第7話 電話会議
観月くんから電話が来る。
それだけで緊張する。
なぜだろう。
理由は分かっている。
絶対怒られるからだ。
竜崎大輝は消防署の休憩室でスマホを見つめていた。
「隊長」
「ん?」
「逃げないでくださいね」
佐野だった。
「逃げないよ」
「本当ですか」
「本当」
少し自信はなかった。
「頑張ってください」
「他人事だな」
その時。
スマホが震えた。
【観月くん】
「来た」
佐野と中村が見守る。
「行ってきます」
「戦場か」
と中村が笑う。
「戦場ですよ」
佐野が笑う。
否定できなかった。
竜崎は休憩室を出る。
廊下へ移動。
深呼吸。
通話ボタンを押した。
「もしもし」
『お疲れさまです』
観月の声だった。
少しだけ安心する。
「お疲れさまです」
『今大丈夫ですか』
「大丈夫です」
『そうですか』
沈黙。
怖い。
とても怖い。
『単刀直入に聞きます』
「はい」
『飲み会の日のこと、本当に覚えてないんですか』
「……」
覚えていない。
だから困っている。
「すみません」
正直に答える。
「途中から記憶ないです」
『ですよね』
ため息が聞こえた。
怒っている。
間違いなく怒っている。
「何したんですか俺」
『聞きたいですか』
「怖いですけど聞きたいです」
また沈黙。
数秒後。
『まず』
「はい」
『俺が家まで送りました』
「えっ」
予想外だった。
『帰る方向一緒だったので』
「すみません」
『それは別にいいです』
良かった。
許された。
そう思った。
『そのあと』
「はい」
『竜崎さん』
嫌な予感。
『吐きました』
「……」
終わった。
人生が終わった。
「え」
『吐きました』
「俺が?」
『あなたが、です』
「……」
終わった。
「本当に?」
『本当にです』
「嘘だ」
『嘘ついてどうするんですか』
その通りだった。
竜崎は壁に頭をぶつけたくなった。
「すみません……」
心から謝る。
「本当にすみません」
『しかも』
「まだあるんですか」
『掃除しました』
「……」
『俺が』
「……」
終わった。
今度こそ終わった。
観月亮太に一生頭が上がらない。
「本当に申し訳ありませんでした……」
自然と敬語になった。
電話の向こうで。
観月が吹き出した。
「え?」
『いや』
少し笑っている。
『そこまで落ち込むとは思わなくて』
「落ち込みますよ!」
当然だった。
「普通落ち込みますよ!」
『まあそうですね』
声が少し柔らかくなる。
その瞬間。
竜崎は少し安心した。
怒っている。
でも。
嫌われたわけではなさそうだ。
「観月くん」
『はい』
「本当にごめん」
改めて謝る。
「今度何かお詫びさせて」
電話の向こうで少し間があった。
『考えておきます』
「怖い」
『自業自得です』
「そうですね」
否定できなかった。
そして。
なぜか。
電話を切るのが少し惜しかった。
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