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共通の目的

 鮮血に彩られた風に囲まれた男は、こちらを見ると、先ほどまでとは打って変わり、優しい笑顔をしこちらに手を振ってきた。


 それに対し観客は大盛り上がりだ。ギャップってやつか?殺人鬼から常人へのギャプとか何がいいんだよ。


 俺達の方に向き、手を振っていたそいつは、モンスターから見れば隙だらけに映ったのだろう。残りのモンスター達がここぞとばかりに襲いかかった。


 ーーそして、それらに無慈悲に襲いかかる赤い風。その風は形を変え、3体の兵士の姿へと変化した。ただし腕は蟷螂(カマキリ)のように鋭く、それでいて所々欠けている。そこまで精巧な造形魔法を使えてミスということはないだろう。ということはつまりーー


「不意打ちとはこれはまた・・・君らにお似合いじゃぁないかーー血風吹く戦場での舞い(ブラウィンドダンス)


 造形された兵士達がモンスター達に襲いかかる。そしてその腕の鎌で彼らの体を切り付ける。


 再び断末魔が上がる。


 ーーやっぱりそういうことなんだな。わざと刃こぼれさせることで切れ味を落とし、より切りつけられたときの痛みを増大させる。それにより上げられる叫びを聞き、酔いしれるってか・・・?


 風兵士達の体がその赤みを増してゆく。それに比例し、悍ましさと不快感が加速する。


 そして遂に、体を切り付けるだけでなく、四肢を切り刻み達磨状態にしてしまった。


 ここでレヴィは遂に耐えきれなくなり、その場で吐いてしまう。当たり前だ。俺ももうすぐ吐きそうだ。寧ろこんなんで悦楽に浸れる奴の方がどうかしてる。


 するとここで奴は、客席に向かって両手を掲げ、宣言する。


「皆さん!いよいよこれで終幕です!彼らの命潰えるその瞬間を、どうぞお楽しみください!」


 その宣言に会場は再び、どころか今までにない盛り上がりを見せる。


 ーーなんだよほんと・・・確かにモンスターからの被害とかはあるのかもしれない、あったのかもしれない。だけど・・・ここまでやるほどのことだったのかよ・・・!


 風兵士達は、腕の鎌をドリルのように変形させ、それを高速で旋回させる。そしてそれを、モンスター達の体に突き刺した。


 ーーあとは、言わずとも分かるだろう。俺は今までこの言葉が一番似合う光景を知らない。


 ーー凄惨。ただその一言に尽きる。 


「ーーん!蓮!」


 アリアさんに呼ばれ、意識が会場から外に戻った。


「えっ・・・あ、えっと・・・なんですか?」


「蓮もレヴィも、服着替えてきなさい。特に蓮、お前は服に吐いてる」


 服・・・?えっ!あれ?!


 まじだった。俺は気づかぬうちに口から垂れ流していたようだ。


「ほら、2人とも早く着替えて水分とってきなさい、風邪や脱水になるわよ」


 俺は着替えに行くため立ち上がったが、体がふらつき膝を地につけてしまった。


「・・・っ!やべぇ、ほんとに脱水かも知れねぇ」


 横目でレヴィを見てみると、へたり込み、そもそも立ち上がることが出来なそうだった。


「まずいな・・・2人とも、ちょっとだけ我慢しろ」


 アリアさんは俺とレヴィ、2人をまとめて背中に抱え、医務室まで運んでくれた。どうやらそこには回復魔法を使える人達がいるらしく、俺達2人はそこで別の服に着替え、ベットで回復魔法をかけてもらった。


