黒歴史開錠
みんなで食事をしてから数日後、俺はベッドの上で悶えのたうちまわっていた。
「なにあの臭い台詞!何あの態度!何あの差し出した手ぇー!!」
数日前のレヴィとの会話、あれを今更になって恥ずかしくなっていた。黒歴史とは往々にしてそう言うものである。その時は良いのだが時間が経つにつれなんで俺はあの時あんなことを!という思い出死、恥ずか死をさせる病。それが黒歴史という病だ。
「台詞は良いわ、まだな!だけど最後のあの手ェー!あれは無い!あれだけは無い!なんだよ俺は紳士か?ち・が・う・だ・ろ--違うだろー!」
「蓮うるさい!!朝から何騒いでんの?!」
アリアさんに怒られてしまった。
「違うんですアリアさん。人間たまには叫ばないとやってられないことってあるじゃ無いですか。今絶賛メンタルブレイク中なんでしばらく放置してもらえると--」
「--あんなこと程度でメンタルブレイクするとか、まだまだお子さまね」
今、さらっと衝撃の真実が聞こえたのだが・・・。
「ア、アリアしゃん?もしかして・・・見てた?」
「ああ、弟子が2人して喋ってたから何かなー?と思って、物陰からこっそ--あっ、言わない方が良かったかしらこれ」
「・・・アリアさん、ちょっと外出ててもらって良いですか?」
「・・・ご、ごゆっくり・・・。」
ガチャンと扉の閉まる音がする。しばしの静寂。聞こえてくるのは外で吹きゆく風の音だけ。この間・・・5秒。
「--ああああああああ!!!」
俺はこの世界に来て--いや、生まれてから一番の大きな叫びを小一時間出し続けた。
喉が枯れた。
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「ねぇ蓮、ごめんってば。私確かに見てたけど別に恥ずかしいことやってるなんて思わなかったわよ!寧ろ偉かったじゃない!あの子を元気付けてて」
「別に元気付けてたことが黒歴史な訳じゃ無いんですよ。その間の臭い台詞だったり最後の差し出した手とか・・・素面だったら出来ないようなことを空気に当てられてやっちゃったから黒いんです」
「んんー、めんどくさいな。別に変じゃなかったって!そんなに気になるんならレヴィに直接聞きに行く?」
「それだけは!それだけはご勘弁を!」
こんな俺の様子を見て、アリアさんはため息をつく。
「はぁ。蓮、あんたってほんとに、経過は良いけど締まりが悪いわね。いいじゃない別に。側から見てた分にはちゃんとレヴィの心を救ってたと思うわよ。それを後悔しちゃうのはレヴィにも失礼だと思わない?」
--救えたね・・・。ぶっちゃけ、何をどう救ったのか、いまいち俺が理解してないんだよなぁ。結局俺レヴィに対して、いつでも話聞くよー!くらいのことしか言ってない気がするし。そんなんで救ったって言ってマザーテレサとか杉原千畝とかにぶん殴られないかな?
「ほんとにそうなら・・・まぁ・・・うん、そうなの・・・かな?」
「・・・まぁいいや、私今日ギルドの方に行かなきゃいけないから。今日は自主トレーニングをしててくれ。分かった?」
「あいあいさー」
「・・・返事は?」
「はいすいませんいってらしゃい!」
ギルドに用事ね。なんだろか?まぁ関係ないだろうし良いけどね。よし、体動かして黒歴史のこと忘れよう!
俺は余計なことを考えられないくらい必死こいて毎日行なっている自主トレを始めた。
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翌日、俺はギルドから呼び出しを受けた。正確にはアリアさん越しだが。どうやらマスターが直々に俺に話があるそうだ。なんだろ、何について怒られるのかな?やらかした気はしないんだけど。
「とにかくギルドへ行くぞ。一応の覚悟はしておけ、マスターからの呼び出しなんて滅多にあるものではない」
「やっぱりそうなんですね。怖いなー怖いなー」
ギルドへ到着すると、中には呼び出した当人マスターと、何故かレヴィもいた。
マスター、レヴィ、俺呼び出し・・・まさか!
