三人の連携
「僕たちに足りていなかったのは火力だ」
通路の両端で、互いに向き合う形で作戦会議が行われる。
第一声を発したのは理人だった。
「通常のバジリスクなら僕たちだけでも問題なかった。こう見えて高位探求者だからね。行動パターンも把握してたし、それに対する対抗策もきちんと用意してきたしね。でも、実際のところうまくいかなかった」
「目標のバジリスクが報告よりデカかったのが原因だ」
「石化に対する防御手段にリソースを割きすぎて火力にまで回らなかったんだ。こうなったらどう足掻いても三人だけじゃどうにもならない」
だからあの時、バジリスクから逃げていた。
「それで? 俺の役割は?」
「キミに多くは望まないよ。所詮、付け焼き刃の急造チームだ。それに加えて一人は非協力的だ」
「べつに! 非協力的なわけじゃないし……納得いかないだけ!」
凜子はまたそっぽを向いた。
理人は彼女をからかうのが楽しいらしい。
蓮はそれを見て、やれやれと言ったげな仕草と表情をした。
「僕たちとキミとの間に連携は期待できない。だから、キミは好き勝手に暴れてくれて構わないよ。不足している火力を補ってくれるなら、僕たちがそれに合わせて動くとしよう。異論は?」
「なし」
「……あたしも」
渋々ながら、彼女も同意してくれたようだ。
「俺も異存はないよ」
「なら、戦いのためのすり合わせをしよう。なにが出来るのか、教え合おうじゃないか。お互いに切り札を隠し持ったまま、ね」
彼の言う通り、俺たちは互いの情報を教え合った。ただし、すべてじゃあない。どれだけ繕ったところで敵対した者同士だ。隠し持っておくべきものはいくらでもある。
伝えるべきことは必要最低限でいい。向こうもそれは同じだろう。
というわけで、すり合わせも終わり、作戦の細部を詰めていくことになった。
「バジリスクの行動パターンから推測するに、次にバジリスクが現れるのはここだ」
広げられた地図に印が付けられる。
そこはただの通路だったが、通常のものよりもかなり大きい。
ここなら通路を埋め尽くすような巨体のバジリスクが相手でも戦いやすいはずだ。
「次に――」
不意に、通路の奥に気配を感じた。
それは三人も同じようで壁から背中を離した。
「どうやらお客がきちまったみてーだな」
「まぁ、通路のど真ん中で作戦会議してちゃね」
それがどんな魔物であれ、バジリスクでないことは明らかだった。
恐らくこの周辺を徘徊している有象無象の魔物たちだろう。まぁ、有象無象と言っても彼らもまた高位の魔物なのだけれど。
「じゃあ、俺が」
そう名乗り出ようとしたところ。
「おいおいおい。まぁ、待てよ。ここは俺たちに任せときな」
「それがいい。僕たちの動きを見て学習しておいたほうがいいからね。勝率が上がる」
「手の内を晒すみたいでヤな気分だけど必要なことだし、しようがないか」
三人はそれぞれ立ち塞がるようにして魔物を待ち受ける。
薄暗い通路の奥。見据えた先の闇から出でるのはコボルトのような魔物たち。姿はたしかに似ているが、その強さはここから見ているだけでもわかるくらいには段違いだ。
「理人、凜子。いつもので行くぞ」
「あぁ、いいよ。手堅く行こうじゃないか」
「ちゃんとあたしに合わせてよね、蓮。いつも先走るんだから」
「はっ! ……心掛けます――ってことで!」
その掛け声で、蓮と凜子の二人が地面を蹴った。
その背中を見送った理人の手にはいつの間にか分厚い本がある。それがおもむろに開かれるころには、二人は魔物たちに肉薄し終わっていた。
「さぁ、楽しいゲームの始まりだ」
理人の告げた言葉とともに、彼を中心として魔力が渦巻く。
それに伴い、今まさに刃を交えようとする二人の姿が忽然と消える。魔物が携えていた大剣はあえなく虚空を斬った。
二人はどこへ? その疑問はすぐに解消される。
「――ギャン!?」
うつぶせに倒れる魔物たち。
彼らは魔物たちの背後に回っていた。
そう、それには見覚えがある。
「瞬間移動……」
嫌な記憶がフラッシュバックした。
「そうさ。僕が戦局を見て二人の位置を調節しているんだ。楽しいよ、将棋やチェスをしてるみたいでさ」
それでゲームと言っていたのか。
趣味がいいのか悪いのか。
「ほら! やっぱり先走る!」
「あっと、いけねぇ」
二人は二人で幾つもの攻撃をかいくぐりながら、確実に魔物を仕留めている。
特に掛け声や合図と言ったものがないのに、三人の息はぴったりとあっていた。
理人が常に有利な配置に二人を移動させ、蓮と凜子が互いに動きを合わせて魔物を狩る。その連携は強固で完璧。だからこそ、俺が入る余地など微塵もない。
俺は本当に暴れて火力を出すだけで良さそうだった。
そうして、あっと言う間に魔物は殲滅された。
「ま、準備運動にしちゃ上出来だったな」
「なに言ってんの! 結局、私があんたに合わせてるじゃないのよ!」
「痛ってぇ! こら、凜子ぉ!」
「なによ!」
あれだけ息が合っていたのに、戦闘が終わるとすぐこれだ。
「あははは」
そんな二人を理人は笑って眺めていた。
よく解散しないな、このパーティ。そう思わずにはいられなかった。




