再度の邂逅
作戦会議が終わると、俺たちはとある小規模空間を目指して移動を開始する。
そこはバジリスクの行動パターンから割り出した通過地点だという。特別大きなバジリスクでも、決められた通路を通ることでしか移動できない。だから、行動予測は意外と簡単だ、と理人は語っていた。
後ろの二人はちんぷんかんぷんそうにしていたけれど、まぁ大丈夫だろう。
実力は本物だ。
「さぁ、ついた。ここが目的地の小規模空間だ」
目的地にたどり着くと、そこには夥しい数の石像が転がっていた。
牙を剥き出しにして威嚇していたり、怯えたような表情をしていたり、諦めたように座り込んでいたりする石像が数え切れないほどある。そのほとんどが何処かしらを破壊されていて、何本もの腕や足、胴体の破片が散乱していた。
「バジリスクの通過地点って言うのは間違いなさそうだな」
これもすべてバジリスクの石化能力によるもの。この惨状が人々が住む街でも起こるかも知れない。そう考えると、バジリスクはここで討伐しなければならないという思いが込み上げてくる。
「時間がない。いつ現れても可笑しくねぇんだ。ここでもう一度、作戦の確認を――」
その言葉の先は、遠くから聞こえてくる地響きによって掻き消された。
もう直にバジリスクがやってくる。
「キミって本当に間が悪いよねぇ」
「うるせぇ。凜子、準備は出来てるな」
「もちろん。私に抜かりはないわ」
各々が得物を取り出し、臨戦態勢を取る。
俺もそれに習い、フェンリル・コートの四肢に力を込めた。
そうしてバジリスクは再び、俺たちの前に姿を現した。
「シュルルルルルルルル」
バジリスクもこちらを覚えているのか、警戒した様子で長細い舌をちろちろと動かしている。
「さぁて、それじゃあ始めるか」
蓮の言葉を受けて、動いたのはバジリスクのほうだった。
蜷局を巻いた尾の先で近くの石像を弾き飛ばし、数多の破片が飛来する。
各自、それを躱して別行動、俺はその足でバジリスクのもとへと向かい、その鋭い牙で胴体に攻撃する。けれど、振り下ろした牙が鱗を超えることはなく、呆気もなく弾かれてしまう。
「かったっ!?」
ガーゴイルの石肌も簡単に引き裂いた爪なのに、まるで鋼のような鱗だ。
これだけ硬い鱗に守られているから、通路の壁面を削りながら強引に進めるのか。
「シュルルルルルルルルルルル」
そう驚いてばかりもいられない。バジリスクの視線がこちらを向いた。
即座にその場から退避し、その直後に立っていた地面が石化する。続け様、二度、三度とくる石化能力を躱し、反撃の機会を窺っていると、不意に身体が締め上げられる。
「しまったっ」
回避に夢中で尻尾の存在を忘れていた。尻尾に巻き付かれ、拘束されてしまう。
このままでは身動きが取れないまま石化するのが落ちだ。
だから、両の腕をヒポグリフとジャックフロストのものに変換する。
「細雪」
吹き荒れる細かな雪が、バジリスクの視界を奪う。
同時に身体に巻き付いた尾も、雪の冷たさで引き剥がしにかかる。
けれど、この手は二度目、完全には通用しない。
「シュルルルルルルルルルルルルルル」
バジリスクは締め上げる力をうんと強め、かと思えば俺を思いっきり投げ付けた。
「がっ!?」
小規模空間の壁に激突し、跳ね返り、また別の壁に衝突してようやく勢いが止まる。
陥没させた壁から剥がれ落ちるように、この骨格は石像の小山に落ちた。
「げほっ、げほっ、げほっ、油断した」
石像の破片を蹴り上げて脱出し、石をする振りをする。
肺もないのでする必要はないが、魂がこの動作を覚えていた。
「大丈夫かい? 派手にバウンドしていたけど」
声がしてそちらを見ると、理人が本を開いてバジリスクを睨んでいた。
バジリスクの近くでは、蓮と凜子が息を合わせて戦っている。どうやって石化を防いでいるのかは知らないが、魔法かなにかで防御しているのだろう。二人に石化の兆候はない。
「あぁ、なんとか」
「しっかりしてほしいものだね。キミの役目は火力なんだ。早々にダウンされると計画が狂う」
「安心しろ。このくらい、蚊に刺されたみたいなもんだ。すぐに戦闘に戻れる」
「それは頼もしい限りだね。なら、よろしく頼むよ。キミには期待してる」
「そいつはどうも」
そう返事をしてから地面を蹴った。
フェンリルの脚力は秒と掛からず、バジリスクの側まで俺を運ぶ。
まだ戦闘は始まったばかり。すこし油断はしたけれど、まだまだこれからだ。
街に住む人たちのためにも、必ずここでバジリスクを討つ。