「すいません!お宅のお孫さんに失礼なことをしてしまいました!申し訳ありません!!」
俺は必死になって謝罪した。これはあれだ・・・セクハラだ。先日レヴィの手を触っちゃったことを訴えてられるんだ!
「ちょっと蓮?!あなた何やってんの?知らない間に私に変なことしたの?!」
「ホゥ、お前さん、儂の可愛いレヴィちゃんに何かしおったのか?」
「えっ?前に手触っちゃったことで訴えられてるんじゃ・・・?違うの?」
顔を上げると、レヴィが見たことのない呆れ顔をしていた。
「そんな訳ないでしょ・・・!何がどうなったらそういう結論に着地するの?いい!まず訴えるとかないし、そもそも今日何で集められたのかも私は知らないの!」
えっ、そうなの?・・・・・・良かったぁー!訴えられない!それどころかレヴィも気にしてなさそうだ!
「ほんとよか--あれ?レヴィも知らない?じゃあ本格的に何で俺ら呼び出されたの?」
「それはのぉ、2人にはパーティを組んでもらおうと思っとるんじゃ!」
「「パーティ?」」ハモった。
2人して疑問になっているところに、アリアさんが入ってきた。
「ねぇマスター、別にこの2人にパーティを組ませるのは良いけど、なんでだい?」
まぁそうだよな、俺も一応考えてみたけど理由が思いつかない。
「ん?あぁ、理由は簡単じゃよ。レヴィちゃんがある日からお前さんのことばっかり話すのでな、一緒に居たいのだろうと思ったんじゃ!お爺ちゃんの粋な計らいじゃよ!」
「職権乱用じゃねえか!」
「ちょっ!!お爺ちゃんなに言ってんの!別に蓮のことばっかりじゃないし!そんなこと言って--違うからー!」
「弟子同士が・・・ほぅ、これはこれは・・・!」
「れ、蓮・・・違うからね!しょ、しょんなんじゃにゃいから!」
めちゃめちゃ噛んでる。まぁ、真実はどうであれあんなこと言われたら動揺するよな。そう、これはそういうあれだ。別にレヴィが俺のこと好--とにかくそういうのじゃない。
もし勘違いしてしまうと、普段異性と全然接点ない奴が、ちょっと優しくてされただけで好きになっちゃい、向こうも俺のこと好きなんじゃね?とか意味のわからん勘違いをした挙句振られる・・・みたいなことになりかねん。
「わ、分かってるから落ち着いて。ほら、ゆっくり深呼吸ー」
「え、ええ。スー、ハァー。ありがとう落ち着いた。落ち着いたからとりあえずお爺ちゃん殴ってくるね」
「落ち着け!」
するとアリアさんが突然笑い出した。
「ははっ!お前ら2人息あってんじゃないか!マスターの言ってることはまぁさて置き、別にパーティ自体は組んで良いんじゃないか?2人だけってのは少ないが」
「パーティ組むって言っても、俺もうパーティ組んでんだよなぁ。前とは違って別に抜けたいとも思ってないし」
「そういうと思ってのぉ、こやつらも呼んでおいた」
すると、奥からバルク兄貴達がやってきた。
「おっす蓮!数日ぶりだな」
「ああ!おはようみんな!」
ルニア兄貴がメガネに指をかけ、マスターに質問した。
「してマスター。私たちは何故呼ばれたのでしょうか?」
「うむ、実はのぉ、レヴィちゃんを蓮くんとパーティ組ませたいから、蓮君パーティから外してくれんか?」
「「「職権乱用じゃねぇか!!!」」」
3人ともハモった。
「あのなぁ爺さん、仮にも一ギルドのマスターがそれはどうかと思うぜ。てか何でそんな話になった?」
「・・・そうじゃの、お主ら3人耳かせ」
3人がマスターに耳を近づけ、話を聞いていた。
「ほぅほぅ・・・それで・・・なに?!まじでか?!」
「まじじゃ!本人は否定しとるがの」
「へぇー、レヴィの嬢ちゃんがねー!」
「レヴィちゃんがねー!」
「ち、違っ!お爺ちゃんデマを広げないで!」
バルク兄貴とエトラがニヤニヤしながらこちらを見ている。ルニア兄貴は顔には出さないようにしているが、チラチラと目線がこちらへ泳ぐ。
バルク兄貴は気を取り直し、少し真面目な雰囲気になった。
「なぁ蓮。お前はどうしたい?確かに元々は俺が勧誘したんだが、お前の意思を縛りつける気はねぇ。もしお前が嬢ちゃんとパーティ組みたい、その為に抜けるってんなら、それはそれでしっかり送り出してやるよ!」
俺の意思を尊重してくれるのはすごい嬉しい。だがそもそもこれって選ばなきゃいけないのか?
