Cランク・・・?)」
コロニスは限界に達したのか、前のめりに頭から倒れていく。
その時、コロニスは最後の意地を見せた。
倒れる瞬間、地面に指をつけ、魔法を発動させ、地面の津波を発生させた。
「(完全不意打ちーーこれでダメならもう無理っすね)」
賭けと意地の一手。この攻撃はーーイカルガの右掌につけられた魔法により取り込まれ、失敗に終わった。
「・・・・・・くっそ・・・!」
コロニスは今度こそ倒れ込み、意識が途絶えた。
それによりーー
『し、Cランクを制したのは、なんと1月前冒険者になったばかりの新人!イカルガ選手です!!』
会場は歓声の嵐に包まれる。そして決勝を戦った2人に拍手が送られた。
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その後、コロニスは医務室へ、イカルゴは通常通り踵を返した。
ーーそして、俺とディアスはそれぞれ別の目的で観客席から離れた。
ディアスは当然コロニスの元。そして俺はイカルガの方へと足を運んだ。
ーーイカルガを発見し、俺は駆け寄る。
彼は俺を気づくと、その場で立ち尽くし、待っていた。
「よぉ、イカルガ。ちょっと話がある」
「うん。いいよ、どうしたの?」
「・・・お前、最後のあの技・・・コロニス殺す気じゃなかったよな?」
ーー運び音。あの技、遠くで見ていた俺たちですらうるさいと感じた。耳元で鳴らされたコロニスはその何倍もだろう。いや、あそこまで行けばうるさいではなく痛い、だったはず。
「安心して、殺す気はなかったよ。気絶くらいで抑えようと思ってたんだけど、どうやらやり過ぎたみたいだね。反省してる。・・・叫んでくれてありがとイブ。助かったよ」
「わざと・・・じゃないんだな?」
「うん。それは絶対だよ。ボクは音じゃ殺さない。汚くなるからね」
汚っーー!やっぱりなんか変だこいつ。
「・・・分かった。それは信じるよ。じゃあ次だーーお前、ほんとにCランクか?この実力でCなんて、正直考えられない」
いくら考えてもそれは説明がつかない。
一緒に行動した上位ランカーといえばアリアさんとバルク兄貴だが、少なくともそのバルク兄貴レベルには強いように見えた。魔法も魔力も悪くない、どころか一級品だ。
「俺が言えた話じゃないけどさ、お前、何者なんだ?只者じゃないだろ?」
しばしの沈黙の後、イカルガは口を開いた。
「ボクは・・・ボクはチェ--」
「ーーイカルガ様」
答えが出ようとした瞬間、奥から1人の女性が現れた。メガネを掛け、肌は褐色、後ろで縛った長く、イカルガ同様真白な髪、そして赤い瞳。
・・・もしかしてこういう容姿の一族がいるのか?
「イカルガ様、会合の為集合しろとのことです。お急ぎを」
というか、様?会合?もしかしてイカルガってどっかの貴族なのか?
「ーーミカ、今ボクはイブと話してるから、もうちょっと待って」
「そ、そうだぜ!悪いがミカ?さん?出来るだけ早く済ませるからちょっと待ってくれないーー」
ーー直後、ミカと呼ばれたその女性は手を俺の額にかざしていた。
ーーえっ?いつのまに・・・!距離大体3Mは離れてたぞ。それを一瞬で、しかも音もなくーー
「ーー眠れ、下賤者がーー眠誘導」
額に当てた手を真下に下ろす。その瞬間ーー
俺の意識は途絶えた。
「イカルガ様、行きますよ。こんな人間と話している時間は無駄です」
「ミカはいつも乱暴だ。・・・ごめんねイブ。応援出来ないや。質問の答え、いつか話すよ。じゃあね、聞こえてないと思うけど」
イカルガは空間魔法を発動し、ミカという女性と共に消えた。
その30分後、帰りが遅いことを心配したアリアさんのレヴィに、ぐっすりな俺は発見された。




