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勇者と子育て  作者: 犬川
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勇者と子育て番外編 アルス



初めて梨花と出逢ったとき、男の癖になんでこんなにフェロモンを飛ばしてやがると驚いた。

父上が勇者召喚を行い一人の男がこの世界に呼び出された。

それが梨花だった。





先日、我がコードア国の隣にあるドリアード王国である男が亡くなった。

彼は勇者以外が倒すことなど出来ないと言われる、魔王の側近の一人を打ち破った程の男だった。

人々は彼を称え彼さえいれば安泰だと信じていた。

彼は人類の希望だった。そんな男が死んだのだ。

どの国も絶望に打ちひしがれる中、父上は勇者召喚を決断した。

大広間で125人もの神官によって行われた儀式は、終わってみればその内生き残った者は僅か16人だった。

魔族に対応出来る程の実力をもつ者は少ない。

そんな国の財産ともいうべき者を犠牲にしなければ実現出来ないほど、勇者召喚は難しいものだった。


いきなりの召喚に目を見開き驚いている勇者のその顔を見て、周りはざわついた。

勇者は黒曜石のように輝く髪と瞳をしており、また、女性にも見えるほどの美しい顔をしていた。

つり目で冷徹そうな近寄りがたい雰囲気を持つが、人を惹き付ける不思議な魅力も持っていた。

その顔を見て驚いたのは私も同じだが、さっさと話しを進めてほしい。

今ここにいるのは勇者召喚に参加した者ではない。彼等は直ぐに医務室へ運ばれたからな。

私がイライラしながら待っていると、役に立たない神官の代わりに父上が現状や魔王について説明し始めた。


結果的に勇者は魔王を倒したが、すんなりと話しが進んだわけではない。

最初勇者は戸惑い、魔物と戦うことすら嫌がっていた。

それはそうだ。いきなり魔王を倒せと言われて了承する人間がいるわけがない。

だが、現在も魔物や魔族の脅威に世界が脅かされているのだ。

必ず魔王を倒させなければいけない。


魔を喰らう特別な力を持つ[聖剣ファウスト]。

この聖剣で斬りつけられた魔族は再生能力を阻害され毒のように少しずつ体が衰弱していく。

この聖剣ファウストを持てるのは勇者だけなのだ。


こちらの都合に巻き込まれ哀れだとは思うが、見知らぬ勇者の気持ちなどより国民の命の方が大事だ。

勇者の了承を待っている暇などない。私は嫌がる勇者を引っ張り訓練場へ行き、刃を潰した剣を持たせた。

勇者は剣を持ったこともないのか戸惑っていたが、私は構わず剣で斬り掛かった。

慌てた勇者は剣で防ぎ何やら騒いでいたが気にせず幾度となく剣を合わせ、何度もその隙だらけの体へ剣を叩き付けた。

やがて動けなくなった勇者に発破を掛けようと「貴様はその程度か、情けない男だな」と見下すように言ってその場を去った。

それからは毎日のように勇者に訓練をつけたがさすが勇者か、直ぐに私を追い抜いていった。

勇者の強い一撃を受け地面を転がった私に勇者は「その程度なの? 情けない男だね」と、ニヤニヤ笑いながら言われた時は本気で殺意が湧いたものだ。


...女だと分かった今なら私の気が済むまで犯してやるんだがな。




私は梨花の性別を最初から疑っていた。

男女どちらにも見える中性的な顔と声をしていることや、咄嗟のときに出る声の高さ、他にもあげれば切りがないが。

私の女であって欲しいという願望もあったと思うが、私の勘が女だといっていた。

唯、梨花はちょっとした所作が男っぽかったのもあり、女がこんなことをするのかとも思え判断をするには決定的なものが足りなかった。

面倒くさくなった私は次に会ったときその胸を揉んだ。

やはり少し小さいものの、ちゃんとした胸の膨らみがあった。

「ふむ、やはり女か」

「何すんだボケ!!」

思いっきり殴り飛ばされたがそれは別に構わない。女だと分かったのだから。

「くっ、クククク」

「うおっ!? あっ、当たり所が悪かった!?」

私は喜びに打ち震えていた。これで梨花を私のものに出来るのだから。

私は念の為に梨花に性別を隠すようにいった。

男だと思われている今でさえ尻を狙われているのだから、女だとバレたら妻や愛人にされるだろう。

権力者などそんなものだ。



梨花が女だと分かると色々と不安になってくる。

何万匹もの魔物と魔族、魔王と戦うことになる彼女だからこそ、その身になにが起こるか分からない。

心配になった私は今まで以上に厳しい訓練を梨花に課した。

もしも梨花が魔物に、魔族に犯されたら... 彼女なら殺されずに隙を突いて相手を殺せるだろうが、もしもの可能性を想像すると心配で堪らなくなる。

そうやって不安が増すごとに訓練は苛酷になっていった。

お陰で私が彼女を嫌っているなどとおかしな勘違いをされてしまったのだが。




今までの勇者は仲間を連れ魔王退治に出掛けて行く場合が殆どだったが、今代の魔王も勇者も圧倒的な強さを誇っている。

供を連れて行く方が足手まといになると、たった一人で行かせることになった。


出立の日、旅立とうとした梨花の後ろ姿を見て我慢出来なくなった。

その腕を引けば驚いて振り返ったその唇にキスをした。

周囲はざわついたがそれも仕方ない。彼等には突然男同士でキスを仕出したようにしか見えないのだから。

目を見開き私の胸を押して離れようなんてするから、腰を掴み後頭部を押さえ舌を押し込んだ。

逃げようとした舌を捕まえ絡めると「んっ」と言う可愛らしい声が聞こえ抑えが聞かなくなる。

暫くして離してやればくたりと地面に座り込んで真っ赤な顔で睨み付けてきた。

その可愛らしい反応に私の片方の口端が上がった。

ニヤリとした私の顔にムカついたのか「なにすんだ変態!!」と梨花は叫んでいた。



心配な気持ちは尽きないが、帰ってきたらどうしてやろうかと考えれば気分は明るくなった。

ニホンという祖国に帰りたいと梨花は言っていたが、私は帰すつもりなどない。

出来るだけ直ぐに私の妻にしてしまおうと考え、色々と準備していたのだが...

梨花が赤子を連れて帰って来たときには心臓が止まるかと思った。

しかもその赤子がいることで反対する者も出たりして、更に結婚に時間が掛かりそうだった。



以上で完結となります。

3、4話で終わると思ったら予想以上に長くなりました。疲れた...

ここまでお読み頂きありがとう御座いました。

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