飄々
「そういえば、挨拶してなかったね。はじめまして。ワタシは華佗。そこの--そこにいる雑魚の--兄です」
先ほど倒したモンスターの兄と名乗る人物?が突如俺たちの目の前に現れた。
「兄・・・?そんな訳ないだろ。お前は流暢に喋れてるし、舌も割れてない。どこからどう見ても人間じゃないか!」
そう言ったものの、自分の中でも1つ仮説が立てられてしまった。それはこの突然変異がさらに進化した結果、限りなく人間に近くなるというもの。何故そう思ったか--それは、さっきのモンスターが元に成長していたということである。レヴィ曰く、攻撃に対する反応が全く違ったのだそうだ。そういう小さな変化を重ねることで、今目の前にいるこいつのようになるのかもしれない、そう考えた。
「ふん・・・。人間というのは何故こうも頭が硬いのか・・・ただ目の前で起こったことを信じればいいのに」
「残念だけど・・・目の前で起こった知らないことをただ鵜呑みにするんじゃなくて、なんだったんだ!と解明するのが人間だ。--ってことでお前がモンスターか知りたいから、魔法使って腕切ってくんねぇかな?そしたら早いんだけど」
「そんなことをワタシがする筈がないでしょう。まぁ信じてもらえなくても良いですけどね、どうせ貴方達とは戦うつもりがありませんし」
こいつ・・・さっきの奴のように俺を狙ってる訳じゃないのか?
「ワタシはただ、姉上の命でこの愚弟を連れ戻しに来ただけです。早急にね。ですから早く行かなくては行けないのですが・・・何故かこれ、ピクリとも動かないんですよね。そういえば貴方さっき触ってましたけど--何かしました?」
--その刹那、奴は俺の目の前に現れ、何やら液体を俺の足元へ垂らした。なんだこれ?その足を動かした瞬間、その液は俺の体を包むように広がり、一瞬で拘束されてしまった。
そして奴は俺の顔に手を触れ--
「もし貴方の魔法なのだとしたら、解除していただけるだけでいいんです!そうすれば貴方は解放しますよ!どうです、貴方に最大限譲歩した案だと思うのですが・・・?」
確かに・・・こいつには歯向かっても勝てる気がしない。だったら大人しく解除するべきか・・・?いや、でもそのあと殺されない確証はない。
「もうちょい譲歩してくんないかな?それ解けんの俺だけなんだからさ・・・!」
少なくとも今のところはこいつは話が通じる。こうなったら出来るだけ情報を吐かせてやる!
「例えばさ、お前らは何者なのか・・・とか?俺たち人間に復讐でもするつもりなのか?とかな。色々こっちも聞きたいことが山ほどあんだよ!それをその弟さんに聞こうと思ってたからさ」
「うん、申し訳ないがそれは飲めないな」
「なっ!なんで・・・?」
「答えは簡単。我々の目的は誰にも知られてはいけないからですよ。あっ、これだけは教えてあげますよ。ワタシ達は別に人間に怒りなど感じてはいません」
「嘘つけ、弟は人間殺す!とか物騒なこと言ってたけどな!」
「人間に怒りを覚えているのは下等なものだけです。そもそもこの世界は弱肉強食、ワタシ達モンスター同士でさえそうなのですから、そこに人間が加わってもなんらおかしいことはないでしょう?強いのが人間で、弱いものが死んだ・・・それだけではないですか」
--怒りはないって言われて、一瞬でも安堵した自分が間違っていた。こいつのこの台詞、言ってしまえば弱いから悪いってことだ。そんなの受け入れがたい。
「はい、ワタシから話せることは終わったので、解除して下さい。早く帰らないと怒られるので」
どうする?解除?解除しない?俺は今どうするべきだ・・・?
どう転んでも痛い思いをしそうな二者択一に悩んでいる時--横からの見えない攻撃が奴を襲った。
「--蓮・・・!早く逃げろ!」
ディアスだった。華蛇に重力魔法を放ち、俺を逃がそうとしてくれている。だが、そもそもの実力差に加え、神経毒でうまく体が動いていていない。そんな状態で放つ魔法が効くはずもなく--
「ん?ああ、何をしているかと思えば魔法でしたか。失礼、気付きませんでした」
「化・・・物が!」
「別に殺す気はほんとになかったんですがね・・・殺した方が早く済みそうです」
華蛇がゆっくりとディアスに近づく。ディアスも必死に魔法を撃ち続けるが、全く効いていない。
--まずい、このままだとディアスが--!!だめだ!やめろ・・・やめろ!!
