鮮血の風
遂に始まった魔導祭。俺達は出場者用の観覧席へと移動し、観戦することにした。
まずはEランク戦。出場者はなんと6名。Eランクは少ないと聞いてはいたが、ここまでとは・・・
そして、肝心の試合内容だが、言いたくないが正直酷いものだった。何がと言うと、まず動きが遅い。よたよたと走ったり、必要のない間合いを取ったりなど、とにかくテンポが悪かった。
そして何より魔法が使われない。魔力が少ないのか、いざ使ったとしてもこれでは手持ち花火の方が迫力があるんじゃないかってレベルだった。
観客は迫力とかそういうのを見にきてると考えれば、全然来ていないのも正直うなづける。
「・・・これは・・・」
「分かった?本来Eランクってのはこんなもんなの。だからEって判定された時点で冒険者をやめてしまう人が殆ど。気持ちは分かるわよ、見てあそこの客」
レヴィが指差した場所を見ると、そこには感染している2人の観客がいた。にしてもなんかやけに盛り上がってんな。
「・・・あれがなんかあんのか?確かにすげぇ盛り上がってるとは思うけど」
「あれね・・・賭けをやってるのよ。どっちが勝つか?って賭け」
「賭け・・・ねぇ」
どうやら決着がついたようだ。俺は視線を先程の観客に移す。すると、彼らは「俺の勝ちだ!」「くそ!使えねぇ・・・」など、まるで試合に出ている彼らを競馬の馬かなんかだと思ってるようだった。
確かに、期待を胸に冒険者になったのにこんなんされたら嫌になるよな。
魔導祭での観客同士の賭けは認められている。というか放置されている。だからやめろとも言えないし、そもそも俺にやめろと言う権利はないように感じた。
日本にだってそう言うことはありふれていて、それに対して俺はさしたたる関心を持っていなかったからだ。そんな俺が何を言ったところで誰にも響かない。彼はそんなこと知らないだろうが、そういうのはなんとなく伝わるものだ。
だから、そんな俺が今出来ることはーー
「蓮・・・?」
「・・・!・・・いや、お前はそういう奴だな」
ーー拍手だった。今俺が出来ることは、することは、うだうだ悩むことでも、観客に駆け寄ることでもない。ただ、試合を終えた彼らに無言だが賛辞を贈ることだけだ。
さっきまで賭けをしていた2人はそんな俺を見て爆笑し、レヴィとアリアさんは、一瞬驚いてはいたが、俺に追付いして拍手をしてくれたーー
その後も試合は続き、あっという間に決勝戦。正直これも試合としては面白いものではなかった。だが確実に分かるのは、すげぇ頑張ってるってことだ。俺は、なんとなく初めてディアスと戦った時のことを思い出した。
俺達は当然この試合にも拍手を送り、Eランクトーナメントは幕を下ろした。選手が退場する瞬間、俺たちの方を見て、軽く微笑み、会釈をしてくれた。あの顔を見れただけでも、やった甲斐があったと思った。
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時は進みDランク決勝。ここまで来ると試合として見応えが出てきた。
1人は火の玉を指から出し、それを銃のように放出する者、そして対するは土からゴーレムを作り出す魔法を使う者との対決となった。
序盤こそゴーレム使いが圧倒していたのだが、最後の最後で、ゴーレムに吹き飛ばされた人が不安定な体勢から魔法を放ち、それが直撃したことで勝敗が決した。
「おお!勝った!よくあの体勢から魔法打てんなぁ」
「多分たまたまだと思うわよ。事実それまでは対して当たってなかったんだし」
レヴィは意外と辛辣だな。
「まぁとにかく、勝利は勝利だ!冒険者の世界では勝った方が正しい」
アリアさんはアリアさんでなんか怖い!いやまぁ言ってることはその通りなんですけどね。
こうしてDランク戦が終わったところで、急に観客が増え出した。Cランクからは急に注目度が変わるんだな。目に見える分、D・Eランクの人達はきついだろうなぁ。
ーーと、ここでアリアさんが「始まるぞ、2人ともしっかり見ておけ」と言った。アリアさんがそう言うってことはそんな実力者が出てくんのか?
そう思いながら視線を戻すと、赤い髪の1人の男性が会場に入ってきた。あの人・・・初めて見た筈なのに何処となく既視感が・・・
「なぁアリアさん、あの人ーー」
俺がアリアさんに質問をしようとしたら瞬間、今まで結構静かだった客席が、とてつもない歓声に包まれた。
ーーんだよこれ!全員が宝くじ当たったみてぇな歓声上げてんぞ!正直うるせぇ!
