群生の植人
「やだっ、やだっ、いじめちゃやだっ、うわーんっ」
アルラウネの彼女は泣き出してしまう。
なにもしていないし、なにもする気はないのだけれど。
まぁ、姿が姿だし恐がられることには慣れているけれど。しかし、いじめないで、とはいったい? まぁ、殺さないでという意味合いの言葉の可能性もあるか。見たところ、精神年齢のようなものが低いように見えるし。
「あー……大丈夫だよ、いじめないから」
なるべく優しい声でそう伝えてみる。
「ひぅ……ほんとう?」
どうやら意思疎通は出来るようで聞き返してくれた。
「あぁ、本当だ。こんな姿だけど、敵じゃないよ」
「うん、わかった。あなた敵じゃない」
単純。
というか、本当に子供なんじゃないかと思う。
その割には容姿が随分と大人びているけれど。
「あなたはどうしてここにいるの?」
「俺は……えーっと」
本当の目的を告げてもいいものか。
ジャバウォックを殺しにきたと言ったら恐がらせてしまうような気がする。
まぁ、アルラウネを恐がらせたところで、という話ではあるが。
まぁ、いいか、言っても。目立った支障はないだろう。
「ジャバウォックって魔物を倒しに来たんだけど」
「えっ!?」
ジャバウォックの名前を出すと、アルラウネはとても驚いた表情をした。
「あのいじわるなドラゴンをたおしてくれるの!?」
そして、とても希望に満ちあふれた表情をした。
「いじわるな?」
「そう! わたしたちドラゴンにいじめられてるの! ひどいの! ひどいの! だから、あなたがたおしてくれるなら、だいかんげい! わたしたちに、しらせなきゃ!」
ひとしきり騒いだのちに、アルラウネは花弁から伸びる蔦を器用に使って移動し始める。すこしのろのろとしているが、しっかりと前に進めている。半身が花と同化しているというのも不便そうだ。
「こっちにきて! あなたを、わたしたちに、しょうかいするの!」
手招きをされて、俺はそれに応じることにした。
アルラウネについていけば、自然とジャバウォックにも近づける。探し出す手間が省けるし、なにか有益な情報が得られるかも知れない。
「わたしたちが、きっとよろこぶの!」
まぁ、それは期待薄かも。
「ついたの!」
のろのろのろのろ、時間を掛けて移動した先にはアルラウネの集落があった。と言うよりかは群生地帯と言うべきか。それぞれ容姿は違うがアルラウネがたくさんいる。中には男性型もいるようで、ほかにもマンドレイクのような植物もいた。
「わたしたちー! このひとが、いじわるなドラゴンをたおしてくれるのー!」
彼女の響き渡る声に反応したアルラウネたちが、こちらを向いて一斉に押し寄せてくる。
と言っても、相変わらずのろのろとしているのだけれど。
「たおす? たおしてくれるの?」「ほんとー?」「わーい」「いじめられなくなる?」「やったー!」「これで、へいわになるよー!」「こわいこと、なくなるー」
子供っぽい言動がわっと押し寄せて対応に困る。
返事をしてあげたいが、口々に言うものだから返事のしようがなかった。
「こらー! わたしたちー! いっぺんにしゃべると、わけわかんなくなるの! みみはふたつしかないのー!」
彼女は自身の耳をひっぱって見せ、ほかのアルラウネを叱る。
すると、さっと静かになった。
「よろしい」
彼女は満足げだった。
「わたしたちに、しょうかいするの! この人は……えーっと……だれなの?」
「まぁ、まだ名乗ってもいないしな。透だよ、音無透」
「おとなし、とーる。そう、とーるなの! いじわるなドラゴンを倒してくれるの! わたしたちで、おうえんするの!」
「おー!」
彼女の言葉に反応して、アルラウネたちが俺を応援してくれる。
本当にそのまま「おうえん」の四文字を連呼するようなものだったけれど。それはそれでどこか可笑しくて力になった。
「おうえん、だけじゃないの! おもてなし、もするの!」
「おもてなし!」「おもてなし!」
おもてなしを合い言葉に、アルラウネたちが散る。
なにかの準備をしてくれているらしい。
「とーるは、ここですわってるの! ちょっとまってて」
彼女に切り株へと案内され、そこに座らされる。
じっとしていろとのことだが、落ち着いて考えてみると可笑しなことになった。
なんだろう、なにをしているんだろう? 俺は。なにを持て成されているんだ? アルラウネたちに。こんなことをしている場合じゃあないんだけれど。
けれど、だからと言って立ち上がろうとすると。
「ダメなの! きちんとすわってるの!」
即座に叱られてしまう。
可笑しいな、どうしてこうなった?
「まぁ、いいか」
アルラウネのおもてなしが終わり次第、ジャバウォックを探そう。
情報は得られそうにないし精霊に居場所を聞いてしまうことにする。頼らないようにすると決めたとはいえ、このままここにいると時間を浪費してしまいそうだ。
気持ちはありがたいんだけどな。
そんなことを思いつつ、俺は切り株に座っておもてなしの準備が終わるのを待つのだった。




