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砂漠の怒り

「--俺はAランク冒険者、バルク・フルニタス。お前--俺の兄弟達に、何やってんだ?・・・あぁ?」


 微かに見えたバルクの表情は--見たことがないほど怒りに満ち溢れていた。


「何・・・ですか?何かと言われれば、愚弟の回収にたまたま見つけた脳無しの拿捕、それとちょっと邪魔してきた人をどかしただけですが?何か問題でも?」


 バルクは当たりを見渡し、状況を把握する。


「右手に持ってるそれ、突然変異のモンスターだろ?ってことはお前もモンスターか」


「ええ、ワタシ達は紛れもなくサーペントブランク(白い蛇のようなモンスター)ですよ。突然変異というのはよくわかりませんが」


 華蛇は飄々と答え、その答えにバルクは少し息を吐いた。


「まぁ俺は、お前がモンスターだろうとそうでなかろうと、ぶっちゃけどーでもいい!どの道・・・殺すしな」


「野蛮ですねー!どうします?このままワタシに攻撃しますか?でもワタシの背中にはお仲間がいるようですけど?」


「ああ、だからまずは、--返してもらう」


 その直後、華蛇の足元には砂の剣山が創製された。しかしこれは読まれていたのか、華蛇はあっさりとそれをジャンプし回避する。


「貴方意外と知略家なんですねぇ。ワタシとの会話中に少しずつ砂を撒いておくだなんて!でも残念です、当たりません」


 そう言い、着地した瞬間、足元の地面が砂となり、華蛇はバランスを崩す。


「--おや?これは・・・!」


「--蟻洞(ぎどう)


 バランスを崩した相手に、バルクは砂の鞭を作り出し、横腹目掛け放つ--


「--いい加減蓮を離しやがれ--渇いた愛(アモーレアッセタート)


 バランスを崩した上に、さらにその方向に衝撃を加えられたことにより、華蛇から俺が離れた。


「--あっ、しまった」


 バルクがその瞬間を見逃すはずがなく、俺が離れた華蛇に接近し、連続で技を放つ--


「これで心置きなく殺れる--掠め取る大砂嵐(ブルー・サピア)!、打ち付ける砂嵐(コルピーレ)!、砂の雨(いさごのあめ)!」


 そして両手に拘束回転させた砂嵐を作り出し、相手の体に叩き込む--


「お前の技、借りるぜ蓮--砂神の裁き(デザートディオス)!!」


「グァハッ!これは・・・まさか・・・!」


 度重なる今までの研鑽、そして、自分の仲間がやられたことに対する怒りが、彼の魔法を進化させた--


「こいつらに手ェ出したこと・・・未来永劫後悔しやがれ!--全てを奪い尽くす砂嵐(プリヴァーレ)!!」


 華蛇の周りに3つの砂嵐が発生し、それが密接し相手の体を抉っていく。今まで習得して来たどの技よりも強力で凶悪な技だ。


「まさか・・・ワタシが・・・!」


 華蛇の姿は完全に砂嵐に飲まれた。バルクは俺を抱え上げ、安堵した表情を浮かべる。


「--よく頑張ったな、蓮。それにディアスやレヴィの嬢ちゃんも。--さて、こっちはどうすっかな」


 バルクは砂嵐の方を向き、語りかけた。


「--その技は肉を抉り骨をも砕く。人間には使えねぇが、お前ら化けもんにはぴったりな技だろ?」


 砂嵐に背を向け、ディアス達のもとへ戻るバルク、だが--突如、砂嵐が銀色の膜に覆われ、活動停止した。


「--はっ?」


「--いやー、結構痛かったですね。油断しました」


「・・・なっ・・・!冗談だろ?」


 銀の膜が破れ、砂嵐がバラバラに砕ける。そして、中からはボロボロになり、至るところから血を流しながらも笑みを浮かべる華蛇の姿があった。


「てめぇ・・・何だその魔法・・・?!」


「--銀魔法。体から銀を出しそれを操る魔法。彼らとの戯れで液体ばかり使っていたのは、兄弟が皆液体の魔法だから・・・合わせるためですね」


「ははっ、冗談よせよ・・・今の俺の中でも結構な大技だぜ・・・!それを消したから消滅や無効系魔法かと思ったらよ・・・くっそ、マジ自力で負けたってことか?」


 バルクの表情からは怒りが消え、そのかわり焦りが大きくなった。


「そんなにがっかりしないでいいですよ。ワタシは()()()()レベルですから、結構上役です。それに傷を付けたんです。誇っていいくらいだ」


「幹部・・・?!どういうこった・・・?」


「ん?・・・おっと、もうこんな時間です。これ以上遅れては本当に姉上にワタシまで殺されてしまいます。・・・ということで、今回脳無しは諦めますよ。良かったですね!--唯・・・顔は覚えましたので・・・!ではまたいつか」


 華蛇はそう言って弟を引き摺りながら帰っていく。


「待てよ・・・!お前みたいな奴、野放しに出来るわけねぇだろうが!!渇いた愛(アモーレアッセタート)!」


 バルクが背後から魔法を放つ--しかし、その攻撃は、弟を盾にされ防がれた。


「不意打ちなんて、卑怯ですね。・・・しかし、(これ)本当に動かない。これで持ち帰って文句言われないでしょうか?ま、しょうがないですよね!」


 歩きながら、飄々と、不意打ちをされたというのに意に返さず、弟を盾にしたというのに特に気にすることもなく、本当に飄々と笑みを浮かべ帰っていく。


「待てって言ってんだ--」


「--銀華(ぎんか)三千ノ舞(さんぜんのまい)