 10分ほどしてか、吐き気は治り、その後水分を取ったことである程度体調は回復した。


「ーー他に優れない場所はございますか?」


 医務院さんが俺達の容体を伺う。


「はい、おかげさまでなんとか」


 その俺の返事に追随して、レヴィも返事を返す。


「ええ、ありがとうございます」


 するとアリアさんは俺達の前に来て、質問をした。


「2人とも、どうする?戻るか?」


 あの凄惨なショーが終わってからすでに10分以上経過してる。そろそろCランク戦が始まっている頃だろう。


「俺は・・・戻ろうかな。イカルガの応援するって言ってるし。レヴィは・・・どうする?」


 正直俺よりレヴィの方が深刻だった。戻らないというのなら無理に連れて行く理由もない。


「私は・・・私も戻るよ。応援するって私も言っちゃったしね」


「無理してんならやめろよ。んな嘘、誰も望んでないかんな」


「ふふっ、大丈夫よ。あなたも自分で言ったでしょ?こんなので嘘をついても、誰も得しないわよ。だから嘘じゃない」


 まぁ本人が言うなら、尊重すべきだろう。


「分かった。だけどほんとに無理はすんなよ!ダメな時は・・・アリアさんに言え!」


「なんで最後でダメになるのよ」


 アリアさんに突っ込まれた。


 俺だってね、俺に任せろって言いたいですよ!でもこういうのって同性同士の方がいいだろ?特に女性は。


「まぁとにかく、ゆっくり戻ろう。応援より自身の体調だ」


「・・・はい」


 俺たちはアリアさんと共に、観覧席へと戻った。

 ---------------------

 一方その頃、アリアの兄、ルドラ・マクベスはショーを終え、一人で一息ついていた。


「ーーふぅ、ようやく終わった。それにしてもーー」


「やっぱり我が妹は可愛いなぁ〜〜!!」


 彼は今まで見せたどの表情より穏やかで満面の笑みを浮かべていた。


 そう、この男ーーシスコンなのである。しかも、妹から嫌われている、どころか嫌悪されているなど、露ほども思っていない。


 彼の中では恥ずかしくて上手く感情表現ができていない子、という認識なのだ。その認識が余計にアリアの琴線に触れていることも当然知らない。


「ちゃんと見てくれたかなぁお兄ちゃんの勇姿!カッコ良かったろう?勇ましかったろう?思わずときめいてしまっただろう?その胸の高鳴りは私には届かないのだろうねぇ、だが大丈夫!気持ちはしっかりと伝わっているからね!」


 ルドラは光悦とした表情を浮かべながら、一人で妄想、妄言を繰り返す。


「アリア、頼むから私と戦うまでは負けないでくれよぉ。私が倒さなきゃ・・・他人に負ける駄作なんて、私の妹じゃないからねぇ・・・!」


 狂気の愛がアリアを取り巻いてゆく。

 ----------------------

 観覧席へと戻る最中に、アリアさんが俺達に語りかけた。


「2人とも、よく覚えておきなさい。冒険者ってのは程度の差はあれ、さっきのと同じことをしている。決して褒められた仕事ではない。だが、なくてはならない仕事だ。私はそれを受諾しているが、お前達はどうだ?さっきのを見て、冒険者を続けることが出来るか?」


 俺は正直今の質問に、全く考えることはなかった。こういう時、うだうだ悩みまくる俺がだ。不思議なくらいスッと答えは降りてきた。


「ーー出来るよ。俺はーー」


「ーー私も出来ます!」


 レヴィが威勢よく答えた。正直レヴィはもう少し悩むと思っていた。だが違うらしい。俺と同じで答えがすぐ降りてきたのだろう。


「・・・なんでだ?モチベーションになるものでも・・・?」


 アリアさんの問いに、俺とレヴィは同時に答えた。


「「ーーあいつを超えて俺「私」がマスターになる!」」


 ーーまさか、答えまで被るとは・・・!


「俺はああいう奴は許さない!俺がマスターになって、ああいうやり方のやつも、あれを称賛する連中も、全部無くしてやる!」


「蓮、残念だけどそれは私がやるわ!あぁほんと、今日ほど私に権力がないのが歯痒かったことはないわ!」


 その答えに対してのアリアさんの答えはーー抱擁だった。2人一緒にアリアさんに抱きしめられた。


「うんっ!やっぱりおまえらはいい!大好きだ!にしても2人して同じ目標とはなぁ、これで3倍だ!」


「3倍?!2倍じゃなくて?」


 俺とレヴィならそうのはず、つまり・・・ということは!


「ふふーん!実は私もマスターの座を狙っていてなぁ。少なくとも、あのゴミ兄貴だけには継がせない。そのために研鑽を積んできた。・・・まぁ、まだ勝てないがな、いずれボコボコにする!」


「はは、まさか弟子同士だけでなく・・・」


「師匠まで同じ目的をもってたなんてね・・・」


 俺達は顔を見合わせ、そしてどちらからとなく唐突に笑みが溢れる。


「・・・・・・ぷっ!」「・・・・・・ふふっ!」


 俺達はひとしきり笑った。


「てかよ、俺ら被りすぎじゃねぇか?」


「ふふっ、そうね。まるで運めーーごめんなんでもない」


 俺は難聴系主人公ではない。今のはしっかり聞き取れた。


「・・・そうだな、運命だと俺も思うよ!俺はレヴィと、アリアさんに会わしてくれた運命様に、感謝しても仕切れねぇよ!」


「なっ?!そこは聞き流してーーでもまぁ、そうね!」


「ああ!私もそう思う!」


 唐突に人生が終わったかと思えば、急にこんなところに連れてこられ、唐突に始まった異世界生活。初めは辛いこともたくさんあった。今もないとは言わない。だけど、この人たちに会うためって考えりゃ、良かった・・・のかも知れない。


「よし!そろそろ始まるよ。早く行こう!」


 アリアさんに手を引かれ、俺達は観覧席へと戻った。


 俺達共通の、1つの目的を新たに拵えて。







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