俺は思わず耳を塞ぐ。レヴィも塞いではいるが、目がその男性から離れない。そしてアリアさんはやけに冷たい表情をしていた。
俺は勢いよく会場に視線を戻す。俺の予想が正しければあの人はーー
『ーーさぁ今年も始まりましたこの時間!これを見にきたと言う方も多いのではないでしょうか!改めて説明しましょう!この方は数多のクエストを一人で向かい、その全てをクリアしてきた伝説の男!次期ギルドマスター候補筆頭!Sランク冒険者ーー"ルドラ・マクベス"さんです!』
ーーマクベス。つまりアリアさんの親族!
「あの・・・アリアさん。あの人親族ですよね?」
それに対し、アリアさんはこれまたテンションが下がりながら答えた。
「ああ、あの人は私の兄だよ。昔からめちゃくちゃに強くてね、私では勝てるビジョンが全く見えない」
アリアさんとは戦ったことがあるから余計に今の言葉が重く聞こえた。俺とレヴィ2人掛かりでしかも手加減されたのに手も足も出なかったのに、その人が勝てないと言うのだ。そのとんでもなさを痛感した。ーーというかSランクを2人も排出するとか、マクベス家どうなってんだよ!
・・・というより今から何すんだ?これからCランクだろ?
と、ここでレヴィが説明してくれた。
「毎年ね、このタイミングでSランクの誰かがでてくるの。そして、悪趣味なショーが始まる」
「悪趣味・・・?勿体ぶんなぁ、なんだーーよ?」
その時、別の入り口から、大量のモンスターが入ってきた。どれも見たことがない奴ら。Bランククエストよりさらに上のダンジョンに出てくるのかもしれない。
「見ていろ2人とも。悪趣味で残酷で汚くて残忍でーー最悪に気分の悪いショーが始まる」
ゴリラのようなモンスターやライオンや狼のような奴、腕の4本ある猿のようなモンスター計20体ほどが、一斉に1人の人間に襲いかかる。
おいおい!あの数は流石にヤバイだろ!
そう思い周りを見渡すが、心配している様子の人は誰一人として見受けられない。どころか、全員ワクワクしている。
いよいよモンスターとの距離がほぼゼロ距離となり、やられる!ーーそう思った瞬間
「抉り散れーー抉り肉すら残さぬ赫風」
彼に触れる直前、近づいた全てのモンスターが彼に近い部位から順に消えていく。ーーいや、正確には抉られ、肉すら無くなっていた。
断末魔が上がる。痛い、死にたくないという叫び。しかし、その叫びも一瞬にして消え去った。
そして、それをやった彼の周りには、赤く染まった竜巻が渦巻いていた。
ーー気持・・・ちわりぃ・・・!んだよあれ、モンスターだからってあんな殺し方ーーしかもこれはただの道楽じゃないか・・・!
レヴィも同様に感じたのか、目を見開き口に手を当てていた。そして目には涙を浮かべている。もしかしたら今まさに吐きそうなのかもしれない。
あの人も理解できないがそれよりも理解できないのがこいつらーー観客だ。なんで今の見て、歓声上げてんだよ・・・!
「ーーあれが私の兄、ルドラ・マクベスだ。毎年この催しは行われるが、大抵の冒険者は始める前に礼をし、せめて苦しまぬよう一撃で仕留めている。これでもどうかとは思うがな。だが奴は違う。最後に上げる断末魔を聞くために敢えてああして少しずつやるんだ。客も毎年見ていると麻痺してくるんだろうな、モンスターが殺されるのは慣れて、次の刺激を求めてしまう。その最たるものがこれだ」
・・・んだよそれ。いいのかよそれ。
「私が以前、命を刈る時に楽しむなと言ったのを覚えているか?」
「ええ、覚えてます」
「それは、こうなってほしくないからだ。頼むよ2人とも・・・あんなのにはならないでくれ」
そう言ったアリアさんの目は、悲しみと怒り、そして祈りがこもっていた。
「分かってるよアリアさん・・・俺はあれを認めない・・・!」
レヴィもようやく吐き気が引いてきたのか、途切れ途切れに答える。
「はぁ・・・はぁ・・・当たり、前です!・・・私も、認めない・・・!」
それを聞いたアリアさんは、安心したのか、いつもの優しい顔に戻り、"良かった"ーーただそれだけ言った。
視線を会場に戻す。彼の周りに渦巻いている赤い竜巻。鮮血に彩られた死の風。その中心で薄寒く笑う彼の姿。それに歓声を送る観客共。全てが気持ち悪い。
そして彼はこちらに振り向き、何に対してなのか、右手を大きく掲げ、振っていた。
ーーさっきまで、あんな戦い方をしていた男とは思えぬ優しい笑顔で。




