風火の砂龍
「本当は見せたくないんだけど」
四の五の言ってはいられない。
「ん?」
理人の視線を感じつつ、思いついた方法を試すべく、刀身に魔力を注ぎ込む。
火を風で盛らせ、砂を融かす。三種の魔力を織り交ぜて、鋒より放つのはマグマの如く煮えたぎる溶岩の龍。
「――複合特性、岩漿を会得しました」
それは光の壁を越えてバジリスクへと襲い掛かる。
「シャアアァァァアアアアアアッ!」
自身に向かってくる強烈な攻撃を石化させようと、バジリスクは全身の瞳から石化能力を放つ。それを受けた溶岩龍はたちまち石化してしまう。けれど、石化が全身に回るより、石化した部分が融けるほうが速い。
石化しても融かせばまた溶岩に戻る。マグマが主体の溶岩龍なら無力化できる。
「シャァアァァアァアアアッ!?」
思惑が外れ、溶岩龍の牙は突き立てられた。硬い鱗もマグマに触れれば融けざるを得ない。牙は簡単に鱗を突破し、肉を焼いて骨に突き刺さる。
バジリスクも精一杯の抵抗をし、溶岩龍のあらゆる箇所を石化させるが無駄な抵抗だ。自傷覚悟で尾による薙ぎ払いも繰り出されるが、マグマを多少散らしただけで、逆に纏わり付かれてしまう。
もうなにをしても逃れられない。溶岩龍はバジリスクを絡め取り、全身を融かし、焼き尽くす。
「シャァァアアッァアァァアァアアアッ――アァアア……」
天に吼えるように断末魔の叫び声を上げ、バジリスクは力なく地面に倒れた。
全身の瞳から光が失せ、確実な死が訪れる。それを確認し、溶岩龍も役目を終えた。霞のように掻き消えて、戦闘は完全に終了する。
「すっご……なにあれ」
「ま、まぁ? 凄いんじゃねーの。ははっ」
「三種合成の魔力か。なかなか面白い試みだね」
驚愕する二人と、興味深そうにする理人。
出来れば奥の手を高位探求者に見られたくはなかったけれど、まぁいいだろう。本当の切り札は別にある。魔装を見せていない以上、大したことにはならないはずだ。
「では、約束通りに鱗をもらうよ」
「あぁ、そうだった。鱗、鱗」
光の壁は消え去って、四人でバジリスクの亡骸に近づいた。
「本当に死んでるよな? これ。おい、凜子。ちょっと確かめてくれ」
「なんでよ!? あんたが行きなさいよ、ほら!」
「あっ、ちょっ、押すな馬鹿! うわっ」
凜子に突き飛ばされて、蓮が亡骸へと倒れ込む。結構な勢いでぶつかったように見えたけれど、バジリスクはぴくりとも動かなかった。
「ふぅー……へっ、どうってことないぜ」
今更、格好を付けたって遅いと思うが。
「ほら、蓮。はやく鱗を回収しないと」
「あぁ、わかってる。あれ、でも、結構硬いな」
亡骸から鱗を剥ぎ取る作業は、意外にも難しいものだった。
隙間に剣を入れててこの原理で剥がしにかかるも、目的を達成するまで数分の時間を要した。
「よ、よし。こんなもんだろ」
「ねぇ、ちょっとこれ傷が入ってるんだけど」
「お世辞にも丁寧とは言えない代物だねぇ」
「うるせぇ! 文句があんなら自分でやれ! まったく」
そんな一悶着があったものの、無事に彼らの目的は達成された。
「じゃあ、僕たちはこれで失礼しよう。約束は守らないとね」
「まぁ、魔物の手を借りるのには抵抗があったけど。あんたは良い奴みたいだし、今回は見逃してあげる」
「元気でな。次会うときは人間か? その時は教えてくれよな」
気さくな態度で別れを告げた三人は、約束通りにこの場をあとにした。
俺はそれを見送りつつ、数分ほど待ってから精霊に問う。
「なぁ、本当に帰ったのか? あの三人」
「――はい。ダンジョンの出口へと向かっています」
「そっか」
最近、人に命を狙われることが多くて過敏になっていたけれど。
そうか、彼らは約束を本当に守ってくれる気でいるのか。
なんだか疑っていたことに罪悪感を覚えてしまうが、これも生き残るためだ。しようがない。
「なら、心置きなく」
バジリスクの亡骸に向き直り、火傷から露出した骨に触れる。
混淆は発動し、バジリスクの骨格が瞬く間に吸収された。
そして、変異が訪れる。
鱗状の魔力が全身を包み、魔力の限界値が更新される。両の手の平には瞳があり、瞼を押し上げると石化能力が発動したのが感覚で理解できた。視線の先だった方向を見てみると、ちょうど真上の天井が一部、別材質の石に変質していた。
間違いなくバジリスクの能力を獲得できている。
使いどころを選びはするが強力な能力だ。
これでまた一歩、人間に近づくことができた。
「あと、どれくらいだ?」
高位の魔物を思えばかなり倒してきた。そのたびに遺骨を吸収している。
あとすこしだろうか、それともまだ全然か。
精霊に聞けば一発でわかるけれど、なんとなく止めておこうと思った。
もしまだ道のりが遠いことが確定してしまったらと思うと、怖くて聞けなかった。
「さぁ、次だ!」
不安を振り払うように大きな声を出して歩き出す。
次に戦うことになる魔物は、いったいどんな相手だろう。




