100万円?!
「うぅ・・・ここは・・・?」
「--おはよう、蓮!ようやくお目覚めだな」
この、聞き慣れ、懐かしく、芯があり、それでいて優しいこの声は--
「おはようございます--アリアさん」
「ああ、おはよう!」
目を覚ますと、眼前にいたのはアリアさん。そして、そのアリアさんの家に俺はいた。
レヴィに掛けた魔法を解除してから今までの記憶がない。あの後、どうなったんだ・・・?
「あの、アリアさん。みんなはどうなったんですか?てか、俺も」
「まぁ私もバルクから説明されただけだしな、正確なことはいまいち分からないが、それでも良い?」
「ええ、お願いします」
アリアさん曰く、俺はダンジョンで倒れてから、1週間眠り続けていたそうだ。一番怪我の具合が悪く、回復魔法士がとても苦労したらしい。
俺以外のみんなはというと、ルニア兄貴、エトラは大した怪我などはなく、レヴィは怪我というより、消耗が激しかったようだ。ディアスも外傷は思ったよりもなかったが、どうやら大量の毒を浴びたことにより、意識が飛んでいたらしい。そしてバルクはというと、何の意地なのか、ダンジョンを脱出するときも自力で歩き、手当ても「他の奴を治してからでいい!」の一点張りだったそうだ。
「--結果、レヴィをはじめとするパーティー、及びその救助を任された調査隊、最終的に怪我人多数、死者2人となった・・・という訳だな。私が聞いたのはこれくらいだ」
「死者・・・2人・・・。俺、正直今の今までみんな助けたような達成感があったんです。被害者が2人もいること、忘れてた。ダメだな・・・俺」
俺が自責の念に駆られ、頭を抱えていると、アリアさんが少し冷めた声でこう言った--
「蓮、人が死んで憂うことは別に構わんが、これからはモンスターに殺された冒険者のことを被害者と呼ぶな」
「--えっ?」
何でだ?殺されてるんだから被害者だろ?何でそれを・・・?
「冒険者になる理由にはいろんなパターンがある。憧れてなった者、なんとなくなった者、ならざるをえなかった者・・・とかな。だが、例えどんな理由で冒険者になろうとも、忘れてはいけないことがある」
「なんですか・・・それ?」
「常に命の危険がある仕事だと言うことだ。強いモンスターに弱い奴が当たれば死ぬ、そんなことが当たり前に起こる職業が冒険者だ。そして、ここからが私が被害者と言って欲しくない理由・・・それは、一方的にモンスターを殺すのが冒険者だからだ」
それを言われ、俺は少しアリアさんが言いたいことが分かった気がした。
「確かに2人は死んだ。悲しいことだよ。だけど、結局は殺しに行った奴が殺されたってだけ。極論言うと自業自得だ。被害者ってのは、何もしていないのにいきなり害を被るから被害者であり、返り討ちにあうのは被害者とは言わない。命を刈り取るものは、刈り取られる覚悟をいつも持っておくべきだ。それに、モンスターに殺されたやつを被害者と呼ぶのは、殺された奴にも失礼だと私は思う」
確かに、殺されそうになったから殺し返した--この場合被害者は殺し返した側だ。誰もその人のことを殺人犯と呼ばないだろう。今回のこともそう置き換えてみれば理解出来た。
それに、覚悟という話--その覚悟を持てない奴は冒険者をやるべきではない、そういうことだろう。
「すいません、理解しました」
そういうと、アリアさんは再び笑みを浮かべ、俺の頭をポンポンと叩いた。
「--でも、仲間がやられて怒ったり、悲しんだりする気持ちを持つのは悪いことじゃない、むしろ持ち続けろ!そうすれば、守る為に強くなれる。誰か死んで落ち込めるお前は、強くて優しい人になれるよ・・・!」
--本当に・・・この人には教えられてばかりだな。その度に慰められて・・・情けね
「よし!ご飯食べよう!お腹空いてるだろ?--あ、そうだ。目が覚めたらギルドくるようにって言われてたんだった!・・・てことで、ご飯食べたら一緒に行こうか!」
「--はい!俺もうお腹ペコペコで!アリアさんの手作り食べたいなー!」
「ああ!任せなさい!」
そうだ・・・俺は強くなる。この人を守れるくらいに。
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食事を済ませ、俺達はギルドへと向かった。
