朝靄の森林
バジリスク・スケルトン。その初陣を飾るのは、高位とは言え雑多な魔物たち。
バジリスク・デザインは硬い鱗状の魔力に覆われた形態だ。その意味では同じ蛇のシーサーペント・スケイルに近い。けれど、バジリスクは蛇の王、その性能は比較にならないほど高い。
襲い掛かってくる魔物たちの攻撃を軽く躱して、その背中に右の手の平を押しつける。発動させるのは石化能力、手の平の瞳が開眼して瞬く間に魔物が石となった。
石化した魔物はそのままの勢いで地面に倒れて破壊される。バラバラになった魔物の断面もまた石となっていた。
「普段使いには向いてないな」
続け様に繰り出された鋭爪の一薙ぎを躱しながら一つ一つ能力を確かめていく。
石化は強力な能力だけれど、骨まで石にしてしまうのはいただけない。オチューの毒と一緒で、強すぎる能力は逆に使いどころが限られてしまうのが難点だ。
ただ倒すだけなら随分と戦闘がやりやすくなるのに、そうはいかないのがスケルトンの辛いところだ。
「おっと」
繰り出される攻撃を回避しながら順々に魔物を処理していると、躱し切れないタイミングで大きな拳が突き放たれた。ジャックフロストに似た、けれど属性も強さもまるで違う猿型の魔物。
俺はそれに対抗するように右手を握り締めて突き放つ。
バジリスクの硬い鱗に包まれた拳は、それだけで高位の魔物にとっても凶器だ。こちらの一撃は魔物の一撃を粉砕し、片腕を粉々に打ち砕く。続け様、懐に踏み込んで胸部に打ち込んだ一発が心臓を破って即死させた。
「身体能力もそこそこ」
流石にフェンリルほど早くはないけれど、十分な性能をしている。
「あとは」
右手に蛇の魔力を集めて薄墨刀を構築する。出来上がった刀は刀身が波打つように揺れ、蛇の蛇行のように曲がっている。その特殊な形状はまるでフランベルジュのようで、その刀身で魔物を切ると、太刀傷が不可解なほど曲がって刻み付けられた。
「切れ味も抜群」
そのまま薄墨刀を振るい、襲い掛かってくるすべての魔物を返り討ちにした。
これで戦闘終了。足下に転がった死体から遺骨を吸収して魔力の足しにする。
「これだけ動かせれば、あとは慣れだな」
この形態の運用法がなんとなくわかってきた。
いつもの如く慣れが必要だけれど、うまく使いこなせるだろう。
「さて、それじゃあ次の獲物をどうするかだな」
と言っても、精霊に聞くだけれだけれど。
「なぁ、精霊。次の魔物はなにがいい?」
「――ジャバウォックを推奨します」
「ジャバウォックか……」
たしか細身のドラゴンだったか。魚の顔が鎌首をもたげ、額に二本の触覚が生え、口元には四本の触手、口内には歯牙が並び、、蝙蝠のような羽を有し、鋭い爪を持っている。
相当に恐ろしい姿をしていたはずだ。
まず間違いなく高位の魔物だろうし、バジリスクよりも確実に強いはず。相変わらずの格上相手だ。決して油断しないように気を引き締めるとしよう。
「じゃあ、案内してくれ」
ジャバウォックの住処までの案内を頼み、精霊に導かれたダンジョンを歩く。
道中に出会った魔物はすべて問題なく処理し、この形態に慣れるための糧とする。
住処までは意外に遠く、辿り着くころにはバジリスクの能力が馴染んでいた。
「ここか」
目の前に広がる大規模空間には生い茂る森林が広がっている。
エルフの夜の森や、ヒポグリフの昼の森とも違い、この森林の時刻は朝焼けに固定されていた。朝靄のようなものがかかり、視界が白んでいる。その光景はどこかに妖精や小人が隠れていそうだった。
とくに魔物の気配も感じない。静寂に包まれた森林だ。
「とてもジャバウォックが棲んでいるとは思えないところだな」
見渡す限り清涼な景色が続いている。あの見た目醜悪なドラゴンが棲んでいるとは欠片も感じさせない雰囲気だ。と、そんなことを思いつつ、森林を歩いていると、ふと違和感を覚えた。
「あれ?」
先ほど視界の端にある植物が動いたような気がした。
なにかで揺れたでも、風に靡いたでもなく、植物そのものが動いたのだ。地面に根を張る関係上、自立して動くことなんて叶わないはずなのに。
奇妙に思ってそちらへと向かってみると、また動いた。俺から逃げるように距離を取り、バレないとでも思っているのかまた停止する。もともと動かなければ見分けなど付かないのに、近づくたびに逃げては止まるを繰り返している。
そうして等々、その謎の植物に追いついてみると、とても驚いた。
「や……やだ……」
満開の花弁に佇む、一人の美女。その下半身は花と同化しており、それから生えた蔦が衣服の変わりのように彼女に巻き付いている。その見た目からして、なんの種族かには見当がついた。
「アルラウネ」
女性型の意思をもつ植物だった。




