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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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三重の対策


 虹霓刀の一振りからなる斬撃は、各属性に分裂してケルベロスを襲う。

 だが、ケルベロスはそれらを物ともしない。防御すらすることなく正面から突っ切り、俺を喰らおうと大口を開いた。


「やっぱり効かないか」


 わかってはいたが怯みもしない。ケルベロスからしてみれば雲から落ちる雨粒程度の認識なのだろう。迫る牙を躱してケルベロスの真下に滑り込み、股を抜けて背後を取る。


「だったら」


 ケルベロスが俺を追って振り向いた瞬間を狙い、両手をサンダーバード・ウィングに変換する。両手の間で紫電を迸らせて最大限まで威力を高めて放出する。

 それは凄まじい稲妻となって空中を駆け、ケルベロスへと襲い掛かった。


「効かないのはわかってる」


 どうせケルベロスの特性で、俺からの攻撃は何一つ通らない。

 でも、幽霊と同じだ。俺の攻撃は効かなくても、感電せずとも、紫電が放つ閃光までは無効化できない。


「キャウンッ!?」


 目と鼻の先で煌めいた紫色の閃光が、ケルベロスの六つの目を貫いた。

 ただでさえ薄暗いダンジョンで、唐突に輝いた光だ。暗がりに慣れた目でみた閃光はさぞかし眩しかったことだろう。しばらくはぎゅっと瞼を閉じて、白んだ視界に色が戻るのを待つしかない。


「グルルルルルルルルッ」


 一時的であれ目を潰されたケルベロスは、低く唸って警戒を露わにする。

 六つもある視覚を潰したはいいが、それだけでは時間は稼げない。

 ケルベロスは失った視覚の代わりに嗅覚を使い、しきりに周囲の匂いを嗅いでいる。

 俺の骨格から漂う死臭を嗅ぎ分けようとしていた。


「悪いけど、そいつも潰させてもらう」


 すべてをオチュー・アイズに変換。全身に配列された瞳でケルベロスを捉え、放つのは毒混じりの腐臭。例の如く毒や酸のような攻撃は効かずに封じられてしまうだろう。

 でも、嗅覚で感じとる匂いは違う。


「グゥ……キャウッ!? キャウッ!?」


 鼻が曲がりそうなほどの腐臭を嗅ぎ、ケルベロスの三つの鼻がねじ曲がる。

 オチューはもともと強烈な腐臭と毒を持つモンスターだった。その臭いをまともに嗅げば、もう嗅覚は使い物にならない。

 視覚を潰し、嗅覚を奪った。なら、次は当然、聴覚だ。

 と、行きたいところだが、聴覚を潰すとハープの旋律も届かなくなる。眠らなくなってしまえば本末転倒だ。それは避けなければならないため、潰さない程度にやかましくすることにした。

 すべてをオチュー・アイズからジャバウォック・ランゲージへ変換する。


「■■■■■■■■」


 口ずさむのは混沌の言語。

 この世に顕現させるのは言葉、声そのもの。

 通路中に轟くような、大気を震わせるような、騒音。それを混沌の言語によって作り出し、出鱈目な音の反響がケルベロスから方向感覚を奪う。これでどれだけ騒々しくしようと、ケルベロスが俺の位置を音で知ることは叶わない。


「ワォォオオオオォォオオオオオオォオオオッ!」


 周囲の騒音を掻き消そうとしているのか、ケルベロスは連なる咆哮を叫んだ。

 けれど、そんなもので掻き消せるわけもない。三重に重ねた対策が、いまケルベロスの探知能力をすべて機能停止に追い込んだ。


「所詮は時間稼ぎだけど」


 いずれ視力は復活するし、嗅覚だって臭いに慣れる。

 そうなれば音の反響など大した意味もなさない。

 たぶん、二度同じことは通用しない。

 それまでに梨々花が演奏を再開してくれることを祈るしかない。


「グルルルルルルルッ」


 不意にケルベロスが跳ねて牙が虚空を噛んだ。

 それは俺のすぐ側で、確かめるように周辺の虚空を噛む。


「……もう、見え始めてるのか?」


 完全には戻っていないだろう。まだケルベロスは距離感を掴めていない。恐らく、うすらぼんやり影が見える程度。それでも視力が戻りつつある。

 それに三つの鼻がしきりに動き始めている。

 想定していたよりも、機能回復の速度がはやい。


「くそっ……」


 冥界の番犬、このダンジョンにおける上澄みにいる高位の魔物、それは人の常識では推し量れない領域に立つ生物。

 小手先の手品で奪った視覚や嗅覚なんてすぐに奪い返されてしまう。


「ワォォオオオオオオオオオォォオオッ」


 そして閉じていた瞼が完全に開く。その六つの瞳でこちらを射貫いている。

 もう手品は通用しない。紫電を放っても瞼を閉じられるだけだ。俺が行ったのは、たったそれだけで防がれてしまう不意打ちに特化したものだった。


「上等だッ!」


 虹霓刀を握り締め、すべてを取り戻したケルベロスと対峙する。

 対策は尽きたが、まだ死んだわけじゃない。まだ時間は稼げる。諦める訳にはいかない。


「グルルルルルルルッ」


 口元から黒い火炎を漏らし、ケルベロスは駆ける。

 こちらはすべてをヒュドラのそれに変換し、左腕をガーゴイル・デザートに置き換えた。

 ケルベロスの進行方向上に砂の壁を迫り上げて妨害を図るが、黒い火炎はいともたやすく融かして突き進む。


「全力なら、すこしは」


 ありったけの魔力を虹霓刀に流し込み、各属性の威力を高める。

 死者への耐性で威力が十分の一になるなら、火力を十倍にしてやればいい。

 燃え盛り、飛沫を上げ、凍てつき、巻き上げ、迸る。あらゆる属性を乗せて黒い火炎に立ち向かい、最大威力の一刀をケルベロスへと振るう。

 そして虹色と黒が交わる、その直前。


「お待たせしましたー」


 ハープの美しい旋律が流れ、ケルベロスの半身が眠りに落ちる。

 黒い火炎も掻き消えた。


「とんでもない、最高のタイミングだ!」


 そして俺は十倍の威力を誇る虹霓刀をケルベロスに叩き付けた。

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