いつの間にか足元に流れ込んでいた水銀が花びらと変わり、バルクを襲った。


「なっ!--ぐぁぁぁ!!」


 突然の攻撃に倒れそうになるバルク--しかし何とか意地で持ち直した。


「はぁ、はぁ、はぁ、どうだ・・・耐えたぞ・・・!」


「うん、やっぱりダメですね。これで倒せたら、隣に落ちる脳無しを拾って帰ろうと思っていましたが、やっぱり頑丈ですね。面倒です。今度こそ大人しく帰りますよ、もう追って来れないでしょうし・・・ね!」


 華蛇は今度こそ闇の中に姿を消した。

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完全に居なくなったことが分かり、バルクは張り詰めていた気が溶け、後ろに倒れ込んだ。そしてそれを抱える2人の姿。


「お疲れ様、バルク。大丈夫か?」


「うわっ!みんなボロボロじゃないっすか!早く治療しに帰んないと!ほらバルク兄貴、蓮をこっちに」


「ルニア・・・エトラ・・・!俺は・・・いいから・・・あいつらを・・・優先してやってくれ・・・!」


「バルク・・・。残念ながら、すぐにという訳にもいかん」


 そう言って、ルニアはレヴィの方を向いた。


「ん?レヴィちゃんが何か--って!拒絶魔法使われてんじゃないっすか!どうすんだよこれ1日消えないんだろ?」


「ああ、これを消せるのは今この場では・・・蓮だけだ」


 エトラは俺の方を向き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「どうすんだ?みんなボロボロで、すぐにでも治したいのに・・・流石にレヴィちゃん置いていけないしな・・・。」


 と、ここでレヴィが口を開いた。


「--私・・・いいよ。残る」


「んな!何言ってんのレヴィちゃん?置いてける訳ないだろ!」


「でも・・・私のせいでここから動けないんだよね。だったら私はここで残る、残りたい。私のためにみんなが頑張るのは・・・ダメだよ」


「レヴィちゃん・・・でも・・・!危険だよ!またいつ謎のモンスターが出てもおかしくないんだ!今はいいけど魔法が解けたらどうする?!今の君じゃ絶対死ぬよ!」


 --死ぬ・・・?微かながら、その言葉が薄れゆく意識の中侵入して来た。


「嬢ちゃん・・・気持ちは分かる・・・だがな、俺らみんな・・・嬢ちゃんを助けにここに来たんだ・・・!だから・・・大人しく助けられとけ!」


「・・・でも・・・!」


「だぁー!レヴィちゃんめんどくさい!見捨てらんないってんだから--っと、ごめん兄弟、落としちまった!」


 エトラが興奮したことで俺は地に伏す形で落とされた--すると、その体は本当に僅かずつだが、レヴィの元へ向かい始めた。体はもうとっくに限界を迎えている。実際さっきまでピクリとも動かすことは出来なかった。


 レヴィが死ぬ--その言葉を聞いてからというもの、体がほんの少しではあるが動くようになった。と言っても片腕が少し動く程度。だが、これくらい動けば十分だ。レヴィがいる場所まで対して距離はない、そのわずかな距離と、あとは壁に触れるだけ。それさえ出来ればあとはどうなろうと知ったことか。


「蓮・・・?あんた何やってんの!そんな体で・・・お願いだから・・・やめてよ・・・」


 その言葉を受けてもなお、俺はじりじりと歩みを進める。


「おいおい兄弟!やめろって!重体なんだから!」


 エトラが俺を抱え上げ、歩みを止めた。


 ダメだ・・・あの壁に触れないと・・・レヴィは・・・


「--見てられんな」


 俺は突然ルニア兄貴に抱えられた。


「ちょ、何やってんすかルニア兄貴?」


「何ということはない。ただ--場所を移すだけだ」


「場所移すって・・・なっ!ダメですよ今使わせたら!」


「諦めろエトラ!--ルニア・・・褒められたことじゃぁねぇが・・・俺でもそうしてたな!」


 バルクがルニア兄貴に満面の笑みを見せる。それに対し、ルニア兄貴は--「--だろうな」とだけ言い、俺をレヴィのすぐ近くへと移した。


「・・・蓮、あんたなんで、こんなになってまで私を・・・!」


 レヴィが下を向き涙を落としてしまった。俺は、何とか力を振り絞り、手を伸ばす。


異類(アク)・・・無礙(セプト)・・・」


 指先が触れ、拒絶の壁が消失する。俺はそのまま、目元に手を伸ばし--拭った。そして、今できる最大限の笑顔をレヴィに向けた。


 俺はここで完全に意識が途絶え、伸ばした手を地に落とす。


 ルニアは、即座にエトラに指示を出し、ダンジョン脱出の段取りを立て始めた。


 レヴィは俺の頭に手を触れ、静かに--「・・・ごめんなさい・・・」


 --そう呟いた。

















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