六種の息吹
「ギャウンッ!?」
虹色の一閃を食らい、ケルベロスの巨体が吹き飛んだ。
通路の壁に叩き付けられて悲鳴を上げる。
これで決まったとは思わない。どれだけ出力を上げても、そのままの威力では通らない。現にケルベロスは傷を負いながらも立ち上がった。寧ろ手負いになったことで、更に戦意が増したようにも思える。
まぁ、それでもハープの旋律が鳴り響く限り、半分は眠っている状態にあるけれど。
「よくどうにか出来たな」
「まぁ、これでもゴースト歴長いんでー」
ちらりとそちらを見ると壁に貼り付いた幽霊兵士たちを見る。
金縛りで固定されているみたいだ。一度そうしてしまえばハープの演奏に支障はないらしい。
「今度は俺の番だな」
ケルベロスと睨み合いを続けつつ思考する。
全力の虹霓刀でも致命傷にはならなかった。これより火力を上げるとなると、一番に思い浮かぶのは蒼炎だ。だが、あれは自身の骨の欠片を原料としなければならない。失った部位はもう二度と戻らない。
だから、これは本当に最後の手段だ。
それ以外の方法を考えないと。
「ワォオオオオオオオオオオオオオッ!」
怒りに満ちた咆哮が轟いて通路の暗闇に反響する。
口元から黒い火炎が漏れ出し、牙が剥き出しとなった。
「悠長にしてても埒が空かないな」
下手な攻撃は有効打になり得ない。それなら残存する魔力を使い切るほど大きな攻撃をするべきだ。次ので決めるほどの一撃を。そう思考を巡らせて、ふと自身の背中から生えた龍頭が目に入る。
「試してみるか」
覚悟を決めて、六つの龍頭に魔力を流す。
「ガァァアアアァアアアアアッ!」
黒い火炎を伴い、ケルベロスが牙を剥く。大口が開かれ、噛み砕かんと迫る。
その牙が身に迫り、振り下ろされたその刹那、龍頭の二つを伸ばして上顎と下顎を固定した。これ以上、牙を近づけさせはしない。
「アァァアァアァアアアッ!」
そうなれば当然、龍頭に黒い火炎が迫る。飛び火し、燃え移り、龍が焼けていく。しかし焼失するより早く魔力を回して復元し、何とか口を閉じさせなかった。
開いたままにしておかないと、攻撃が通らない。
「そんな喰いたいなら喰らわせてやる」
自身の両腕すらも龍頭に変換し、残りの四を合わせた計六の龍頭に各属性の魔力を流す。
火、水、氷、風、土、雷、すべての属性をありったけの出力で放つ多属性ブレス。束ねた属性が混ぜ合わさり、白んだ奔流がケルベロスの至近距離で解き放たれる。
純白の一条は、それすら塗り潰そうとする黒い火炎を掻き消し、ケルベロスの口腔を貫いて馳せる。ケルベロスは白の奔流で満たされ、数多の幽霊を食らったその口から白煙を吐いて横たわった。
「満足したか?」
その問いかけに返事はなかった。
「はぁ……」
どっと疲れを感じて溜息を吐くふりをしてしまう。
実際のところかなりギリギリだった。六属性複合ブレスでも黒い火炎に敵わなかったかも知れない。というか、ケルベロスがハープの演奏で半分眠っていなかったら、打ち負けていたのはこちらかも知れない。
それほどまでにケルベロスは強敵だった。
「やりましたねー」
くすくすと笑いながら、梨々花が近づいてくる。
「あぁ、なんとかな」
もう魔力がかつかつで苦しいけれど。
「そ、そんな……」
「ケルベロスが!」
「我らの希望がぁ」
ケルベロスの亡骸を見て、貼り付けられた幽霊兵士たちが嘆いている。
主軸たるケルベロスが死んだ以上、冥教会もこれで終わりかな。
「さて、と」
地面に降り立って亡骸に触れる。
そうして混淆を発動し、ケルベロスの遺骨を吸収した。
「ぐ、うぅ……」
全身を這う鈍い痛みが走り、変異が始まった。
骨格が変形し、身に纏う魔力が書き換えられる。毛皮が靡き、爪が伸び、尾が生える。見た目はコボルト・スケルトンをより禍々しくしたような印象だ。
でも、この形態に秘められた力は比較にならないほど強力だった。
「――ケルベロス・スケルトンに変異しました」
これでまた一歩、人間に近づけた。
「ふーん。そうやって変異するんですねー」
興味深そうに周囲をぐるぐると回られる。
「き、貴様ら! なんということを」
司教の声がしてどこかと目を向けると、ほかの幽霊兵士に紛れて貼り付けられているのを発見した。お前もそこにいたのか。
「ゆ、許せん! 絶対に許さんぞ!」
金縛りを解こうと藻掻くが、微塵も解ける気配がない。
「あれ、どうするんだ?」
一応、ケルベロスの能力で冥界に送れはすると思う。でも、幽霊とはいえ、意思のある者に手を下す気にはなれない。梨々花も梨々花で冥教会のあり方に反発していたんだ、ここで連中を喰らえとは言わないだろう。
「さぁ、どうしましょうかー? とりあえず、数年はそこで反省してもらいましょうかねー」
またくすくすと笑う。
そんなに継続させられるのか、金縛りって。
まぁ、孫の代まで祟られるってよく言うしな。数年くらい大したことじゃないのかも知れない。
「なら、ここでお別れだな」
俺は次に進まないと。
「おやー、必要なくなったらぽいですかー?」
「いやな言い方するなよ」
「ふふー、冗談ですよー」
可笑しそうに笑っているあたり、本当に人をからかうのが好きみたいだ。
「じゃあ、お気を付けてー。また会いましょうー。まぁ、あなたが生き返ったら、幽霊とは会えなくなっちゃうかもですけどー」
「そうなのか?」
「さぁー? 私、生きた人間と会ったことないですしー。生前を省けば、ですけどー」
最後まで適当だな。梨々花らしいけど。
「また会えるさ、きっと。それじゃ」
「それではー。また会えますようにー」
梨々花に別れを告げて、その場を後にする。
新たな力を経て、次の段階へと足を進めた。
今度は更新頻度が落ちるかも知れません。落ちない可能性もあります。
どちらにせよ、必ず結末までは書きますので気長に待っていただけると幸いです。