中に入ると、一緒にダンジョンに行った4人と、レヴィ。そしてギルドへと報告をしたという女の子が集結していた。
「よぉ蓮!怪我大丈夫か?」
「バルク・・・いや、バルク兄貴!連れてかれそうになった俺を助けてくれて、ありがとうございます!」
「んなっ!やめろよ恥ずい!」
「それとディアス、お前もありがとうな!ディアスが居なかったら多分俺ここに居ないよ」
「別に・・・モンスターに連れて行かれると色々と面倒だと思っただけだ!勘違いするなよ!」
「プッ!!」
ディアスの変容っぷりに、アリアさんが思わず吹き出してしまった。まぁうん。気持ちは分かるよ。アリアさんからすれば夏休み明けに高校デビューしてきた奴くらいに映ってるだろうし。
すると、名前を知らない女の子が俺の元へやって来た。
「--あの、あたしカミラ--カミラ・テューラ!助けてくれて、どうもありがとう!」
急に頭を下げられた。女の子にこんな真正面から謝られたことがないから、どうすればいいのかわからない。
「えっと、その、あの・・・ね。別に俺だけの力じゃないっていうか・・・そう!みんなで掴んだ勝利!的な!」
「うん!だから皆にはもうお礼は言ってるよ!」
「「プッ!!」」
今度はアリアさんだけでなく、バルク兄貴も吹き出した。ディアスも声には出さなかったが、下を向き肩を震わせていた。
いや、うん。あれだな、いい子だなこの子!ちゃんと皆んなにお礼言うなんてな!偉いな!・・・ごめんなさい、そういう小説とかの見過ぎでした。なんかすごい頑張って主人公がすごいモテる!みたいな。そうだよね、普通はこうだよね。くそー!穴があったら入りたい!いや別にモテたい訳じゃないんですけど!
俺が人生最大の黒歴史を更新したところで、ギルドマスターと、何やら大きな袋を持った男性がやってきた。
「おお、揃っとるのぉ。」
「じじい!どうしたんだ?」
マスターは改まった表情になった。
「この度はよくぞ2人を連れ帰ってくれた!残り2人は亡くなってしもうたが、遺体を持ってきてくれたこと、遺族は大変感謝しておる!その諸々の功績を称え、調査隊メンバーにはそれぞれ100万ガスタを贈呈する!」
その言葉と同時に、隣の男性が袋を開封する。すると中からは大量の硬貨が5等分され並べられていた。
100万ガスタ?!つまり日本円で言うと100万円?!そんな大金が一気に入るとか・・・気がおかしくなりそうだ。
「そしてレヴィ、カミラ。危険なクエストに向かわせてしまったことによる謝礼も含め、お主らには30万ガストを贈呈しよう」
「えっ!本当に!やったー!」
「・・・ありがとうございます」
喜びを露わにしているカミラに対し、レヴィは何故か複雑な表情を浮かべていた。
贈呈式が終わり、それぞれ解散となったが、バルク兄貴の提案でこの後みんなで何か食べに行かないかということになった。
そういえば打ち上げとか今まで行ったことなかったな。個人的にすごい憧れがある。
「アリアさん、行ってもいいかな?」
「そんなこと、いちいち伺いを立てなくていい!折角の仲間との宴だ。楽しんでこい!」
とこれを聞いていたバルク兄貴が--
「アリアさんもどうっすか?長いこと弟子といれなくて寂しかったんじゃないっすか?」
それを言われたアリアさんは体を震わせ、「しょ、しょんなことないよ」と完全に動揺した回答をしていた。
そんな様子を見かねたバルク兄貴は--
「俺、アリアさんと飲んでみたいなぁ!色々話とか聞きてぇし。蓮はどうだ?」
あ、成る程。そういうパスね。
「俺もアリアさんと一緒がいいな!最近離れ離れだったし、久しぶりにさ!・・・ダメ?」
「蓮・・・!しょうがないなぁ!愛弟子がそこまでいうのなら仕方ない!一緒に行ってやろう!仕方ないからな!」
バルク兄貴は俺の耳元で「お前の師匠可愛いな」そう言ってきた。
「--うん。ほんとに」俺は笑いながらそう答えた。
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バルク兄貴達と離れ、俺はレヴィの元へ向かった。
「よぉ、レヴィ!お前も行くだろ食事!」
「蓮・・・。--ごめん、私は行かない。私は・・・貴方達に顔向け出来ないもの」