「異類無礙!!」
俺は拘束を解除し、周囲に大量の砂嵐を巻き起こした。
「ん?これは・・・目眩しですか?一体誰の--」
砂嵐で視界を遮り、そして背後から魔法を--
--ザクッ!
砂嵐で視界を遮られ、しかも背後からの攻撃、にも関わらず、奴は正確に、そして無情に掌から剣山を作り出し、俺の心臓を貫いた。
「--これで目眩しのつもりですか?舐められたもの--ん?」
心臓を貫かれた--のは砂で作った分身。バルクとの戦いで俺が騙された技--砂上の楼閣!倒した!そう油断したところを華蛇の魔法で貫く!!
俺は、今奴が分身を貫いた技で同じく心臓を一突きした。--やった・・・のか?
確実に心臓に刺さっている。どころか貫通をしていた。人の姿にこんなことをするのは心苦しいが、モンスターなんだよな?そうであれよ!
様々なことを祈りながら、魔法を解除した・・・その時
「--まさか、貴方が脳無しとはね。流石のワタシも驚きましたよ」
貫いたはずの奴は、何故か俺の背後に居た。
貫かれた奴の体がドロドロに溶け始め、完全に油断していた俺の体は、次の行動に移せない--
「死なない程度に手加減してあげますよ--銀華・一千ノ舞!」
溶けた体が小さな花びらとなり、俺の体を刻み抉った。
「----!!!」
--俺は唯、立ち尽くしていた。否、正確には立ち尽くすことしか出来なかった。指の1本たりとも動かない。口も、瞳孔すらもピクつかない。まるで石にでもされたのかというくらいに・・・。
「・・・蓮?・・・まさか・・・!」
「嘘・・・?・・・いやぁ・・・!」
ディアスは唯茫然とへたり込み、レヴィは目の前で起きたことが受け入れられないのか、頭を抱え涙ぐんでいる。
それもそうだろう。俺の足元には--夥しい量の血痕が、どれほどのダメージだったかを物語っていた。
「・・・もしかして、死にました?この程度で?・・・もしかすると脳無しではなかったたのかも知れませんね。まぁ・・・それならそれで--しょうがないですね!」
そう言い、華蛇は右手に弟、そして俺をその体制のままおぶった。俺は抵抗することも出来ず、そのまま背負われる形となってしまった。
「さて、脳無しの可能性がある人も見つけましたし、そろそろ帰りますね!急がないと姉上に怒られてしまう。貴方がたも道中お気をつけて・・・では!」
そのまま華蛇はゆっくりと来た道を戻っていく。まるで何事もなかったかのように。まるで平然と、学校帰りのように。
「--さいよ」
「はい?」
「--待ちなさいって言ってんのよ・・・返しなさいよ!!--蓮を返せって言ってんの!!!」
レヴィは目に涙を浮かべ、そして壁を殴り付けながら叫んだ。何度も何度も、殴った手から大量に血が吹き出してもなお、怒りの、そして届くことのない空虚な抗議を続けた。
「うるさいお嬢さんですね。そこにいる間どちらも干渉出来ないのでしょう?そんな行為は時間の無駄です。体力を削って死にますよ。まぁ良いですけどね」
華蛇は一瞬歩みを止めたが、なおも全身をやめない。
ディアスは必死で頭を回した。この状況を打開する方法。自分1人でこの最悪な状況を--
その時、上から何かが掠れた音がした。まるで何か小さな粒が擦れたような--
「--まさか、・・・賭けるしかない!!(ほんの一瞬でいい!動きを--止める!)」
「ん?この音は・・・?」
「(ーー今だ!!)集い反旗を翻す民衆達!!」
一瞬の油断の隙を突き、ディアスが重力で華蛇を拘束する。しかし当然ながら拘束としては機能しなかった。一瞬で魔法を弾かれる。
しかし作ったその一瞬、その一瞬が事態を大きく変えた--
「--砂の槍」
突如飛来攻撃が、華蛇の脇腹を貫通した。
「--良かった・・・間にあ・・・た・・・」
ディアスは力尽き気絶、レヴィも安堵からか怒声が止み、笑みが溢れた。
「・・・酷いことしますね。貴方・・・何者ですか?」
「--俺はAランク冒険者、バルク・フルニタス。お前--俺の兄弟達に、何やってんだ?・・・あぁ?」
微かに見えたバルクの表情は--見たことがないほど怒りに満ち溢れていた。




