三首の魔力
ケルベロス・スケルトンに変異してから初めての試運転を行う。
群がる魔物たちを相手に、骨格の感触を確かめながら攻撃を繰り出していく。
両手の鋭爪だけでも十分な殺傷能力を持ち、身体能力も申し分ない。結晶刀に魔力を流すと、青みがかった黒の深藍色に染まり、追加で魔力を流せばあの黒い火炎が燃え上がる。
一度振るえば仄暗い通路に黒光が輝いて、命の灯火を塗り潰してしまう。
それは自分さえも焼き尽くしてしまいそうな威力を秘めていた。
「さて、と」
群がっていた魔物も半分と言ったところで、思いつく限りの試運転が完了する。
あとは適当に処理をして遺骨を回収することにしよう。
「そう言えば……」
ケルベロス・スケルトンだと言うのに頭は三つじゃないな。
身に纏う魔力は生前を模したもののはずだが頭は一つしかない。
そう思いつつ襲い掛かってくる魔物を切り伏せていると、ふと視界の端でなにかが走る。
なにごとかと目で追ってみれば、すぐに正体が見て取れた。魔物じゃない、あれは魔力の塊だ。
身に纏う魔力から分離した、二つ目の頭が宙を駆けて次々に魔物を喰らっている。
「そうなると……」
周囲を見渡してみると、やはりいた。
三つ目の頭が魔物に牙を突き立てている。
「なるほど、これで三つ首か」
俺自身と二つの頭でケルベロス。どうやらあの二つの犬頭は、ヒュドラの龍頭のように自立して動けるらしい。
繋がっておらず完全に分離しているので、可動範囲の制限もなさそうだった。
「あれで最後か」
目の前の魔物を両断して顔を持ち上げると、最後の一体が犬頭に喰われる。
二頭同時に食いつかれ、食い千切られる様は悲惨の一言に尽きた。
「よし、戻ってこい」
そう言うと二頭は大人しく側に寄ってくる。
「よーし、いい子だ。お座りしてな」
二頭をその場に留まらせつつ遺骨の回収を行った。
ダンジョンもかなり奥深くになってきたこともあって、一体一体から得られる魔力も多い。ケルベロス戦で消費した魔力も、比較的はやくに補充できた。
思えば随分と道を進んできたものだ。この先に続く道より、振り返ってみる道のほうが恐らく長いだろう。
この先、どこまで行けば。
「……精霊」
「――はい」
俺はここ最近、聞けずにいたことを聞いた。
「俺はあとどれくらいで人に戻れる?」
言い切って、返答を待つ。
「――ネクロマンシーの詠唱条件を満たし、人体のすべてを構築できるほどの魔力を収集し、スケルトンから人間に戻るまで、あとすこしです」
「あとすこし……」
それは俺が二番目に望んでいた答えだった。
「あとすこしってどれくらいだ? 具体的には」
「――それはあなた次第です」
それは俺の力量次第ってことか?
精霊はいつもあらゆる状況を加味してギリギリ勝てるか否かの相手を名指しする。
それは言い換えれば俺の力量によって戦う魔物が変わるということ。
ただ混淆によって獲得した魔物の能力だけでなく、俺自身の成長も獲物の選択に影響を与えている。
俺が強く成長すればするほど、人間までの道のりは短くなるんだ。
「……わかった。今はそれで十分だ」
俺の力量はこれからも変動する。それは精霊にも完全には予測できない。
だから、ああいう言い回しをしたんだろう。精霊は真実を司っているのであって、完全な予知は出来ない。
「あとすこし、か」
もうすぐだ。もうすぐで、セリアとの約束を果たせる。
人間に戻って、セリアと再会できる。
よりいっそ気合いを入れないと。
「教えてくれ、精霊。次の獲物はなんだ?」
「――アジ・ダハーカを推奨します」
アジ・ダハーカは三頭三口六目の姿をした有翼の龍蛇だと言われている。
蛇混じりの龍。千の魔法を使うとさえ言われ、悪の根源と看做されている。
次の標的としては、申し分ない相手だ。
「わかった。なら、行こう」
あとすこし、もうすこし。
その思いが背中を押し、足をまえへと進ませる。
この胸に宿る焦燥は、今はまだ抑え切れそうにない。
アジ・ダハーカのもとまで辿り着く前に、気持ちが落ち着いていることを祈りつつ、二頭の犬頭を引き連れて、通路の奥にある仄暗い闇を目指した。
前のが一区切りついたので、また新作はじめました。
幼馴染みは常勝不敗(たった一人の例外を除く)の魔法使い ~序列一位を誇る最強魔法使いの幼馴染みは正体を隠して裏社会を暗躍する真の最強~です。
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