「ヒロインポジなんていらない」
「嫌がる女の子に無理矢理とか、君はいつから強姦魔になったのかな?」
彼はそう言いながら、何処からともなく取りだした輪ゴムを右手にセットする。
小指を少し動かすだけで輪ゴム弾が発射されるヤツだ、私もやった事ある。
指先は僅かに伊月君の方を向いているようで、多分私には当たらないのだろう。
目が合うとぱちんとウィンクが飛んできた。
「手を挙げろ、さもなくば撃つ」状態でそれをされても…。
伊月君はウィンクから庇うように、唖然として動けない私の頭を抱き込んだ。
そして涼しい笑みを浮かべる。
「据え膳食わぬは…と言うだろう」
おい、…おい!
明るい家族計画じゃなくて正しい家族計画しようぜ、な?
ほら女神(♂)も愕然としてるよ!
愕然としてても女神だけどな。
「話には聞いてたけど…、ほんとに伊月が髪の毛以外に執着してる…っ」
そこぉ?!
しかも驚いてると見せかけて笑いを堪えてらっしゃいますね彼。
いや確かに伊月君のことをよく知ってる人からしたらそうなのかも知れないけど…。
あれ、『よく知ってる』?
「…ともだち?」
恐る恐る伊月君に訊ねてみる。
彼は簡潔に「中学からのな」と答えてくれた。
ほほー、イケメンはイケメン同士で群れる傾向にあるんだろうか。
そいつらは全員ホモか、ホモにめっちゃ理解あるかのどっちかで、ホモキメェって言っちゃうのは当て馬のモブギャルだけとか。
BL界あるあるですね、わかります。
てか中学時代だと、彼等も今より美少年どころか美少女だったんじゃ…!
脳内でイケメン同士の馴れ初めに心躍らせてる間に和解(?)したらしい二人は、私を挟むようにしてベンチに収まっていた。
これでオセロのごとく、挟まれた私がイケメンになれたなら…。
私の心中ショボン顔。
「俺、鈴城椎奈って言うんだ。よろしくね和泉さん」
「…はぁ」
伊月君への密かな恋心なら是非よろしく応援したい所存ですが、そう言う事じゃないですよねー。
鈴城椎奈君は、麗し系の儚げな美人さん。
母方が北欧らへんのハーフだとかで、クウォーターの彼は色素の薄さを受け継いでいるそうで(女子情報)。
性別はどうしようもなく男なのだが、所謂女顔のイケメンだ。
しかし、鈴城君はその大人しげなビジュアルに反し女子を侍らす系なので、どちらかと言うと女子をわざと遠ざける系の伊月君とは、交流のあるイメージが湧かない。
それをそのまま言ってみたら、「むさい男と過ごすよりは、可愛い子と過ごしたいじゃない?」という、完全なるチャラ男発言をいただいた。
つまり可愛くない女子は認めないと。
つまりむさくなければ男でも構わないと!
だから伊月君と仲良しなのね、納得。
新たなホモ候補ににこにこしながらお弁当と戦っていると、じっとりと穴が開きそうな視線の矢が伊月君から放たれていた。
「な、なに? どうかした?」
「…芽衣子は椎奈みたいな男がいいのか?」
それはつまり、女顔が好みかどうかってことだろうか。
とりあえず「イケメンはすべからく素晴らしいと思うよ」と言ってみたら、すごく驚かれたんだけど、なんで?
鈴城君も一緒になって驚いてた、だからなんで?
「和泉さんって印象と違うんだね、面白いなぁ」
「そう?」
こういう時って、どう反応すればいいのか困るわ。
内申や腐隠しのためとは言え、見た目詐欺でサーセン。
くすくすとたおやかに笑う鈴城君はほんと女神だった。
それにしても、イケメン二人が軽い言い合い出来る程度に仲良しとか胸が熱くなるね。
薄い本も厚くなっちゃうよ。
つまり、この場で一番邪魔なのはなんだと思う?
私だよ!
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