「あの・・・そもそも2つのパーティ兼用ってダメなのか?それがありなら万事解決なんだが」
「ダメだな。もし兼用した場合、その2つのパーティは同時に別の場所にクエストを受けることが出来なくなる。お互い1人の為に集まってスケジュール調整とかせにゃならんくなるんだよ」
・・・じゃあ、俺はどっちかを切り捨てなきゃいけないってことか。バルク兄貴達には色々教えてもらったし、何より一緒にパーティ組んでて楽しかった。
レヴィだって、一緒にパーティ組みたいとは思ってる。実際前に一緒にクエスト行こうって誘ったこともあるくらいだし。それに実際息は合ってるんだと思う。
俺が考えあぐねていると、今度はレヴィに質問をした。
「嬢ちゃんはどうしたいんだ?好いた惚れたってのは置いといたとして、蓮とパーティ組みたいって思ってんのか?」
「すっ!・・・別に私は--いいえ、その・・・組みたい・・・かな」
レヴィは少し赤面しながらそう答えた。
なんだよその顔!ほんとに意識しちゃうだろうが!
「なるほどな。嬢ちゃんはこう言ってるが?蓮、お前はどうだ?嬢ちゃんしっかり言ったんだからよぉ、せめてはっきり答えろ!」
俺は・・・レヴィと・・・
「--組みたいよ。実際前に誘いましたし・・・」
そう答えると、バルク兄貴は笑みを浮かべ--
「そうか、よく言った!これでチームバニラレーズンは解散だが、俺らはお前のこと、ずっと弟だと思ってるからよ。困ったら頼れよ!」
「そうだぜ兄弟!いつでもウェルカムだ!」
「まぁ、頑張れ蓮。言えば助けてやらんこともない」
--ほんと、こういう時尽く思う。俺は、人に恵まれてる。
「ああ!そんときゃ頼むよ!」
「でもまさか嬢ちゃんが蓮にねぇ。こないだ2人で話してた時から多分こうなるとは思ってたけど」
・・・ん?ちょっと待て。2人で話す?こうなる?・・・・・・まさか。
「あのさぁバルク兄貴?それって・・・いつ?」
「ん?ほら、こないだみんなで飯行ったろ?そん時の。お前ら2人して話してたじゃねぇか。最終的に蓮エスコートまでしてさ。確かアリアさんも一緒に居たよな?」
「バルク・・・それ、禁句だ」
レヴィは赤面しながら俯き、俺は・・・必死に閉じ込めた黒歴史を、なんの気無しにブチ開けられた。
「アリアさん・・・バルク兄貴・・・俺ちょっと外出てくる」
それにレヴィも追付いし、「奇遇ね、私も丁度外行こうとしてたの」と。
「い・・・いってらっしゃい」
「?よく分からんが・・・仲良いな!」
「やっぱりそうなんじゃのぉ!」
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俺とレヴィはギルドの外へと出る。そして、どちらともなく歩き出した。
「どうしたの?なにか用事でもあった?」
「そんなんじゃなくてね、ちょっと走って来ようかなって」
「奇遇ね、私も今走りたい気分なの」
「じゃあ一緒に走る?」
「良いわね、全速力で行きましょ」
俺たちは今出せる全力のスピードで走る。
「俺さ!今猛烈に叫びたい気分なんだけどいいかな!!」
「奇遇ね!私も今全力で叫びたい気分なの!!」
「ほんと奇遇だな!!だったら一緒に叫ぶか?!」
「良いわね!せーのでいきましょ!せーの--」
「「--あああああああああ!!!!」」
俺達は2人で何かを誤魔化すように大声を叫びながら全力疾走した。おかげで2人して喉が枯れることになる。
--のちに国の役人に2人して怒られたのはまた別のお話。




